「金八先生」への憧れが原点、飯田和孝Pが現代に届ける新たな学園ドラマ「御上先生」2025/01/18
松坂桃李が主演を務める日曜劇場「御上先生」(日曜午後9:00)は、“官僚教師”の御上孝(松坂)が、生徒たちと共に教育現場の現実に立ち向かい、大人社会の理不尽と対峙(たいじ)する姿を描いた大逆転の教育再生ストーリー。子どもが生きる「学校」、大人がもがく「省庁」という一見別次元にあるこの二つを中心に物語が展開する。未来を夢見る子どもたちが汚い大人たちの権力によって犠牲になっている現実、そんな現実に一人の官僚教師と、令和の高校生たちが共に立ち向かう、教育のあるべき真の姿を描くこれまでとは一線を画した新たな学園ドラマだ。
本作を手がけるのは「マイファミリー」「VIVANT」「アンチヒーロー」など、数々のヒット作を生み出した飯田和孝プロデューサー。1月19日の放送スタートに先駆け、飯田プロデューサーに制作のきっかけや松坂の起用理由、さらには本作に込めた思いを聞いた。
教育学部出身プロデューサーが描く、新時代の学園ドラマ誕生の裏側
――はじめに、本作の制作のきっかけをお聞かせください。
「僕は、『3年B組金八先生(第5シリーズ)』(1999~2000年)の兼末健次郎役の風間俊介さんの回を見たのをきっかけに教師を目指して教育学部に入り、教職課程を取りました。そんな経歴もあり、いつか『3年B組金八先生』シリーズのような学園ドラマを作りたいという思いがあったんです。『ドラゴン桜』(21年)を準備している頃、あらためてオリジナルの学園ドラマを作りたいという思いが募っていて、そんな時、あるアーティストさんの動画に写る高校生たちがとても輝いていたことに感動しました。今の若者には熱がないという声もありますが、動画に写っていた子たちは全くそんなことはなく、むしろ若者たちの方が世の中に対して声を上げているんじゃないかとも思って。そんな彼らに突き動かされたのが大きな理由です」
――映画「新聞記者」を手掛けた詩森ろばさんの脚本にも注目が集まっています。
「詩森さんには、企画考案とほぼ同じタイミングで、『もしご一緒できるなら社会派要素を入れたい』とお話ししました。というのも、やっぱり『金八先生』への憧れは捨てられなくて(笑)。大谷翔平選手の表現を借りるなら、憧れている以上はそれを超える作品はきっと作れない。だったら…と、現代の学園ドラマとしての新たな切り口を詩森さんと考えた結果、官僚教師という役柄が生まれました。その頃は、ちょうど現場と上層部の理解の差によって大学受験の形式が揺れていた頃でもあり、その状況も相まって、社会派の要素を入れ込む方向で決まっていきました」
「この作品でステップアップできました」と言われることは制作者冥利(みょうり)に尽きる
――松坂さんの起用理由を教えてください。
「松坂さんとは『VIVANT』で初めてご一緒させていただきました。普段はとても柔和な方なのですが、得体が知れない一面のある御上をビジュアルも含めてすてきに表現してくれるだろうなと。松坂さんは役柄について『愛のある人』と話していますが、根底に愛はありながらも、やはりどこかつかみどころがない役でもあります。そういったキャラクターを考える中で、企画段階から松坂さんにオファーすることを決めていました」
――オファー後に印象的だった会話はありますか?
「出演を決めていただいた後に、松坂さんの中では映画『孤狼の血』が分岐点だったという話を聞きました。そして、『“御上先生”が第2の僕の分岐点になるように、ステップアップできる作品にしたいんです』とおっしゃってくれて、これは責任重大だなと思いましたね(笑)。出演後に役者さんから『この作品でステップアップできました』と言われることは制作者冥利に尽きますし、とても印象に残った会話だったので、生徒キャストの皆さんにも『本作とどういうふうに向き合うかはそれぞれです。僕らはこのドラマを何が何でも成功させたい。皆さんチームと一丸となって…なんて言いません。このドラマを踏み台にしてステップアップしてください』と、松坂さんの言葉をお借りして伝えさせていただきました」
――演出面で松坂さんと話したことは?
「どこか裏がある御上が生徒と向き合う時に、どこまで優しさや愛情を出すべきかは相談しながら決めていきました。台本を作っている段階では、あまり感情を表に出さないイメージだったのですが、実際にお芝居していただく中で変化していきました。ドラマのセオリーとしては、最初は無表情だったキャラクターが少しずつほぐれていくことが多いですが、それはドラマであって、リアリティーに欠けるなと思ったんです」
――実際にお芝居を見ていかがでしたか?
