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「問い」を通じて社会の多様性を考える – NHK新番組「toi-toi」制作陣インタビュー【前編】2025/04/02

「問い」を通じて社会の多様性を考える – NHK新番組「toi-toi」制作陣インタビュー【前編】

 NHK Eテレでは、4月3日より新たな福祉番組「toi-toi(トイトイ)」(木曜午後8:00=NHK大阪放送局制作)の放送がスタート。

 2012年度から今年3月までレギュラー放送された「バリバラ」の後継として誕生するこの福祉番組は、従来の枠にとらわれない新しいアプローチで社会の多様性に迫る。番組の核となるのは“問い”というキーワード。マイノリティーの当事者が抱く根源的な問いをめぐり、異なる背景を持つメンバーが対等な立場で対話する。

 スタジオには司会者を置かず、当事者主体の自由な議論を重視する姿勢が特徴だ。初回は「“見た目”に自信ありますか?」という問いを、生まれたときからメラニン色素が少なく、肌や髪の色が明るいアルビノの当事者・薮本舞さんが立てる。ナレーションは稲垣吾郎が務め、透明感のある声で番組を彩る。レギュラー放送スタートを前に、制作統括の久保暢之氏とディレクターの加藤寛貴氏に番組の狙いや制作背景について聞いた。

――「toi-toi」はどのようなコンセプトの番組なのでしょうか?

久保 「この番組は“問い”というのをキーワードにしています。従来の福祉番組がやってきたような情報の伝え方ではなく、多くの視聴者の方も含めて、『ちょっと気になる』と関心を持てるような“問い”をキーワードにして、さまざまなバックグラウンドを持った人たちと一緒に対話しながら、社会をよくするにはどうしたらいいか、みんなが生きやすくなるにはどうしたらいいかということを本音で語り合う番組です。福祉や障害というテーマに距離を感じる方にも見ていただけるよう、工夫を凝らしています」

――番組を一足先に拝見しましたが、従来の福祉番組と比べて新鮮な印象を受けました。「バリバラ」の後継番組ということですが、どのような点を継承し、どのような新しさがありますか?

久保 「NHK大阪放送局は長年、福祉番組を作ってきました。『きらっといきる』が2011年度まで、『バリバラ』が2012年度(レギュラー放送の開始)から今年3月まで。そして2025年度から『toi-toi』という流れです。『バリバラ』との共通点は、マイノリティー当事者の視点を大事にすることと、番組は当事者の声を伝える器であるという意識です。一方で演出の仕方は大きく違います。『バリバラ』はバラエティーの形で多くの方に見ていただこうとしましたが、『toi-toi』はドキュメンタリー的な作り方で、一人の方を主人公にして“問い”というキーワードで展開していきます」

――“問い”を番組のキーワードにした理由は何でしょうか?

加藤 「番組を立ち上げる段階から当事者の方々に議論に参加していただきました。そこで出てきたのが“問い”というキーワードでした。そして、“問い”を考えるにあたっては、絶対的な答えを出さずに、いろんな視点で対話していくことが大事なんじゃないかという形で今の番組ができました。番組をゼロから生み出す段階から当事者の方々と一緒に作ったというのが大きな特徴です。また、福祉番組というとマイノリティーの方々だけの番組になりがちなところを、自分にマイノリティー性がないと感じている方々にも興味を持っていただけるよう目指しています」

――当事者と一緒に作るという姿勢が根本にあるんですね。その中で、“問い”はどのように選定しているのですか?

久保 「“問い”は主人公になる当事者の言葉をヒントにしています。ディレクターが時間をかけて取材する中で、『見た目の話』や『自信がない』『信用されていない』といった、本人がこれまで生きてきたなかで抱いてきたモヤモヤや悩みの元となるキーワードを拾い上げ、それを伝わりやすい表現に言いかえたりしています。多くの方に関心を持ってもらえる“問い”になるように、当事者の方と一緒に、考えながらやっています」

――「マイノリティー」という定義も番組の中では少し変わってきそうですね?

