「Demon City 鬼ゴロシ」監督・田中征爾、「こんなに主人公が戦いっぱなしの映画はなかなかない」2025/03/27

河部真道氏による緊迫のバイオレンスコミック「鬼ゴロシ」を、生田斗真の主演で実写化したNetflix映画「Demon City 鬼ゴロシ」。監督・脚本を手がけたのは、初の長編映画「メランコリック」で第31回東京国際映画祭・日本映画スプラッシュ部門監督賞のほか、世界各国の映画祭で多くの賞を受賞した田中征爾氏。田中監督が、原作の魅力、生田らキャストたちについて語った。
殺し屋稼業をしている坂田周平(生田)は家族のために足を洗おうとしていた矢先に、謎の組織「奇面組」によって愛する妻と娘を奪われてしまう。“妻子殺し”の汚名を着せられ、頭を撃たれた坂田は奇跡的に生き延びるも昏睡状態に。12年後、再び奇面組に襲われた坂田は眠っていた殺しの本能が覚醒。壮絶な復讐(ふくしゅう)が始まる……。
――「鬼ゴロシ」実写映画化の企画を聞いてどんな印象を受けましたか?
「僕が監督した2019年公開の映画『メランコリック』は設定が物騒だったり、ゆるい雰囲気の中にアクションシーンがポンとはさみ込まれたりする作品なので、アクションや殺戮(さつりく)ものが得意と思われがちなんです。本当は普通の人の人間ドラマが好きなのに(笑)。『メランコリック』以降にいただく企画もアクションとかのジャンルものが多いですし、『Demon City 鬼ゴロシ』の企画書にも“ど迫力!”みたいな文言が書かれていまして(笑)。僕のテイストを入れたらこうなりますよ、というお話をしたのを覚えています」
――実際に原作を読んでいかがでしたか?
「めちゃくちゃ面白いと思いました。悪の世界なんだけどギャグがはさみ込まれていて、笑わせようとしているというよりは、原作の河部真道先生の遊び心が感じられる。何より面白いなと思ったのは、復讐アクションものにできるということ。『鬼ゴロシ』は新条市という架空の町での物語なので、この世界観なら復讐アクションが成立するかもしれないと思いました。復讐を動機としたアクション映画って本当はみんな見たいんじゃないかなと思いました」

――脚本化するにあたって考えられたことは?
「この原作って回想がすごく多いんです。でも映画で回想をやりすぎるとただの説明になってしまうので、今回は情報量を徹底的に削ぎ落とし、回想はここぞというところに定めないといけないと思いました。絶対に外せないと思ったのは、復活した後の坂田は体を動かすのがすごくしんどいというところと、原作よりも寡黙(かもく)な人物像。そして奇面組という悪役の造形と新条市の設定。これらをしっかり抑えつつ、坂田と娘・りょう(當真あみ)の親子関係が軸になった復讐ものとしました。現在の坂田の人物像、奇面組と町、復讐のモチベーションとなる家族関係の三つを大事にしましたね。脚本協力として大庭功睦さんにも入っていただき、構成しました」
――主人公の坂田周平を、生田斗真さんがすごい気迫と役づくりで演じられました。
「僕はもともと舞台畑の人間なので、アクション映画ではリアルな身体性を感じさせられるかどうかがすごく重要だと思ってるんです。戦っている坂田の“しんどさ”がリアリティーを持って伝わるようにしたいと思っていました。僕が書いた初稿は、原作通りに坂田の年齢を50歳ぐらいで考えていたんですが、生田さんに決まった時に、若いしかなり動いてくれそうだなと思い、年齢設定をもっと若くした上で、生田さんにはずっと『体動かすのがしんどいので、もっとゼーハーしてください。思うように動かない感じで』って言っていました。キャリアの長い方ですし、後半はもう僕が言わなくても大丈夫なぐらいしっかり坂田をモノにしてくれていましたね。坂田は頭を銃で打たれているので、ほとんどしゃべらないんです。だからセリフ以外の演技で見せられる人がよかった。生田さんと打ち合わせをした時、生田さんも『坂田はしゃべらない方がいいと思います』とおっしゃっていましたね」
――動きで語る人物ということですね。
「こんなに主人公が戦いっぱなしの映画ってなかなかないですよね。しかも1人でずっと戦ってますから、本当に大変だったと思います。坂田のアクションはロケハンの段階からアクション部にも関わっていただき、状況に応じたアクションを考えていただきました」

