「御上先生」松坂桃李、作品を通して「考えることの大切さ伝えたい」生徒たちへのエールも2025/03/16

松坂桃李が主演を務める、日曜劇場「御上先生」(日曜午後9:00)が現在放送中。本作は、“官僚教師”の御上孝(松坂)が、生徒たちと共に教育現場の現実に立ち向かい、大人社会の理不尽と対峙(たいじ)する姿を描いた大逆転の教育再生ストーリーだ。子どもが生きる「学校」、大人がもがく「省庁」という一見別次元にあるこの二つを中心に物語は展開。未来を夢見る子どもたちが汚い大人たちの権力によって犠牲になっている現実、そんな現実に一人の官僚教師と、令和の高校生たちが共に立ち向かう、教育のあるべき真の姿を描くこれまでとは一線を画した新たな学園ドラマだ。
そんな異色作の主人公・御上を演じる松坂が、いよいよクライマックスを迎える放送を前に語った本音とは? クールな表情の裏に秘めた複雑な思い、生徒役キャストとの関係性、そして作品が描く「教育のあるべき姿」。松坂がこの作品に込めた思いと、撮影を通じて感じたことをじっくりと語ってくれた。
クライマックス目前、松坂桃李が語る“御上”の本音とは
――前半の撮影を振り返ってみていかがですか? 撮影現場での印象に残っているシーンなどお聞かせください。
「脚本の詩森(ろば)さんが伝えたいことや、飯田(和孝)プロデューサーが込めたメッセージ、各話を担当してくださった監督が見せたいものがまだたくさん残っているので、最後まで気が抜けないなと思いました。これまで放送された中では、特に第6話の独白のシーンは印象に残っています。生徒たちの表情を撮る際、監督の意向で鮮度を保つために、シーンの頭から繰り返し撮影をしました。生徒のブロックごとに演技をするので、かなりのエネルギーを使いました。教壇の前に立つと、視線が一気に集中して、教師役ならではの独特の緊張感を味わいました」
――御上というキャラクターは非常に複雑な役柄ですね。演じる際に特に意識されたことはありますか?
「御上はクールで冷徹な人物に見えますが、人間は多面的な存在です。たとえクールな人でも、笑ったり恐怖を抱いたり、不安や喜びを感じたりするもの。だからこそ、生徒、理事長、是枝(文香/吉岡里帆)先生、母親に対して異なる一面を見せることで、クール一辺倒にならないように意識しました。また、僕一人でこの人物を作り上げたのではなく、キャスト同士のお芝居の中で御上というキャラクターが形作られていったと感じています。シンプルにクールな人物を演じるのは比較的容易ですが、クールで冷徹な官僚という一面だけでなく、人間らしい奥行きを持たせることで、より深みのあるキャラクターにしたかったんです」
――物語が進むにつれて、御上の教育への熱意が徐々に見えてきますが、その原点をどのように捉えていらっしゃいますか?
「御上の根底にあるのは『教育を変えたい』という強い思いですが、それには兄との関係が大きく影響しています。兄に執着している理由は、兄に対する尊敬と憧れがあったから。その背景を深掘りすることで、御上の深さが表現できるのではないかと考えました。幼少期の彼の純粋な姿や、兄との関係性が浮かび上がり、御上という人物の多面性が見えてくるんです」
――「無表情」とも言える御上先生の表現に、何かこだわりはありましたか?
「こだわりは特にないですが…あえて言うなら、教室での目線です。生徒たちに授業をする際も、ただ全体を見渡すのではなく、必ず一人一人の顔を見るように意識していました。本当に自分が授業をしている感覚を持つことで、御上という人物のリアルな存在感を作りたかったんです。脚本や共演者の演技から刺激を受けながら、自然とこのスタイルになりました」
キャストの結束が生むリアルな教室空間
――撮影が進むにつれて、キャスト間の関係性も変化していくものですか? 現場の雰囲気など感じることはありますか。
「物語が進むにつれて、御上先生と生徒たちの距離が縮まるのと同時に、キャスト同士の結束力も強くなっていると感じています。生徒役のみんなは中だるみすることなく、最後まで集中力を持続させていて、本当にすごいなと尊敬します」
――若手キャストの演技を見ていて、特に印象に残ったことはありますか?
「彼らの演技は素晴らしくて、セリフをただ発するのではなく、生徒本人としての言葉として自然に出てくるのがすごいと感じます。お芝居をするたびに、僕自身も心を動かされることが多いです。こちらも負けまいとお芝居をする気持ちになります」
――生徒キャストも緊張しているシーンがあったのでは? 先生役としてどう感じていましたか?
「特に教壇に立って長いセリフを話すシーンでは、生徒役のキャストたちも緊張しているのが伝わってきました。段取りで立ち位置を確認しながら進めていても、本番になると一気に緊張感が増してくるんですよ。その気持ちはよく分かるので、『僕も最初はそうだったよ』と心の中で共感しながら見守っていました」
――学園ドラマならではの授業シーンが多いですが、印象に残っているシーンはありますか?
「どの授業のシーンも印象的でしたが、特に『アクティブ・リコール』の話や『ビジコン』の話、文化祭での催し物を巡るディベートなどが強く印象に残っています。ディベートでは、賛成派と反対派の生徒が互いに反対意見を述べ合う構成になっており、生徒自身に考えさせて共有し合う流れがとてもリアルでした。どのシーンでも御上は『考えて』と必ず言うんです。その同じセリフでも、生徒たちの空気や物語の進行によってニュアンスが微妙に変わっていくのが初めての経験で印象に残っています」
――奥平大兼さん演じる神崎拓斗との関係性が徐々に変化していく様子も興味深いですね。奥平さんとの演技のキャッチボールはいかがでしたか?
「彼は本番になるとしっかりとした温度感で芝居を返してくれるので、それに影響されてこちらの芝居も変化していく感覚がありました。こうしたキャッチボールができる役者さんと一緒にやれるのは、本当に楽しいです。今後さらに大きく成長していくんだろうなというのが、すでに見てとれます」
――奥平さんの演技は撮影を通して変化していったのでしょうか?
「むしろ一貫して変わらない部分がすごいなと思いました。たくさんの生徒が登場する中で、奥平くんは一人だけ特に重要な役割を担っているので、プレッシャーも大きかったと思います。でも、表立って見せず、プロ意識が高く、最後まで真摯(しんし)な姿勢を貫いていました。話すと年齢相応のかわいらしい部分があるんですが、お芝居に対して真摯なので、演じるごとに『どうやったらいいんですかね?』と口に出して周囲に相談する素直さも持っています。これはとても大事なことです。僕が21歳や22歳の頃は、分からないことを『恥ずかしいこと』だと考えてしまい、周囲に相談せずに何とか自分で乗り切ろうとしていました。でも、彼はちゃんと自分の意見をさらけ出し、正直に向き合うことができる。そうした姿勢は本当に素晴らしいと思います。自分も見習わなきゃなと奥平くんを見て感じています」

