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「やなせさんが書かせてくれている」中園ミホが明かす「あんぱん」の見どころとラブストーリーの行方2025/04/26 08:15

「やなせさんが書かせてくれている」中園ミホが明かす「あんぱん」の見どころとラブストーリーの行方

 NHK総合ほかで放送中の連続テレビ小説「あんぱん」(月~土曜午前8:00ほか)で脚本を手がける中園ミホさんに、2回にわたって話を聞いたインタビュー。前編では、小学生時代からの文通の記憶、やなせたかしさんの詩の世界、奥さまとの関係性、そしてドラマに対する深い思いを伺った。後編では、恋愛描写やキャラクター設定の舞台裏、さらにやなせさんが中園さんに与えた影響、戦後80年を意識した戦争描写、そして最終回に向けての心境まで率直に語ってくれた。

──第1週が「人間なんてさみしいね」、第2週が「フシアワセさん今日は」と、朝ドラのサブタイトルにしては“不幸せ”とか“寂しい”という言葉が出てきます。また、これから戦争も始まっていく中で、厳しさや生きることを描くにあたって工夫されていることはありますか?

「そこはに力を入れて書いています。私たち、何も失わない人生って決してないですよね。経験したことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)はお父さんを早くに亡くすなど、若い時につらい別れがたくさんありました。その深い悲しみを何度も乗り越えてきたから、『アンパンマン』を生み出すことができたんだと私は思います。私が10歳の頃から数年、やなせさんと文通をしていたことがありました。小学生の私にも愚痴っぽいことを書くなど正直な方でしたし、何よりもすごく明るい方でした。冗談もお好きで…。その明るさの裏には若い頃のつらい経験があったからだと思いますし、やっぱり人生ってつらいことがあるからこそ、その分、楽しい物語が必要だし、楽しい音楽が必要だし、やなせさんはそういうことをすごく考えていた方なんじゃないかなと思います」

「やなせさんが書かせてくれている」中園ミホが明かす「あんぱん」の見どころとラブストーリーの行方

──やなせさん自身の“明るさ”が、深い悲しみを知っていたからこそ生まれたものだと感じていらっしゃるんですね。

「そうですね。私もやなせさんのその精神にならって、のぶと嵩の人生は前半つらいことがずっと続くけれど、それをつらいだけではなく、どうやって楽しく面白く視聴者の皆さんに届けられるかなと考えながら書いています。顔合わせの時にも『結構つらいことが続きますけど、それでも毎日毎朝見て元気になれるドラマにしたいので、とにかく楽しく明るくやってください』と出演者の皆さんにお願いしたんですけど、それに応えて本当に明るく演じてくださっています。人間は深い悲しみを味わわなければ、喜びも幸せも分からない…、その想いを大切に脚本を書いていますし、それがやなせさんの作風であり、人生だと思います」

──「花子とアン」を執筆されている際、中園さんは占い(※)で「天中殺」にあったと伺いましたが、今回も同じようにネガティブな運勢のなかでの執筆だったのでしょうか?(※中園さんは占い師としても活動中。自身の運気を制作に生かすことでも知られる)

「実はそうなんです。今回も、私の占いでは『空亡』という12年周期のどん底の時期なんです。占い的には試練のタイミング。ただ、私の星は“怠け者の星”と言われていて、空亡を乗り越えるには『人のために頑張ること』が足腰を鍛える方法だと教えられてきました。だから、今回また朝ドラの話が来た時、『ああ、これは逃げちゃいけないな』と。空亡期にいただいた仕事はきちんとやらないと駄目だと覚悟をして、今は本当に24時間、頑張って書いています」

──放送100年という記念の年に、朝ドラを任されたことへの思いはありますか?

「放送100年だというのは、後々知りました。それだけ大きな節目に関わることができて光栄です。ただ、私がより強く意識しているのは“戦後80年”という節目ですね」

──やはり戦争の描写が大事になってくるということですか?

「そこはちょっと皆さん驚くぐらいしっかり描きます。朝ドラでしっかりと戦争を描くことに賛否はあるかもしれませんが、私は、やなせたかしを描くということは戦争を描くということだと思っているので、しっかり時間をかけて描きます。やなせさんは激しい戦闘には巻き込まれていないんです。だけど、戦地で餓死寸前まで追い詰められて、飢えることがどんなつらいことかということは、いろいろ本にも残しています。だから、私が小さい頃に実際にお会いすると必ず私に『おなかすいていない?』と言ってくださったんだと思いますし、そういう意味で、飢えるということのつらさ、切なさとか、そこはたっぷり描きます。戦争で自分よりもっと大変な思いをした人たちがいっぱいいる中で、それでも戦争は嫌だ、大嫌いだということをずっと言い続けたやなせさんを思い、もう本当に気合を入れて書きました」

──戦争当時のことを書く難しさは?

