「あのクズ」最終回目前! 戸村光来Pが語る見どころと制作秘話2024/12/09
TBS系では、奈緒主演の火曜ドラマ「あのクズを殴ってやりたいんだ」(毎週火曜午後10:00)を放送中。今作は、完全オリジナルで描かれる“クズきゅん♡ボクシングラブコメディー”だ。
恋もボクシングも本気で向き合う主人公・佐藤ほこ美(奈緒)は、真面目で真っすぐな性格の29歳。結婚式当日に彼氏に逃げられ、人生どん底のタイミングで金髪の謎の男・葛谷海里(玉森裕太/Kis-My-Ft2)に出会う。それをきっかけに「もうクズな男に泣かされるのは嫌だ!」と、自分を変えるためにボクシングを始めるストーリーだ。
12月10日放送の最終回を前に、本作の企画・プロデュースを務める入社6年目のTBSテレビ・戸村光来プロデューサーに話を聞いた。
奈緒さんはどの役も親しみやすく、リアリティーがある
――従来のラブストーリーと異なり、ヒロインがボクサーを目指すという設定が印象的です。令和らしい感覚を意識されたのでしょうか?
「まさにその通りです。男性が主役で女性が応援するという物語はこれまでも描かれてきましたが、今回はカッコいい女性像を中心に据えた新しい挑戦を意識しました。男性ボクサーの場合、友情や勝利、厳しい練習風景が描かれることが多いですが、女性ボクサーでは家族や周囲の支え、強くなる中でも恋愛を絡めた物語が可能だと感じました。これまで見たことのない、新しい魅力を真ん中に持ってきたというところです」
――ほこ美は当初、何もかもうまくいかないキャラクターでしたね。最初の設定のギャップについては?
「ボクシングを通じて変化していく姿を見せたい部分があって、はじめはどん底から立ち上がることがドラマとして盛り上がっていけるかなと。奈緒さんと話していたのは、ラブストーリーではノイズを除去してきれいな世界観が描かれることが多いですますが、今回は鼻血や人間らしい汗や涙、泥臭さを描くことを思い切って挑戦してみようということでした」
――企画段階から奈緒さんの起用を考えていたそうですね。
「ほこ美は観客に応援される主人公でありつつ、身近さを感じるキャラクターであってほしいと思いました。奈緒さんが演じるキャラクターは、どれも親しみやすく、同じ世界に生きているようなリアリティーを感じます。また、キャスティングのタイミングで奈緒さんが出演されていた『春になったら』(2024年/フジテレビ系)を拝見した時、心(しん)の強さを感じて、ほこ美の強さと繊細さにぴったりだと確信しました」
――現場での奈緒さんの印象はいかがでしたか?
「まさに“太陽”のような存在です。常に明るく笑顔で、笑い声も大きくて現場を和やかにしてくれました。初共演者やスタッフ一人一人の名前を覚えて声を掛ける姿勢が特に印象的で、僕も含めて初めてのポジションに就くスタッフたちにも優しく接していました。現場が楽しいものだと伝えたいとおっしゃっていて、それが太陽みたいと言われるところなのかなと。それでいて、お芝居はすごいので、本当に素晴らしい方だという印象です」
――プロボクサーを目指す後半に向け、ダイエットなど大変なことも多かったと思いますが?
「食事制限も楽しんでいるように見えました。自分の食事内容をネタにして笑いを取るなど、終始ポジティブな姿勢を貫いていました。炭水化物を控えていた影響で『頭が回らない』と笑いながら話すこともありましたが、一切弱音を吐かず、現場では強さを見せ続けていました」
――玉森さんのキャスティングについてはいかがでしたか?
「海里役は非常に難しい役だと思っていました。“全女子を沼らせる謎の男”としての魅力を持ちながら、お芝居やビジュアルすべてを兼ね備えた人物でなければなりません。玉森さんは過去にラブストーリーに出演された経験があり、見せるべきところではキメて、自然な芝居が求められる場面では柔らかく演じられる、そのバランス感覚に優れている点が大きかったです。少しミステリアスな雰囲気や“悪っぽさ”も持ち合わせていて、今回の海里役にぴったりだと感じました」
ほこ美がサウスポーに変わるシーンは奈緒さんから
――ボクシングシーンのために、具体的にどのような準備をされたのでしょうか?
