「問い」を通じて社会の多様性を考える-NHK新番組「toi-toi」制作陣インタビュー【後編】2025/04/03 20:30

NHK Eテレでは、4月3日より新たな福祉番組「toi-toi(トイトイ)」(木曜午後8:00=NHK大阪放送局制作)の放送が始まった。
2012年度から今年3月までレギュラー放送された「バリバラ」の後継として誕生するこの福祉番組は、従来の枠にとらわれない新しいアプローチで社会の多様性に迫る。番組の核となるのは“問い”というキーワード。マイノリティーの当事者が抱く根源的な問いをめぐり、異なる背景を持つメンバーが対等な立場で対話する。
スタジオには司会者を置かず、当事者主体の自由な議論を重視する姿勢が特徴だ。初回は「“見た目”に自信ありますか?」という問いを、生まれたときからメラニン色素が少なく、肌や髪の色が明るいアルビノの当事者・薮本舞さんが立てる。ナレーションを稲垣吾郎が務め、透明感のある声で番組を彩る。制作統括の久保暢之氏とディレクターの加藤寛貴氏のインタビュー前編では、番組の狙いや制作背景について聞いたが、後編では、番組の制作プロセスや演出のこだわり、稲垣の起用理由などに迫る。
――初回放送の最後に出演者全員で撮った記念写真が印象的でした。あんなに自然な笑顔が生まれたのはなぜですか?
加藤 「ありがとうございます。実はあれ、本当にアドリブで1枚しか撮っていないんです。最初、笑顔が苦手だと言っていた出演者の方が最後笑顔になるかなと思って撮影しました。2時間ほどかけて丁寧に対話をしていくうちに、お互いの経験や違いを尊重しながら話していくと通じ合う部分が生まれてきます。最初は緊張していたのが、最後になると、この人はこういう考えなんだということがお互いに分かってきて、共通理解が生まれ、安心感につながっていったんだと思います」
久保 「補足すると、司会者を置かないこの番組では、作り手側が『このこと言ってください』と出演者に強いるような収録の場にはせず、“問い”について『好きなように話してもらって大丈夫ですよ』と伝えることで、安心で安全に発言ができる場にすることが大事だと思っています。そういう場だからこそ、ああいう自然な笑顔になってくれたのだと思います」
――2回目となる4月10日放送回のテーマは「あなたは“信用”されていますか?」。これは日韓ルーツの方が“問い”を立てていましたが、このテーマを選んだ理由を教えていただけますか?
久保 「これは自身も日韓にルーツがあり、外国ルーツの人たちの支援をするNPOで働く主人公の方に取材を進める中で、『信用』というキーワードが出てきました。支援をする外国ルーツの人たちから『信用されていない』という言葉をよく聞くんですと。家を借りられないとか、電車に乗ると隣の席に座ってくれないとか、そうやって『信用されてないな』と感じる人たちが多くいるんだとおっしゃっていました。それを聞いて私たちも、これは外国人の方だけでなく、さまざまな人に関わるテーマだと思いました。自分事にもなってくるし、外国人を信用していない自分ってもしかしたらどこかにいるかもしれないし、あるいは自分自身が他者から信用されてない面があるんじゃないか、そういういろんな広がりがある“問い”になりそうだということで、みんなで議論しながら決めていきました」
――“問い”を立てる人はどのように見つけていらっしゃるのですか?
久保 「これはディレクターそれぞれの腕の見せどころでもあります。これまでの取材でつながりのある当事者団体や、メディアで発信している方のところに取材に行き、『この方はtoi-toiという番組にマッチしている』と思える方を見つけ、取材を深めていきます。そこから出てくるキーワードを“問い”に膨らませていくという形です。できるだけマイノリティー性が偏らないよう、難病や依存症、セクシュアルマイノリティー、知的障害など、多様な当事者性のある方に出ていただけるようバランスも考えています」
加藤 「見つけ方は本当にさまざまです。元々つながりがあった方もいれば、新聞やネットの記事で気になった方、SNSで発信されている方にお声掛けしたり、障害のある方々の団体に相談してつながったりすることもあります」
――出演者を「パネラー」ではなく「メンバー」と呼ぶのも特徴的ですね。この呼び方にはどんな思いがあるのでしょうか?
加藤 「これは実はどういう呼び名にしたらいいのかをいろいろ考えた結果です。『問いを立てる人』と『toi-toiメンバー』という呼び方が一番しっくりくると思いました。『問いを立てる』というワードは重要で、心の奥底でずっと抱えてきた、誰にも言えなかったような胸の内にあるものが“問い”で、それを表に出すことを『問いを立てる』と表現しています。他のメンバーについては、パネリストやコメンテーターよりも、一緒に考えるという意味で『メンバー』という呼び方がしっくりきています」
――出演者の中に一般的な「健常者」と呼ばれる方がいないようですが、これは意図的なものですか?
久保 「はい、意図的です。一つには、そもそもこの世の中に『いわゆる健常者』という人が本当にいるのかという“問い”があります。誰もがマイノリティーになりうるし、マジョリティーの側面も持っているという中で、『自分は健常者です、マイノリティーな部分は何もありません』という人はいないのではないかと思います。また、自分を『健常者であり、マイノリティーではない』という立場で話す方がいると、どうしても対等な対話が難しくなってしまうという懸念もありました。マジョリティーの立場から『それってどういうこと? 分かりません』というスタンスで、他の出演者に対して教えを乞うような立場の人がいると、議論が一方向のやりとりになりがちで、心の持ちようや“問い”を深めて対話していくという番組コンセプトとはマッチしないんじゃないかと考えたのです。ただ、VTRの中では、第2回に登場していただいた野口聡一さんのような、いわゆるマイノリティーの当事者性とは異なる立場の方にも登場していただくことで、より多様な視点を確保するよう心がけています」
――今回の「あなたは“信用”されていますか?」というテーマは、大阪・生野区という地域性も関係していますか?
