ドラマ「三人夫婦」で考える多様な結婚の形~國松崇弁護士に聞く事実婚と公正証書の実務2025/04/11

TBS系のドラマストリーム「三人夫婦」(火曜深夜0:58ほか、一部地域を除く)が話題を呼んでいる。浅香航大主演、朝倉あき、鈴木大河(IMP.)共演のこの作品は、「3人だったらうまくいくかも?」という思い付きから始まる新感覚のホームラブコメディーだ。
孤独な堅物男・三津田拓三(浅香)が元カノの矢野口美愛(朝倉)、美愛の彼氏・里村新平(鈴木)と3人で事実上の夫婦を目指し、互いに補い合いながら自分らしい幸せを見つけていく姿を描いた本作。法律上の婚姻届を提出することなく夫婦同様の関係を築く「事実婚」は近年注目が集まっているが、このドラマでは“三人”での夫婦の形を描き、多様性社会における結婚の在り方という大きなテーマに挑戦している。
拓三が美愛と新平から「三人夫婦」を提案され、1年間を区切りに自分たちらしい「三人婚」の幸せを模索していく中で、家事分担や親の理解、夫婦生活のルールや嫉妬心への向き合い方など、さまざまな課題が浮かび上がる。そこで今回は「三人で夫婦になる」という契約を交わす上で、法的にはどのような手続きやハードル、メリットがあるのか、池田・國松法律事務所代表の國松崇弁護士に詳しく伺った。
――日本の法律では「三人夫婦」は認められているのでしょうか?
「今の日本の法律は、3人で結婚することを法律上の婚姻関係として認めていません。なので、それを実現しようと思ったら、現状は法律婚ではなく事実婚という形を取るしか方法はありません。事実婚は、何か決まった形があるわけではなく、契約でこうしておかなければいけないということも特にありません。社会における概念や、役所がどのように扱うのかも、人やケースによってまちまちで、はっきりとしたルールがあるわけではありません」
――法的な枠組みはまだ整っていないんですね。最近の事実婚の傾向に変化はありますか?
「(何らかの事情で婚姻を選択しなかったカップルについて、一緒に暮らした期間や生活費の負担などを踏まえ、『後から振り返ると事実婚状態だった』と裁判などで事実婚(※いわゆる「内縁関係」が認められるケースが従来は多かったというが)今は、法律婚と事実婚を比較した上で、あえて最初から積極的に事実婚を選ぶ人たちも増えてきたように思います」
――積極的に選ぶ人が増えているのは興味深いですね。そういった場合、事実婚における契約の役割はどのようなものでしょうか?
「もともと別々の家に住んでいる状態から、同居を始めて〈今から夫婦です〉と言っても、ずっと別々に暮らしていたし、子どももいないし、生活費も別だったなら、それが裁判の基準ではいきなり内縁関係とは認められにくい。それなら最初から契約によって、婚姻に似た法的な権利義務を発生させる関係を作りましょうというロジックが後者のケースです」
――契約が重要なんですね。では、事実婚の契約はどのような形で結べばよいのでしょうか? 何か特別な手続きが必要ですか?
「契約は口約束でも成立はしますし、それは事実婚契約でも同じです。その上で、成立した契約の内容を単にメモにして置いておくのか、契約書という形できちんと決めたことを書いておき、判を押して残すのかは人それぞれです。事実婚が成立するかどうかが、こうした手段によって大きく左右されることはありません。しかし、【事実婚であることを自分たち以外の誰かに証明するために何が使えるか?】という場面では、その手段によって差が出るでしょう。その中で、社会的にも法律的にも、非常に高い効果が期待できる方法の一つが公正証書という位置付けになるかと思います」
――公正証書がよく話題に上がりますが、具体的にはどのようなものなのでしょうか? どんな役割を果たすのですか?
「法律婚でいう戸籍上の表記などのように、事実婚は公的に証明する手段や方法はまだまだ少なく、きちんと結婚していることを誰かに分かってもらうために苦労することがあります。そこで、戸籍などで証明はできなくても、例えば公正証書を作っておき、いろいろな場面で証明の手段として使う、そんな一つの印籠のように使うことが考えられます」
――印籠のように使える、分かりやすい例えですね。現在、公正証書以外に事実婚を証明する方法はありますか?
「今は『届け出れば、住民票に、世帯を同じにしている状態で『未届けの妻』などと記載されるので、住民票が強い証明書類にもなります」
――公正証書があれば法律婚と同等の効力が得られるのでしょうか? どこまで認められるものなのでしょう?
