「べらぼう」鉄拳が素顔で出演! 浮世絵を世界に広めるためにやってみたいこととは?2025/01/25
現在放送中の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」。今作は、日本のメディア産業、ポップカルチャーの礎を築いた蔦屋重三郎の波瀾(はらん)万丈の生涯を描く、笑いと涙と謎に満ちた痛快エンターテインメントドラマだ。
横浜流星が演じる“蔦重”こと蔦屋重三郎は、幼くして両親と生き別れ、吉原の引手茶屋(遊郭の案内所のようなところ)の養子となる。吉原の、血のつながりを超えた人のつながりの中で育った蔦重は、とある思いから書籍の編集・出版業を始め、後に“江戸の出版王”へと成り上がっていく。
今回は、1月26日放送の第4回に登場する浮世絵師・礒田湖龍斎(いそだ・こりゅうさい)を演じる鉄拳さんにインタビュー。“素顔”での出演への思いや浮世絵に挑んだ感想などを語ってもらった。
――今作は素顔での出演ということですが、公開への葛藤はなかったのでしょうか…?
「『情熱大陸』(TBS系)に出たり、本名でドラマに出たり、意外と素顔を出しているんです。もうおっさんだし、あまり見せたくないなとは思ったんですけど、大河ドラマにめちゃくちゃ出たかったので、チャンスだなと。元々、父がお笑い芸人を嫌いだったので、父にバレないためにメークをしていたんです。でも、もう父にも近所の人にもバレているので、素顔を出すことに特に葛藤はないですね」
――今回、鉄拳さんの素顔がSNSやネットニュースでも話題になっていましたが、反響はご覧になりましたか。
「『べらぼう』の公式Xで扮装(ふんそう)写真が公開された投稿と、そこに書いてあったコメントは全部見ました。『渋い!』とか、皆さん結構いいことを書いてくれていて、うれしかったです」
――放送後の反響も楽しみですね!
「怖いです。ハードルを上げないでください…(笑)。僕は絵を描くことだけが取りえで、お声が掛かったと思っているので。僕ができる100%は浮世絵を描くことだと思って挑みました」
――出演が発表された際に浮世絵の練習中とおっしゃっていたと思いますが、実際に挑んでみていかがでしたか。
「筆で描くのが初めてで。それでも自分の中ではうまく描けているかなと思っていたんですけど、浮世絵の先生と一緒に練習した時に、あまりにも自分が下手でびっくりしました。それから、家でも1カ月くらい細く描く練習をたくさんしました。筆って、ちょっと力を入れるとすごく太くなっちゃったり、細くしようとすると線が離れて描けなかったりと強弱が難しくて。紙に乗せる感じで描かなきゃいけないんですよ。とっても大変でした。僕は演技も下手くそだし、セリフもうまくないので、絵を描けなかったら呼ばれた意味がないと思って、必死で練習しました」
――たくさん練習されたんですね。
「先生には、人さし指を立てて筆を持った方がいいと言われたんですけど難しくて。いつもペンを握っている形で描かせてもらいました。あと、実際の浮世絵師は自分で描いた下絵の上に紙を置いて、なぞって描くらしいんです。でも、ドラマだとリアルさがないので『下絵はなしでお願いします』と言われて、直接描きました」
――普段のパラパラ漫画制作に加えて浮世絵の練習をして大変だったと思いますが、鉄拳さんなりのリフレッシュ方法はありますか?
「たくさんありますね。夕飯の献立を考えて、スーパーに買い物行って、どれがいかに安いかと見繕って、考えたり家で料理を作ったりするのがすごくリフレッシュになります」
――今回の出演を通して感じた浮世絵の良さや楽しさを教えてください。
「現代と全然違う描き方なんで、描いていて楽しかったですね。特に、顔の輪郭など肉付けのところ。お相撲の絵などを見ると分かりやすいと思うんですけど、昔の人はうねりをつけて描くんです。それが当時はやったんでしょうね。目も、今の人たちは大きく描くじゃないですか。昔は、細いけれど、点の部分まで美しく描かれているんです。浮世絵が、今や漫画やアニメになって世界に広がっているので、浮世絵師たちが発明したことはすごいことだなと思います。実は、漫画の祖先は『べらぼう』の蔦重が広めた浮世絵なんだよって世界に広がるといいですね。僕が大谷翔平さんの浮世絵を描いて、大谷さんに気付いてもらえば世界に広められるかもしれない(笑)」
――湖龍斎の絵についてはどう感じましたか?