「戦争を経験していない私が、戦争当時のことを書くのは、知らない国の言葉を書くみたいに難しいんです。それでも、優秀な時代考証の方がいらっしゃるので、本当に手取り足取り教えていただきながら、普通の4倍ぐらいかかってしまいましたが、ここは逃げずにちゃんと書かなければいけないと思って書きました」

遊び心と緻密な構成――キャラクターに宿るアンパンマンの魂

「やなせさんが書かせてくれている」中園ミホが明かす「あんぱん」の見どころとラブストーリーの行方

──一方で、物語を描く中では、重いテーマの中にも遊び心や楽しさを取り入れているようにも感じます。ドラマ「あんぱん」の中で、「アンパンマン」に登場するキャラクターが反映されているということはありますか?

「公開はしていないんですが、私の初稿では全部の登場人物に『これはロールパンナ』とか、アンパンマンの登場キャラクター、妖精たちに当てはめていました。本当に小さな役でも、全部何かしら妖精たちに当てはめていて。私の趣味の世界なんですが、朝ドラを書くのは本当に大変なので、そういう遊び心も楽しみながら必死に書いています。例えば釜次(吉田鋼太郎)と天宝和尚(斉藤暁)は、かまめしどん、てんどんまんで、団子屋さんの桂万平(小倉蒼蛙)がカツドンマンのイメージです。実際のアニメでも3人がいつも一緒にいるので、そういうイメージで作っています」

──中園さんご自身のお好きなアンパンマンキャラクターは?

「私はやっぱりドキンちゃんが好きです。周囲を振り回すし、欲望に正直で、『おなかすいた』っていつも言っているんですよね。私もしょっちゅうおなかすいているので、すごく共感しちゃって(笑)。わが道を行くところも魅力です。もちろんアンパンマンも、ばいきんまんも、ロールパンナもメロンパンナも、みんな好きです。それぞれにちゃんと個性がある。勝手にキャラクターを当てはめて脚本を書いていると、どんどん気持ちが入ってきちゃって、最近なんてロールパンナを見るだけで涙腺がゆるむんです」

──のぶと嵩の関係についても教えてください。2人を幼なじみにした経緯は?

「いろいろな描き方があると思うんですが、幼少期には実際には2人は出会っていないので、パラレルに描くやり方もあったかもしれません。ただ、昔やなせさんに『子どもの頃はどんな子でしたか?』と伺った時、『気が弱くて、男の子っぽい遊びはしなくて、女の子の友達がいた』とおっしゃったんです」

──そのエピソードを聞いて、物語上の“のぶさん”との関係性が浮かんできたのでしょうか?

「『どんな女の子だった?』とお伺いすると、『ミホちゃん(=私)みたいな、元気な子だった』っておっしゃったので、もし当時の元気な暢さんが近所にいて、実際に出会っていたら、こういう会話をしたんじゃないかな…と想像しながら、小さい頃からの幼なじみというオリジナルで作りました。やなせさんって複雑な家庭環境で育っていて、『おとうとものがたり』などを読むととてもセンチメンタルな人だったことが分かるんです。だからこそ、元気な女の子がそばにいてくれたら救いになったんじゃないか、そんな私自身の願望も込めています」

──のぶと嵩は最初は恋愛対象ではなかったように見えますが、どのように意識が変わっていくと考えて描かれたのでしょうか?

「この2人が出会ったら、こういうやりとりをして、こういうことが起きて…というふうに描いていったら、いつの間にか自然と2人は恋に落ちていったという感じです」

「やなせさんが書かせてくれている」中園ミホが明かす「あんぱん」の見どころとラブストーリーの行方

──そのあたりが大きな見どころになりそうですね。

「私も早く放送を見たいんです(笑)。暢さんの資料はあまりないのですが、残されているエピソードは、できる限り使っています。脚色していないわけではないけど、実際の2人の関係に重なる部分は多いかもしれませんね」

──すごくロマンチックな関係ですね。

「久しぶりにラブストーリーを書いています。本来、私は恋愛ものを書くのが大好きなんですが、最近は“仕事ドラマ”ばかり依頼が来ていたので、久しぶりに思いっきり恋愛を書けて楽しいです」

