Feature 特集

大河ドラマ最大級の祭り!「俄祭り」を演出した小谷高義Dの思いに迫る「べらぼう」2025/03/22

大河ドラマ最大級の祭り!「俄祭り」を演出した小谷高義Dの思いに迫る「べらぼう」

 現在放送中の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」。今作は、日本のメディア産業、ポップカルチャーの礎を築いた蔦屋重三郎の波瀾(はらん)万丈の生涯を描く、笑いと涙と謎に満ちた痛快エンターテインメントドラマだ。横浜流星が演じる“蔦重”こと蔦屋重三郎は、幼くして両親と生き別れ、吉原の引手茶屋(遊郭の案内所のようなところ)の養子となる。吉原の、人のつながりの中で育った蔦重は、とある思いから書籍の編集・出版業を始め、後に“江戸の出版王”へと成り上がっていく。

 先週放送の第11回では、蔦重(横浜)は人気の富本豊志太夫(寛一郎)に俄(にわか)祭りへ参加してもらうため浄瑠璃の元締めである鳥山検校(市原隼人)を訪ねる。そして、明日3月23日放送の第12回では、そんな俄祭りの企画を巡り、若木屋(本宮泰風)と大文字屋(伊藤淳史)が争う。

 今回は、吉原の基本設定や俄祭りの演出を担当している小谷高義ディレクターにインタビュー! 俄祭りへの思いや、第11回&12回で活躍する俳優陣の役作りエピソードなどをたっぷり聞いた。

──今作では「俄祭り」を描くにあたり、かなりのリサーチをされたそうですね。取材の感想や苦労したこことなどを教えてください。

「国立国会図書館デジタルコレクションなどのデータベースで検索すると、誰でも蔦重が作ったものをすぐに見ることができます。蔦重の出版物がたくさん残されている中で、第12回を制作する出発点となった『明月余情』は俄祭りを題材に3巻続く墨刷りの絵本です。蔦重のライバルである西村屋(西村まさ彦)の出版した俄の錦絵は、祭りの出し物の情報をおそらく事前に仕入れて、決めポーズを描いたものなのですが、対する蔦重の『明月余情』はまさに出し物の最中、今にも動き出しそうな絵が連なっていてまるで実況中継のようだったんです。さらに、3巻が順々に出版されたようで、30日間続く俄祭りの熱気に合わせて出していたのかなと思いました。ここに閉じ込められた熱気を映像にしたいとわくわくしたのを覚えています。一方で、女郎は祭りの出し物には一切出ないんです。祭りをしている期間でも、客の横で相手をするのが仕事なので。そこは厳然たる吉原の表れだなと思いましたが、俄を描くにあたっては避けられないところで。祭り自体も夜見世が始まる前までの時間で、夜はいつも通り営業するんです」

──祭りのシーンで苦労された点を教えてください。

「芸能指導の友吉鶴心先生や所作指導の花柳寿楽先生にお願いして、いろいろな出し物に対して音曲と振り付けをほぼ一から作っていただきました。中でも雀(すずめ)踊りという演目での脚本家の森下佳子さんの狙いとしては、大文字屋と若木屋が仲の町の大通りでにらみ合い、最終的につば競り合いをすることで。戦う2曲が重なった時に、不協和音になってほしくなかったので、三味線や太鼓のバランスも含めて、友吉先生には工夫して音曲を仕上げていただきました。花柳先生には、大文字屋の踊りは活気があって、祭りとして人を取り込む舞に。若木屋は、まったく違う色気のある舞にしましょうと提案して。一緒に並んだ時にお互い負けないくらいのものをというお願いに応えていただきました。伊藤さんや本宮さんをはじめ、役者さんも踊りを覚えるのに苦労されていましたね。この祭りのシーンの裏側は3月28日放送の『100カメ』(NHK総合/午後10:00)で放送されると思うので、合わせて楽しんでいただきたいです」

大河ドラマ最大級の祭り!「俄祭り」を演出した小谷高義Dの思いに迫る「べらぼう」

──視聴者には、「俄祭り」をどのように楽しんでほしいですか?

「まずは、お祭りそのものを楽しんでもらえたらと思います。『俄祭り』がここまで大規模に映像化されたことはないと思うんです。ただ、祭りの華やかさだけで終わらせたくはなくて。先ほど言ったように、女郎は祭りの舞台に立つことは許されていません。禿(かむろ)が、引き舞台に立って歌舞伎のまねごとを披露して、大人たちがそれを見て楽しんでいるシーンも、現代の視点からすると、なかなか衝撃的な文化かもしれません。でも、それが当時のリアルだったわけで。そういったシーンをどう受け取り、どう考えるかも含めて祭りを楽しんでほしいです」

大河ドラマ最大級の祭り!「俄祭り」を演出した小谷高義Dの思いに迫る「べらぼう」

──第11回&12回では、役者の世界も描かれます。第11回で豊志太夫(※第12回からは『富本豊前太夫』)が追い出されていたように、役者が吉原に入れなかったのは実際にあったことなんでしょうか?