久保 「私たちは、あくまで場を作る側なので何かを定義付けるのは難しいんですが、今の社会ではどんな方もマジョリティーにもマイノリティーにもなり得ると考えています。そういうことも意識して、例えば出演者の紹介の仕方にも工夫をしています。脳性まひがある女性の出演者について『脳性まひの○○さん』とだけ紹介するのではなく、『デザイナーの○○さん』というように、その方の職業や活動など、その人らしさを表す別の紹介をしつつ、『ちなみに脳性まひの当事者でもあります』というふうに伝わるように意識しています。番組内ではあえてテロップで『○○障害』といったマイノリティー性だけを前面に出さないようにしています。福祉番組なので障害やマイノリティー性は大切な部分ですが、決してそれだけではないという思いも込めて、1人の人のなかにある、さまざまな属性や特性を伝えることを大事にしています」

「問い」を通じて社会の多様性を考える – NHK新番組「toi-toi」制作陣インタビュー【前編】

――司会者なしで収録するのは大変そうですね。出演メンバーはどのように選んでいるのですか?

久保 「そうですね、でもその中から生まれる自然な対話が大切だと思っています。メンバーについては、多様なマイノリティー性のある方々に出ていただいています。身体障害だけとか、精神疾患の方だけとか、そういうことではなく、さまざまな視点がクロスすることで、いろんなものの見方が出せると考えています。また、出演者の方々も自分の障害や自分のマイノリティー性だけを背負って話すのではなく、日常生活で感じていることを発信する、その人自身が持っている多面的なことを考えて発信できる方に集まっていただいています」

――タレントの方を出演者として起用しないのも特別な理由があるのでしょうか?

久保 「そうですね、もちろん、たくさんの方に見ていただきたいと思っているので、タレントの方が入ることが有効な場合もあるとは思うんです。ただ、福祉番組を長年やってきた経験から、必ずしもタレントの方がスタジオにいるから多くの方に見てもらえるというわけでもないのかなというところも正直あります。むしろ魅力的なテーマであったり、出演者の人物像や話の内容であったり、そういうところでしっかり伝わる、深く考えるヒントを提供できる番組にすることがまずは大事だと思っています。そのため、今回はタレントの方の力に頼らない形で挑戦してみたいと考えています」

――スタジオでの対話に司会者を置かないという点も興味深いですね。これはどういった意図があるのでしょうか?

久保 「これも番組の新しい工夫の一つです。テレビ番組では一般に司会者がいて、番組が伝えたいことを引き出すために司会者に進行を委ねることが多いですが、この番組ではそういうことを一切していません。『このVTRで見たことについて、こんなキーワードでこんなこと話しましょうかね』という緩やかな合意をした上で、『ではどうぞ』という形でスタジオにいる出演者同士で対話をしてもらいます。時々話が脱線することもありますが、その脱線が1周回って深い議論につながったり、思いがけない発見があったりするので、あえて方向性をコントロールしないという形でやっています」

――収録はどのくらいの時間をかけているのですか?

久保 「スタジオ収録は大体2時間ぐらいですね。1本あたり三つの話題があるとしたら、一つの話題を30分から40分くらい。すごく議論が盛り上がると1時間かかってしまうこともありますけども、VTRを見る時間も含めてトータルで大体2時間ぐらいかけて収録するという形です」

――初回の4月3日放送のテーマとして「“見た目”に自信ありますか?」を選んだ理由は?

加藤 「自分がマイノリティーという自覚がない方も含め、あらゆる方々に問いかけ、自分事として考えてもらえるようなテーマにしたいと考えていました。その中で、『“見た目”に自信ありますか?』という“問い”は、多くの人が考えやすいテーマだと思いました。若い方々や中高生も見た目について悩むことが多いですし、いろんな人と一緒に考えたいというところで、このテーマが初回にふさわしいと考えました」

 後編では、番組の制作プロセスや演出のこだわり、稲垣吾郎さんのナレーション起用理由などに迫ります。

【番組情報】
「toi-toi」
NHK Eテレ
4月3日スタート
木曜 午後8:00~8:30

取材・文/斉藤和美


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