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「べらぼう」小芝風花、花魁役に挑む中で「高下駄の練習をしていたら人が来て…」2025/01/03

「べらぼう」小芝風花、花魁役に挑む中で「高下駄の練習をしていたら人が来て…」

 1月5日から放送が始まる大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」。今作は、日本のメディア産業、ポップカルチャーの礎を築いた蔦屋重三郎の波瀾(はらん)万丈の生涯を描く、笑いと涙と謎に満ちた“痛快”エンターテインメントドラマだ。

 横浜流星が演じる“蔦重”こと蔦屋重三郎は、幼くして両親と生き別れ、吉原の引手茶屋(遊郭の案内所のようなところ)の養子となる。吉原の、血のつながりを超えた人のつながりの中で育った蔦重は、とある思いから書籍の編集・出版業を始め、後に“江戸の出版王”へと成り上がっていく…。

 これまで渡辺謙(田沼意次役)さん、安田顕(平賀源内役)さんへのインタビューを連日公開してきたが、今回登場するのは蔦重のなじみの花魁・花の井(後の五代目瀬川)を演じる小芝風花さん。花の井の魅力や大河ドラマへの思いなどを語ってもらった。

――花の井の第一印象と、実際演じられて気付いた魅力を教えてください。

「最初は、蔦重と男の子の兄弟のように育ってきたのかなという印象がありました。吉原という厳しい環境で、絶対報われることがないと理解した上で、ひそかに蔦重に思いを寄せているのですが、結ばれないと分かっていながらも、『蔦重が困っていることがあったら力を貸したい』と支える強さを感じました」

――演じる中で花の井の印象が変わった部分はありますか?

「初日の撮影で思ったよりも強く蔦重に詰め寄るシーンがあって、気が強いなと思いました(笑)。花魁は、すごく華やかで色っぽいイメージだったのですが、この作品ではオフの状態の姿がよく描かれていて。なので、ギャップといいますか、カラッとしている女性なんだなと思いました」

「べらぼう」小芝風花、花魁役に挑む中で「高下駄の練習をしていたら人が来て…」

――森下佳子さんの脚本を読んだ時の感想も教えてください。

「面白かったです。ただ、私は花の井の目線で脚本を読むので、痛いほど気持ちが伝わってきて…。吉原は、男性にとっては華やかで夢のある世界だけど、そこで生きる身としては苦しいことがたくさんある中で、お客さんに接したり、本当の思いを隠しながら生きていて、読んでいるだけで涙が出てきたんです。花の井が女性として1人の男性を思っている恋心だったり、それがかなわない苦しみだったりを丁寧に描いてくださっていたので、花の井のことがすごく好きになりました」

――今回、大河ドラマの出演が初めてということで、撮影に入ってみての感想を教えてください。

「スタジオに入った時に吉原の街並みが全部できていて。2階建てのセットで、上からも人がのぞけるようになっていて、本当にタイムスリップしたかのようでした。セットの先がLEDの映像なのですが、奥行きまで全部作られていて。映像がカメラの動きに合わせてちょっとずつ動いたり、すごい技術だなと感動しました。お芝居の中で『ここを見せないようにしなきゃ』と考える必要もないので、役に入りやすく、ありがたい環境です」

――ご自身のどういうところが今回のオファーの決め手になったと思いますか?

「え! 私も知りたいです(笑)。自分では全然分からなくて。というのも、花魁はすごく色気がある、大人っぽいイメージなのですが、私は年齢より幼く見られることもあり、笑顔や元気なイメージを持ってくださっている方が多いかなと思うんです。なので、当初は雰囲気を出せるのかが分からず、そこが自分の中での課題でした。ただ、今回そんな課題にチャレンジできる役をいただけたので頑張らなきゃ、という気合はすごくあります」

――実際に花魁を演じるにあたって、意識的にやっていることはありますか?

「オフの状態のリアルな女郎(花魁の下位)たちの日常を撮りたい、と監督からお話しをいただいて。時代劇は今までも出させていただいたことがあり、お着物を着たら姿勢を正しくして…というイメージだったのですが、女郎は昼見世も夜見世もあり、万年寝不足の状態で男性を相手にいろんな座敷を回っている中で、オフの時は姿勢が崩れているのですが、その崩すということが、私にはすごく難しくて。家の鏡の前で自分の浴衣を着て、どういう崩し方をしたらいいのかなというのを研究しました」

「べらぼう」小芝風花、花魁役に挑む中で「高下駄の練習をしていたら人が来て…」

――横浜さんとの共演は、2017年公開の映画「天使のいる図書館」以来、久しぶりですよね。息を合わせるために何かやってらっしゃることはありますか?

