「べらぼう」平蔵演じる中村隼人、横浜流星のある行動に驚き「笑いをこらえるのに必死」2025/02/09
現在放送中の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」。今作は、日本のメディア産業、ポップカルチャーの礎を築いた蔦屋重三郎の波瀾(はらん)万丈の生涯を描く、笑いと涙と謎に満ちた痛快エンターテインメントドラマだ。
横浜流星が演じる“蔦重”こと蔦屋重三郎は、幼くして両親と生き別れ、吉原の引手茶屋(遊郭の案内所のようなところ)の養子となる。吉原の、血のつながりを超えた人のつながりの中で育った蔦重は、とある思いから書籍の編集・出版業を始め、後に“江戸の出版王”へと成り上がっていく。
先週放送の第5回では、のれん分けで本屋になることを目指し、蔦重が鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)お抱えの改(あらため)に。 そんな中、蔦重と共に茶屋で働いていた少年・唐丸(渡邉斗翔)が姿を消してしまう。
今回は、1月19日放送の第3回で蔦重と花の井(小芝風花)にカモにされ、親の遺産を食いつぶしてしまった武士・長谷川平蔵宣以を演じる中村隼人さんにインタビュー。役作りや、公私ともに仲の良い横浜さんとの撮影エピソードなどを聞いた。
――平蔵と言えば池波正太郎作「鬼平犯科帳」で鬼平として愛されているキャラクターですが、隼人さんが持っていた平蔵のイメージを教えてください。
「僕も、二代目中村吉右衛門さんが演じていた『鬼平犯科帳』(1989~2016年/フジテレビ系)を再放送で見ていたので、そのイメージがほとんどでした。大叔父の萬屋錦之介も1シーズンだけ鬼平を演じていたのですが、写真でしか見たことがなくて。『本所の銕(てつ)』と呼ばれていた若いころは、粋に遊んで、けんかが強くて。火付盗賊改方になってからも、男くさくて色気があるイメージでした」
――今回、「べらぼう」の平蔵を演じる上で、心がけていることはありますか。
「何話まで出るのかは分かりませんが、きっと立派な火付盗賊改方になって…(笑)。笑っちゃいますが、いつか立派な火付盗賊改方になると信じているので、今は立派になり過ぎないように余白を残すことを意識しています」
――撮影に入る前に、勉強されたことを教えてください。
「東京・四谷にある平蔵さんのお墓でお経をあげてもらいました。正式なお墓なのかは分かっていないらしいのですが、お墓が残っているのは町人たちが守っていたからではないかという話を聞いて、人々に愛されていたのかなと。あとは、史実や池波先生の本を読んだり、吉右衛門さんの映像を細かく見たり。世間のイメージの根幹にあるものは大事にしたいという思いと、今回どういった要素を取り入れられるかということを意識していました」
――視聴者の間では、蔦重と花の井にカモにされている様子から、カモ平と呼ばれていますがご存じでしたか?
「2月に歌舞伎で上演する『きらら浮世伝』で六代目中村勘九郎さんが蔦屋重三郎を勤められます。その稽古の時に、勘九郎さんがアドリブで『さあ、今日はカモ平のおごりだ!』と言い始めて。みんな笑っていたんですけど、僕だけ分からなくて。聞いたら自分のことでした(笑)。そのくらいカモ平が浸透し始めているようで、うれしかったです。今回は、吉原の目を背けたくなるような部分も描かれているので、重く暗くなってしまった時には平蔵でくすっと笑っていただいて、視聴者の方の息抜きになればいいなと思って演じています」
――実際、平蔵はカモにされている自覚があったんでしょうか。
「分かっていないイメージで演じていました。後に蔦重と会うシーンでも、本当にカラッとしていて。お金や入銀本に関してはひと言も触れていないんです。全部分かっているという捉え方もあるんですけど、平蔵は思っていることを全部言ってしまうと思っていて。逆に、計算高くないところが愛嬌(あいきょう)につながって、嫌みのないキャラクターになっているのだと思います。自分で言うのは恥ずかしいですが(笑)」
――横浜さんとは舞台「巌流島」(23年)での共演以来、公私共に仲がいいと聞きました。そんな2人だからこそ生まれたシーンはありますか?