「奈緒さんと玉森さんには、かなり本格的なトレーニングをお願いしました。ドラマは約4カ月の撮影期間があるので、その間ずっと体作りとボクシング練習を続けていただきました。奈緒さんは、監修の松浦慎一郎さんのパーソナルトレーニングとは別に、自主的にパーソナルジムや整体、キックボクシングの練習を同時に行い、“見せる筋肉”作り、技術習得、体のバランス維持という三つの側面でトレーニング環境を自ら整えていました。女子ボクシング現世界王者・晝田瑞希さんにも指導していただき、プレーヤー目線でのアドバイスが非常に役立ちました」
――JBC(日本ボクシングコミッション)の協力もあったそうですね。
「JBCの協力は非常に大きかったです。リングアナウンサーやレフリーには実際のプロの方々に出演していただきました。また、JBCの方々からも『女子ボクシングを取り上げてくれたことがうれしい』という声をいただき、火曜ドラマという枠を通じてボクシングになじみがない視聴者にもこのスポーツの魅力を伝えることができたのではないかと思います。細かい描写のために、プロテストを実際に見学したり、ボクシングジムを訪れて選手や関係者の方々と直接話をさせていただいたりしました」
――第6話ではほこ美がサウスポーに変わるシーンがありましたが、この設定は奈緒さんの特性から生まれたものなのでしょうか?
「このアイデアは奈緒さんとの初対面の時に生まれました。初めて会った際、奈緒さんから『ボクシングをやりながら話しましょう!』という提案をいただき、練習した時に『実は私、サウスポーなんです』と言われて驚きました。そこで奈緒さんから『途中で左に変わる展開、面白くないですか』と提案があり、実際にそういったケースがあると分かり、物語に取り入れることにしました」
リアクションや表情をホラー映画の表現に例える
――第7話での別れのシーンなど、奈緒さん、玉森さんお二人の表情の演技に引き込まれました。特に印象に残っているシーンはありますか?
「玉森さんについては、第8話の再会シーンが印象的でした。それまでの海里は突き放した態度や自分勝手な行動が多かったのですが、このシーンでは初めて人間らしい弱さや苦しさを見せてくれました。その表情だけで感情を表現する技術が素晴らしく、セリフが少ないにも関わらず、共感を与える力があると感じました。一方、奈緒さんは動きのコミカルさが際立っていました。第6話の冒頭でお母さんから『ラブホテルに行った?』と突っ込まれるシーンでは、全身を使ったリアクションで、ほこ美の焦りや恥ずかしさをユーモラスに表現していました。また、前半の海里に沼っていく表情の微細な変化も非常に魅力的でした」
――奈緒さんと玉森さんが一緒に盛り上げた“胸キュンシーン”について、裏話を教えてください。お二人から出たアイデアなどはあったのでしょうか?
「第6話のキスシーンの撮影では、玉森さんの体勢が非常に難しいものでした。ロープを抑えながらキスをするという場面は、普通なら腕が震えてしまいそうな状況ですが、鍛えた体のおかげで支えられたシーンだったと思います。玉森さんはその状態でもカッコよく、見事に演じ切ってくれました。また、奈緒さんはキュンシーン後のリアクションを非常に大切にされていて、視聴者が“自分が海里にそうされたら…”と想像しやすい表情やリアクションを意識していました」
――奈緒さんは今回、本格的なラブコメに初挑戦されましたが、現場ではどのように取り組まれていたのでしょうか?
「奈緒さんは撮影を通じて、リアクションや表情をホラー映画の表現に例えるなど、独自のアプローチを試されていました。例えば、恐怖心を感じるリアクションの作り方と似た技法を応用し、視覚的に強い印象を与える演技に挑戦されていました。また、周囲の女性スタッフの意見を積極的に取り入れ、みんなの反応を見ながら“ベスト”な演技を模索していたのが印象的でした。胸キュンシーンの芝居においても、スタッフのリアクションを参考にした部分があり、非常にユニークな取り組みをされていたと思います」
――玉森さんと奈緒さんの“胸キュンシーン”に関連して、玉森さんの現場での振る舞いはいかがでしたか?