「顔合わせで本読みをした時には、もう御上先生そのものでした。実は映画『新聞記者』で詩森さんとタッグを組んだからという理由で松坂さんにオファーしたわけではなく、キャラクターの話をしている時に『松坂さんをイメージしていて』とお伝えしたら、詩森さんもいいですねとおっしゃってくれて。そこから台本を書かれる時はおそらく松坂さんを意識されていて、松坂さんが演じることで、僕たちの思い描いた以上の御上先生を作り出すことができています」
正直一番不安だった部分は、とてもうれしい誤算に
――生徒役は全員オーディションで決められたそうですね。
「生徒のオーディションでは、第1話で御上先生と対峙する神崎拓斗(奥平大兼)のキャラクター想定を中心に決めていきました。脚本が完成していくにつれて29人のキャラクターが見えてきて、選考と同時並行でキャラクターを当てはめた形です。どのキャラクターも熟考を重ね、それぞれの適性を見ながら役を決めました。キャラクターに肉付けするために、役が決まった後に本人の性格や個性も設定に反映しています」
――松坂さんは、そんな生徒たちとどのようにコミュニケーションを取っていますか?
「生徒たちと敵対する役柄に合わせて、あまり話さないようにするのかなと思っていたのですが、割と早めに打ち解けていました。生徒たちは雑談をしていたり、セリフの練習をしていたり、教室での過ごし方もそれぞれ。そんな様子を松坂さんもニコニコしながら見ていて、控え室には戻らずに生徒と一緒に教室で過ごしている印象です。生徒たちにとっても頼れる先生になっているのではないかなと。松坂さんはパワーを持って率いる座長というよりも、撮影現場の空気感を柔和にしてくださるタイプで、みんなが自然と前向きになれる空間を生み出してくれています。
――撮影が進む中で意外だったことは?
「生徒キャストの皆さんは、仲良くなったら気持ちが緩んでくるようなこともあるのではないかと心配していたのですが、全くそんなことがないのが意外でした。いろいろな人から学園ドラマあるあるの話を聞いた中でも、正直一番不安だった部分だったので。きっと『ここで手を抜こうがだらけようが、全部自分に返ってくる』ということを生徒全員が理解していて、それぞれが本作で少しでも成長したいという気持ちを持っているからこそだと思います。正直ここまで仲良くなっているのに、だれている感じがしないのにはびっくり。当初は僕がプロデューサーとして厳しく言った方がいいのかなと思っていたのですが、その必要もありません。とてもうれしい誤算ですね」
現代社会に生きる大人たちに向けても投影している
――コロナ禍を経た今、学園ドラマを作っていて感じていることがあれば教えてください。
「本作に出演している生徒たちは、コロナ禍で文化祭などを経験することができなかった世代でもあります。だからこそ、人と人がつながって物事を行うことのパワーの強さを感じてもらえたらいいなと。劇中では教室で議論するシーンも多く登場します。通常だったら、『みんなでこういう時間を共有することがいいことなのだ』というメッセージになると思うのですが、本作ではもう一歩踏み込んで、その時間でいかに当事者意識を持って合理的に考えることで物事を進めるか。それがこれからの教育において重要なのだということも伝えたいと思っています」
――第1話の教室のシーンはヒリヒリするような展開でした。
「そのヒリヒリ感は物語を通して持続していきます。生徒たちが御上の授業から何を受け取って、どう一歩を踏み出していくかが物語の要。御上の問いかけを生徒たちが自ら考えていくことで、徐々に主体的にクラスを運営していくようになる変化にも注目いただきたいです」
――最後に視聴者の皆さんにメッセージをお願いいたします。
「学園ドラマである本作の主役は、ある意味生徒たちだと思います。学園という舞台、そして教育というテーマを通して、現代社会に生きる大人たちも投影しています。作品から受け取っていただけるメッセージ、考察要素などいろいろあるとは思いますが、プロデューサーとしていつも意識しているのは、リアルタイムでご覧いただいた上で、さらに配信で『次のエピソードへ』をクリックしたくなるような面白いドラマを作ること。まずは純粋に楽しんでいただき、その上で、生きることや現代社会へのメッセージを受け取ってもらえたらと思います。初回放送では主題歌も初解禁されますので、ぜひお楽しみに」
飯田プロデューサーが自身の原点とも言える学園ドラマに挑んだ本作には、彼のこだわりと情熱が息づいている。学園ドラマという枠組みを超え、教育を通して現代社会を鋭く切り取るストーリーで、生徒たちが御上先生とともにどう成長していくのか見届けたい。
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