「べらぼう」新之助&うつせみカップルを演じた井之脇海と小野花梨が役への思い明かす2025/03/23

現在放送中の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」。今作は、日本のメディア産業、ポップカルチャーの礎を築いた蔦屋重三郎の波瀾(はらん)万丈の生涯を描く、笑いと涙と謎に満ちた痛快エンターテインメントドラマだ。横浜流星が演じる“蔦重”こと蔦屋重三郎は、幼くして両親と生き別れ、吉原の引手茶屋(遊郭の案内所のようなところ)の養子となる。吉原の、人のつながりの中で育った蔦重は、とある思いから書籍の編集・出版業を始め、後に“江戸の出版王”へと成り上がっていく。
本日3月23日に放送される第12回の俄(にわか)祭りでは、大文字屋(伊藤淳史)と若木屋(本宮泰風)が争い、祭りは大いに盛り上がった。蔦重(横浜)は、平賀源内(安田顕)に勧められた朋誠堂喜三二(尾美としのり)に序を書いてもらった「明月余情」の売れ行きが好調。吉原の町が祭りでにぎわう中、浪人の小田新之助(井之脇海)とうつせみ(小野花梨)は姿を消す。
今回は、新之助とうつせみを演じる井之脇さんと小野さんにインタビュー。吉原でのつらい現実に何度も直面しながらも恋を育んだ新之助とうつせみへの思いや、横浜さんとの共演エピソードなどを聞きました。
――新之助とうつせみは“間夫(まぶ/女郎が真情をささげる男)と花魁”という結ばれることが難しい関係。そんな2人の恋愛シーンを演じる上で、意識していたことを教えてください。
井之脇 「第8回までは、2人のシーンが少ない中で親密に見えるように演じないといけなかったので、監督と相談して、手を握るなどのフィジカルコンタクトを入れたりしながら作っていきました。逆に第9回は勢いといいますか。僕のクランクインが足抜けに失敗して河原でつかまり、うつせみが連れ戻されるシーンだったんです。なので、足抜けのシーンでは、目の前のことにがむしゃらになっている2人の姿が、恋の暴走を表すことができるのではないかと思って“勢い”で演じました」

――足抜けに失敗するシーンがクランクインだったのですね。
井之脇 「そのことを聞いた時は、『うそでしょ、なんで!?』と思いました。でもポジティブに捉えていくしかないので、結末をきちんと作った上でその前のシーンを組み立てていこうと、腹をくくって取り組みました」
――切腹をしようとした瞬間に、もし蔦重が入って来て止めていなかったらどうなっていたと思いますか?
井之脇 「演じている時はいろいろな感情だったので、ひと言で言うのは難しいですが、本当に死のうとしていたと思います。新之助はうつせみが生きがいですし、浪人なので仕える武士もいないし、帰る場所もないので寂しいと思うんです。そんな中で、命を懸けて一緒になりたいと思った足抜けに失敗してしまって。蔦重が教えてくれなかったら、うつせみが殺されていると思っていたので、彼女がいない世界に自分の居場所はないと本気で考えていたのではないでしょうか」
――小野さんも、同シーンを演じる上で意識していたことを教えてください。
小野 「吉原から足抜けしたことがバレてしまったら厳しいせっかんを受けることを分かっていながらも、わらにもすがる思いで足抜けを試みる切羽詰まった状況や、厳しい現実をきちんと積み上げて大事に演じていました」
――罰があることを分かった上で逃げる選択をしたうつせみの気持ちをどう思いましたか?
小野 「吉原という光と闇を凝縮したような空間の中で生きていくことを考えると、うつせみにとっては、新様がとっても大きな存在だったのだろうなって。そんな新様に光を感じて、どんな仕打ちを受けようが共に生きていくという覚悟を持つうつせみには、とても共感できました」
――あらためて、お互いの役者としての魅力をどう感じているか教えてください。
井之脇 「女郎は芯の強い方が多くて、うつせみもうつせみなりの信念を持っているけれど、どこか柔らかさ、愛らしさがにじみ出ているんです。それは小野さん自身が持っているパワーなんだろうなって。他の作品を拝見しても、役ごとに顔は違うのに人間らしさやみずみずしさがあふれているのが小野さんのすてきなところだと思いました」
小野 「私も、井之脇さんの持つお人柄がこんなにも役からあふれ出るんだと感じました。撮影しながら、『なぜ、うつせみは新様にひかれたのか』を考えたのですが、たたずまいなど、きっと言葉にならない部分に魅力を感じたのだろうなと。それはやっぱり、井之脇さんの人生観や、今まで積み重ねてきた軌跡があふれているからなのだと思います」
――続いて、第12回で、俄祭りの中2人が姿を消すという展開を初めて台本で読んだ時の感想や、演じる上で心がけていたことをお聞かせください。
井之脇 「2人が希望の中に消えていくように描かれていて、いい意味で、『あれ? 森下佳子さんの台本なのかな』って。でも純粋に、『新之助良かったね!』と思いました。彼らが進んだ先で豊かな生活を送ることは難しいですが、一番大切な人と障壁なく一緒に暮らせることはとてもすてきなことだし、この時代ではたぶんあり得ないことだったはずです。足抜けに失敗してから、俄祭りまでは数年たっていて。久しぶりの再会だったのですが、ずっといちずに思い続けていた人に会うことができて、言葉で表せないくらいに湧き上がる感情を丁寧に演じました」
小野 「お客さんの名前を腕に彫られたり、せっかんを受けたり、うつせみは花魁の中でも吉原の闇の部分を担っている場面が多かったのですが、第12回のシーンをいただいて、すごくホッとしました。うつせみが新様と再会して、光の先へ進めることによって、視聴者の方もほっとしてくださるだろうなと思ってうれしかったですね。このシーンについては、監督に『現実的に考えるとうつせみもまた連れ戻されてしまう恐怖や、この先の生活への不安もあると思うけれど、ここではあまりネガティブなものを出さず、希望に満ちていていい』とおっしゃっていただいて。演出も込みで大好きなシーンです」
――客に首を絞められたり、腕に名前を彫られたり…と吉原の闇の部分を演じている時はどんな感情を抱きましたか?
小野 「女郎や吉原の現実をいろいろと学んでから撮影に入ったのですが、実際に視覚的に現実を見せつけられると、『なんて世界なんだ』と素直に思いましたね。自分が女性だということもあると思うのですが、こんな世界で生きてきた女性たちがいるんだ…と。それを大河ドラマとして描くことは、すごく繊細な作業だと思います。臭いものにふたをせずに、事実としてちゃんと知るということは、今この時代を生きている自分に必要なことだと感じました」