「第1回(1月5日放送)で、蔦重がいきなり僕の前で見得(みえ)を切って…笑いをこらえるのに必死でした。僕も流星くんも人見知りで、初めて会った時は3時間ぐらいのロケで、ふた言ぐらいしか話せなくて。マネジャーに、『隼人さんの方が年上なんだから話しかけなさい』と言われて話しかけたぐらい。なので、初対面だったらああいうシーンにはならなかったと思うんです。蔦重と平蔵のシーンはコメディーチックなところが多いので、流星くんも楽しんでやってくれているんじゃないかな」
――見得を切ることは、事前に教えてもらっていなかったんですか?
「教えてもらっていないです。でも、畳を確認して足を踏み出す練習をしていて、『何しているの?』と聞いたら、『いやいや別に』って。そうしたら、いきなりですよ。しかも、『見得がうまくいかなかった』と言って撮り直していましたからね!」
――横浜さんとは、平蔵と蔦重の関係について話しましたか?
「平蔵は、親の七光で仕事をしているというやっかみを受けたり、肩身の狭い思いをしていて。蔦重も吉原に生まれ育って、いろいろと環境が悪い中で生きてきた。そんな中、今作での平蔵は蔦重と年が近くて気が許せるところがあると思うんです。なので、お互い特別な立ち位置に見えればいいねと話していました。実際に撮影が始まってからも、蔦重と平蔵が周りから孤独になればなるほど、この2人のつながりはやっぱり強いのかなという話はしました」
――先日、第6回演出の深川貴志さんが「平蔵が蔦重を愛しすぎていたので引き算を考えた」とおっしゃっていました。第6回での蔦重と平蔵のシーン作りはいかがでしたか。
「僕たちの仲の良さが出ちゃったってことですかね(笑)。武士と吉原育ちの町人は身分が違いますから。僕の中での平蔵は、身分に固執していない人だと思っていて。人足寄場(にんそくよせば)という犯罪者を社会復帰させる施設を作った人物でもあるので、身分への偏見はないと思うんです。なので、近しい感じで作っていったのですが、まだ第6回だし、身分の差もあるし、ということで監督と話し合いました」
――座長としての横浜さんの魅力も教えてください。
「年下なのでかわいいなって思うところは多いです。ただ、流星くんはもの静かな性質の人間なので、明るい蔦重を演じることで心にかかる負荷はすごく重いと思うんです。これだけ大変な撮影の日程で、大先輩方と共演しているし、想像を絶するようなストレスやプレッシャーを感じていると思うんですけど、そういうことを感じさせないようなカラッとした性格で。彼はどちらかというと、自分の芝居を見せて引っ張っていく役者さんだと思うんです。ワンシーンも後悔のないように臨んでいる姿を見て、すごいなって」
――横浜さんの背中を見て、士気が高まる現場なんですね。
「ピリッとしますよね。主演がリハーサルから本気でやっているので、『こっちも負けてられないぞ』という役者のライバル心をくすぐるというか、そういうところが非常にうまいです」
――続いて、役作りについて伺いたいのですが、平蔵のチャームポイントと言えばおくれ毛ですよね!
「あれはシケというもので、舞台の髪形ではよくあるのですが、映像作品では珍しいみたいです。色ジケと乱れジケというものがあって。乱れジケは、例えば捕まって何日も髪の毛を直せないと、ぱらぱらっと出てきてしまう毛みたいなもので。色ジケは、今でいうアイドルが前髪を垂らすのと同じようなもの。普段はきっちりしている髪形がちょっと垂れることで、色っぽさを出していて、平蔵はどちらかというと色ジケに当たるんです」
――ふっと吹いてみたり、手で触ってみたりというしぐさはアドリブですか。
「そうです。(チーフ演出の)大原拓さんがクランクインの時にハイスピードカメラを持ってきて、『これでシケを撮ります。どうしますか?』って。僕がアドリブで考えて、監督がアドバイスをくださる感じです。実は、シケの長さやびん付け油の量にもこだわっていて(笑)。床山さんとシケの長さはミリ単位で調整して、油を回す量もすごく研究しました。油が付き過ぎると風になびかなくなっちゃったり、逆になびきすぎてシケがなくなっちゃったりするんです」
――第6回では、平蔵が仕事をしているシーンも出てきます。どんなことを意識して撮影に挑みましたか?