「役の話をいただいた時に、Wikipediaで調べたら何も出てこなかったんですけど、絵の画像だけは出てきたんですよ。それを見たら、結構女性の方の絵を描いていて。当時の女性は湖龍斎が描いた女性の絵をファッション誌のように見ていたらしくて、最先端だったんだなと。女性の体をS字に描いているのは湖龍斎の絵の特徴ですよね。目の雰囲気もすごくうまいですし、細かく描かれている髪の毛もすてきですよね。どうして葛飾北斎のように有名にならなかったんだろうって。不思議です」
――湖龍斎のすごいと思ったところを教えてください。
「浮世絵の初期の人で、まねるものがないところで描いていたのがすごいなと思います。漫画界で言ったら手塚治虫先生ぐらいの初期の方なので。北斎は例えるなら鳥山明先生や尾田栄一郎先生ですよね」
――今回、鉄拳さんは2度目のドラマ出演ということですが、大河ドラマの現場はいかがでしたか。
「セットが素晴らしく、江戸時代の街並みがそのまま再現されていたのと、本当に外で撮影しているような照明があって。『こうなっているんだ!』とベタベタ触りました(笑)。記念に何か彫っておけばよかったです(笑)」
――演技が苦手とおっしゃっていましたが、今回やってみてどうでしたか?
「やっぱり苦手です。セリフが短かったので助かりましたが、長かったら多分パニックで言えなかったでしょうね」
――今後また演技のオファーがあったら…?
「ひと言だけだったら、何でも受けます!(笑)」
――扮装姿が公開された時には大御所俳優のような貫禄を感じました。
「自分でもびっくりしました。こんなに渋いベテランの雰囲気が出ているんだって」
――それでは、主演の横浜さんたちとの共演シーンはいかがでしたか。
「カッコ良かったです。でも、僕がぎりぎりまで絵の練習に集中していたので、あまりお話はできなくて…。横浜さんと西村まさ彦さんとも一緒のシーンで、サイン色紙を持って行ったんですけど、サインしてもらうタイミングはなかったです(笑)」
――現場での素顔公開は、どんな反響がありましたか?
「全くなかったんです。現場のスタッフさんもみんな半信半疑の表情をしていました。ずっと反応ないなと思っていて、セリフを言うシーンでやっと笑いが起きました。みんな声で『鉄拳だったんだ』と分かったんじゃないですかね(笑)」
――今回の出演を通して刺激になったことはありますか?
「江戸時代にも、同じように絵を描いてお仕事にしていた人がいて縁を感じました。浮世絵の先生は、『湖龍斎はマニアックだから、ドラマに出るのは最初で最後になるんじゃないか』と言っていたので、湖龍斎と言えば鉄拳というイメージになりたいです」
――絵を描いてきて良かったと思える今回の出演だったんですね。
「そうですね。同じく芸人で絵を描いている矢部太郎くんも、昨年の大河ドラマ『光る君へ』に出演していて。矢部くんと仲がいいので、一緒に食事している時に『もし失敗してNG出したらどうしたらいいですか?』と聞いたら、『NG出しちゃダメなんです。みんなちゃんと練習してくるんで、本番ではNGとかないんです』と言われたんです(笑)。だからもう絶対に失敗しちゃいけないと思ってやりました。あと、僕の中学校の時の担任の先生が美術の先生で、今でも連絡を取っているんですけど、『大河出るよ』と連絡したらすごく喜んでくれて。先生は版画をやっているので興味を持ってくれて、僕よりも湖龍斎さんについて調べて、いろいろアドバイスしてくれて。その先生のおかげで漫画の賞を取ったこともあるので、今回の出演で恩返しができたかな」
――ちなみに、鉄拳さんは芸人になる前に俳優を目指していたと聞いたのですが…。
「俳優になってみたいなと思って、劇団東俳に合格して入って。でも『外郎(ういろう)売』の音読の練習をしていた時に、先生に『君は滑舌が悪いんで俳優には向いていない』と言われて諦めました」
――その頃の自分からしたら大河ドラマ出演は夢のようなことですね。
「そうですね。その時の先生に言いたいです!(笑)」
――何かほかにかなえたい夢はありますか。
「バンドを組んでみたいです。ベースをやっていたので。プロレスラーになる夢もあったんですけど、芸人としてリングに上がるお仕事があったのでかなったんです」
――機会があったら楽しみにしています! 最後に、「べらぼう」第3回までの放送をご覧になった感想を教えてください。
「普段は、戦国系の大河しか見ないんですけど、『べらぼう』はめちゃくちゃ時間と手間とお金がかかっているなと思いました。セットが凝っているし、役者さんは変わらず今回も豪華だなと。さすが放送100年だなって感じました。映像もすごく奇麗ですね」
――ちなみに、第4回はどのようにご覧になりますか?
「放送も、Xなどでの反響もリアルタイムで見る予定なので悪いこと書かないでください。褒められると伸びるタイプなので…。あと、次につなげるには皆さんのコメントにかかっていると思うので、『鉄拳のこういう役も見てみたい』など書いてもらえたらうれしいです(笑)」
――ありがとうございました!
【プロフィール】
鉄拳(てっけん)
1972年5月12日生まれ。長野県出身。お笑い芸人、パラパラ漫画家。2003年から12年にわたり、テレ東の子ども向け番組「おはスタ」にレギュラー出演。連続テレビ小説「あまちゃん」(NHK総合ほか/13年)ではオープニング、劇中アニメーションを担当。
【番組情報】
大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」
NHK総合
日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BSプレミアム4K
日曜 午後0:15~1:00ほか
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
日曜 午後6:00~6:45
取材・文/Kizuka(NHK担当)
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