――学園ドラマで先生役を演じられて、生徒役から得たものはありますか?
「今回は本当に生徒役の方々の姿勢に感心しています。学園ドラマでは、生徒役が『とにかく目立っていればいい』という意識を持つことも多いですが、この現場ではそういった考えが一切なく、本当に役に徹していました。生徒一人一人が、作品を成立させることだけを考えて演技をしているんです。その姿勢がすごいなと思いましたし、僕自身も刺激を受けました」
――それは素晴らしいですね。特に印象的だったことはありますか?
「詩森さんのおかげで台本が最後までそろっていたので、皆さんが逆算しながら、自分の中でつながるように演技されていました。無駄がなく、それを今のキャリアで実践できていることが、本当にすごいと思います。事務所の方針や個々の向上心によって『もっと前に出よう』となることもあるかもしれませんが、彼らはそうしない。本当に役の本質を捉え、御上先生を支えるにはどうすればいいかを考えながら取り組んでいる。それは本当に尊敬します。この現場の空気感は、監督の空気作りが大きく作用していると思います。飯田プロデューサーも毎日現場に足を運び、忙しいはずなのにシーンの段取りを確認しながら、生徒たちを見守っている。見守ると同時に、緊張感のある空気を作ってくれるからこそ、背筋が伸びるような作品になっているのだと思います」
岡田将生との共演、槙野という軸の信頼関係
――文科省の官僚で、御上の同期でもある槙野恭介役を演じる岡田将生さんとの共演について、どのような思いがありますか?
「信頼しかないです。この作品では三つの軸がります。一つは御上の教育、学校の軸、もう一つは神崎と冴島(悠子)先生(常盤貴子)の軸、そして岡田演じる槙野ら官僚の軸。この三つの軸が最初は独立して進行し、第9話、10話辺りから一つにまとまっていく。そこに行くまでの官僚ブロックの空気作りは岡田に全幅の信頼を置いているので、『後はよろしくね』みたいな感じです。だから今回は『御上先生』というタイトルではありますが、実際には3人の主人公がいるんです。僕と御上、神崎、そして槙野…この三者が混ざり合い、最終的に本当の主役になるのは『生徒』だと、なっていければいいなと思います」

――終盤に向け、御上の感情が揺れ動くシーンについて、どのように意識されましたか?
「第9話で御上が母親に会いに行くシーンがあるのですが、その時点で大きなことだなと思っていて。御上が教師として生徒に寄り添うのと同じように、母親に対しても逃げずに歩み寄ろうとする姿が描かれます。それはとても大きな変化で第6話以降、少しずつ人間味があふれていく御上ですが、生徒との信頼関係もそうですし、御上なりの向き合い方が腑(ふ)に落ちました。詩森さんの脚本はさすがだなと思います」