久保 「そうですね、生野区では住民の5人に1人が外国人という状況もありますが、それだけでなく全国的にも外国ルーツの方との共生というのは今まさに考える必要があるテーマだと思っています。大阪放送局のある大阪で外国人支援をしているNPOと、別の番組取材を通してつながりがあったというご縁もあり、このタイミングで取り上げました。福祉番組というと障害のある方や病気の方が中心というイメージもあるかもしれませんが、それだけでなく、外国ルーツの方の生きづらさなど、福祉的な領域は多様化していますので、さまざまなテーマに踏み込んでいきたいと考えています」
――「toi-toi」というタイトルとロゴも印象的です。これについて教えてください。
久保 「NHKのデザイナーと一緒に考えて作ったロゴです。『toi-toi』の7文字で顔の形になったり、さまざまな形に変化できるデザインになっています。人もさまざまに形を変えていろんな生き方ができる、多様な人がいるというメッセージや、多様な人がインクルーシブに一緒に生きていくという世界観をグラフィックで表現できるようにと考えました」
――稲垣吾郎さんをナレーターに起用した理由もお聞かせください。
久保 「純粋に、稲垣さんの声の魅力がこの番組にとてもフィットしていると思って起用しました。フラットで透明感があり、どこかの色に偏らない印象を持っています。番組に出演する方は本当に多様で個性的な方々が多いなかで、稲垣さんのフラットな声が、視聴者の皆さんが番組の内容に入っていく手助けをしてくれるのではないかと考えました。また、世代や性別を問わず多くの方に親しまれてきた方なので、福祉に関心を持っていない方にも見ていただくきっかけになればという思いもあります」

――ロゴ以外にも番組の演出面で工夫されている点はありますか?
加藤 「スタジオセットにもこだわっています。車座になっているような形で、話しやすい距離感を大事にしています。これはカメラの撮り方的には難しいセットなのですが、当事者の方々の話しやすさ、対話のしやすさを優先して設計しています。演出面では、各回のVTRでも知的好奇心を刺激するような取材先を選んでいます。例えば初回では髪の毛の色を自由にしたスーパーに行ったり、髪色について展示しているミュージアムを取材したり。また、2回目の多文化共生をテーマにした回では宇宙飛行士の野口聡一さんとの対話も行いました。福祉に関するテーマに軸足を置きつつも、視野を広げていくような工夫をしています」
――デジタル時代において福祉番組を作る意義はどう変わってきましたか? YouTubeなどで当事者自身が発信する機会も増えていますよね。
久保 「おっしゃる通り、この10年あまりでマイノリティー当事者の方が自分自身で発信する機会が増えました。その中でテレビで福祉番組を作る意義を常に考えてきました。『toi-toi』は対話をキーワードにしています。それは番組内の対話だけでなく、テレビを見てくださった方が自分ごととして感じる問いを通して、あるいは番組内での対話のやりとりを見て、『自分はこう思う』と考え、テレビを通して対話に参加していただけるようなことができればと思っています。テレビを見ながら家族で話をする機会になったり、視聴者がSNSで自分の考えを発信したりするような、インタラクティブなやり取り、一緒に考えるきっかけの装置になれればと思っています」
加藤 「当事者発信のYouTubeやSNSの投稿が増えていて、情報性も高くなっています。これまでなら声を上げる手段がなかったような小さな声とされていたものを、自分たちで発信できるようになっています。一方で福祉の情報や多様性をどう考えるかということへの社会のニーズは高まっていると感じます。制作者も興味を持って福祉のジャンルに向き合っていくことが大事だと思っています」
――貴重なお話をありがとうございました。“問い”を通して多様性を考える新しい福祉番組として、今後の展開が楽しみです。最後に、視聴者の皆さんに向けてメッセージをお願いします。
加藤 「初回の取材で印象的なことがありました。主人公の薮本さんが『これまでの取材は制作者側の言いたいことに当てはめるようなものだったけど、今回は一緒に作っていくような取材で、大変だけど楽しい』とおっしゃってくれたんです。当事者の方々と一緒に作るというところをどうやったらいいのか模索してきましたが、そういう言葉をいただけて、間違ってないのかなと思えました。今後も当事者や視聴者の意見を聞きながら、内容や演出も柔軟に変化させていきたいと思っています」
久保 「この番組のスタジオでは、知的障害のある方や言語障害のある方など、いろんな人がいてもコミュニケーションが成立しています。分からない時に『これどういうこと?』と言える空間や、『ちょっと今言っていることが聞き取りにくい』と伝えられる環境を作っています。社会もそんなふうにいろんな人がいることが当たり前になって、自分らしくいられることをみんなが認め合える世の中になっていけばと思っています。『toi-toi』のスタジオではそれを体現しようと考えていますので、その点にも注目していただければうれしいです」
【番組情報】
「toi-toi」
NHK Eテレ
木曜 午後8:00~8:30
※放送後1週間、NHKプラスで見逃し配信あり。
取材・文/斉藤和美
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