「陪審員2番」ニコラス・ホルト【今月のSPOTLIGHT】2025/01/25
複雑な状況に追い込まれる“ナイスガイ”
「許されざる者」「ミリオンダラー・ベイビー」から近作の「クライ・マッチョ」まで、数々の名作を放ってきたクリント・イーストウッドの監督最新作「陪審員2番」。ナショナル・ボード・オブ・レビューの“今年の映画トップ10”(昨年度)に選出されるなど、「御年94歳のイーストウッドがまたまた最高傑作を更新!」とも評される同作で、ニコラス・ホルトが複雑な状況に追い込まれる主人公を演じ、物語が放つメッセージの担い手となっている。
ホルトが演じるジャスティン・ケンプは、わが子の誕生を今か今かと待つ男。そんな彼のもとに陪審員の召喚状が届くが、ほとんどの人と同様、ジャスティンも裁判に時間を費やすことに後ろ向きな様子を見せる。それでも義務を果たすため、身重の妻に送り出された彼が担当することになったのは恋人殺害の容疑をかけられた男の裁判。その罪は明白で、陪審員たちが「有罪」の結論に達するのに時間はかからなそうだった。だが、裁判が進むうち、ジャスティンの脳裏にはある夜の記憶が。しかも、その記憶は裁判の結果に大きく関わるもので…。
男は有罪か、無罪か。その判断を下す立場にあるジャスティンが大きな秘密を抱え、抜き差しならない状況に追い込まれていくのが主なストーリーの流れとなっている「陪審員2番」。最初は陪審員が全員一致で「有罪」の判断を下そうとしていたところを、善意から「無罪」の可能性を探るよう促したり。かと思えば、容疑者が「無罪」になることに不都合を感じ出したり。一つの真実を巡り、正義、保身、動揺、苦悶、後悔などの感情がジャスティンの中でぐるぐるし始める。法廷ミステリーの格好を取っている作品のため、その“理由”は伏せておくが、そんなジャスティンの心の動きを時に目をうるませ、時に手先をかすかに震わせもしながら繊細に表現するニコラス・ホルトがすごくいい!
ニコラス・ホルトといえば、「アバウト・ア・ボーイ」のいたいけな少年時代から一変、すくすくと長身のイケメンへと成長し、幅広い役柄で存在感を放つように。最近はドラマ「THE GREAT 〜エカチェリーナの時々真実の物語〜」のロシア皇帝役など、エッジの効いた役での評価も高いところだろう。一方、その純朴な顔立ちもあり、いわゆるナイスガイの役にも大いにハマる。ジャスティンはまさに後者の特徴を生かした役で、見た目も中身も基本的にはナイスガイ。だからこそもがき、悩み、ずるさと弱さを見せることにもなるジャスティンの運命の行方にハラハラさせられる。
今年の夏には「スーパーマン」の世界公開も控えているニコラス・ホルト。こちらではスーパーマンの宿敵、レックス・ルーサーに扮(ふん)するとのことで、苦悩するナイスガイとはまた違った印象を放つはず。現在35歳。名監督との出会いを経て、超話題作にも出演して、ますます脂が乗っていく彼の今後にも注目だ。
【プロフィール】
ニコラス・ホルト(Nicholas Hoult)
1989年12月7日生まれ。イギリス出身。青春ドラマ「スキンズ」(2007〜13年)で人気を博した後、「シングルマン」(09年)、「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」(11年)、「女王陛下のお気に入り」(18年)、「ザ・メニュー」(22年)などの映画に出演。昨年12月に全米で公開された「ノスフェラトゥ(原題)」(24年)も話題となった。
【コンテンツ情報】
「陪審員2番」
U-NEXT
独占配信中
文/渡邉ひかる
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