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「べらぼう」SNSで話題の“オーミーを探せ”! 尾美としのり、吉原の“常連”役に2025/03/23

「べらぼう」SNSで話題の“オーミーを探せ”! 尾美としのり、吉原の“常連”役に

 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(NHK総合ほか)で、平沢常富(朋誠堂喜三二)を演じる尾美としのり。これまでたびたび登場しながらも、詳細が明かされることのなかった平沢。秋田佐竹家・留守居役という公的な顔を持ちながら、覆面戯作者・朋誠堂喜三二としても名をはせるという二面性のあるキャラクターだ。SNSでは「尾美さんを探せ」という声が上がり、「ウォーリーを探せ」をもじった「オーミーを探せ」というハッシュタグまで登場するほど、その謎めいた登場の仕方が話題を集めていた。そして第12回でついにその正体が明らかになる。

 横浜流星が主演を務める「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」は、親なし、金なし、画才なし…ないない尽くしの生まれから、喜多川歌麿や葛飾北斎などを見いだし、“江戸の出版王”として時代の寵児(ちょうじ)になった“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜)の生涯を笑いと涙と謎に満ちた物語として描くもの。脚本は、大河ドラマ「おんな城主 直虎」(2017年)や連続テレビ小説「ごちそうさん」(13年)、ドラマ10「大奥」(23年)など数多くのヒット作を手がけてきた森下佳子さんが担当している。

 「この人物がどういう人間なのか、視聴者の方々が興味を持ってくれていたならうれしいです」と語る尾美が、謎めいた役柄の解釈や「尾美さんを探せ」現象、時代劇における“ふんどし”へのこだわりまで、さまざまな話題を語ってくれた。

――今回演じられる平沢常富という人物について、どのように解釈されていますか?

「とても頭のいい人で、しゃれていて、人生を楽しんでいる人物だと思いながら演じています。すごくインテリなんですよね。仕事もできるし、秋田佐竹家の留守居役を務めている。ただ、それだけでなく、趣味でも目いっぱい楽しんでいる。仕事も遊びも充実している、そんな人物ですね」

――台本を読んだ時と、実際に演じてから気付いた魅力はありますか?

「演じていると、どんどん楽しくなってくるんですよ。例えば、『こんなことを思い付いた』とか、蔦重と一緒になってちょっとしたやりとりでも楽しくなってくる。第12回ではお祭りがあって、吉原の人たちにいろいろ知恵を授けたり、『こうしたほうがいいんじゃない?』とアドバイスをしたりするのですが、それが本当に楽しい。だから、義理があって、それ以上協力できない状況になってしまうと、少し悲しいなと寂しくも感じました。現場でも、そんな気持ちで楽しみながら演じていましたね」

「べらぼう」SNSで話題の“オーミーを探せ”! 尾美としのり、吉原の“常連”役に

――主演の横浜さんとの共演はいかがですか?

「彼はすごく運動神経がいいし、芝居に対してとても真面目な方ですね。一緒に芝居をしていて気持ちがいいですし、刺激を受けています。すごく誠実な青年だなと感じています。彼の運動神経の良さを感じたのは、(平賀)源内先生(安田顕)との出会いのシーンですね。僕は『その節はお世話になりました』とあいさつすると、横浜さんが『平賀源内先生だったんですか?』と言いながら廊下をダーッと走ってきて、そのまま座敷に正座で滑り込んだんですよ。それがすごかった! しかも、監督から『ちょっと正座で滑り込んでみて』と急に言われたのに、その場で完璧にやり遂げた。やっぱり運動神経がいいんだな、カッコいい! と思いましたね」

――SNSでは「尾美さんを探せ」という声が上がるほど、登場を楽しみにしている方も多いようですが、そうした反響をどう受け止めていますか?

