「べらぼう」大文字屋演じる伊藤淳史「若木屋は数少ない“ぶつかり合うことができる存在”」2025/03/16 20:45

現在放送中の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」。今作は、日本のメディア産業、ポップカルチャーの礎を築いた蔦屋重三郎の波瀾(はらん)万丈の生涯を描く、笑いと涙と謎に満ちた痛快エンターテインメントドラマだ。横浜流星が演じる“蔦重”こと蔦屋重三郎は、幼くして両親と生き別れ、吉原の引手茶屋(遊郭の案内所のようなところ)の養子となる。吉原の、人のつながりの中で育った蔦重は、とある思いから書籍の編集・出版業を始め、後に“江戸の出版王”へと成り上がっていく。
本日放送の第11回では、蔦重(横浜)は人気太夫の“午之助”こと富本豊志太夫(寛一郎)に俄(にわか)祭りへ参加してもらうため浄瑠璃の元締めである鳥山検校(市原隼人)を訪ねた。そして、来週放送の第12回では、そんな俄祭りの企画を巡り、若木屋(本宮泰風)と大文字屋(伊藤淳史)が争いを起こす…。
今回は、俄祭りで大活躍する大文字屋市兵衛を演じる伊藤さんにインタビュー。祭りで踊りのシーンを撮影した裏話や、役作りなどについてたくさん聞いた。
――まず、大文字屋は忘八の中でどういう親父なのか教えてください。
「忘八の中では年齢が若くて、一代で成り上がってきたという設定があるので、気持ちが強くてケチです。とにかく頭の中はお金のことしかなくて、第1回でも『女郎には、かぼちゃ食わせときゃいいんだ』と言いながら、自分はかぼちゃの皮をお皿にしていて、さらに、そのかぼちゃを蔦重に向けて投げていましたが、あのシーンがまさに大文字屋を象徴しています。人並みのことをやっていたら絶対に成功しない吉原の中で、他の忘八と肩を並べられるくらい強い思いを持っていて、いろいろなことに最初に突っ込んでいくタイプです。忘八を演じている皆さんは上手な役者さんたちばかりで、静かに怒りを表現されているのですが、大文字屋はずっと怒鳴って叫んでいます。忘八の集まりのシーンはまとめて撮影することが多いので、最後の方には声がつぶれますが、声を張り上げることが大文字屋の役としての正解だと思っているので、体を張ってやっています」
――来週放送の第12回で描かれる俄祭りで、若木屋は大文字屋は若木屋と雀(スズメ)踊りで対決されるんですよね。踊りのシーンはいかがでしたか?
「もともと踊ることはすごく苦手なんです。最初に、先生が踊っている動画を見た時は、『いや無理だ』と思って1回閉じました(笑)。長いし、体の動きだけでなく、扇子との絡みなどもあって、見よう見まねでできるレベルじゃないんです。稽古で、先生が目の前でやってくださるのを見て、ちょっとずつできるようにはなっていったのですが、やったことのない動きばかりだったのでとにかく大変でした。皆さんと息を合わせるのも大変でしたし、僕が先頭なんです。後ろだったら、隣を見て踊ることもできるし、間違ってもちょっとごまかせそうじゃないですか。それが全くできないので変な緊張感もあって。目の前にいる若木屋さんとは振りも音楽も違うので、つられないように表現するのも大変でした」
――どのくらい練習されたのでしょうか?
「3回くらい個人で稽古を受けて、2回ほど大きなスタジオで全員で集まって終日全部の動きを固めました。あとは、家のリビングで音を流しながら一人で踊っていたんですけど、子どもたちが勝手にアレンジしたり邪魔してきて(笑)。僕はひたすら大文字屋と向き合っているのに、必死にやればやるほど子どもたちが大爆笑するんです。そんな日々が1カ月くらい続いて、忘れられない時間になりました」
――本番の撮影はいかがでしたか?
「総勢100人を優に超える規模の現場で、一番前で踊る中心人物として撮影に臨めたことが、本当にうれしかったです。緊張や不安もあったのですが、先生が、『気持ちでいけば、多少リズムがずれたり、遅れたりしても味になるから』と言ってくださって。なので、気持ちで踊っていたら『さすがにリズムずれ過ぎ』と言われたりもしたのですが、それも含めて楽しかったですね。当日は、一番大きいスタジオで、奥はLEDビジョン、手前はCGのグリーンバックみたいな感じで大規模な撮影でした。暑い時期で、朝から晩までずっと踊っていて大変だったのですが、それが嫌な思い出にならないぐらい、ここまで頑張ってよかったと言える作品になったと思います。俄祭りとしては戦いですが、作品を一緒に作る仲間としてみんなで助け合いながら撮影することができて楽しかったです」
――実際のお祭りは長期間続くんですよね。
「30日間お祭りが続いている設定なので、踊るスピードを変えたり、扮装(ふんそう)が変わったり、時間経過も含めて何パターンも撮っているんです。最後の結末はまだ言えないですが、経過を丁寧に作ったので出来上がる映像が楽しみです」
――続いて、今回ライバルとして戦った若木屋の踊りをご覧になった感想を教えてください。
「『勝ったな!』と。まあ、ちょっと調子に乗りましたけど、本宮さんはものすごく体が大きいんですね。格闘技もされているので、黙っていたら雰囲気も怖くて。話したら、すごくいい人で仲良くさせてもらったのですが、バトルをしているシーンなので、絶対負けないぞという気持ちを強く持ってやっていました。若木屋の振り付けは、落ち着きや美しさのような“余裕”が垣間見える踊りだったので、『負けねえぞ』と思いながらも、疲れてくるとお互いに、『大丈夫? 頑張ろうね』と励まし合いながら力を合わせて撮影していました」
――若木屋は大文字屋にとってどんな人ですか?
「若木屋は派閥が違うというか、忘八の中でもちょっと距離がある人で。そんな中で、自分がやろうとしていることをまねしてきたので、バチバチですよね(笑)。でも、若木屋は忘八の中でも若めで、大文字屋が唯一声を上げてけんかできる人なんです。絶対に手は出さないのですが、俄祭りの場外でもずっと言い争っていて、大文字屋にとっては数少ない“ぶつかり合うことができる存在”です。だからこそ、俄祭りで思いっ切り戦うことができたのだと思います」

