「青天を衝け」血洗島編完結! 舞台はいよいよ京都へ。ストーリーテラー・家康の気になる今後も明らかに!?2021/05/01
第11回(4月25日放送)の大河ドラマ「青天を衝け」(NHK総合)では、尾高惇忠(田辺誠一)が計画した横浜の外国人居留地の焼き討ち計画に心を動かされ、武器や仲間を集めていた渋沢栄一(吉沢亮)。
第12回(5月2日放送)では、焼き討ち計画のその後が描かれ“血洗島編”が完結し、舞台は京都へと移っていきます。栄一の転換期ともいえる第12回の見どころや今後の展開をチーフ演出の黒崎博さんに伺いました!
――ズバリ、第12回の見どころを教えてください。
「栄一の少年時代から描いてきた“血洗島編”が一旦幕を閉じて、次のステージへ飛び出して行くという回です。第12回は『自分は生きる、生き抜くんだ』と実際の渋沢栄一が言っていた思いにたどり着く決意の回でもあります。見どころとしては、本当にキャストの皆さんが素晴らしい熱量で演じ切ってくれているので、少しでもその熱さが視聴者の方に伝わればうれしいです」
――栄一が命の重みを感じる回のように思えますが…。
「幕末や武士を表現する時にいかに美しく死ぬかという美学みたいなものが描かれるということはよくあると思います。日本人の人生論の中に、死んでいくことを美化するようなヒロイズムみたいな考え方はありますが、渋沢栄一は91歳まで生きた人で…。若かりし日の栄一は命をなげうつことに取りつかれているようなところがありますが、それを最後まで言い続けた人では決してなくて。ある時点で『俺は最後まで生きなきゃだめなんだ。生きて何かしないと、この国のために世界のために何かをしないと意味がないんだ』ということを、当時の人としては珍しく言い切った人だと思うんですよね。 だから、脚本の大森美香さんも含めて、どんなにみっともなくても生きるということを最終話までの貫いたテーマとして描いていきたいと意思統一していて、そこはブレずに描いていきたいなと思っています」
――キャストの方たちの熱量が素晴らしいと話されていましたが、具体的にどんなシーンで感じましたか?
「今回はすごく長くて重いシーンが続くんです。市郎右衛門(小林薫)と栄一が話すシーンや千代(橋本愛)と栄一のやりとりは、どのシーンも5分を超えるシーンなんですけれども、一発撮りなんです。吉沢くんの集中力はすごくて、撮り始める前に『このテークですごくいいものが出てくるな』ということが分かるんですよ。この回の栄一は格好悪くて、とにかくもう大失敗の回なんです。それまで自分が取りつかれていたものが完全に間違っていたということを認めるのって、男としては悔しいし恥ずかしいし、特に女性の目から見たら笑っちゃうくらい『バカだな、こいつ』と思われるんじゃないかなと。千代とのシーンも本当にみっともないセリフだと思うんですが、恥ずかしいけれども包み隠さず、間違ってたというみっともなさをさらけ出して撮ろうと吉沢くんと話して、本番に臨んでもらいました」
――ワンテークで撮るということは感情のリアルさを追求したということでしょうか?
「そうですね。この回については、自分でも計算しきれない気持ちが出てくるのを狙おうと話をしました。お互い、ドキュメンタリーみたいにやってみないとどうなるか分からないなと話をして。カメラマンもどういうふうに動くか分からないけれど、とにかく計算しないでやってみようと吉沢くんに言いました」
――手応えは感じられましたか?
「あまり自画自賛で言うのは恥ずかしいんですけれども、長七郎(満島真之介)が乗り込んできて、みんなを命懸けで止めるというシーンは、それぞれが次にどんな間合いで怒り出して、どんなふうにキレるかを計算ずくでやっているはずなのに、誰も予想がつかないような感覚に陥っていたので、すごく不思議な現場だったなと思います」
――第12回で“血洗島編”が完結するということですが、黒崎さんが演出する上でこだわった点や印象的なシーンはありますか?
「僕自身、血洗島村の風景が大好きになってしまいまして…。だから見ていただく方にも『ああ、いい景色だな』と純粋に感じていただけたらうれしいなと思って撮っていました。元々は少しだけ畑があって、荒れ地が広がっていたところに木が一本あったんです。そこに『主人公の家が立っていたらすてきだよね』『ここに道があったらいいよな』とみんなでアイデアを出し合って作った場所なんです。今となっては物語に欠かせない原風景になってくれたなと思ってます。こだわった点として、これは力を込めて言いたいんですけれども、畑の作物は制作のチームが本当に自分たちで考えて耕して、季節に合わせて手で藍を植えているんです。手作業で作った土地だから、物語上は栄一や市郎右衛門が心を込めて村の人たちと作った畑だと思うんですけれども、その温かみが伝わっているといいなと思っています。これから先、8月くらいの放送では、これまで見ていただいた血洗島村の風景とは違って、花が咲いていたり、別の景色も出てくるので作り物ではない自然の景色を楽しんでいただけたらいいなと思っています」
――これまでの栄一は純粋で真っすぐなイメージでしたが、今後ステージが変わっていくことで、そのイメージはどうなっていくのでしょうか?