「台本には、平沢が頻繁に吉原に出入りしているとだけ。『大門を通っていく平沢』ぐらいしか書いていない。でもそれがうれしくて。それを見た時、『こういう登場の仕方をさせてもらえるんだ!』とうれしくなりました。脚本の森下さん、制作統括の藤並英樹さん、演出の大原拓さんとの話し合いでこういう出演になっているようで、しゃれているなと思いましたね」

「べらぼう」SNSで話題の“オーミーを探せ”! 尾美としのり、吉原の“常連”役に

――思いがけない反響もあったようですね。

「尾美としのりという名前がタイトルに出て、友人や親戚も、大河ドラマに出ることを楽しみにしてくれているんですが、『あれ? どこにいるの?』という感じになってるんじゃないですかね。今のところ、連絡はないです(笑)。『探せ!』という状況になっているのには驚きました。SNSでも話題になっていて、プレッシャーというか、ちゃんと出たら『なんかつまらないな。探すぐらいがちょうどいいや』ってなるんじゃないかなと、プレッシャーですね(笑)」

――制作側から「あまり出番はないけれど、心配しないでください」といった説明はありましたか?

「いや、全然(笑)。むしろ、僕自身が『ありがとうございます!』って喜んでいました。『なるべく映らないようにした方がいいですよね』なんて話していたくらいです。ただ、扮(ふん)装には2時間くらいかかるんで、なかなか大変なんですけどね」

――撮影現場はどんな様子でしたか?

「撮影では、『もうちょっと顔をこっち向けてください』と言われることもありましたが、『いやいや、もうこれで十分でしょ』って(笑)。羽織の柄が特徴的だったので、それがヒントになればいいかなと。結果的に、『羽織を目印に探せ』みたいなことになっていて、それもまた面白いですよね」

――セリフがある場面では、どんなことを意識して演じられましたか?

「セリフを話すようになった時はむしろ緊張しましたね。遠いところではお芝居はしているんですが、撮られているかも分からない感じで(笑)。第2回に一度セリフがあったんですよ、『源内先生、その節はお世話になりました』と。これが唯一のセリフで、あとはエキストラ的に登場していました。例えば、瀬川(小芝風花)の花魁道中のシーンでは、外野で『いい女だね~』みたいなことを言ったりしています」

――この独特な登場の仕方について、どのように感じていますか?

「本当に、まさかこんなにSNSで話題になるとは思っていませんでした。ただ、吉原に頻繁に出入りしている人物として描かれているので、『この人、いつもいるな』という印象が残るのが大事なのかなと。制作側がどこのタイミングで、平沢がどういう存在なのかを明かすのか、僕としてはその過程自体を楽しんでいました。『ほら、また吉原にいるぞ』みたいな感じで(笑)。そういう人なんだよ、というのを演じる上で意識していましたね。スタジオでいろいろな人と話すシーンも撮っているんですが、どれが使われているのかは分からないんです」

「べらぼう」SNSで話題の“オーミーを探せ”! 尾美としのり、吉原の“常連”役に

――公式の役柄説明では、「宝暦の色男」という設定になっていますが、そのことについての意識はありますか?

「僕自身は“色男”というよりも、遊び方が奇麗な人、というイメージで演じています。吉原に通い慣れていて、遊び方がうまい人なんだろうなと。洗練された楽しみ方を知っている人なんだと思います。花魁たちにも気を使いながら、楽しませることができる人物というか。そういう解釈で演じていました」

――平沢は文化を楽しむ人物ですが、彼の好みや傾向についてどのように解釈されていますか?

「エンターテインメントが好きな人。例えば、歌舞伎や狂言を見るのも好きだし、それを自分の作品に生かしたりもする。勉強というより、心から楽しんでいるんだと思います。今のところ描かれてはいませんが、仕事はきっちりとしつつ、文化的活動をしている人なんじゃないかな。蔦重もそうですが、彼もまた『これは面白いな』と感じたことをどんどん吸収していくタイプですよね。物事をはっきりさせない姿勢だったり、『楽しけりゃそれでいい』というセリフもありますが、それがすてきな人柄だなと思っています」

――セリフの背景理解にも努力されたそうですね。

「脚本に書いてある内容をネットで調べたり、演出部から渡された資料を読んだりしています。でも、資料がすべてそろっているわけではなく、分からない言葉を調べていくとどんどん枝分かれしてしまって、理解するのに時間がかかることもありました。例えば、知らない言葉のセリフが追加された時に、その言葉の背景と意味を知って発するのとただ字面を追うのでは、演じる方も、聞こえ方も全然違うので、なるべく理解を深めてから演じるようにしました」

――時代劇ならではの役作りで、特にこだわった点はありますか?

「撮影期間中、移動の車の中ではずっと落語を聴いています。江戸時代の言葉遣いがなるべく自然になるように。江戸弁を意識して話すことで、芝居にもなじんでくるので、そういう部分には気を付けていました」

――衣装や所作については、どのような点を意識されましたか?

