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東日本大震災描くドラマ「水平線のうた」主演・阿部寛が語る思い「若い世代の目線が大事」2025/03/01

東日本大震災描くドラマ「水平線のうた」主演・阿部寛が語る思い「若い世代の目線が大事」

 3月1日・8日に前後編で放送する土曜ドラマ「水平線のうた」。本作は、岸善幸監督が宮城県石巻市と女川町を舞台に、“音楽を通していとしい人の思いをつなごうとする”主人公たちの姿を描くヒューマンドラマだ。

 東日本大震災で妻・早苗(松下奈緒)と娘を失った大林賢次(阿部寛)は、津波で亡くなった人の霊がタクシーに乗るという話を聞き、妻子に会いたい一心からタクシー運転手として働き始めたが、一度も会えていない。そんなある夜、賢次はタクシーに乗せた女子高生・りら(白鳥玉季)のハミングを聴き…。

 今回は、そんな本作で主演を務める阿部さんにインタビュー。岸監督との作品作りで大切にしたことや、宮城県での撮影について聞いた。

――まず、台本を読んだ時に感じたこと、演じる上で大切にされたことを教えてください。

「最初は正直、賢次がめそめそしすぎなんじゃないかと思ったんです。芝居では、涙を流すよりも、こらえている表情の方が視聴者の心を動かすことができると思っていて。そうしたら、監督が『震災から14年たっても、大人たちは悲しみをずっと忘れることができずにいる。でも、震災後に生まれた子や記憶がないぐらい小さかった子たちは、大人から重い空気を押し付けられているんじゃないか』とおっしゃっていて。賢次がめそめそしているのは、りらの目線から見て“震災を忘れられずにずっと苦しんでいる大人”を表現しているのだと理解しました」

――阿部さんは、東日本大震災当時は何をされていましたか?

「都内のスポーツクラブから出て、コインパーキングに向かうところでした。地震を経験したことがないという外国人の方が周りのビルが揺れているのを本当にすごく怖そうな顔で見ていて、『Earthquake』と説明したことが印象に残っています。でも、その時はこれほど大きいものになるとは思わなかったです。次の日から撮影のためにイタリアに行く予定だったのですが、成田空港が使えなかったので大阪まで行って…。今思い出すと、地震や津波の被害など正確なことがまだニュースで報じられていなくて、当初はいろいろなことが見えていませんでした」

――ドラマで震災を扱う意義については、どう感じましたか?

「今回は白鳥さん演じるりらの目線がすごく大事だと思います。『若い世代が大人たちに対してどう思っているか』という目線は、すごく新鮮でした。そういうものを、若い世代の方やいろいろ苦しんでいる方など、多くの方に伝えることができるのがドラマだと思うので、その力を信じたいです」

東日本大震災描くドラマ「水平線のうた」主演・阿部寛が語る思い「若い世代の目線が大事」


――賢次を演じるにあたって、被災された方のお話も聞かれたのですよね。

「はい。当時は、海からご遺体があがると、そのご遺体を取り合うような状況が起きていたそうです。皆さん、まずはご家族や大切な人を“見つける”ことを心から願っていて、たとえご遺体でも必死に探されていたのだと。どう想像しても、経験していない自分には分からないけれど、そこまで追い込まれていたんですよね。そういったお話を胸に秘めて撮影しました」

――撮影で石巻や大船渡を訪れ、どのようなことを感じられましたか?

「まだ人は戻ってきていないんですよね。家があったところが公園になっていたり、元に戻るということの難しさを実感して。車を走らせての撮影では交通量が少ないのでスムーズだったのですが、寂しさを感じましたね」

――劇中、石巻にある「渡波レインボーシアター」の支配人・遠藤伸一さんの実体験を聞くドキュメンタリーパートがあります。どういったことを意識して撮影に挑まれたのでしょうか。

「あの部分は撮影だということを忘れていましたね。震災のつらい経験を、じかにご本人から聞くというのはすごく衝撃的なことで。遠藤さんの目を見て、遠藤さんの経験なさったことをできるだけ受け止めたいと思っていました」

――遠藤さんの話を聞いている時の阿部さんの表情が印象的でした。どんな思いでしたか?

「遠藤さんの目から繊細な感情の動きと、いろいろなことを経験されてきた深さを感じて。そして、僕を見るまなざしに、ご自身の真っすぐさを感じました」

――最後に、特に印象に残っているシーンを教えてください。

「賢次がレインボーシアターで演奏会を主催し、会場が一体となるようなシーンがあって。町の方々が50人ぐらいエキストラで出てくださったのですが、皆さん涙されていて、音楽の力を感じました」

――ありがとうございました。

【番組情報】
土曜ドラマ「水平線のうた」
前編 3月1日
NHK総合 午後10:00~10:50
NHK BS プレミアム4K 午前9:25~10:15
後編 3月8日
NHK総合 午後10:00~10:50
NHK BS プレミアム4K 午前9:25~10:15
※放送後から1週間、NHKプラスで視聴可能。
【出演】
阿部寛 白鳥玉季 中川翼 キタキマユ 山中崇
宇野祥平 松岡依都美 山本浩司 菅原大吉 前原滉/
松下奈緒 加藤登紀子ほか

取材・文/Kizuka



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