「玉森さんは、女性スタッフからの具体的な要望、例えば『この角度で顎のラインを見せたい』といった指示にも、即座に対応されていました。瞬時に理解し実行できるその姿勢は、経験値の高さを感じさせました。全体を通して飲み込みが早く、頼りになる存在でしたね」
――続いて、小関裕太さん演じる大葉奏斗についても聞かせてください。ラブストーリーにおいてライバル的な役割を担うキャラクターですが、難しいポジションでもあります。どのような意図でキャスティングをされたのでしょうか?
「大葉というキャラクターは、海里との対比を強く意識しました。このドラマは“クズな男”がテーマにあるので、大葉にはあえて“クズ要素”を排除しました。スーツに眼鏡という設定で、海里とはまったく違う立場を描いています。ただし、完璧すぎる人物では共感しにくい側面もありますので、“悩む姿”や“踏み出せないもどかしさ”といった人間らしい部分を意識して作り込みました」
――小関さんご自身の印象が、キャラクターに反映されているそうですね。
「台本が中盤まで進んだ段階で小関さんとお話する機会をいただいた際、素の人の良さや育ちの良さが際立っていると感じました。それが監督や脚本家にも伝わり、大葉というキャラクターにも反映されています。キャラクターが“いい人過ぎる”という意見もありましたが、デフォルメし過ぎず、少しダサい部分や自然な人間らしさを取り入れることで、等身大の魅力を持つキャラクターに仕上がったと思います」
――大葉には「何か救いがあるといいな」と感じている視聴者も多いと思いますが、物語の中で彼がどう描かれていくのか教えてください。
「大葉は物語の中で“救われる”べきキャラクターであり、その姿が視聴者にとっての希望や共感につながると考えました。最終的には、彼が救われる場面をしっかりと描いています。特に、ほこ美との恋愛を通じて生まれた救いの要素には注目していただきたいですね。大葉の成長と救いが、物語の中でどのように展開されるのか、ぜひ楽しみにしていてください」
――玉井詩織(ももいろクローバーZ)さん演じる新田撫についてもお伺いします。視聴者からは「ほこ美以上に共感できる」という声もあるようですが、キャラクター作りにおいてどのような点を意識されましたか?
「撫は、正直、僕自身は女性の気持ちの細かな部分について理解が難しいところがありました。そのため、制作段階では女性スタッフや脚本家の意見を多く取り入れました。第8話でクッキーを作り過ぎてしまう場面など、男性の僕には思いつかないアイデアでしたが、男性からは見えない女性同士の関係性がリアルに描けたらなと思っていました」
――第7話にゲスト出演された濵田崇裕さん(WEST.)の印象はいかがでしたか?
「濵田さんは本当に面白い方でしたね。たった2日間の撮影でしたが、メークさんたちを爆笑させるなど、まるでレギュラーキャストのような自然ななじみ方をされていました。また、運動神経が抜群で、監修の松浦さんも『彼は一体何者なんですか』と驚くほど。教えることがないとおっしゃっていたほどです。普段から格闘技をたしなんでいるそうで、天才肌の方なんだなと感じました」
――続いて、異なる役どころで全話に登場する那須川天心さんの起用についても伺えますか?
「那須川さんを起用した理由の一つは、物語の要素の一つである“新しい挑戦”という姿勢が、物語と合致している点です。この作品では、大人の習い事をきっかけに人が変わっていく姿を描きたいと思っていました。那須川さんはキックボクサーとしてのキャリアを経て、ボクシングに挑戦し、さらにYouTubeやバラエティー、アパレル業界など、さまざまな分野で挑戦を続けています。その柔軟性と挑戦心が、この物語のテーマと親和性が高いと感じました」
このドラマを通じて伝えたかったこととは?
――ドラマ放送中に視聴者から印象的な反響はありましたか?