「仕事になった瞬間に髪形がちょっと変わっているので、そこでまず笑ってほしいです。“遊んでいるけど仕事はきっちりできる”ということを髪形でも表現しました。今作における平蔵はダメダメに見えますが、“仕事ができない”とはどこにも書かれてない。どちらかというと、人よりもやる気と行動力があって、きっと頭も意外と切れる。そのギャップをお見せできたらなと。ギャップがあるからこそ、プライベートでの精神面を成長させると、しっかりとした火付盗賊改めの平蔵につながるのかなと思いました」
――1月2日に放送された「芸能きわみ堂 新春スペシャル 古典芸能 新時代!」(NHK Eテレ)では、平蔵を演じるのが少し怖いとおっしゃっていましたよね。
「やっぱり世の中は池波先生の鬼平のイメージが強くて。吉右衛門さんや丹波哲郎さん、最近では十代目松本幸四郎さんといった大御所のスター俳優たちが、40~50代で演じているんですよね。男の色気、男くささというイメージがある中で、30代の自分が演じることはすごく怖かったです。でも、1年間放送する大河ドラマだからこそ、成長させていける余白があると思っていて。正直プレッシャーや怖さは今はなくて、どう立派に成長させていけるかが僕の中での課題です」
――この作品に関わって、物の見方が変わったことはありますか?
「吉原のルールもそうですし、こんなにたくさんお店がたくさんあったのだなと。歌舞伎だと平面で描かれていることが多いので、こんなに大きくてにぎやかで、季節によって桜を全部植え替えていたことにも驚きました。幕府御用達だけあって、たくさんのお金が投入されていて、人の行き来が多かったんだなと。そして、やっぱり華やかな裏には女郎たちの苦労があって。なんとなく聞いたり読んだりしたことはあったけれど、現実にドラマとして役者さんが演じると鬼気迫るものがあります。こういう環境の中で生きてきた人がたちが、日本を作っていったんだなと感じました」
――平蔵は、この先お城でのお勤めのシーンも出てくるかと思います。田沼意次を演じる渡辺謙さんとの共演シーンはいかがでしたか?
「すごい迫力でしたね。渡辺さんは、ちょっと抜け感のある感じで意次さまを演じていると思うんです。あえて猫背にしたり、隙がありそうな人物として。でも、決めるところは目力やセリフで決めてらっしゃって、すごく緊張感が伝わってきます。意次としても役者さんとしても、本当にすごいなと」
――お城のシーンでも平蔵の性格は変わらないんでしょうか。
「きっと平蔵は何事にもピュアで全力なんですよ。だから、あまりゴマをすっているように感じさせないように、ピュアで天然で、猪突(ちょとつ)猛進なところは引き続き意識しています」
――ありがとうございました!
「べらぼう」初回から最新話までの一挙再放送が2月14日&15日の深夜に決定。
平蔵の雄姿を見逃した方々はコチラで!
再放送「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第1回~第3回
NHK総合
2月14日 金曜 深夜0:45 ~3:15
再放送「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第4回~第6回
NHK総合
2月15日 土曜 深夜0:10~2:25
放送後、NHKプラスでの配信もあります。
【プロフィール】
中村隼人(なかむら はやと)
1993年11月30日生まれ。東京都出身。二代目中村錦之助の長男として生まれ、2002年、初代中村隼人として「寺小屋」の松王丸一子小太郎役で初舞台。以後、歌舞伎座にてさまざまな舞台を踏む中、ドラマ、情報番組、CMなどの活動も。大河ドラマは「龍馬伝」(10年)、「八重の桜」(13年)に出演。BS時代劇「大富豪同心」(NHK BSほか)シリーズでは、19年から現在まで主演を務めている。
【番組情報】
大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」
NHK総合
日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BSプレミアム4K
日曜 午後0:15~1:00ほか
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
日曜 午後6:00~6:45
取材・文/Kizuka(NHK担当)
関連リンク
この記事をシェアする