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絵本「パンダのガドゥ」の作者、ムッシュー・タン「“ガドゥ”で日本とフランスの架け橋に」2024/12/13

絵本「パンダのガドゥ」の作者、ムッシュー・タン「“ガドゥ”で日本とフランスの架け橋に」

 テレ東系の「YOUは何しに日本へ?」で2024年4月8日に特集され、昨年のクリスマスにはキャラクターの聖地、東京・キデイランド原宿店1階にてグッズが限定販売し、話題となった「ガドゥ」。「ガドゥ」は、ヨーロッパで累計2000万部以上を突破したヒット漫画「毒舌アデル」のフランス人作家、ムッシュー・タンが新たに生み出したパンダのキャラクター。その「ガドゥ」の絵本がこのたび、日本で翻訳出版されることになり、タン氏に絵本に込めた思いや、フランスの絵本文化について話を聞いた。

日本とフランスの絵本文化の違いとは?

――日本では絵本というと、親が子に読み聞かせることが多いです。タンさんの幼少期はいかがでしたか?

「私の幼少期を振り返ると、読んでもらった記憶は実はあまりないです。家族がそんなに本を読むタイプではなかったんです。ただ、だからといってクリエイションと無縁だったわけではなかったです。私の母親は、料理を通して教えてくれた気がします」

――フランス国内では、絵本はどのように親しまれているでしょうか?

「フランスにおいて本は大切な文化の一つであり、絵本や児童書を子どもにプレゼントするというのは特別ではない行為です。それはカトリックが身近であるということ、カトリックは聖書、すなわちテキストから始まっているという側面もかなり大きいのではないでしょうか。まず文があって、本という形があって…今と同じように表現されていた。フランスで電子書籍がなかなか普及していかないのは、文と本という手に取る形あるものがワンセットとしてなじみ深いからだと思います」

――日本とフランスにおける絵本の立ち位置は似ているように思えました。

「児童書の著者としては、フランスと日本の明確な違い、フランスにおけるもどかしさを感じることがあります。フランスでは『児童書=子どものもの』というバイアスが根強いんです。本来なら、大人でも読めるものだし、実際に買って読んでいるのは大人でもあるのに、どうしても“子どものためのこれからの人生の予備知識”としての側面が強いのか、いざ大人に絵本や児童書を読んでいるか聞いてみると『読んでいない』と答える人がほとんどなのです。一方、日本では大人も子どもも分け隔てなく、絵本というものが誰に対しても届いているように思います。大人も昔は皆子どもだったんです。子どもだった頃の、過去の自分の心を修復する役割として絵本があってもよいと思います」

街中の至るところにイラストやキャラクターが存在するのは日本の素晴らしい点

――たしかに日本では大人が絵本を手に取ることに抵抗はないように感じます。

「私の考える理想の社会というのは、子どもと老人を尊重している社会です。子どもを尊重することは未来を大事にすること、老人を尊重することは過去を大事にすることと考えるからです。私の目からは日本はそのような社会に見えました」

――日本で生活する私たちからすると、良く言われ過ぎな気もしますが(笑)

「というのも、今回の来日においても、日本のあらゆる場所にイラストがあると思いました。地下鉄などの公共交通機関や、街を走るトラックでも、お店などにも、地域のさまざまなキャラクター、小さな子でも外国人でも分かるような、イラストとともに説明された看板やポスターが街中の至るところにありました。キャラクターやイラストを通じて、感情までも理解させようとする、共有できるところが素晴らしいと思います。インバウンドが多過ぎて大変な面もあると思いますが、日本の暮らしに根付いている、イラストやキャラクターが多用される文化が、違う言葉の人たちが来ても理解できる日本の良さだと思います。それは私の作るキャラクター・ガドゥにも込めている精神で、ガドゥには口がないのですが、それは言葉が発声できなくても通じ合える、感情を共有できるという大事にしているキャラクターの側面です」

フランスでは書店を守るために送料無料が禁止されている!?

――日本では、出版文化の危機のような、書店の数が年々減っていることが懸念されていますが、フランスではいかがでしょうか?

