「べらぼう」瀬川役の小芝風花、蔦重への思い語る「夢に向かって走り回っていて」2025/03/09 20:45

現在放送中の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」。今作は、日本のメディア産業、ポップカルチャーの礎を築いた蔦屋重三郎の波瀾(はらん)万丈の生涯を描く、笑いと涙と謎に満ちた痛快エンターテインメントドラマだ。横浜流星が演じる“蔦重”こと蔦屋重三郎は、幼くして両親と生き別れ、吉原の引手茶屋(遊郭の案内所のようなところ)の養子となる。吉原の、人のつながりの中で育った蔦重は、とある思いから書籍の編集・出版業を始め、後に“江戸の出版王”へと成り上がっていく。
本日放送の第10回では、瀬川(小芝風花)が鳥山検校(市原隼人)に身請けされることが決まった。落ち込む蔦重(横浜)だったが、親父(おやじ)たちの依頼で瀬川最後の花魁道中に合わせて出す、錦絵「青楼美人合姿鏡」の制作に奔走し…。
今回は、そんな五代目瀬川を演じる小芝さんにインタビュー。本日放送された最後の花魁道中の撮影エピソードや、瀬川の役作りについてたくさん聞いた。
――本日放送の第10回で印象に残っているシーンはありますか?
「花魁道中の花嫁衣装が一番重くて、本当に布団みたいだったんです(笑)。暑くて、でも汗をかくと白粉が取れてしまうので、扇風機や保冷剤を当ててもらったり、ケアをしてもらいながら撮影していました。身請けされて大門を堂々と出ていくことは花魁たちの数少ない希望なのですが、瀬川の場合は蔦重との別れになるので、すごく苦しくて。最後に蔦重と擦れ違う時に、目を見てしまったら出ていけなくなりそうで、見ることができなかったです」
――吉原大門を出る時はどんな思いでしたか?
「蔦重への思いは断ち切れていなくて。身請けを覚悟したのは、瀬川という責任を背負って自分の気持ちを犠牲にしているだけで。蔦重への思いがなくなるわけでもないし、会えないからこそ思いが強くなってしまう部分もあるだろうなと思っていました」

――蔦重が瀬川の最後の花魁道中に合わせて出した「青楼美人合姿鏡」をご覧になって、どのような感情を抱きましたか。
「蔦重の本に瀬川の絵が載るのは、最初で最後なんです。花魁は、夜の街で華やかに着飾っているイメージを持たれることが多いですが、そうではない何げない日常は蔦重だから描くことができた姿だと思うんです。瀬川は、本を読んでいる姿が描かれていますが、つらいことだったり苦しいことがたくさんある中で、瀬川にとっては本だけが唯一大門を出て、自由に世界を膨らませることができる手段だったと思うので、その姿を絵にしてくれたことがすごくうれしかったです」
――花の井が瀬川を襲名する前後では、花魁道中などでも違いを意識されていたんですよね。詳しく教えてください!
「歩き方は、花の井は上半身は真っすぐ、足だけで八の字を描いていたのですが、瀬川になってからは、上半身もひねって貫禄が増して見えるようにしています。表情も、花の井は第1回で通行人にほほ笑んだように、周りを意識して歩いていたのですが、瀬川になってからは簡単には手を出せないという風格や、瀬川を背負うことの覚悟が見えたらいいなと思って表情にも変化をつけていました。また、花魁の世話役の女の子たちである禿(かむろ)や新造(しんぞう)のお着物代は全部花魁持ちなのですが、瀬川を襲名した時に、気合を入れてその女の子たちの着物を全部新調していて。自分の借金が増えるけれど、それだけの覚悟を持って瀬川を継いだということが、周りの女の子たちの着物を見ても分かるので、ぜひ見返してみてください!」