「ちょっとした役柄のニュアンスや感情の確認を、監督を交えてするようにはしています。蔦重は『女郎に手を出してはいけない』と厳しく教えられていて、花の井も足抜けしようとして失敗し厳しい折檻(せっかん)を受けている人を見ているからこそ、『台本上はこう表現されているけど、心の底ではこう思っているんじゃないか』というような意見の交換などを、シーンに対して1個ずつ丁寧に話し合っています」

――小芝さんから見た蔦重の魅力はどんなところですか?

「自分が思ったことに対して、ばかだなと思うぐらい真っすぐなところです。そこに全くよこしまなものがなく、ただ単純にいいものを作りたい、面白いものを作りたい、吉原を良くしたいというストレートな思いを持っているところが母性をくすぐるといいますか。花の井としても放っておけないし、支えたいと思うところなんだろうなと思います」

――女郎の人生を生きる上で、心がけていることや考えたことを教えてください。

「第1回で、小さい頃に面倒を見てくれていた朝顔姉さん(愛希れいか)が体を壊しているシーンがあって。初めからショッキングなんですけど、これがリアルだったんだろうなと思うんです。忘八(女郎屋の主人)たちからすると、お金が稼げない女郎は捨てようとなるわけで…。いろんな別れや苦しいこともいっぱいあるけれど、悲観しているだけでは駄目で、花の井はいろんなことをのみ込み、それでも吉原で生きていかなきゃいけないと分かっている人だと思うんです。でも、蔦重といる時だけはそういうことを忘れて、きっと楽しく素で会話できるんだろうなと。シーンによって違うのですが、“蔦重がいてくれるから頑張れる”という関係性を大事にすることを心がけています」

――蔦重は貸本屋として女郎たちに本を貸していますが、きっと、女郎たちも本を読んでいるときは素に戻っているんでしょうね。

「女郎は外の世界を知らないから、知ることができないから、唯一本を読んでいる時間が外の世界に出られる時間な気がしていて。だからあんなに本が好きなのかなって思います。花の井も本当にいちずで真っすぐで、蔦重がいたから、つらい世界でもなんとかその光を頼りに生きていられたんだろうなというのはすごく感じます」

――公式SNSに投稿された動画では、奇麗な花魁道中を披露されていました。高下駄(げた)での撮影ではどのような苦労がありましたか?

「げたを借りて自主練習しようと思ったのですが、家の中でするわけにはいかないので、公園に持って行ったんです。そうしたら、2~3歩歩いたところで人が来てしまって、急いで回収して(笑)。それからは家の敷地内で練習していたのですが、結構人目につく高さなので、自主練習は難しかったです。撮影ではお着物もすごく重い中で、高いげたをコントロールしながらゆっくり歩かなきゃいけなかったので、ふくらはぎが筋肉痛になりました」

「べらぼう」小芝風花、花魁役に挑む中で「高下駄の練習をしていたら人が来て…」

――手応えはありましたか?

「歩いた後にげたを引きずった跡ができるのですが、毎回カットがかかった時に振り返って、均一に跡ができているか確認しながら挑んでいました。所作指導の先生に相談して、花の井の歩き方と、瀬川を襲名した後では印象が変わるように意識したので、そこに注目していただけたらうれしいです」

――今回、花魁の華やかな世界とオフの姿、両方が描かれていますが、演じる上で気持ちの変え方など意識されたことはありますか

「口調は、外に出ている時はなるべくゆったりと話して、蔦重といる時は幼なじみの何も飾っていない素の感じが出るように意識しました。スイッチは、メークを塗ったら自然とオンになり、おしろいを落とすと、すっぴんを見られている感覚になって恥ずかしいのですが、スイッチがオフになって自然と体の力の入り方も変わったりします」

――小芝さんの幅広いお芝居を楽しみにしています! 花魁を演じていて楽しいなと思うのはどんなところですか?