「フランスでも書店の数は減っています。ただ、近年はポストコロナで個人経営の書店が少しずつ増えている印象です。また、国として本を守ろうとする法律があり、Amazonやネット書店などのプラットフォームに対して、送料無料が禁止されているんです。小さな独立系書店が大事にされていると感じます」

――送料無料が法律で禁止されているとは、驚きでした。

「いち著者としても、個人経営の書店を守りたいという思いがあります。やはり、大型書店だけではなく、小さな書店もあるからこそ、ベストセラー以外の作品、さまざまな本が存在できるのだと思います。フランスでは著者が小さな書店でサイン会をするのはよくあることで、私の作品『毒舌アデル』が1巻出るごとに60くらいの店舗でサイン会をします。フランス、ベルギー、スイス、カナダ…あらゆる土地で行います。これは、特にベストセラー作家だからというわけではなく、サイン会やトークショーをする著者はたくさんいるんです」

絵本「パンダのガドゥを通して子どもたちに伝えたいこと

――今回発売する「パンダのガドゥ」のタイトルのデザインも新たに制作されたとか。

「はい。最後にカタカナでロゴを描き直しました。私は日本語が話せないけれど、描くことはできるから、このカタカナ文字を通じて、日本の読者に話しかけることができるのではないかと思いました。まず目に飛び込むタイトルの文字、そのタイトルロゴを通じて、私なりの『こんにちは』『はじめまして』『よろしくね』というメッセージを伝えたいと思いました」

――日本で発売されるにあたって、特に注目してほしい部分はありますか?

「ガドゥは何かと何かをつなげるという役割をしています。たとえば、フランス人である私と、日本の4コマ漫画という文化をつなげてくれました。フランスの著者のやり方と、日本のやり方を融合させてくれたんです。ガドゥを通じて、日本人とフランス人の架け橋のような役割を果たせたらいいなと思っています。それから、この絵本の中では『読者に問いかける』ことも大事にしています。子どもたちに考えてもらい、自分の個性を大事にしてもらいたいと思っています。読ませるだけでなく、『キミはどう?』と問いかけることで、考えるきっかけになることが、私のこだわりです」

――最後に、この絵本を通じて、届けたいメッセージを教えてください。

「ガドゥは、子どもにとってのヒーローでありたいです。自分の中にある他人と違う部分や感情すべてが自分であって、どんな自分でも前向きに生きていってほしいと思います。それから自分を大切にすること、自分の中にある感情を誇りに思うこと。このキャラクターが世界を冒険している姿を見て、毎日を頑張って生きながら、自分を見つめ直し、自分を知ってほしいと思います。このパンダは真っ白な姿で生まれてきたけれど、毎日自分で模様を描いて、周囲の環境の中で自分の立ち位置を確保し、日々生まれ変わっているキャラクターです。文化や言葉の壁を乗り越えて、世界共通のメッセージを伝えられたらいいなと思っています」

絵本「パンダのガドゥ」の作者、ムッシュー・タン「“ガドゥ”で日本とフランスの架け橋に」

【プロフィール】
ムッシュー・タン
1981年フランス・シャンベリ生まれ。小説、絵本、漫画など100冊以上の書籍を出版し、その多くは20カ国以上で翻訳されている。ほかにもシナリオライター、イラストレーターなど活躍の場は広い。ムッシュー・タンのペンネームで制作されたアニメシリーズMortelle Adele「毒舌アデル」は累計2000万部以上を売り上げ、ヨーロッパで大ヒットを記録する。2023年、フランス文化省によって芸術文化勲章のシュヴァリエ(騎士)に任命される。24年4月「YOUは何しに日本へ?」(テレビ東京系)で、ガドゥのキャラクターグッズを東京のキデイランド原宿店へ売り込む様子が放送され、一躍話題に。ガドゥの名は自身が5歳の頃からお気に入りのパンダのぬいぐるみから付けられた。

取材・文/於ありさ 撮影/東京ニュース通信社



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