――これまでの放送で、印象に残っているシーンはありますか?
「第9回で、蔦重に『身請けが決まった』と伝える稲荷神社のシーンはすごく大事なシーンで。いつも瀬川は蔦重の前では砕けた話し方をしているのですが、このシーンでは最初、廓(くるわ)言葉で話しているんです。きっと本心を隠しながら会話をしていて。でも、『金を貸して儲けているヒルみたいな連中だぞ』と鳥山さまの悪口を言われた時に、『あんただってわっちに吸い付くヒルじゃないか!』と言い返すところは、今まで蔦重に見せてこなかった仕事のつらさや苦しさを初めて出すところなんですよね。今まで耐えてきた思いをぶつけるのが初めてだったので、大事に演じました。その後に、『俺が幸せにしたい』と言われて。まさか蔦重の口からそんな言葉が出るなんて思っていなかったので驚きもありましたが、そこで甘い空気にはならないところが、この2人の関係性っぽくて好きでしたね。『心変わりしないだろうね』と言いながら胸ぐらをつかんだのは、台本にはなかったのですが、男同士のけんかみたいな方が、今までの関係性的にいいのかなと監督と話し合って追加しました」

――思い出深いセリフも教えていただきたいです…!
「第8回で蔦重に、『身請けされて、幸せになってほしい』と言われた時の『ばからしゅうありんす』という言葉はすごく印象に残っています。報われると思っている恋心ではないけど、お勤めがしんどくても、蔦重の細見が売れるように、瀬川というブランドを汚さないようにと身を削って頑張っていた時だったので、全部がばからしくなって…。感情的にもすごく苦しい部分でした」
――本作は小芝さんにとって初めての大河ドラマ出演ですが、周囲からの反響はありましたか?
「祖父母が大河ドラマが好きなので、出演が決まった時にすごく喜んでくれました。普段はドラマの放送の翌日にメールをくれるのですが、5~6週ぐらいまで全く何にもなくて。母と、『おじいちゃんからすると、孫の花魁姿は複雑なのかな』と話していたのですが、間違えて私のことをブロックしていたみたいで(笑)。今は毎週、『今週も良かったです』と連絡をくれます」
――続いて、小芝さんが考えている瀬川の“魅力”を教えてください!
「女郎は身を切る仕事ですが、それでも瀬川という大きな看板を背負って立っている姿は、すごくカッコいいです。そして、裏では蔦重のために必死に細見が売れる方法を考えたり、瀬川を継ぐ覚悟を決めたり。自分の思いや感情を押し殺して、蔦重と結ばれるわけがないという諦めもありながらも、自分を犠牲にできるところは、なかなかまねできないですよね。女郎の仕事は精神的にも体力的にもきついと思いますが、絶対に蔦重の前では疲れているそぶりは見せないんです。さらに、瀬川なら蔦重に色仕掛けをしようと思えばできるけれど、好きな人の前では素直になれない乙女心がしおらしくて。だからこそ、蔦重のひと言で喜んだり、地獄に突き落とされた気分になったりと感情がかき乱されていくので、その機微を逃さないように丁寧に演じていました」

