衝撃作! 実話をベースに三者三様の物語が展開する「グッド・アメリカン・ファミリー」2025/03/22

3月19日から、ディズニープラス(Disney+)での配信が始まっているドラマシリーズ「グッド・アメリカン・ファミリー」。全米大ヒットの長寿ドラマ「グレイズ・アナトミー」の主人公であるメレディス・グレイ役で知られるエレン・ポンピオが主演と製作総指揮を務めていることも話題の本作は、かなり挑戦的で見応えのある作品だ。
物語の始まりは、アメリカ中西部に3人の息子と暮らすマイケル&クリスティン・バーネット夫妻が、低身長症のナタリア・グレースを養子に迎えるところから。ウクライナ出身の7歳で、以前の養子縁組がうまくいかなかったというナタリアを、クリスティンとマイケルは快く受け入れることになる。しかしながら、一家が6人での生活を始めて間もなく、ナタリアは過度の癇癪(かんしゃく)や不審な行動を見せるように。自分の意に沿わないことが起きたら暴れ出し、クリスティンに反抗的な一方で、マイケルには心を開いて執着。ある晩にはナイフを片手に夫妻が眠るベッドのそばに立ち、殺意を漂わせるような素振りも見せる。さらに、ナタリアがクリスティンや息子たちに危害を加えようともする中、養子縁組をコーディネートした事務所の不穏な事実も持ち上がる。

物語のベースになっているのは、2010年から始まる一連の事件。現実のバーネット夫妻は10年にナタリアを養子に迎えた後、裁判所に申し立て。12年には、「ナタリアの生年月日を2003年から1989年に変更する」という裁判所命令を得ている。つまり、低身長症のナタリアは少女のふりをしているが、実際は精神疾患を患った成人女性である」というのが夫妻の主張だった。この実話は、後にドキュメンタリー番組にもなっており、事態のてん末を知る人も多いかもしれない。ちなみに、クリスティン・バーネットはドラマの中でも現実でも著名人で、特別な支援が必要な子どもとその家族のためのコミュニティーセンターの運営に尽力している。高いIQを持つと同時に自閉症を抱える長男がドラマにも登場するが、クリスティンが息子との絆について著した手記「ぼくは数式で宇宙の美しさを伝えたい」は全米で話題となり、日本でも翻訳版が発売された。
そのような現実の背景を考慮しても、そして作品のタッチから推測しても、一見するとこのドラマは不測の事態に巻き込まれた一家を巡るサスペンスホラーに思える。冒頭数話のナタリアはかなり猟奇的な存在として描かれており、まるでホラー映画「エスター」(09年)の主人公のようだ。実際、バーネット一家の事件が現実で話題になった時は、少女の外見を持つ女性の凶行を描いた「エスター」との類似点を指摘する声もあった。ナタリアの正体を疑い、真実を追い求めようとするものの、深みにはまっていくクリスティンは、まさにサスペンス映画の巻き込まれ型主人公のようで、ままならない状況に追い込まれたクリスティンをエレン・ポンピオが巧みに演じている。また、実年齢では現在27歳のイモジェン・フェイス・リードがナタリアを演じていることも、サスペンス映画の主人公たるクリスティンに混乱を与えるのに一役買っていると言えるかもしれない。

ところが、シリーズ中盤からドラマはツイストを見せ、物語の語り手はクリスティンからナタリアへと移り変わっていく。クリスティンのモノローグとともに進んでいた冒頭数話を経て、中盤からはモノローグの担当者もナタリアにバトンタッチ。サスペンスホラー調の作品世界は様変わりし、今度は不当な疑いをかけられたナタリアのサバイバルドラマが展開していく。その発端となるのが夫妻による裁判所への申し立てで、成人女性とみなされたナタリアはバーネット家を追い出され、アパートでの一人暮らしを余儀なくされる。室内は低身長症のナタリアが暮らしやすい空間では決してなく、ホラー映画の元凶が一転し、悲劇の主人公と化して涙を誘ってくる。ここで浮上してくるのが、クリスティン目線で展開した冒頭数話への疑念だ。
クリスティンやマイケルの主張が正しいのか、ナタリアの主張が正しいのかはドラマをすべて見ていただくとして、ユニークなのは全8話の中でさまざまな人間の視点が絡み合っていくこと。クリスティンとナタリアのみならず、物語はマイケル(マーク・デュプラス)の視点で描かれることもあり、その状況に応じてキャラクター描写も異なってくる。というのも、クリスティンとマイケルはナタリアとの生活を経た後に離婚しており、マイケルやナタリア視点のパートにおけるクリスティンは、かなり憎々しげな人物として描かれる。もちろん、それぞれの主張も異なるわけで、三者三様の“ストーリー”がシリーズ終盤に繰り広げられる裁判ドラマへと結実していく展開も秀逸だ。
ショーランナーとして製作総指揮・脚本を手掛けたのは、昨年はラシダ・ジョーンズや西島秀俊が出演するApple TV+のドラマ「サニー」も話題となったケイティ・ロビンス。その手腕をしっかりと感じるには、全8話を一気に見るのがおすすめだ。
【コンテンツ情報】

「グッド・アメリカン・ファミリー」(全8話)
ディズニープラス
独占配信中
文/渡邉ひかる
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