“文通相手”がくれたもの――やなせたかしとの不思議な縁

「やなせさんが書かせてくれている」中園ミホが明かす「あんぱん」の見どころとラブストーリーの行方

──改めて、文通相手であり、のちに「アンパンマン」を生み出したやなせさんが、中園さんに与えた影響について教えてください。

「本当に、説明がつかないような不思議な縁だとしか思えないんです。今回このドラマを書いている中で改めてやなせさんの手紙を読み返していたら、文通を始める前の時期に書かれた似顔絵が出てきました。私、子どもの頃にデパートの似顔絵コーナーで並んでいて、何人かの漫画家さんがいる中、順番が回ってきた時に『はい次の方』と呼ばれて描いてくれたのが、実はやなせさんだったんです。その時はやなせさんだとは覚えていなかったんですが、後になってその絵が出てきた時に、ああ、ここからご縁が始まっていたんだなと思いました」

──その頃から、すでに“書くこと”や“表現すること”にひかれていたのでしょうか?

「私、小さい頃、詩を書いていたんです。それもきっと、やなせさんの詩を読んでいた影響じゃないかと思っています。その延長線上で、ものを書くことに夢中になり、後に脚本家になりました。だから、脚本家・中園ミホが今あるのも、やなせさんがいたから。そう思うと、本当に“私を作ってくれた人”だと実感しています」

──中園さんが過去に手がけた「Age,35 恋しくて」(1996年/フジテレビ系)というドラマでも、「アンパンマン」の歌が印象的に使われていましたよね。それもやなせさんとのご縁だったのでしょうか?

「あれは実体験が基になっています。当時、私の息子が小さくて、構ってほしい時期でした。でも私は忙しくて仕事ばかりで、息子が『公園行こうよ』って言ってくるのに、『これ書かないとご飯食べられないの』ってワープロに向かって書き続けました。そしたら息子が、私の膝の上じゃなくて、ワープロの上に座ってきて『もう仕事しないで』って、アンパンマンの歌を歌い出したんです。あのドラマは不倫ドラマで、ラブシーンを書いていた最中だったので、そのギャップがすごくて(笑)。それをそのまま脚本に入れたんですけど、振り返ってみたら、あの時もやなせさんにお世話になっていたんですね」

──そんなやなせ夫妻の物語を、朝ドラで描けることへの喜びも教えてください。

「毎日やなせさんと奥さんのことを考えていると、昔から覚えるほど読んでいた詩も、もっと深く味わえるようになりました。そこも楽しいですね。それから、たまに、スピリチュアルな感覚になってしまうのですが、やなせさんを近くに感じて、どこかで“書かされている”感じになることがあるんです。気付いたらシーンを書き終えていて、自分が書いた気がしない…。これはもう、怠け者の私にやなせさんが書かせてくれているのかなと思っています」

──本作には「逆転しない正義」など、さまざまなメッセージが込められていると思いますが、改めてこの作品で何を伝えたいと考えていらっしゃいますか?

「アンパンマンのマーチの『なんのために生まれて、なにをして生きるのか』という歌詞のメッセージ、それだけでも大きなテーマです。そして、やなせさんが最も大切にされていた弟を、戦争で亡くされたという事実。それがアンパンマン誕生の根幹にあること。これって本当に尊いことだと思うんです。今回、ドラマとして構成していく中で、そのことの重みを改めて深く感じました。だから私が伝えたいのは、やなせさんの精神そのもの、その全てなんです」

──最後に、ドラマの最終回について伺えますか? 構想していることがあれば、現時点でお話できる範囲で。

「思い描いてはいるんですが…ここではまだ話せないですね(笑)。書いているうちに変わることもあるので、下手なことは言えません。でも、ありありと浮かんでいる一つのシーンはあるんです。だから今は『話せない』としか言えないんです」

──それを聞いたあとに、さらに踏み込んでしまって恐縮ですが…物語はやはり、史実を踏まえた展開になっていくのでしょうか? 結末がどんな形で描かれるのか、放送で見届けられる日を楽しみにしています。

「前半は資料が少なく想像を膨らませて物語を書きましたが、後半になるにつれてどんどん史実に忠実になっていく作品ですので、どのように『アンパンマン』が生まれるのか、最後まで楽しんでいただきたいです」

【番組情報】
連続テレビ小説「あんぱん」

NHK総合
月~土曜 午前8:00~8:15 ※土曜は1週間の振り返り
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
月~金曜 午前7:30~7:45

取材・文/斉藤和美

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