「花の井はすごく頭のいい女性だと思うんです。花の井が働く松葉屋のトップの松の井(久保田紗友)は、男性が付いて行きたくなるような、あがめたくなるようなイメージなのに対して、花の井は男性一人一人が求める女性像になれる人な気がするんです。監督とも、『お客さんのちょっとした言動から、その人が一番くすぐられるところを刺激している人だよね』という話をしていたので、お客さんと対峙(たいじ)している時はいつも『どうやったらこの人に“もっとこっちを向いてほしい”と思ってもらえるんだろう』と考えています」

――花の井は伝説の花魁となる瀬川を襲名し、責任も背負うようになります。

「そこが花の井の芯が強いところといいますか、自分の思いだけではなく、蔦重と同じく吉原を女郎にとって少しでもいい環境にしたいという思いがあって。蔦重と一緒になりたいという気持ちもある中で、瀬川を継いだからには、後に続く人たちにとっての憧れとして身受けをされて、華やかに門を出ることを守らなきゃいけないという責任感を貫き通せる強さが魅力的だなと。カッコいい女性だなって思います」

――「べらぼう」ならではの面白さはどんなところだと思いますか。

「『べらぼう』は歴史が得意じゃない私でもすごく楽しく見られて。戦や歴史上の人物を知らない人でも、今もあるエンターテインメントのために駆けずり回った男性の話なので見やすいと思います。1人じゃどうしようもできない、大きなことに苦戦しながらも諦めずに突き進んでいく姿はすごく魅力的ですし、みんなを豊かにしたいという思いを持っているのも、見ていて応援したくなりますよね」

――小芝さんが、特に蔦重をすてきだなと思ったシーンはありますか?

「『作った本が売り切れた!』と風呂敷を振って無邪気にやって来るシーンです。花の井は心配なのもあってすぐに喜べず、蔦重が『喜んでくれると思ったから一番に知らせに来たのに!』とふてくされている感じが、花の井から見たらきっとかわいいんだろうなと。蔦重は本当に鈍感なので、『このセリフ、花の井に言う!?』と監督と流星くんとお話ししたこともあるのですが、そんな素直で真っすぐなところが憎らしくもあり、いとおしいんだろうなと思います」

――さまざまなキャラクターが登場しますが、気になる人物や楽しみにしているシーンはありますか?

「忘八の親父さまたちの会議がすごく楽しみですね。親父さまたちに蔦重がボッコボコにされて、階段から転げ落ちると台本では簡単に書いてあるけれど、実際どういう映像になるんだろうと思って。それがすごく楽しみです(笑)」

――他に気になるキャラクターはいらっしゃいますか。

「今、別の作品の撮影もしているのですが、隣のスタジオで(田沼役の)渡辺さんと(源内役の)安田さんが撮影していらして。安田さんが『謙さんの迫力やばいよ』とおっしゃっていたので、モニターをのぞいたらすごい迫力でした。お城でのシーンは全く関わりがないところなので、そこも楽しみにしています」

――松葉屋の女将(おかみ)・いね(水野美紀)や、後輩の女郎との撮影はされましたか?

「うつせみ(小野花梨)と新之助(井之脇海)さんの恋模様は、私は見ることができていないのですが、台本の中で『マブ(女郎が真情を捧げる男)がいないと女郎地獄』っていう言葉があるくらい、マブの存在はこの苦しい環境の中で唯一の光で。その2人の淡い恋心の行方を早く見たいです。いねさんは元女郎なので花の井たちの気持ちが分かるけれど、女将なので感情移入をし過ぎると仕事が成り立たなくなるので情を捨てなくてはならなくて、すごく葛藤があっただろうなと。また、いねさんは元々セリフが面白いのですが、それが水野さんの口から出ると、現場で毎回笑いが起きるんです(笑)。すごく役に合っていて、迫力もあるし、ちゃきちゃきしていて。いねさんが、水野さんによってすごく生き生きとしていて、一緒のシーンはいつもワクワクしながら撮影しています」

――瀬川を見初めるのは、市原隼人さん演じる鳥山検校という“盲目の大富豪”。市原さんは視覚障害者生活支援センターに足を運んで役を学んでいるとおっしゃっていましたが、一緒にお芝居をした感想を教えてください。

「まだ少ししか共演シーンがなく、これからがっつり一緒にやらせていただくのですが、すごく勉強されてらっしゃって、撮影の時も監督とも何度もご相談されていて、熱い方なんだなというのが第一印象です。こだわりをすごく感じるので、私ももっと気を引き締めて頑張ろうと思いました」

――ありがとうございました! 

「べらぼう」小芝風花、花魁役に挑む中で「高下駄の練習をしていたら人が来て…」

【番組情報】
大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」
NHK総合
1月5日スタート〈初回15分拡大〉
日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BSプレミアム4K
日曜 午後0:15~1:00ほか
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
日曜 午後6:00~6:45

取材・文/Kizuka(NHK担当)



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