金子茂樹、第38回向田邦子賞贈賞式で喜びを語る! 「俺の話は長い」主演・生田斗真が祝福2020/09/11
優れた脚本作家に贈られる向田邦子賞(向田邦子賞委員会・株式会社東京ニュース通信社主催)の第38回贈賞式が9月11日、東京都千代田区の帝国ホテルで行われた。 第38回の受賞者は4月7日に行われた選考会で、金子茂樹氏に決定。2019年10月12日~12月14日に放送された「俺の話は長い」(日本テレビ系)で受賞を果たした。
贈賞式では、金子氏が受賞の喜びを語り、冨川元文選考委員から賞状の授与が行われた。株式会社東京ニュース通信社代表取締役社長・奥山卓からは、本賞の特製万年筆と副賞の300万円が贈られ、ドラマ「俺の話は長い」を担当した日本テレビの櫨山裕子ゼネラルプロデューサーも、お祝いのスピーチで祝福。さらに、主演の生田斗真がゲストとして駆けつけ、さらなる活躍に期待を込めて受賞を称えた。
【金子茂樹 受賞スピーチ】
連続ドラマの脚本というのは、肉体的にも精神的にも非常にきつい作業です。今回、受賞作としていただいた「俺の話は長い」を書き始める前、長丁場に耐えられるようにと、半年間毎月100km以上走り込みをし、去年の2月にはフルマラソンの大会にも出場しました。その最中に、主人公の(生田が演じた)岸辺満が、ランナーに逆走するように就職の面接に向かうという最終回のアイデアが浮かびました。第1話を書き始める前に、最終回のアイデアが浮かぶという経験は、これまで書いた連続ドラマのなかでも初めてのことだったので、不思議な気分だったことを覚えています。
「俺の話は長い」は、30分2本立てという新しいチャレンジの作品でした。通常の作品よりも、話のネタもオチも2倍必要ということで、本当にアイデア出しには苦労しまして、そのストレスからなのか、打ち合わせ中に頭をたたく癖がついてしまいました。それがまさか、最終回を書き終わって1カ月後に、硬膜下血腫という脳に血液が溜まる病気にかかりまして、即緊急手術ということで、頭蓋骨に二つの穴を開けるような大事になりました。通常は、硬膜下血腫は高齢の方しかならないそうで、若くしてなる人はボクサーか格闘家だと言われました。そんな病気になってしまうほど追い詰められていたんだと思うと、自分でもぞっとしました。もちろん、大変なのは脚本家だけではありません。スケジュールがどんどんタイトになっていくなかで、撮影2、3日前に大量のセリフを渡された役者さんたちは本当に大変だったと思います。主演の生田斗真さんには、打ち上げの席で「今日どのツラ下げて来たの?」と、台本が遅かったことをいじられまして(笑)。本当に現場には迷惑をかけたと思いますし、素晴らしいキャスト陣と、優秀なスタッフがいたからこそ、最後まで妥協なく台本を書けたんだと思います。本当に感謝しております。
プロデューサーの櫨山さんと初めて会ったのは8年前になりますが、知り合った当初は仕事の話など一切せず、麻雀卓を囲むような関係が2年ぐらい続きました。やっと、2014年くらいから、連続ドラマ4本、単発ドラマ2本をご一緒させていただき、本当に大げんかしながら台本を作らせていただきました。その積み重ねの経験によって、今回、向田邦子賞という、この上ない素晴らしい賞をいただけたんだと思います。心より感謝申し上げます。そして、この難しい状況のなか、素晴らしい舞台を用意してくださった関係者の皆さま、そして取材にお越しくださいました報道の皆さまに、この場をお借りしてお礼申し上げたいと思います。本日はどうもありがとうございました。
【「俺の話は長い」主演・生田斗真 祝福コメント】