――主演の横浜さんとのエピソードも聞かせてください。撮影の裏ではどんなことを話していますか?
井之脇 「横浜さんとは、ずっとセリフ合わせをしています。僕が自分のセリフをボソボソと言っていると、横浜さんが入ってきてくださるんです。あとは、芝居について相談することが多いです。例えば、第7回で新之助が薄い細見を提案するシーンでは、『この(既存の物の)厚さではかさばるから持ち歩きにくいだろう』と言って蔦重の懐に新之助が細見を入れる場面がありましたが、監督と3人で蔦重に手渡したらいいのか、懐に入れたらいいのか…といろいろなパターンを試しました。そんなふうに、シーンの精度を上げていくための話をずっとしています。あまり面白い話はしていなくて、ずっと真面目にやっています(笑)。安田(顕)さんといる時は、ボクシングの話をしているみたいです。柔軟に人によって話題を変えていたり、すごく周りを見ている方ですね」
――横浜さんが座長として背負っているものを感じた瞬間はありましたか?
井之脇 「見せないようにしてくださっているんだと思います。きっとものすごいプレッシャーはあるし、セリフ量も膨大で、朝から晩までスタジオの中で演じ続けなくてはならないのですごく大変だと思います。それでも、周りを心配にさせるような弱音はまったく言わない方で。むしろ背負い過ぎているんじゃないかと心配になることもありますが…本当に尊敬できる座長です」
小野 「私は、横浜さんが初めて単独主演を務められた映画『兄友』(2018年)で妹役を演じてから、1年に1回ぐらいのペースで共演させていただいていて。毎回全力で役と作品や人と向き合って、決して甘んじることなく、役者としてまい進されている本当に信用できる方ですし、学ぶ部分がすごく多いです。井之脇さんもおっしゃったように努力や苦労を表に見せないので、ひょうひょうとしているように見えるかもしれません。でも、決してそうではないと分かっているので、そっと見守って応援させていただいています」
――最後に、今回の役がお二人の役者人生においてどんな経験になったのか教えてください。
井之脇 「これだけ障壁のある恋愛を演じたのは初めてでした。絶対に駄目と分かっていても、この人と一緒にいたいと思う気持ちは、なかなか他の役では得られない感覚だったと思います。そこを突き詰めて考えることができたので、すごくいい時間でした」
小野 「大河ドラマに初めて出させていただいたのですが、優秀なスタッフの方々、出演者の方々、美術、メーク、衣装、かつら…などプロの方々が集まって『べらぼう』という一つの作品が出来上がっていて。『べらぼう』という場所に自分を存在させてもらえたこと、うつせみという人物を演じさせていただけたことは私にとって財産になりました」
――ありがとうございました!

【プロフィール】
井之脇 海(いのわき かい)
1995年11月24日生まれ。神奈川県出身。テレ東系にて、金子大地とダブル主演を務めるドラマ「晩餐ブルース」が放送中。5月4日開幕の舞台「リプリー、あいにくの宇宙ね」への出演を控える。
小野花梨(おの かりん)
1998年7月6日生まれ。東京都出身。2023年、風間俊介とダブル主演を務めたドラマ「初恋、ざらり」(テレ東系)で注目を集める。主演を務めるドラマ「私の知らない私」(日本テレビ系=読売テレビ制作)が3月20日に最終回を迎えた。
【番組情報】
大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」
NHK総合
日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BSプレミアム4K
日曜 午後0:15~1:00ほか
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
日曜 午後6:00~6:45
取材・文/Kizuka(NHK担当)
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