日本のトップサーファー仲村拓久未「やっぱりサーフィンが楽しい!」2019/03/27
東京五輪の新競技となり、サーフィン界に大きな波が訪れている。その波に乗ろうとする日本のトップサーファー、仲村拓久未。東京五輪を目指し、勝負の年となる2019年を戦う思いとサーフィン愛を語る。
波に乗れ。時代に乗れ。
東京五輪の新競技として行われるサーフィン。初の五輪での競技実施に向けて、NAMINORI JAPAN(サーフィン日本代表)入りの争いが過熱している。その有力候補となる2018年強化指定A選手に選ばれた仲村拓久未。プロサーファーとして世界を転戦する仲村のそばには、いつでもサーフィンがある。
「お兄ちゃんがプロサーファーを目指していて、僕が3歳くらいの時に奈良から三重に引っ越しました。海が目の前で歩いて30秒くらいですし、お父さんやお兄ちゃんに連れられて、いつの間にかサーフィンをやっていました(笑)。小学3年生で本格的に始めて、全国大会の小学生の部で勝てていたので、自然とプロを目指しました。本当にずっと毎日サーフィンの人生です。辞めたいと思ったことは、親がスパルタだった時にちょっとだけあるんですけど(笑)、やっぱりサーフィンが楽しいんです!」
サーフィンに魅せられ、16歳でプロに。他の日本人選手とは異なる個性を武器に世界と戦う。
「プロサーファーの試験に受かればプロとして稼いでいなくてもプロサーファーと言えますが、実際にサーフィンだけで食べていくのは結構難しいです。その分、頑張ればスポンサーさんがサポートもしてくれますし、試合以外でも毎日サーフィンを楽しめます。サーフィンを知らない人たちも、試合を見に来てくれれば、結構分かりやすいので面白いと感じてもらえると思います。本当にシンプルで、スピードや板の返しの速さ、技を見たら単純に“カッコイイ!”って思えます。それに技の数もそんなに多くはないので(笑)。僕の場合は、日本人の中では体が大きいのでパワー系のサーフィンですね。力がある方が有利な大きい波には自信があります」
現在のサーフィン世界最高峰の舞台は、ワールドチャンピオンシップツアー(WCT)。仲村は、WCT出場権を獲得するためにワールドクオリファイングシリーズ(WQS)に臨む。
「WCTは小さい時から見ていて、サーフィンで上に行きたい人は、みんな目指している夢の舞台です。その予選に当たるWQSを3年戦って、世界のすごさが分かりましたし、今年はどれだけ戦えるのかが大切だと思っています。今のままでは、“ヤバイ!”って危機感があります」
世界を肌で感じたことで、日本を見直すことにもつながった。
「海外の大会は、めちゃくちゃギャラリーがいて、日本の試合とは別ものです。初めて出場した時は、『こんなに人がおるんや』って緊張し過ぎました(笑)。オーストラリアやアメリカでは、サーフィンが文化になっていて、プロサーファーがニュースやCMに出ているくらいです。環境のせいにしてはダメですけど、日本はまだまだだと思います。五輪競技になったことで、日本の試合にももっと多くの人が見に来るようになってほしいです」
東京五輪でのサーフィン採用が、日本のサーフィン界にもいい流れをもたらしている。
「五輪はテレビで見ていて、サーフィンでは目指せないと思っていたので五輪競技になってビックリしましたね。日本ではそこまで注目されるスポーツではなかったのが、周りの見る目が変わったなと感じます。自分も世界ジュニア選手権などで日本代表として日の丸をつけていたんですけど、五輪は国民の皆さんが見るので、どんな感じになるのか想像がつかないです」
東京五輪では、このいい流れが大きな波へと変わりそうだ。
「日本人の僕からしたら、チャンスだと思っています。東京五輪が決まって、コーチがついたり、環境も少しずつですが良くなっています。東京五輪をきっかけに、サーフィンをしたい子が増えたり、サーフィンというスポーツが広がっていくと思います。競技の面でもチャンスがありますね。日本の波はパワーがないので、海外の選手が日本で試合をすると、『板のチョイスが難しい』って苦戦している光景もよく見ます。日本の大会では、日本の波に慣れている日本人選手が好成績を出すということはよくありますね」
日本サーフィン界に訪れた絶好の波に乗るためにも、仲村にとっては今年が勝負の年になる。
「2018年はケガとか色々あって、気持ちが落ちたりして踏ん張りどころでした。親やいろんな人が、『まだまだや』って言ってくれたので、『まだまだやらなあかん』って思えましたね。東京五輪に出場するためには、ほんまにこの1年が大事。試合に勝てば、きっと選ばれると思うので、試合に勝つしかないです。サーフィンに集中して、毎日を大事に生活して、2019年は“かましてやりたい”と思います!」
【TVガイドからQuestion】
Q1 印象に残っているスポーツ名場面を教えて!
スノーボード・ハーフパイプの平野歩夢選手ですね。選手生命が危ないくらいのケガをしたのに、それを乗り越えて平昌五輪で銀メダルを取ったのを見て感動しました。ほんまのアスリートやなって思って、何回も見返しました。
Q2 好きな音楽を教えて!
小さい頃から遊んで仲がいい、WILYWNKAがやっているユニット“変態紳士クラブ”を、ほぼ毎日聴きます。名前は変ですけど(笑)、曲はめっちゃいいです。特に「好きにやる」って曲は、気持ちが上がるのでよく聴いていますね。
Q3 “2020”にちなんで、波に乗る“20”秒前に考えていることを教えて!
試合の時は、まず勝つことしか考えてないです。その日の波のコンディションによってこの波に乗ったら、こうターンを深くしてとか、ああしてこうしてとか考えているんですけど、波に乗ってしまったら体が勝手に動く感じです。
【サーフィン競技概要】
サーフボードを使って波に乗るサーフィン。約274cm以上のロングボード、180cm前後のショートボードがあり、東京五輪ではショートボードが実施される。競技としては、波を乗りこなすライディングテクニックを審判がジャッジする採点競技になる。難易度が高く独創的な技を出せるかに加え、スピードやダイナミックさなどが評価のポイントに。選手は時間内に10本前後のライディングを行い、その中で点数が高い2本の合計点で勝敗が決まる。
【プロフィール】
仲村拓久未(なかむら たくみ)
1996年4月8日奈良生まれ。牡牛座。O型。
▶︎幼少期からサーフィンを始め「中学の時は(プロは出場できない)世界ジュニアを目標にしていた」と語り、’12年の世界ジュニア選手権U-16で準優勝。16歳でプロサーファーに。
▶︎’15年には、「サーフィン人生でめっちゃうれしかったことの一つ」と挙げる"JPSAショートボード男子 ランキング日本チャンピオン"を獲得。日本のトップに立ち、舞台を海外に移す。「日本とは違って大変なこともありますけど、もう慣れました」と笑うほど海外での戦いに順応。
▶︎世界最高峰のワールドチャンピオンシップツアー(WCT)、さらに「東京五輪に出場するためにも頑張らないといけない」と決意する日本代表入りを目指し、ワールドクオリファイングシリーズに挑戦。WCTの出場権を獲得できるポイントランキング10位以内を狙う。
取材・文/山木敦 撮影/山下隼
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