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「1995~地下鉄サリン事件30年 救命現場の声~」津田健次郎が“大きな意味を持つ”当時を語る2025/03/17 12:00

「1995~地下鉄サリン事件30年 救命現場の声~」津田健次郎が“大きな意味を持つ”当時を語る

 フジテレビ系では、津田健次郎さんが主演を務めるドラマ「1995〜地下鉄サリン事件30年 救命現場の声〜」(午後9:00)を3月21日に放送します。本作は、30年前の95年3月20日に発生した「地下鉄サリン事件」を題材に、一部フィクションを含んで描いたドキュメンタリードラマです。

 事件発生から30年の年月を経て、当時何が起こっていたのか、そして自らの命も危険にさらされる中で懸命に救助にあたった者たちの姿を救命ドラマとして描きます。

 ここでは、患者の救急救命対応に当たった病院の救命救急センター長・剣木達彦を演じた津田さんにインタビュー。実在の医師をモデルにした役への向き合い方や、津田さんにとってターニングポイントとなった95年当時の思い出などを伺いました。

──本作のオファーを受けた際の、率直な感想をお聞かせください。

「地下鉄サリン事件が起きたのは僕が23歳の時で、今でも鮮明に記憶に残っていますし、いまだに心のどこかに影を落としているような事件です。個人的には、日本のその後に大きな影響を与えた象徴的な出来事だったと感じているので、今回、事件を題材にしたドラマに参加できることを役者として非常にありがたく思っています」

──事件の印象や、当時の心境をお伺いできますでしょうか。

「当時、丸ノ内線沿線に住んでいたんです。事件当日、朝のニュースを見ないまま稽古場へ向かおうとしたら、駅が閉鎖されていて『なんかおかしいぞ?』と。よく見るとヘリコプターがバンバン飛んでいたので、ただごとではないと感じました。仕事先に連絡すると『今日は難しいかもしれない』と言われたので、慌てて家に帰ってテレビをつけて初めて、とんでもない事件が起きたことを知りました」

──津田さんご自身の生活にも影響が出たのですね。

「実は、近所の商店街にオウム真理教の小さな支部のようなものがあったようで…知らぬ間にあの事件が起きて、本当に衝撃を受けました」

「1995~地下鉄サリン事件30年 救命現場の声~」津田健次郎が“大きな意味を持つ”当時を語る

──今回救急医を演じるにあたって、どのような準備をされましたか?

「撮影に入るまでの準備期間があまりなかったのですが、まずは資料映像にたくさん目を通しました。患者さんがストレッチャーで運ばれるシーンの映像を何度も繰り返し見て、患者さんの動きや医師が何を話しているかを細かく確認しましたし、まだ事件の状況がよく分かっていなかった頃の報道映像や、サリンだと判明した後の映像などさまざまなバージョンの映像をいただいたので、それらを参考にしながら役作りをしました。あとは、撮影現場に医療監修の先生がいらっしゃったので、とにかく先生にたくさん質問しましたね」

──資料映像をご覧になって、特に印象に残っていることを教えてください。

「患者さんの状態は重症の方から軽症の方までさまざまだったのですが、意識を失っている方のシーンは、見ていて精神的にかなりつらかったです。あとは、報道リポートをしている後ろで救急隊員の方々が慌ただしく動いていらっしゃって、どんな声掛けをされているのかも繰り返し確認しました」

──剣木という人物像をどう捉えて演じられていましたか?

「救急救命センターのセンター長という、大きな責任を担う人物なので、まずは“頼りがいのある人物”だろうなと。決断力とスピード感を兼ね備えた人であるのはもちろん、人間味も感じられる人物像にしたいと思いました。実際のモデルとなった先生とは違う部分もあると思いますが、ある程度のフィクション性を混ぜて表現させていただきました」

「1995~地下鉄サリン事件30年 救命現場の声~」津田健次郎が“大きな意味を持つ”当時を語る

──実在の医師がモデルとなったキャラクターを演じるにあたって、意識されたことがあれば教えてください。

「残念ながら、モデルとなった先生ご本人にお会いしてお話する機会はなかったのですが、このドラマはあくまでも“ドキュメンタリーを基にしたフィクション”で、私が演じた剣木という役は、当時医療現場で闘った医師の方々の代表という位置付けです。スタッフの方々から、モデルとなった先生が当時どういう状況で、何を話していたのかなど、いろんなエピソードを聞くことができたので、医師の方々の葛藤や大変さを表現する上で参考にさせていただきました。心構えとしては“うそがないよう、丁寧に”ということを意識していました。『フィクションだから大丈夫』ということではなく、実際に起きた事件を基にしているからこそ、医療的な部分はしっかりと丁寧に演じたいと思いました」

──演じていて、苦労したり難しかったと感じたことはありましたか?

「剣木にとっても日本にとっても初めての経験で情報も少ない状況なので、当然彼自身も混乱している部分はあると思います。とは言え、彼は救命医なので、どんなに混乱していても冷静にリーダーとして周りを引っ張っていかなければいけなくて。この動揺と冷静さのバランスを取るのが、すごく難しかったです」

──今回、主演を務めるにあたり、どのような心構えで臨まれたのでしょうか?

「とにかく、一生懸命に芝居をしてクオリティーの高いシーンを作ることに注力しました。役柄と僕自身の立場が重なる部分もあるので“ぶれない”ということ、余計なことはしないということを意識しましたね。僕は芝居で遊ぶのが好きなので…」

──普段はアドリブも多くされる方ですか?

