脚本家・八津弘幸が「おちょやん」に込める思いとは? 杉咲花の明るい魅力にも期待!2021/01/04
新年から京都編に突入した連続テレビ小説「おちょやん」(NHK総合ほか)。この物語は、女優・浪花千栄子さんの人生をモデルに、ヒロイン・竹井千代(杉咲花)が喜劇女優として成長する姿を描いています。
突然ですが、皆さんは本作の脚本家がどなたかご存じでしょうか? ドラマ「半沢直樹」「下町ロケット」「陸王」(いずれもTBS系)、「家政夫のミタゾノ」(テレビ朝日系)などで有名な八津弘幸さんです。これまでは、大胆な構成力とエンターテインメント性をベースにした重厚な人間ドラマを手掛けてきましたが、今作では笑いあり、涙あり、人情あふれる波瀾(はらん)万丈の物語を執筆。そんな八津さんから、このたびコメントが届きました。
――初めて連続テレビ小説の脚本を手掛けられていますが、今のお気持ちを教えてください。
「率直にうれしかったです。私は新人の頃、どんな作品を書きたいか聞かれると『日本で脚本を書くからには、やっぱり“朝ドラ”か“大河”ですね』と言っていたんです。それが実現できて感無量といったところです。ただ、話が進むにつれて少しずつ恐怖に変わっていきました。よくよく考えてみると、あの“朝ドラ”だよな…と(笑)。ちゃんと半年間走り切らなければと不安でいっぱいです。書き始める前、周りの人たちから『八津さん、1話15分のペースは本当に難しいですよ。それを毎週5話続けるのは大変ですよ』と、すごく言われて、自分でも『そうだよな…』と思っていたんです。でも、実際に書き始めてみたら、そんなことはありませんでした。実は以前、週刊誌で漫画の原作の仕事などもやっていたのですが、そのペースに近い感覚があるんです。15分の中に、毎回ちょっとした山を作っていくのは楽しいですね。毎日盛り上げすぎるのは合わない気もしたのですが、結果的には良い方向に働いている気がしています。せっかく書かせていただくので、毎日の習慣で見ていただくのではなく、本当に面白くて、見たいと思ってもらえる作品にしたいです。そう思いながら書いています」
――本作は、浪花千栄子さんの人生をモデルにしていますが、今後どのような物語が展開されていくのでしょうか。
「自叙伝を読んで、浪花さんは若い時から相当ご苦労をされていて、さまざまな出来事を経験された方だと分かりました。なので、半年という長いスパンを使って、浪花さんをモデルにした竹井千代というキャラクターをしっかり描くことが大前提だと思っています。ただ、浪花さんの人生をベースに考えた時、僕はつい、1人の少女が日本一の女優を目指して、スターへの階段を駆け上がっていくような作品を書きがちなんですが、今回は少し違います。もちろん劇中劇もたくさんありますし、千代が厳しい師匠と出会って、みっちりしごかれたり、劇団同士の競い合いが展開したりといった話が出てきますが、彼女がスターになることが物語の中心ではありません。千代が芝居をしたいと思う理由は、“周りの人々を喜ばせたい、元気にしたい”からです。そして、彼女が家族に恵まれない日々を送ってきたという生い立ちに絡んで生まれてきた願いだと考えているからです。だから芝居や演劇の周辺で、いつもさまざまなことが起きていて、千代は芝居を続けていく中で、芝居以外の問題も乗り越えて成長していく。そんな物語になっています」
――ヒロイン・竹井千代のキャラクターをどのように描かれていますか?
「浪花さんが書かれた自叙伝以外の資料が思ったより少なかったので、想像を膨らませながら竹井千代を描いています。浪花さんの人生は喜劇女優にたどり着くまで、いろんな人に裏切られて孤独な部分もあったため、最初はそういうものを抱えている女性として千代を描いていました。でも、暗い部分を描き出そうとすると、わざとらしくなる気がしたんです。そう感じてからは、どんな困難にぶち当たっても前を向いて生きていく、とにかく明るい千代を描くようにしています。例えば、どうしようもない父・テルヲは、何度も千代のことを裏切ります。千代はそのたびに、“今度こそちゃんとしてくれるんじゃないか”と期待してしまう。そんな彼女の葛藤を踏まえた上で、うそのない、前を向いて生きていく姿を描いていきたいですね」
――主演の杉咲花さんの印象や、期待することなどはありますか?
