「正確に伝える」葛藤と使命―「クロ現 放送100年SP」を前に桑子真帆アナが語る2025/03/20

NHKの桑子真帆アナウンサーが、NHK総合で3月24日放送の「クローズアップ現代『放送100年SP テレビが伝えた“あの日”と未来』」(午後7:30)の取材会に出席。「放送100年SP」として72分の拡大版で放送される同番組について、収録を終えたばかりの桑子アナがその感想や報道に携わるキャスターとしての思いなどを明かした。
番組では「浅間山荘事件」「松本サリン事件」「トイレットペーパー騒動」など、この100年の歴史的な出来事を貴重なアーカイブ映像とともに紹介。ニュースの現場にいた当事者や放送を担った人々に改めて取材し、その裏にあった事実を深掘りする。ゲストには報道の最前線で活躍してきた元日本テレビアナウンサーの藤井貴彦氏、元フジテレビアナウンサーの長野智子氏、元NHKアナウンサーの三宅民夫氏を迎え、「視聴者にどう伝えるか」を考え続けてきた報道人たちと放送の歩みと未来を見つめる。
「熱気あふれるスタジオだった」と収録を回想する桑子アナ。「入局から50年という三宅アナウンサーから、1世代ずつ若くなっていくゲストの方々が、放送について感じていることをリアルにお話しくださった」と述べた。放送の現場に15年ほど身を置いてきた桑子アナにとって、その歴史を顧みることは多くの学びとなったという。

「テレビにできることは何か」という質問に対し、桑子アナは「一言で言うのは難しいが、やはり正確性というところを重視している」と返答。放送が始まるきっかけとなった1920年の関東大震災では、情報が遮断されデマが広がる中、「正確な情報を広く伝えるものとしてラジオ放送が始まった」と言及した。「途中から生中継によるリアルタイムの速報性という役割も加わったが、ずっと通底しているのは正確性です」と桑子アナ。「今はインターネットメディアの方が速報性では優れている中で、正確性という原点に立ち返り、そこを軸にお届けできたら」と展望を示した。
番組収録で印象に残ったこととして、桑子アナは「テレビに身を置いて仕事をしている皆さんが、『恐れながら』仕事をしているということ」を挙げた。「それは決して悪いことではなく、その恐れを大切にしながら向き合い続けることが重要」だと強調。「正確性についても、目の前で起きていることをありのままに伝えるだけが正確さではない。映像のインパクトはとても大きく、意図しない伝わり方をしてしまう可能性もある」と指摘。「それは本当の意味で正確と言えるのかという葛藤がある」と本音を打ち明けた。
桑子アナは「クローズアップ現代」を3年間担当し、350回以上の放送を手がけてきた。「表面的には何となく見聞きしている出来事でも、深掘りして当事者の声を聞いたり現場に足を運ぶと、実際に起きていることは想像と違うことも多い」と実感を吐露。法改正のタイミングである出来事を取り上げることもあるが、「それは大きな一歩ではあるけれど、まだ全然十分ではないことが多い。法改正されたから良かったで済むわけではなく、簡単に物事を理解せず、深く一つ一つの出来事と向き合わないと見失う」と注意を促した。今後も大切にしたい視点だと力を込めた。
そして、放送博物館の取材については「初めての訪問だった」と明かし、「放送人として押さえておかなければいけないことがたくさんあり反省した」と素直に告白。「ラジオの始まりから現在までの機材の高度化を含め、テレビ放送の現在地を知ることができた」と所感を述べ、「人間のように生まれ、成長し、成熟し、年老いていく、そんな人の一生を見ているような感覚になった」と振り返った。

記憶に残る「あの日」について問われ、桑子アナは東日本大震災の被災地取材を挙げる。震災約1か月後、全国のアナウンサーが東北入りする一環として現地へ赴いた体験だ。「がれきの山をテレビでも見ていたが、実際に近くで見ると、レンタルビデオのボロボロになったものや縫いぐるみなど、一つ一つのものが目の前にある。生活の一部が今この状態になってしまっているという喪失感、ショックはとても大きかった」と当時を思い起こした。
この経験が今も影響していると続ける桑子アナ。「何かを失うということの重みと、その後どう立ち上がっていくか、あるいは立ち上がれないのか。人が生きていれば何かを失うことはさまざまな場面でありうるので、自分が目にし耳にしたものを大事にしながら、自分は経験していなくても想像力を働かせて寄り添うことが少しでもできたら」と願いを込めた。
ショッキングな映像を伝える際の心がけについて、桑子アナは「映像を見ることで視聴者が傷ついたりフラッシュバックを起こしたりする可能性と、伝えないと起きていることを伝えられないというジレンマを常に抱えている」と説明。「流血するような映像は色を加工してセンセーショナルにならないようにするなど、事実は伝えつつも刺激を抑えながら起きていることを伝えるという葛藤が必要」と解説した。「受け手のことを一瞬想像すること」を意識していると明かした。
また、記憶に残る明るいニュースとしては「シャンシャン(パンダ)のニュース」を挙げ、「ニュースは事件事故ばかりではなく、その時に熱を帯びているもの、みんなでほっこりを共有しながらお届けするのも私たちの役割」だと表現した。

さらに、ディープフェイク技術の進歩について質問が及ぶと、「恐ろしい」と率直に応答。「私たちは誤ったものを出さないよう見抜く努力を惜しんではいけないし、技術投資も絶対に必要」と主張。「人間の目では見抜けなくなっていく可能性がある中、技術には技術で対抗しなければならない」と危機感を表明した。おそらくNHKだけでなく、すべての放送局が同様の課題を感じているだろうと補足した。
最後に桑子アナは「テレビはスイッチをオンにすれば当たり前に流れていて、生活の中にある存在として、一人一人が悩みながらその時点でできることを最大限にやってきた」と総括。「それによる弊害もあったことは事実で、そこに目をつぶらず同じことを繰り返さないという思いを新たにしなければならない」と自戒を込めながらも、「今や新旧さまざまな媒体が情報を発信している中で、対抗するのではなく、それぞれができる精いっぱいのことをやって、最終的に視聴者が『これを知れてよかった、いい時間だった』と感じてもらえるようになったら」と希望を抱いた。そして「テレビも頑張っています」と熱を込め、「ただ頑張っているだけでなく、より必要とされるメディアになるべく奮闘しています」と、使命感をにじませた。

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