俳優としての新たな気付きと作品への誇り
――松坂さんは映画「新聞記者」(2019年)やドラマ「離婚しようよ」(Netflix/23年)など社会性の強い作品に挑戦されてきましたね。「地上波でもそうした作品をやりたい」とおっしゃっていたのが「日曜劇場」で実現した形ですが、今の心境はいかがですか?
「これがゴールだとは思っていません。もちろん、実現したことは大きな意味がありますが、単純に『うれしい』という気持ちとも少し違います。この作品は、社会的なテーマに踏み込んでいる分、セリフや描写にもギリギリの表現が含まれています。それでも、こういった題材を地上波のドラマで成し遂げることができた実績は、自分の中で大きなこと。メッセージ性とエンターテインメント性を融合させ、視聴者の方にしっかりと伝えることを今後も続けていきたいと強く思っています」
――この作品に携わって、俳優としても何か新たな気付きがあったのではないですか?
「これほどまでに『やる意義のあるドラマ』に関われたのは初めてかもしれません。メッセージ性が強く、時には『偏った考えではないか』と言われかねない内容も含まれている作品ですが、それだけに強く社会へ訴えかける意味があると感じています。僕はエンターテインメントを作る仕事ですが、同時に世の中に何を投げかけるか、どんなメッセージを誠意を込めて伝えるかも重要です。放送翌日の憂鬱(ゆううつ)な月曜日への重い腰を軽くさせることができるか…? そんな作品作りの意義をあらためて実感しました。これかからもそういうものづくりをしていきたいと思います」
――松坂さんご自身も父親として、教育の未来についてどのようにお考えですか?
「僕自身が父親になったことで、10年後、20年後の日本の教育環境がどう変わるのか、とても気になるようになりました。生徒たちがより主体性を持ち、自分の意思で学び、責任を持てる環境があれば、社会全体にも良い影響を与えるはずです。この作品を通して、一方的に答えを示すのではなく、『一緒に考えること』の大切さをあらためて実感しました。子どもに対しても、まだ言葉が分からない年齢でも『一緒に考えてみよう』と伝えることを心がけたいと考えるようになりました」
――「御上先生」を通して一番伝えたいメッセージは何だと思いますか?
「やはり『考えることの大切さ』です。答えがすぐに見つからないこともありますが、それでも思考を止めずに考え続けることが大事なんです。今の社会は膨大な情報が飛び交い、真実とうそが混ざり合う中で、簡単に振り回されてしまうことがあります。だからこそ、一面的な情報に惑わされず、自分自身で考え、想像力を働かせる力を持つことが必要だと思います。この作品も、『自分で考える力』の大切さを伝えてくれるものになっていると感じていますし、僕自身にとっても大きな学びになりました」
――この作品は大きな反響を呼んでいますが、続編の可能性についてはどう考えていますか?
「もし続編を作るなら、御上とは別の主人公で、新たな視点から問題提起をする形が面白いのではと思います。例えば、今作では文科省と学校の問題を扱いましたが、次は同じ世界線で例えば、記者を目指している神崎が大人になって報道の視点から描くのも興味深いかもしれません。御上の物語としては本作でひと区切り付くので、新しい視点で展開させるのが理想です。この作品は『自分で考える力』の大切さをあらためて伝えてくれるものになっていると感じています。それは、僕自身にとっても大きな学びになりました」
――3カ月撮影を共にした生徒キャストに向けて、どんなメッセージを伝えたいですか?
「最初に飯田プロデューサーも言ってくださった言葉でもあるのですが、この経験を糧に、それぞれの道で羽ばたいてほしいです。ここで得た知識や経験や悔しい気持ちがあるなら、それを次の作品に生かしてほしいですし、皆さんならできると思います。そして、次の現場では自己ベストを更新し続けてほしいと思います。『御上先生』が良かったと思うのではなくて、超えるような気持ちで次の作品に進んでいってほしいです」
――これから放送される第9話と最終話に向けて、視聴者にメッセージをお願いします。
「いよいよクライマックスを迎えます。これまでの布石が第9話のタイミングで明かされたり、倭建命(ヤマトタケル)という人物がついに明かされ、先ほどもお話した三つの軸が一つになるような回になります。その軸が一つになることで、どのような終着点に向かうのか。なぜ『御上先生』のクラスが29人なのか、その意味も含めて考えながら楽しんでいただければと思います」

【プロフィール】
松坂桃李(まつざか とおり)
1988年10月17日生まれ。神奈川県出身。最近の主な出演作はドラマ「離婚しようよ」(Netflix/2023年)、「VIVANT」(TBS系/23年)、映画「雪の花-ともに在りて-」(25年)、映画「父と僕の終わらない歌」が5月23日、「フロントライン」が6月13日に公開予定。また、27年の大河ドラマ「逆賊の幕臣」(NHK総合ほか)で主演を務める。
【番組情報】
日曜劇場「御上先生」
TBS系
毎週日曜 午後9:00~9:54
取材/N・E(TBS担当) 文/斉藤和美
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