「そうですね。アドリブや細かい遊びを入れるのが好きなのですが、『今回はしないぞ』と心構えて臨みました」

──では、30年前という時代感を出すために、撮影現場で感じた工夫などあれば教えてください。

「脚本を読んで『そうか!』と思ったのは“婦長”という言葉が出てきたこと。看護師長ではなく、看護婦長という呼び方に時代の流れを感じました。あとは、今ならスマートフォンで調べるようなことも、もちろん当時はできないですし、ちょうどインターネットが普及し始めたばかりなので、まだ有効活用できていなかったり。衣装に関しても、今の救命医はTシャツを着ていることが多いと思うのですが、当時の映像を見ると、シャツにネクタイ姿の医師が多かったんです。救急の現場でもネクタイをしていたのは、時代的なものかもしれませんね」

「1995~地下鉄サリン事件30年 救命現場の声~」津田健次郎が“大きな意味を持つ”当時を語る

──時代が変わると医療現場の雰囲気も違うんですね。

「そうですね。医療現場に関しては、トリアージの概念が当時はまだ発展途上の段階だったり。もちろん、トリアージ自体は行われていてタグなども付けているんですが、この頃からより進化していったのかなと。この年に起きた阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件は、救急医療を考える重要な出来事になったんだろうなと感じました」

──本作への出演で、事件についてあらためて気づいたことや発見などはありましたか?

「医療現場の状況は、これまであまり情報として出てこなかったと思うんです。今回、当時の救命医を演じさせていただくことになって、医療現場がどのような状況だったのかがよく分かりましたし、知らないことがすごく多かったと痛感しました」

──「地下鉄サリン事件」を知らない世代も多くなってきたと思いますが、そういった若い世代の方たちに、この作品をどう見てもらいたいですか?

「実際に体験していないとしても、過去にこういった事件があって、大変な思いをした人がいたという事実は、理解できると思います。どうしても時間がたつにつれて風化してしまうとは思いますが、事件に携わった現場の人たちがどんな苦しみを抱えて、何を悩み、どこに救いを求めたのか? ということに、あらためて目を向けてほしいです。あのような事件が、ある日突然起こるかもしれない。それは、きっと社会が生み出している部分が大きくて、僕たちはその社会でこれからも生きていかなければいけないですよね。特に若い世代の皆さんは、もっと長い時間を生きていくことになるので、これからどうすればいいのかを考えるきっかけになれば良いなと思います」

「1995~地下鉄サリン事件30年 救命現場の声~」津田健次郎が“大きな意味を持つ”当時を語る

──95年は、阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件と日本にとって激動の年だったと思いますが、津田さんご自身が印象に残っている出来事を教えてください。

「95年の年明けから春にかけてのこの二つの出来事は、本当に忘れられないです。阪神・淡路大震災では、当時おじが淡路島に住んでいたので、心配して電話をかけたのを覚えています。95年は日本のターニングポイントだったと言われていますけど、僕もそれを実感しています。僕自身、声優の仕事をし始めて今年で30年なんです。そういった意味でも人生の中で大きな意味を持つ年だったなと思います」

──事件から30年がたちましたが、あらためて事件から何を学び、何を伝えたいと感じましたか?

「事件に触れる機会をいただいたことで、あらためて“この事件は何だったんだろう”と深く考えました。社会が抱えている根本的な問題は何だったのか? それは解決されたのか? おそらく、まだ解決されていないだろうと感じています。あの時代が持っていた空虚感、バブル崩壊直後の日本社会が抱えていた虚無感のようなものが、いまだに根深く残っているのではないかという気もしています。それを今、ドキュメンタリーを基にしたドラマとして世の中に問いかけることは、とても意義深いことだと思います」

──最後に、視聴者の方にメッセージをお願いします。

「地下鉄サリン事件から30年という節目に、事件を題材にしたドラマに出演できたことは、個人的にも振り返る良い機会になりました。このドラマは、報道とドラマの両方の視点がミックスされているので、報道番組よりも見やすく、多くの方に事件について知っていただける作品になっていると思います。フィクションではなく報道としての役割も担っているので、事件を知っている方はもちろん、あまり知らない方にもぜひ見ていただきたいです。事件の裏側で、命を懸けて働いた人たちがいたこと、そして彼らが懸命に尽力したことを知っていただきたいですし、地下鉄サリン事件とは一体何だったのかを、このドラマを通して一緒に考えていければと思います。ぜひご覧ください」

「1995~地下鉄サリン事件30年 救命現場の声~」津田健次郎が“大きな意味を持つ”当時を語る

【プロフィール】

津田健次郎(つだ けんじろう)
1971年6月11日生まれ。大阪府出身。O型。アニメ、洋画吹替、ナレーターなどの声優業、舞台や映像の俳優業を中心に、映像監督や作品プロデュースなど幅広く活動している。連続テレビ小説「エール」(NHK総合ほか/2020年)で語りを務めたほか、俳優としてドラマ「最愛」(TBS系/21年)、「トリリオンゲーム」(TBS系/23年)、映画「赤羽骨子のボディーガード」(24年)などに出演。現在「劇場版トリリオンゲーム」、映画「女神降臨 Before」が公開中。

【番組情報】

「1995~地下鉄サリン事件30年 救命現場の声~」
フジテレビ系
3月21日 午後9:00~10:52

取材・文/Miyata(フジテレビ担当)



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