――新条市市長・春原龍役に尾上松也というキャスティングも素晴らしいです。
「僕、もともと尾上松也さんのファンなんです。『さぼリーマン甘太朗』(テレ東系)っていうドラマを見て、こんなにお芝居がうまい人がいるのかって驚いたんですよね。今回の春原のセリフは仰々しいし、昔話をちょっと語ってみたりとうさんくさい政治家なので、本当にうまい人がやらないと、映画全部がうそになってしまうと思ったんです。歌舞伎俳優さんなので、剣の振り方や神楽もお見事で。最初の顔合わせの時に、アクション部さんに歌舞伎における剣の振り方の型を教えられていて、そこから春原の動きができていきました。神楽師さんがつけた舞いも一度見ただけで覚えられていましたし、本当にすごいですよね。ちなみに般若が舞うシーンのバックに流れている祝詞も、松也さんがほぼレクチャーなしで一発で読んでくださいました。何もかも素晴らしかったです」
――劇中に出てくる完成間近の統合型リゾート「マホロバ」について聞かせてください。
「『マホロバ』の僕なりのコンセプトは“いかがわしさ”。町を豊かにすると言いつつ、日本初の本格カジノがあったりする。町の雰囲気に対してアンバランスな存在感ですよね。春原が神社の境内で神楽を舞うのも、彼ら奇面組は宗教的意義を本気で信じているわけじゃなくて、どこか客観性を持ってやっているという。自分たちのテンションを上げるためなんだと、儀式的にやっているというイメージです」
――今回初めてNetflixで作品を監督するにあたり、挑戦されたことはありますか?
「初監督作品の『メランコリック』は自主映画で、次に初商業作品として『死に損なった男』を撮り、その後すぐにこの『Demon City 鬼ゴロシ』を撮ったんですね。前2作と比べて、Netflix作品は規模が大きい。その振り幅に最初、僕の頭が追いつきませんでした。準備を進めていく中で、この規模と予算に僕の感覚を合わせないとこの企画は成立しないんだと学びました。『Demon City 鬼ゴロシ』はフィクション性が高い分、別の監督が作ったらまた全然違う作品にできちゃう作品だと思うので、コントロールが大変でした」
――この作品の中で田中監督が特に好きな表現はどこですか?
「あるシーンで、置いてあるまんじゅうを坂田が取ってむしゃむしゃ食べると、それまで動かなかった左半身が急に動くようになって車に乗り込むという一連の流れがあるんです。まんじゅうを食べた手をペロペロとなめるまでの動きを、インド人運転手のラージがそれを呆然と眺めているという、そのワンカットは好きですね。まんじゅうを食べたら体が動くようになるっていう、訳の分からなさ。体の動きの変化を一連で見せつつ、指をペロペロってするまでの坂田をワンカットに全部収められた時はうれしかったです」
――なぜまんじゅうを食べたら動くようになるのでしょうか?
「裏設定なんてないですよ。まんじゅうを食べたら動くようになったっていう現象がそこにあるだけです。頭を撃たれた人間が復讐心だけで動くようになるっていう、ある意味でのバカバカしさがアクション映画の面白さですから。この映画で唯一うそをついてはいけないのは、坂田の復讐心。復讐心ゆえに暴力を働いているので、その心情だけはうそをついちゃいけないと思っていました。その潔さがあるから、僕はこの原作が気に入ったんだと思いますね」
【コンテンツ情報】

Netflix映画「Demon City 鬼ゴロシ」
Netflix
独占配信中

【プロフィール】
田中征爾(たなかせいじ)
1987年8月21日生まれ。福岡県出身。日本大学芸術学部演劇学科を中退後、映画を学ぶためにアメリカ・カリフォルニア州の大学に入学。帰国後は舞台の演出、脚本執筆をしつつ、映像作品を製作。2019年の初長編監督作「メランコリック」が第31回東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門で監督賞を獲得したほか、世界各国で数々の賞を受賞した。「死に損なった男」(24年)が公開中。
関連リンク
この記事をシェアする