――熱いライバルみたいな感じですか…?
「駿河屋(高橋克実)さんとか、扇屋(山路和弘)さんは怖いので、ぶつかり合うことはできないじゃないですか。でも、そんな怖い忘八の皆さんも撮影の裏では、めっちゃいい人たちなんです! 大掛かりな撮影で待ち時間も多くて、食べ物やお酒の話ばっかりしていますね。特に、ずっと回転ずしの話をしていて、新しくオープンした回転ずし店の話で盛り上がったり(笑)。『よっしゃ、今日巻いたら近くの回転ずし行くか』『いいっすね、とりあえずビールだな』など、前向きな話をしながら乗り越えていました。優しくてすてきな方ばかりで、助けられていますし、すごく楽しいです。そんな中に、大黒屋のりつを演じる安達祐実ちゃんもいるのですが、すごく気さくな方で、男くさい場を和ませてくれるので、祐実ちゃんにも助けてもらっています」
――特に仲のいい方はいらっしゃいますか。
「祐実ちゃんとは年齢が近い方ですし、子役上がりという共通点があるので、『子役上がりは忘八だね。私たちよく頑張ったね』とよく分からない話で盛り上がっています(笑)。プライベートでは、克実さん、(正名)僕蔵さんと六平(直政)さんと一緒に食事に行ってお酒を飲みました。克実さんとは子どもの年齢が近いので、パパ友トークでも盛り上がっています」
――続いて、主演の横浜さんの座長っぷりも教えてください!
「いい意味で主役っぽい感じを出さずにフランクに接してくれるし、役柄もあるのかもしれないですが、軽やかな感じで現場にいるので、すごく気楽に話もできて。撮影が進むにつれて、どんどんスタッフ、出演者との関係性も深まって、さらに楽しく撮影に挑んでいるように見えます」
――俄祭りには蔦重の義理の兄である次郎兵衛(中村蒼)も参加しているんですよね?
「次郎兵衛がバチバチな戦いを中和してくれている感じで、彼の言動が戦いに奥行きをもたらしてくれています。そういうところは、蒼くんの人柄と次郎兵衛の役柄が、うまく合わさって表現されていると感じます。蒼くんはすごく穏やかな空気を持っている方で、踊りで疲れている時もずっとニコニコしていて。『怒ることはないの?』と聞いたら、『全然、怒りますよ』と笑っていましたが、怒っている姿が全く想像つかないぐらい平和な方です。いるだけで、現場が穏やかな空気に包まれるような人です」

――中村さんは、踊りの練習の時はどんな様子だったんですか?
「『難しい…、ダメだ』と言いながら、本番も完璧でした。彼は、『テスト勉強していない』と言いながら100点取るタイプの人だと思います(笑)。でも、蒼くんも僕と同じように、家で子どもに笑われながらめちゃくちゃ練習していたんじゃないでしょうか!」
――最後に、第12回の大文字屋としての見どころを教えてください!
「大文字屋が祭りで若木屋とぶつかるのは、自分が上に立ちたいという思いだけではなく、吉原を良くしたいという思いでぶつかり合うんです。それがとってもすてきだなって。演じながら、忘八(八つの徳目を忘れた人)ではないんじゃないかと思う時もあります。結局、誰かのためになっているし。でも、それを自然に考えることができてしまうのが大文字屋でもいいのかなって。最初の頃は監督と、“大文字屋は笑わない役だ”と話していたのですが、脚本家の森下(佳子)先生の書いてくださる話の中に、どう転んでもチャーミングさが出てくるんですよね。吉原の世界は、手放しで『最高だね』と思える世界ではないですが、大文字屋と若木屋が吉原のためにぶつかっているのを、手放しで『最高だね、気持ちいいね』と感じてもらえるような瞬間があってもいいんじゃないかと思います。女郎のつらく悲しく苦しい現実をしっかり描いている作品だからこそ、大文字屋と若木屋の思いがぶつかり合う祭りのシーンを、視聴者の皆さんにも全力で楽しんでいただけたらと思います」
――ありがとうございました。

【プロフィール】
伊藤淳史(いとう あつし)
1983年生まれ。千葉県出身。子役時代に「とんねるずのみなさんのおかげです」(フジテレビ系/1988年)内の「仮面ノリダー」の相棒・チビノリダーとして、お茶の間の人気者に。主な出演作に、連続ドラマ「電車男」(フジテレビ系/2005年)「チーム・バチスタ」シリーズ(関西テレビ系/08年~)など。大河ドラマでは、「春日局」(89年)「義経」(05年)に出演。4月12日スタートのドラマ「なんで私が神説教」(日本テレビ系)に出演予定。
【番組情報】
大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」
NHK総合
日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BSプレミアム4K
日曜 午後0:15~1:00ほか
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
日曜 午後6:00~6:45
取材・文/Kizuka(NHK担当)
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