「豊志太夫は役者ではないのでドラマで追い出されていたのはとばっちりなのですが、歌舞伎役者が吉原で花魁を買うことはできなかったと聞いています。江戸時代、役者はスーパースターとしてちやほやされる一方、“四民の外”とされ武士や町人からひがまれることも多かったようです。蔦重もいつかは吉原から外の世界へ出て行くにあたって、“吉原者は四民の外”であるという現実に直面するであろうことを予感しながら収録を進めていました」

大河ドラマ最大級の祭り!「俄祭り」を演出した小谷高義Dの思いに迫る「べらぼう」

──豊前太夫を演じた寛一郎さんへの演出についても教えてください。

「富本節は浄瑠璃の流派の一つで、第11回における豊志太夫は、常磐津節や長唄が主流だった中での新興勢力です。そのフレッシュさ、加えて恋を題材とすることが多いという富本節の艶っぽさを表現していただきたく、“品”と“色気”を兼ね備える寛一郎さんにお願いしました。富本節で太夫が語る言葉は本に残されている内容をそのまま生かしましたが、どのような節(言い回し)が付けられていたか分かる資料は少なく、色気をいかに表すかを念頭に芸能指導の友吉先生に考えていただきました。豊前太夫は絵もたくさん残っていますし、“馬面”というニックネームまで残っているので相当な人気があったと思うんです。寛一郎さんには大変なチャレンジをしていただきましたが、ご自身の声の特性を生かして、こちらが求めていたものよりも格段に素晴らしい豊前太夫を見せて聞かせていただけたと思っています」

大河ドラマ最大級の祭り!「俄祭り」を演出した小谷高義Dの思いに迫る「べらぼう」

──主演の横浜さんの話もお聞きしたいのですが、演出としてのやりとりで印象に残っていることを教えてください。

「横浜さんは本当にストイックですよね。すべてを腹に落として演じられる方なのでいろいろと話すことができました。第11回では、瀬川(小芝風花)が吉原を出て行った後の蔦重について、落ち込みすぎても蔦重じゃないし、でもカラっと忘れるのもおかしいし…と。また、これから蔦重は多くの絵師や作家たちと組んで仕事をしていくのですが、幼なじみである瀬川との関係とは違って、プロデューサーという面も持って付き合っていくことになるので、その温度感については特に話し合いました」

──俄祭りでは次郎兵衛(中村蒼)も活躍しますが、このキャラクターについてどのように捉えていますか?

「次郎兵衛は演じている中村さんもすごく楽しまれていますし、脚本の森下さんも楽しんで書かれていると思います。基本的には“すべてを見ているけれど、深くは気にせず、のほほんとしている”キャラクターで。蔦重のことも一番近くで見ていますし、ちょっとした異変には気付いているかもしれませんが、それでも気にせず、いつも通りに振る舞う。言ってしまえば“いい加減なお兄さん”なんですが、実はそこがこの物語の“救い”でもあるのかなと思っています。次郎兵衛も“忘八”なはずなのですが、のほほんとしていても吉原で生きている、こんな人物もきっといただろうと思わせられることは救いなのかなって。祭りのシーンでもさまざまな出し物に顔を出しています(笑)」

大河ドラマ最大級の祭り!「俄祭り」を演出した小谷高義Dの思いに迫る「べらぼう」

──深川貴志ディレクターが、「東京・神田で実際の青本を見たことで、現代とのつながりを感じた」と言っていましたが、小谷さんは江戸とのつながりについて感じたことはありますか?

「インターネットが発達しているおかげで、当時の書籍や資料を誰でも簡単に見られることに驚きました。特に蔦重が手がけた書籍は、かなりの数がデジタルアーカイブとして閲覧可能なんです。また、資料を調べていると、日本国内よりも海外の美術館の方が、当時の絵が良い保存状態で残っていることが少なくなくて。浮世絵の美術的価値が海外で再発見・再評価されたことはよく知られているかもしれませんが、あらためて世界中で愛されていること、大切に扱われて現代までたくさん残されていることが印象的でした」

【番組情報】
大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」
NHK総合
日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BSプレミアム4K
日曜 午後0:15~1:00ほか
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
日曜 午後6:00~6:45

取材・文/Kizuka(NHK担当)



この記事をシェアする


Copyright © TV Guide. All rights reserved.