きらきら輝く、空手最強女子!植草歩選手2019/04/03
空手が東京五輪の新種目になったことで、一人の選手の運命をも変えた。一度は考えた引退から世界ランク1位に、そして東京五輪の期待の星に。飽くなき向上心で見据えるのは五輪2連覇…!?
小学校3年生で始めた空手。「形」ではなく、相手と戦う「組手」を選んだ理由が明快でいい。
「段を取る時に『形』も必要なので、両方やっていました。中学の頃は『組手』で勝てなくて『形』で入賞、ということもありましたが、そのうち『組手』で勝てるようになったので『組手』を選びました。自分は繰り返しの作業が少し苦手なので、『形』の練習で1個の形を10回やる10本通しというのがあるんですが、サンドバッグの裏に隠れて逃げていました(笑)。『歩、どこ行ったー!』と探されて『水を飲んでいました』とごまかしたり(笑)。逆に『組手』の練習は相手がいるので毎日やることに変化もある。相手に合わせてどういう動きをして一本を取りにいくかとか、そういうところがどんどん楽しくなりました」
そんな空手の魅力にハマっていたが、実は20年東京五輪開催が決まった時、大学卒業と同時に引退を考えていたという。
「東京に決まった時は大学3年生。もしかしたら空手も種目に、と言われていましたが、開催まで7年もありましたし、空手の日本代表候補の子たちも就職が決まっていて。みんなで『やれる?』、『いや、無理だよね』なんて話していました。でも、すぐに記者会見に呼ばれて、連盟の先生に『歩ちゃんはやるって言ってね』と言われたんです。えっ?と思いましたが、当時は記者会見の経験もなかったし、メディアに取り上げてもらうこともなかったので、自分の一言がそれほど重大だと思っていなかった。やる、と言っておいて辞めてもいいし、と思っていたら、次の日の新聞に大きく載っていて(笑)。しかもカラーで『金メダル取ります!』みたいな感じで。うそ!って思いましたね(笑)。うわー、辞められないって(笑)。周囲のみんなからも『やるんだね』と言われて…」
しかし、それが彼女にとっても空手界にとっても転機になった。
「あの時に背中を押してもらったような感じでした。私自身、やらなきゃいけない、と思うようになって。当時は社会人になって空手を続ける環境がなかったんです。それがオリンピック種目になったことで道着にスポンサーがつくなど空手界が大きく変わった。以前は社会人が空手を続けても仕事をしなければいけないので弱くなる、選手寿命は短いと勝手に思っていました。それが今は大学時代よりも質のいいトレーニングをして、質のいい空手の練習をしています。あの頃よりも自分は何でも出来る気がするし、出来ると思ったら何でも出来るんだなと今は思っています」
それだけに東京五輪へ向けての目標もかなり明確になった。
「プレッシャーは全然ありません。自分が改善しなければいけない課題をクリアすれば、自ずと五輪での金メダルにつながっていくと思っています。68kg超級では私は背が低いので、大きい選手を相手にした時に手や足を届かせようとすると技が惰性になってしまったり、普段通りやってきた技が出せない。汚い形になってしまう、というのが去年の反省点でした。今は基礎にかえり、きちんとポイントを取るための決めのある技、誰が見ても入っている技に特化して練習しています。そして、もし東京五輪で優勝できたら今よりも空手に注目が集まるし、競技人口も増えると思うんです。強い吉田沙保里さんがいてレスリング人気が盛り上がりましたが、それぐらい私も強くなりたい」
世界一となっても常に向上心を欠かさない強さも持っている。
「女子選手のトップと考えるのではなく、男子のトップ選手にどれだけ近づけるかと考えています。男子選手の技量、パワー、スピードに少しでも近づけたら、東京五輪までにまた強くなれると思うので。子どもたちに指導する時にも言っているんですが、例えば千葉県で優勝するには関東、全国大会で優勝する、という大きな目標を持ちなさいと。大きな目標があるから小さな目標のクリアにつながるんです。だから私も東京の次、パリでも空手が正式種目になって、そこで2連覇できたら、また空手が大きくフィーチャーされるんじゃないかと思って、五輪2連覇を大きな目標にしようと。そうすれば東京の金メダルも達成しやすいかなと思うんです」
もし空手を辞めていたら?
「高校時代は個人、団体と日本一になれませんでしたが、空手の駆け引きを学ぶなど、自分が強くなるきっかけを頂いたのは日体大柏高でした。だから母校には恩返しがしたいので、空手の指導をしようと思っていました。でも、それは東京やパリの五輪が終わってからでも出来ますよね(笑)」
【TVガイドからQuestion】
Q1 印象に残っているスポーツ名場面を教えて!
2014年ソチ五輪女子フィギュアスケートの浅田真央さんのフリーの演技です。当時は大学生で同期の女の子と部屋で見ていたのですが、終わった瞬間涙がポロポロこぼれて。これだけの感動を与えられる五輪の力、浅田さんのすごさに心打たれました。
Q2 好きなTV番組/音楽(応援歌)を教えて!
「世界の果てまでイッテQ!」と「しゃべくり007」は必ず見ています。「イッテQ!」はおなか抱えて笑いますね。試合前にはMay.J.さん「Garden」を聴きます。May.J.さんの声が好き。アップテンポで気持ちが高まるので。
Q3 “2020”にちなんで、“20”日間の休日で何をしたいかを教えて!
道着は持たず、私服だけ持って海外旅行をしまくります。プーケット、バリ島、ハワイ、グアムなど回りたい。寒いヨーロッパは試合などで行っていて、美しい景色も見ているので。寒いところではなく、暖かいところへ行きたいです。
【空手競技概要】
一人で演武を行う「形」と、1対1で戦う「組手」がある。「組手」の攻撃は「突き」、「蹴り」、「打ち」の3種類。決められた部位に良い姿勢で威力のある攻撃を行い、適切にコントロールされた技がポイントになる。中段、上段への突きなどは1ポイント、中段への蹴りなどは2ポイント、上段への蹴り、倒した相手への突きなどは3ポイント。8ポイント差をつけた選手、または競技時間が終了した時点でポイントが多い選手が勝者となる。
【プロフィール】
植草歩(うえくさ あゆみ)
1992年7月25日千葉生まれ。獅子座。B型。
▶︎小学校3年生の時、友人が通っていた道場に誘われ空手を始める。「ミットの弾ける音に魅了されて。初めて自分から父に『やりたい』と言って始めました」
▶︎小学校5年で全日本少年少女空手道選手権大会3位に。「そこで私は強いのかな、と思い始めて、中学生ぐらいから全国大会で勝ちたいと思うようになりました」
▶︎日体大柏高校から帝京大に進み、2013年ワールドゲームズ、14年世界学生選手権優勝。15~17年全日本選手権3連覇、16年世界選手権初優勝。世界を転戦するKARATE1プレミアリーグでは17、18年に年間チャンピオンに輝く。「今年はアジア選手権での優勝が目標。五輪出場を決めるWKF(世界空手連盟)のランキングポイントに影響するので。あとはKARATE1プレミアリーグの3年連続総合優勝です」
取材・文/田村友二 撮影/峰フミコ
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