金子さん、本当におめでとうございます。先ほどご自身のスピーチでもおっしゃっていましたが、文字通り命を削って書かれた脚本が、こうして素晴らしい賞をいただけて、自分のことのようにうれしく思います。役者にとって、いい脚本家、そしていい脚本に出会えるというのは、本当に俳優人生を左右する大きな出来事だと思います。僕にとって、金子さんと出会えたこと、そして「俺の話は長い」というドラマに出会えたことは、そんな出来事だと思います。同時に、脚本家さんにとっても、いい役者に出会えることは、すごく重要な出来事だと思います。金子さんが生田斗真に出会えたことは、本当に幸せなことだと僕は思いますので、感謝してほしいと思います(笑)。
冗談はさておき、何よりうれしかったことは、このドラマがたくさんの方にご覧いただけたことです。そして、「うちにもこういう弟いるんです」とか、「僕の姉ちゃん、こんなうるさいんです」と、自分のご家族と照らし合わせながら、ドラマをご覧になってくださった方がたくさんいたことがすごく嬉しかったです。このドラマを見た皆さんから、「寺内貫太郎一家」を見ているようだと言っていただけたことがすごくうれしくて、「やったー!」なんて思っていましたが、まさか、「寺内貫太郎一家」の脚本を書かれた向田邦子さんの冠がついた賞を、このドラマがこうしていただけたことが、この上なくうれしいです。頭をたたきながらアイデアをひねり出し、櫨山プロデューサーとけんかをしながら脚本執筆に励んでいた金子さんに会いに行って、「向田邦子賞を取れるから頑張れ!」と言いたいなと思います。このたびは、本当におめでとうございました。
【質疑応答】
── 金子さんがキャラクターを作る時にこだわっているところ、また、生田さんへはどのような思いを持ちながら今作を書きましたか。
金子 「2018年の11月くらいに、ドラマを一緒にやろうという話になってから、10年ぶりくらいに斗真くんとお会いし、一度ご飯を食べました。そこで、いろいろな経験をされながら歳を重ねて、紆余曲折もあったという率直な話を聞かせてもらいました。大変僭越(せんえつ)ですが、なんだか5年前に僕が経験したことと同じような経験をされているんじゃないかと勝手に思いました。主人公の満は、生田さんのキャラクターそのものではないですが、5~10%くらいは、斗真くんのなかに満のような部分があるんじゃないかなと思います。満のようなキャラクターをお任せしたら、今までにないような生田斗真が見られるんじゃないかという期待感のなか、今回ああいった役を作りました。基本的に自分がろくでもない人間なので、自然と、主人公や出てくるキャラクターもどこか欠けている人が多くなるというのはあります。心がけていることとしては、なるべくそこに出ているキャストの皆さん全員が、活躍できるお話にするようすごく意識して書いています」
── 生田さんはどのように楽しみながら主人公・岸辺満を演じましたか?
生田 「『俺の話は長い』という物語は、金子茂樹の物語でもあると思っています。金子さんは、以前ニート生活を経験されていたことがあったり、このドラマにも出てきますが、年上のお姉さんとヒモ的な関係になったことがあったりと、どこか自叙伝的な部分があります。『そっか、金子茂樹ってこういう人生を送ってきたんだ。面白いなぁ』なんて、どこか客観的に見ていたんですけれど、僕をよく知る周りの人間から、『斗真、本当にそっくりだね。役と同じだね』と言われるんですよ。『自分もそうだったのか!』と思って(笑)。そういう部分で金子さんや、岸辺満というキャラクターとも通じるものがあったことが、すごく楽しかったです」
── 続編は期待してもいいですか?