――以前、瀬川を演じるにあたって大人の色気が課題だとおっしゃっていましたが、色気を出すためにどのようなことを心がけていたのでしょうか。
「私は普段から色気があるタイプとは口が裂けても言えないので(笑)。ちょっとしたしぐさや、目線は細部まで意識していました。メークさんもすごく考えてくださいましたし、所作指導の先生にも本当に細かく確認させていただきながら演じていました」
――役作りについても意識していたことや、練習されたことを教えてください。
「まずは所作など、にじみ出るものをしっかりしたいと思ったのですが、煙管(きせる/たばこ)や、お客さんに書く文(ふみ/手紙)、高下駄(たかげた/道中で履くげた)、舞(まい/踊り)など…、習得しないといけない技が多くて。すべて瀬川が普段からやっていることなので、息をするかのようにナチュラルにできるように家で練習しました。普段たばこは吸わないのですが、むせたらカッコ悪いと思って、ニコチンの入っていないたばこで煙に慣れる練習をしたり、高下駄を家に持って帰って練習したり…。感情面では、森下(佳子)さんの台本に描かれている瀬川の感情は、“強がっているけどすごく苦しいんだな”など、複雑な思いが痛いぐらい分かるんです。ちょっとした目の動きななどで、森下さんが描いてくださった心情をこぼすことなくお届けするために、どう演じたらいいのかを考えて作っていました」
――準備には結構時間がかかったのでしょうか?
「最初に顔合わせをした時に、文の勉強の部屋、げたの練習の部屋…と、いろんな部屋に案内されて(笑)。その日から家に全部持って帰って練習していました」
――横浜さんと共演されての感想を教えてください!
「流星くんは、その場の空気感や、その場で起こっているものを見て、瞬発的に芝居する方なのかなという印象がすごくありましたね。その瞬間に感じたことを、すごく大事にされているのかなって。監督ともたくさん話し合って、監督の意見にも柔軟に応えてお芝居されている印象でした」

――長谷川平蔵宣以役の中村隼人さんが、「横浜さんは、背中を見せて引っ張るタイプの座長」だとおっしゃっていたのですが、小芝さんはどう感じましたか?
「私もそう思います。特に親父さまたちや、(平賀)源内さん(安田顕)のような年上チームは、よりそう思われたと思います。蔦重という役柄も、吉原を良くしたいという思いでひたむきに駆け回る役なので。私の役は幼なじみで目線が同じなので、ちょっとニュアンスは違うかもしれないけど、『みんなで蔦重(流星くん)を応援したい』という関係性になっていると思います」
――鳥山検校を演じる市原さんの印象はいかがですか?
「すごく情熱的な方ですよね。目の見えない検校を演じるために、事前に盲学校に行かれてお話を聞かれて、所作やちょっとした体の動きを研究されていて。すごくこだわって役に向き合っている方です」

――もし小芝さんが、瀬川と同じ時代に生まれたお金持ちの男性だったら、瀬川を身請けしたいと思いますか?
「時代も境遇も違うので、難しいですが…。瀬川は芯があって真っすぐでカッコいいので身請けしたい気持ちはありながらも、初恋から10年以上も蔦重を思い続けていていちずなんです。なので、『自分では瀬川の心を振り向かせられないかもしれない…』と思ってしまうかな」
――瀬川は松葉屋の花魁ですが、松葉屋のメンバーとはどんな話をしているのですか。
「松葉屋半左衛門(正名僕蔵)さんはお芝居ではすごく怖いですが、普段はとても優しいんです。花魁のお着物が重くて長いので、箱馬を持ってきてくれて、『ちょっと座りな』と言ってくださったりするんです」
――瀬川の人生は幸せだったと思いますか。
「難しいですね。実際の瀬川も記録が残っていないので、いろいろな説はあるけど、何が本当か分からなくて。ただ、どこにいてもきっと蔦重が元気に夢に向かって走り回っていることを願って生きているんだろうなと思います」
――ありがとうございました。

【プロフィール】
小芝風花(こしば ふうか)
1997年4月16日生まれ。大阪府出身。2011年に「ガールズオーディション2011」でグランプリを獲得して芸能界入り。12年にドラマ「息もできない夏」で女優デビュー。主な主演作に、「トクサツガガガ」(19年/NHK総合)、「妖怪シェアハウス」(20年/テレビ朝日系)、「彼女はキレイだった」(21年/フジテレビ系)、「大奥」(24年/フジテレビ系)など。4月6日から、主演を務めるBS時代劇「あきない世傳 金と銀2」(NHK BSほか)がスタート予定。
【番組情報】
大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」
NHK総合
日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BSプレミアム4K
日曜 午後0:15~1:00ほか
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
日曜 午後6:00~6:45
取材・文/Kizuka(NHK担当)
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