「“海里がヒロインなんだな”という意見をいただき、それは狙っていた部分でもあるので、伝わったのはうれしいです。また、大きくは光があたらないところ、恋愛至上主義のほこ美の母親・明美(斉藤由貴)や、家族の描写が楽しいと感じた方もいらっしゃったようです。そういった反響を受けて、このドラマのいろいろな面が楽しんでもらえているのだと思いました」
――ラブストーリーだけでなく、サスペンス的な要素や人間ドラマのバランスも絶妙だという声がありますね。
「特に意識して作ったわけではないのですが、やはり基本はラブストーリーとして思っています。台本打ち合わせには多くの方に参加していただき、僕が初めてということもあって、先輩のプロデューサーや監督、脚本家のお二人、脚本協力の方々など、多くの意見を取り入れながら作り上げました。そういった積み重ねが、このバランスの良さにつながったのではないかと思います」
――物語を盛り上げているPEOPLE 1さんが手掛けた主題歌「メリバ」ですが、楽曲制作時にはどのようなリクエストをされたのでしょうか?
「PEOPLE 1さんのサウンドは、ロックでありながらポップさも感じさせる、独特なカオスの魅力が唯一無二だと思っていました。今回の楽曲に求めたのは、ドラマのつらい展開の中でも、ほこ美の『私はこの人が好きなんだ』という真っすぐな気持ちと、それに打たれて正直になっていく海里の心情を音楽で表現してほしい、ということでした。恋愛において、“2人がいいと思えばそれでいいんだ”というメッセージをPEOPLE 1さんらしいサウンドで形にしてほしいとお願いしました」
――完成した楽曲を聞いたときの印象はいかがでしたか?
「サビが非常にキャッチーで、流れた瞬間に『これだ!』と感じました。実際、現場のスタッフも口ずさむほど耳に残る曲で、撮影中もチーム全体で愛される楽曲になっていました。『メリバ』はドラマの物語や登場人物たちの感情を引き立てる重要な役割を果たしていると思いますし、視聴者の皆さんにとっても印象に残る主題歌になったのではないでしょうか」
――ありがとうございました。では、このドラマを通して戸村プロデューサーが視聴者に伝えたかったことはどんなことでしょうか?
「このドラマを通じて伝えたかったのは、どんなに痛いことや苦しいことがあっても、長い時間をかけて向き合うことで、培うものがあるということです。それはボクシングでも恋愛でも同じだと思います。嫌な時間やつらい出来事も含め、それを乗り越えることで得られるものがある。それが試合での勝利だったり、恋愛の成就だったりするんだと感じています。特に海里が苦しい思いをしたり、障害が多くあります。2人を引き裂こうとする動きもありますが、ほこ美の『本当に海里が好きだ』という純粋な気持ちには心を動かされますし、恋愛の素晴らしさやその力を視聴者にも感じてもらえたらと思います」
――最後に、ずばり最終回の見どころを教えてください!
「第1話の冒頭にも映っていた、ほこ美の試合シーンが大きな見どころです。奈緒さんが何カ月も準備を重ねてきた、ボクシングの集大成となるシーン。そして、海里の過去との向き合い方、相澤悟(倉悠貴)との関係の決着にも注目してください。大葉やスナックのメンバーたち、周囲のキャラクターの行く末にも面白いシーンを散りばめています。つらいことはありますが、ほこ美と海里ならきっと乗り越えられる。最後まで2人の物語を見守っていただければと思います」
最終回に向けた熱いお話を伺い期待がさらに高まった。ほこ美と海里がどんな結末を迎えるのか、視聴者としても、2人の物語をしっかり見届けたい。
【番組情報】
「あのクズを殴ってやりたいんだ」
TBS系
毎週火曜 午後10:00~10:57
【プロフィール】
戸村光来(とむら こうき)
TBSテレビ・コンテンツ制作局ドラマ制作部。2019年入社。半年のバラエティーでの研修を経てドラマに配属。これまでに「VIVANT」のADなどを務める。「あのクズを殴ってやりたいんだ」ではメインのプロデューサーを担当。
取材/N.E(TBS担当) 文/斉藤和美
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