「時代劇撮影の時は衣装の下にふんどしを着けています。自分でも『何やってんだろうな』と思うことはありますよ。家からふんどしを締めて出かけて、撮影に向かうわけですから(笑)。『鬼平犯科帳』の時からふんどしをはくようになったんですが、今回も下着のラインが映らないようにとか、何げない動きで見えてしまっても支障ないようにふんどしを着用しています」

――そうなんですね! ふんどしについてもう少し詳しく聞かせていただけますか?

「ふんどしは自前で女房に作ってもらっています。時代背景によっては白やグレーだったりするようですが、僕は基本的にはどの時代劇でも白のふんどしを着けています。時代劇をやっている間、うちの物干しにはふんどしがひらひらと干されています(笑)。昔、中村吉右衛門さんから『時代劇をやるなら、ふんどしをはいたほうがいい』とお聞きして、お弟子さんたちもそうしていたので、僕もまねしてはくようになりました。20代の頃からずっとですね」

――普段からふんどしを着用することはありますか?

「撮影の時だけです。通気性がいいというメリットはありますが、普段から着けようとは思わないですね(笑)。普通のパンツならサッと下げるだけで済みますけど、ふんどしだとそうはいかない。ただ、時代劇では吉右衛門さんの教えに倣ってふんどしをはくのが普通になっていますね」

――今回の大河ドラマはセットや衣装の作り込みが非常に細かいことで話題になっていますが、その点についてどのように感じられましたか?

「本当にすごいですよね。吉原の町並みを再現するために、たくさんの店を解析して作ったと聞きました。当時の吉原がどのような場所だったのか、細かく調査して作り上げたらしく、それを聞いた時は感動しました。後から知ったことですが、当時の記録を基にしながら『この時期にはこういうことがあった』と時系列を整理して、町の雰囲気を徹底的に再現したそうです」

――撮影技術の進化について、特に驚いたことはありますか?

「LEDの活用がすごいですね。昔だったら、広い町並みのシーンは合成で処理していたんですが、今はLEDを使うことでよりリアルな映像になっています。スタジオ自体はそこまで広くないんですが、LED技術を駆使することで200mほどの通りを作れるんです」

――他にも技術の進化を感じることがありましたか?

「VFX技術も進化していて、当時の町並みを再現するのに大いに役立っています。昔の撮影では『合成』と言われていたものが、今ではLEDを使ってよりリアルに見えるようになった。照明の調整も細かく行われていて、遠くの方にもちゃんと人が歩いているように見えるんですよ。撮影中、特に『尾美を探せ』と言われていた頃は、僕自身の出番はそれほど多くなかったので、時間がある時にぶらぶらと歩いていたんです(笑)。それで、『こんなに人が歩いているんだ!』と驚きました。まるで映画村にいるみたいで、撮影の合間も楽しかったですね」

――先ほどもお話に出た「鬼平犯科帳」では、名キャラクターの木村忠吾を演じられていましたが、今回の平沢とはどこか共通点はありますか?

「女性が好きという点では似たような部分もあるかもしれませんが、位も違いますし、全体の雰囲気や生き方は全然違います。見る人によっては『似ているな』と感じるかもしれませんが、あの頃よりは年も取りましたし、見て判断していただけたらいいなと思います。若き平蔵さんと出会う場面があったら面白いのになと思ったこともあります。でも今のところはまだ会っていませんね。会いたいですね」

――第12回では「俄(にわか)祭り」のシーンが登場しますが、撮影現場をご覧になった印象はいかがでしたか?

「皆さん、すごく大変だったんだろうなと思いましたね。雀(すずめ)踊りもありましたし、子ども歌舞伎も少し出ていました。僕自身はそれをただ『楽しそうだな』と見ていただけなんですが(笑)、出演されていた皆さんはかなり練習されたんだろうなと感じています。そういう準備があってこそ、見ている方も楽しめるんじゃないかと思います。お祭りのシーンを通して、当時こんな催しがあったんだなと知っていただけるだけでも面白いですよね」

――祭りのシーンのスケールも大きかったですね。

「そうですね。過去の大河ドラマでも合戦シーンを経験しましたが、合戦は決して楽しいものではないんですよね。でも今回は、雀踊りを踊るシーンということで、やっている側も楽しそうでしたし、見ている側も楽しくなるんじゃないかと思います。まるで踊りの戦いのような感じでしたね」

――その演出には、現代的な視点も取り入れられていたのでしょうか?