「杉咲さんに決まったのは、脚本を書き始めてしばらくしてからでしたが、すごくラッキーだと思いました。杉咲さんのお芝居がめちゃくちゃうまいのは言うまでもないでしょう。今まで彼女が演じてきた役は、ちょっと陰があって、何かを背負っている役が多かった気がします。お芝居がうまいので、作り手は深いところまで演じてほしくなってしまうのだと思います。それはそれで彼女の魅力なのですが、今回は根っから明るい杉咲さんをできるだけ見せてもらえたらと思っています。泣いたり苦しんだりするシーンはたくさんありますが、それをはねのけていく杉咲さんの明るい魅力を出してもらえることを大いに期待しています」
――では、千代と夫婦になる、成田凌さん演じる天海一平というキャラクターはいかがですか?
「一平は、浪花さんが結婚された渋谷天外さんがモデルです。天外さんの記録は、浪花さん以上にたくさん残っていました。ハチャメチャなエピソードもいろいろあったので、それを参考にしつつ、新たにキャラクターを作り上げていきました。実在の浪花さんと天外さんもそうなのですが、千代と一平は、境遇や心に抱えているものなど、似た部分がいろいろあるんです。そういう意味で、一平は千代のことを“唯一本当に理解できるキャラクター”という位置づけで存在しています。普通の人は、千代の根っこにある部分を理解できないのですが、一平だけは分かる。普通の人はきれい事で片付けてしまうようなことも、一平だけは本質のところで千代と関わってくる存在です。一平は自分の夢に向かって頑張るのですが、人間としてちょっと破綻している部分もあるので、そこを魅力的に見せられるといいなと思っています」
――最後に、あらためて本作に込めた思いをお聞かせください。
「この作品は、どうしても喜劇というファクターが外せません。『喜劇って何ですか?』と問われると、『人間の駄目さ加減と滑稽さを描き、最後はほろっと泣けて優しい気持ちになれる』作品かなと思っています。だからこそ、千代は自分が喜劇をやることで、お芝居を見た人が元気になってくれたらいいなと思っているわけです。この作品でも、喜劇のそういうところが見ている方に伝わってほしいです。最近の世の中は、SNSですぐに批判が起きて、とげとげしい時代になっていますよね。それが僕はすごく嫌なんです。人間は、完璧な人ばかりではないですし、駄目な人もいる…。それでもみんな頑張って生きている。そういう人に対して、許してあげられる優しさみたいなものをみんなで持てたらいいなと思っているんです。『おちょやん』に出てくる役者たちは、みんな本当に駄目なキャラクターばっかりです(笑)。役者だけではなく、千代の家族も、道頓堀で出会う人々も、みんなちょっと一癖あるキャラクターばかりです。でもどのキャラクターも、どこかに必ずいい部分を持っている。そんな登場人物たちを見て、皆さんも笑ったり泣いたりしながら、ちょっとでも優しい気持ちになってもらえたらいいなと思っています」
――ありがとうございました。
第5週あらすじ(1月4日~8日放送)
京都にたどり着いた千代(杉咲)は、カフェ「キネマ」に住み込みで働き始めました。店長の宮元(西村和彦)は映画好きで、店には女優を目指す女給がたくさん。初日、千代は客に手を握られる女給たちを見てためらいましたが、持ち前の機転と口達者で、悪酔いした客を撃退。その様子を見た黒木(ヨシダ朝)から活動写真への出演を打診されますが…。
【番組情報】
連続テレビ小説「おちょやん」
NHK総合 月~土曜 午前8:00~8:15ほか
NHK BSプレミアム・BS4K 月~土曜 午前7:30~7:45ほか
※土曜は一週間の振り返り。
NHK担当 M・I
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