「(公正証書があるからといって法律婚と同等の効力が付与されることはないが)お互いの約束事については、間違いなく成立しているということを、公的機関である公正役場が証明してくれる。社会的にも非常に高い信用力があるので、『こういう形で私たちは婚姻生活を歩んでいます』と第三者に証明する一つのツールにもなります」
――社会的な信用という意味でも重要なんですね。実際に事実婚の契約書を作る場合、どのような内容を盛り込むべきでしょうか? 具体的なポイントがあれば教えてください。
「まずは、同居する義務や扶養義務、不貞行為の禁止などについて、法律婚であれば当然に認められていることを書いていくのが基本。その上で、将来的なこと、例えば子どものことや相続のことについても書いていき、全体的な骨組みを作っていきます」
――子どもが生まれた場合の対応も契約に含めるべきなのでしょうか?
「事実婚の状態で子どもが生まれた場合、女性は自動的にシングルマザーとして法的な母親になりますが、男性が法的に父親と認められる状態をつくるためには、認知という作業が必要になります。そこで契約の中に、『子が生まれた場合は認知する』と加えておくことで、法律婚状態と同じような親子関係を作ることができます」
――公正証書は専門家に依頼するものなのでしょうか? それとも自分たちで作成することもできるのでしょうか?
「自分たちだけでもできます。公証役場の人に相談しながら、自分たちで作っていくというパターンもある。もっとも、公正証書では、できるだけ裁判などでも通用する法律用語を使わなければいけません。例えば『相手のことを愛する』とただ書いても、それが具体的にどういう義務や権利につながるのかは全く分かりませんよね。例えば、『不貞行為をしないこと』など、法律的に確実に解釈される言葉をきちんと使って書くことが重要になります。弁護士など法律の専門家に公正証書の作成を依頼することが多いのは、そういった面があるためです」
――なるほど、法的な専門知識が必要な部分もあるわけですね。気になるのは費用面ですが、公正証書作成の費用相場はどのくらいなのでしょうか? 特に「三人婚」のような特殊なケースだと違いがありますか?
「依頼する弁護士にもよりますが、弁護士であれば10万円〜20万円ぐらいが一般的かと思います。ひな形があるわけではなく、依頼主もそれぞれ言いたいことややりたいことが最初からぴったり一致しているわけではないので、時間がかかるケースも多い。さらに『三人婚』という形だと、前例もほとんどないでしょうから、三者三様の思いもあり、いざ話を聞いてみたら全然違うということがざらに起こりうると思います。その調整をしたり、文言に落とし込んだりするような作業は、おそらく2人でのパターンよりもさらに大変で、金額も上がるかなと思います」
――話は変わりますが、事実婚を選ぶメリットとしてはどのようなことがあるのでしょうか? 法律婚と比べてどんな利点があるのでしょう?
「事実婚を選ぶ分かりやすい理由の一つは、夫婦別姓を望む場合ですね。現行法は、夫婦は同じ姓にしないといけないというルールがあるので、別姓がいいと望む方々は事実婚を選ぶしかない。法律婚になると、扶養などいくつかの法的義務が発生する。そうした制約や義務に縛られたり、自分の生活スタイルを崩したくなかったりする人たちもいる。お金に執着せず、相続にも興味がないなど、法律婚による効果にあまりメリットを感じない人が事実婚を選ぶ場合もあります」
――法的な理由だけでなく、公正証書を作る心理的な理由もあるのでしょうか?
「最初からガチガチに決めておきたい、といった理由ではなく、結婚していることの証が欲しいという気持ちや、お互いの安心材料の一つとして、約束事を形にしておきたいという気持ちの表れもあると思います。(分娩時の立ち会いや救急搬送時など、病院で配偶者であることを証明できないと立ち入れないケースも多くある中)こうした場で事実婚を証明する上で、公正証書は役に立つと思います」
――緊急時に役立つのは心強いですね。最後に、ドラマのテーマでもある三人以上の事実婚は法的に可能なのでしょうか? 社会的な課題も含めてお聞かせください。
「2人ではなく3人、100人でも、当事者全員が納得していれば、事実婚は成立可能です。ただ、それはあくまで当事者間の気持ちや合意の中でのこと。契約で何とか法律婚と同じような状態を実現できたとしても、自分たち以外の社会が100人婚を受け入れるのか、これに合わせたルール作りを進めていくのかは、また別の問題。やはり社会がそれに追いついていくというプロセスが必要になってくると思います」
【番組情報】
ドラマストリーム「三人夫婦」
TBS系
毎週火曜 午後11:56~深夜0:26(※一部地域を除く)
地上波放送後、TVer・TBS FREEにて1週間見逃し配信
Netflixにて先行配信中
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