「今風に言えば、ダンスバトルですよ(笑)。大河ドラマのスケールでダンスバトルが描かれるというのは、なかなか面白い試みですよね。(若木屋役の)本宮(泰風)さんと(大文字屋役)の伊藤(淳史)さんもバチバチに戦っていましたし、それはそれで迫力があって面白かったです。僕はそれを端っこのほうで見ていました。吉原の中でこんなふうにお祭りをやっていたなんて知りませんでしたし、それもお客を呼ぶための一つの工夫だったんでしょうね。商売としての戦いとも言えますし、そういう意味でも面白いですよね」

――「べらぼう」が6作目の大河ドラマへの出演となりますが、これまで出演された大河ドラマの中で、特に印象に残っている作品はありますか?(「草燃える」(1979年)、「北条時宗」(01年)、「平清盛」(12年)「おんな城主 直虎」(17年)、「麒麟がくる」(20年))

「戦国時代のドラマはやっぱり面白いですね。『おんな城主 直虎』に出演した時は、徳川家臣の四天王の一人を演じましたが、戦国時代はドラマチックな要素が多くて楽しかったですし、今回の『べらぼう』もすごく面白いですね。何もないところから新しいものを作り上げていく作業がとても楽しい。みんなでワイワイと作っていく過程も楽しいし、物語の背景を細かく調べていくのも面白い。今回も『すごいものができているな』と感じています」

「べらぼう」SNSで話題の“オーミーを探せ”! 尾美としのり、吉原の“常連”役に

――ご自身と平沢が似ていると思う点はありますか?

「どうでしょうね。似ているのかどうかは自分では分かりませんが、憧れる部分はあります。彼は楽しみながら生きているし、仕事もあまり思い詰めずにやっている。それってすごく魅力的ですよね。僕も、そういうふうに楽しんで仕事をしたいと思っています」

――遊び方にも「美学」を持つことを大切にされているのでしょうか?

「昔は、例えば『女性にもてたい』とか『かっこつけたい』みたいな気持ちがあって、いろいろなことを覚えようとしていました。若い頃は、そば屋で酒を飲むのが粋だとか、すし屋でしっぽり飲むのが大人のたしなみだとか、そういうことにこだわっていましたね。それが、今やっと気取らずに自然にできるようになったというか、昔は『大人っぽく見せよう』と思ってやっていたことが、今では普通になった感じです。そういう意味では、やっと大人になれたのかもしれませんね。でも、実際の僕はそんなに遊ばないんですけどね(笑)」

――ご自身でも言われましたが、今年で60歳、還暦を迎えられます。何か特別な思いはありますか?

「いや、特に何もないですね(笑)。60歳か、という感じです。60歳になったら、もっと大人っぽくなるんじゃないかとか、何かきちっとした人間になっているんじゃないかと思っていたんですけど、実際はこんな感じですからね。60歳になるからといって、特に意識することはないですね」

――また大河ドラマに出演するとしたら、演じてみたい役柄はありますか?

「特にないですね(笑)。『これをやってみたい!』という強い願望はあまりなくて、基本的に、僕は提案されたことを『やらせていただきます』というスタンス。人前に出るのは恥ずかしいですし、お芝居をするのも本当はあまり得意じゃないんですよ。でも、『やってみませんか?』と言われたら、平沢のように楽しみながら臨めるようでありたいですね。そんなスタンスで、これからも続けていくんじゃないかなと思います」

【プロフィール】
尾美としのり(おみ としのり)

1965年生まれ。東京都出身。78年、13歳で映画「火の鳥」に出演し俳優デビュー。83年、映画「転校生」で第6回日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。大河ドラマでは「北条時宗」(2001年)、「平清盛」(12年)、「おんな城主 直虎」(17年)、「麒麟がくる」(20年)などに出演。連続テレビ小説「あまちゃん」(13年)では主人公の父を演じ、注目を集めた。今年初夏には、出演する映画「リライト」が公開予定。

【番組情報】
大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」
NHK総合
日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BSプレミアム4K
日曜 午後0:15~1:00ほか
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
日曜 午後6:00~6:45

文/斉藤和美



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