生田 「本当に僕としてもすごく面白いドラマだったと、自信を持ってお届けできる作品なので、もしそういう機会をいただけたら、ありがたいなと思います」
金子 「本当に思っていますか?(笑)」
生田 「思っています!(めい役の)清原果耶の朝ドラが終わったあたりかな~(笑)」
── 金子さんは「台本の上がりが遅くて迷惑をかけた」とおっしゃっていましたが、実際に生田さんはどのような苦労をしましたか。
生田 「先ほど金子さんのお話にもありました通り、ドラマが始まる前に一緒にお食事をして、久しぶりに再会して、『ドラマ一緒に頑張りましょう!』というお話をしたんですけれど、その時に金子さんが、『僕は生まれ変わりました。ネオ金子茂樹になった』っておっしゃるんですよ。『いつも台本が遅れてしまうことが多いんですけれど、ひらめきがとんでもないことになっているので、ドラマの撮影が始まる前までには、全部の台本をほぼあげた状態でお届けします』って。そして、撮影が始まる前に実際にあった台本は1冊です。『どこがネオ金子なんだろうなぁ』と思いましたけども、今日、向田邦子賞を取って、本当のネオ金子になったんだと思います(笑)。本当に、現場ではかなり大変だった記憶があります。タイトルにもある通り、『俺の話は長い』というぐらいですから、べらべらと言い訳とかくだらない小言をずっと言っているような役だったので、僕のセリフももちろん多かったですし、ほかの出演者の皆さんも苦労なさっていました。前室では、ずっとみんなでリハーサルをして、本番に向けて準備を積み重ねていった状態でした。後半あたりから『台本来ないなぁ』という時間が多く、本番の2日前とか1日前にくるようになりました。みんなすごく文句を言っていました(笑)。でも、文句を言っている時間も楽しいっていうのかな。『なんだよ金子、遅いなぁ!』って言いながらも、その状況を楽しめる、とてもいい役者たちが集まったと思っています」
── 希望としては、どのくらいに台本が上がってきてほしかったですか?
生田 「今回のドラマは本当にセリフ量が多かったので、舞台をやっているような感覚というんですかね。台本を丸々覚えなければいけないという状況だったので、金子さんがおっしゃっていたように、ドラマが始まる前には全部上がっているっていう状況がすごくうれしいです。『1冊はないだろう』って思いましたけどね(笑)。でも、その状況含めて楽しんで、チームワークの良さを作り上げていったんじゃないかと思います」
── 台本執筆の際、時間がかかってしまった難しい部分はどこだったのでしょうか。
金子 「まず、ホームドラマというのは、ものすごく小さい世界の話なので、特別なことが起きないなかで、起承転結を作り出していかなければなりません。大きな事件を起こさずにセリフの中で起伏を作らなければならず、そのネタ探しが、最初の1、2話ぐらいはすんなりと、『これならいけるかなぁ』と思ったんですけれど、だんだん真綿で首を絞められるような、苦しみもだえるような状況になりましたね。話の途中から、『なんか殺人事件起きないかなぁ』とか『誰か宇宙人にさらわれないかなぁ』と冗談で思いました(笑)。そういうことができれば簡単なのですが、お茶の間のなかだけでどうにか話を作ろうと自分で決めてしまっていたので。それがこんなにも苦しいことだとは思いませんでしたし、これだけ苦しいと最初から分かっていたら、絶対やらなかったと思います」
【金子茂樹 プロフィール】
1975年7月15日生まれ。千葉県出身。2004年「初仕事納め」で第16回フジテレビヤングシナリオ大賞を受賞し、脚本家デビュー。主なテレビドラマ脚本に「プロポーズ大作戦」「VOICE[ヴォイス]~命なき者の声~」(ともにフジテレビ系)、「きょうは会社休みます。」「世界一難しい恋」「ボク、運命の人です。」「もみ消して冬~わが家の問題なかったことに~」(すべて日本テレビ系)などがある。
【向田邦子賞】
故・向田邦子さんがテレビドラマの脚本家として、数々の作品を世に送り出し活躍してきた功績をたたえ、現在のテレビ界を支える優秀な脚本作家に贈られる賞として、1982年に制定。主催は「TVガイド」を発行する東京ニュース通信社で、選考は歴代受賞者らによる向田邦子委員会が担当。前年度に放送されたテレビドラマを対象に、選考委員がノミネート作品を選定。本選を含めて4回の討議を経て受賞作品を決定している。選考委員は池端俊策氏(※)、冨川元文氏、大石静氏、岡田惠和氏、井上由美子氏(向田邦子賞受賞順)。(今年度はスケジュール都合により、池端氏は選考に加わっておらず、4人による選考)
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