「人物の根っこの部分を大事に描こうと、少年時代から含めて栄一のピュアな部分を大事にしてきたつもりですし、吉沢くんもそこを大事に演じてくれたと思っています。これからは、どんどんステージが変わるし、人を殺すことで国を変えようという負のエネルギーをまとった人たちと関わることになりますが、栄一は基本的には変わらないんだろうなと。ひょっとしたら、91歳の時にも子どもみたいな人だったのかもしれないという想像をしていまして…。根っこの部分は、結局死ぬまで変わらないんだろうなと吉沢くんと話しながらやっています。今後、政治のイデオロギーの話もあるので、難しい顔をして話すシーンもあるんですけれども、栄一は死ぬまで平岡円四郎(堤真一)のセリフでも出てくる『おかしれえ』方に『おかしれえ』方に道を選んで行った人なのかなと想像していて、『おかしれえ』 という言葉も最後までキーワードになるのかなぁと思っています」
――今後、栄一が出会うことになる徳川慶喜を演じる草彅剛さんの印象を教えてください。
「将軍・慶喜として凛とした佇まいの時と円四郎とのシーンでニコッと笑ったりする時など、凛とした時と崩れた時の振れ幅がものすごく大きい方で、こんなに振れ幅が大きい人に会ったことないというくらい振れ幅が大きいです。草彅さんは『歴史分かんないよね。難しくてさ』などと軽やかに雑談された後、本番の声がかかった時にすっと佇まいが真っすぐになる…。そのギャップが激しすぎて頭がついていくのが大変なくらいです。慶喜にはいろんな面が潜んでいて、どれも本音でやっているように見えますが、それが実際の草彅さんと重なっているんじゃないかと感じながら楽しく撮っています」
――また、今回の「青天を衝け」では北大路欣也さんが徳川家康として語る部分が面白さの一つになっていますが、江戸幕府の終焉(しゅうえん)後も登場するのでしょうか?
「自分たちで“家康コーナー”と呼んでいるのですが、『面白い』と言っていただけるのはすごくうれしくて…。とっぴな仕掛けでもあるので、正直なところ、どういうふうに見ていただけるかなとドキドキしていた部分もありましたが、『面白い』とか『家康さんが語ってくれる情報で中身が分かりやすくなってる』と言っていただけることが本当にありがたいなと思っています。北大路さんからは『家康をやるからには正面からしっかりやりますので、何でも言ってください』とおっしゃっていただいて、これまでのシーンが出来上がっています。放送後、大きな反響をいただいてからは、北大路さんは『次の回、僕は何をやればいいの?』と毎回、演出を楽しみにしてくださっています。家康を出そうと言ったのは脚本の大森さんなのですが、これから先のことはみんなでどういうふうに描いていくか考え中です。ただ、大森さんも含めて引くに引けないなと思っています(笑)。ちょっと真面目に言うと、江戸幕府を開いた人だから江戸時代を俯瞰する人と考えていたんですけれども、いつの間にか北大路さんご自身も劇中の家康さんもその立場を少し超えて、栄一少年が頑張っていたり、誰かが矛盾に満ちたことを言っていたら腹を立てたりと感情が出てきていて、物語を見守っている人になってる気がするんです。 そうなると、幕府が終わったから出てこないということはないのかもしれないと思いまして…。僕としては、ぜひ栄一を最後まで見守ってほしいなと思っています」
――これからの栄一について教えてください。
「農民だった栄一が家を出て、江戸から京都へ、そして慶喜と出会うことになります。将軍になる慶喜と農民でも武士でもない身分になってしまった栄一が、不思議な偶然を経て出会い、死ぬまで深い友情で結ばれていくことになるんです。だから、まずは慶喜と全く縁のない栄一がどうやって出会うのかを楽しんで見ていただけたらなというのが一つ。もう一つは、京都に行った後、外国嫌いだった栄一が万国博覧会に派遣され、船でパリへ渡るんです。そこでたくさんの出会いがあり、カルチャーショックを受けて自分の価値観を全部ひっくり返されて日本へ戻ってくることになります。戻ってきた時には、実は江戸幕府は終わってしまっていて、パリにいる間に明治時代になっているという浦島太郎状態で…。もちろん史実に基づいている話なんですけれども、驚くべき人生ですよね。栄一の人生のステージがどんどん変わっていく物語というのを楽しんでいただけたらなと思っています」
――ありがとうございました!
京都での栄一の活躍もさることながら、ストーリーテラーである家康の行く末も気になりますね。黒崎さんもおっしゃっていましたが、記者も“家康さん”が最後まで登場してくれることを願ってやみません。
【番組情報】
大河ドラマ「青天を衝け」
NHK総合 日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BSプレミアム・NHK BS4K 日曜 午後6:00~6:45
NHK担当 K・H
この記事をシェアする