「MIU404」最終回目前に脚本・野木亜紀子氏を直撃取材!「プライムタイムの民放ドラマで堂々と社会問題を扱うこと自体に意義がある」2020/09/04
TBS系で放送中の連続ドラマ「MIU404」がついに最終回を迎えます。綾野剛演じる“野生のバカ”伊吹藍と、星野源演じる理性的な刑事・志摩一未の破天荒バディは、数々の事件や犯人と向き合ってきました。視聴者も彼らに近い目線で人間の温かさやはかなさに対峙することができた今作は、放送ごとに多くの人の心を動かしてきました。そんなドラマの脚本を手掛けた野木亜紀子さんに最終回直前の思いや、制作の裏話などを伺いました。
――いよいよ最終回が放送されますね。伊吹と志摩がよき相棒になっていく様子で温かな気持ちになったかと思えば、容赦ないバッドエンドが待ち受けていたりと、いろいろな側面で心に残る作品になりました。これまでを振り返って、野木さんにとって「MIU404」はどんな作品になりましたか?
「新型コロナウイルスの流行という難しい状況の中で11話まで作れたことがまず奇跡なので、みんなお疲れ!という思いでいっぱいです。もう放送すらできないんじゃないかと思ったこともありましたし、本来もっと長い話数で放送する予定だったのですが、難しくなってしまって…。それでも、キャストの皆さんがギリギリまでスケジュールを空けてくれ、TBSの編成さんがなんとか11話までできるように調整してくれて、やっと放送にこぎつけたという感じでした。だからこそ、よく11話までやったよね、というのが正直な気持ちです」
――TBS系連続ドラマでのオリジナル作品を手掛けるのは「アンナチュラル」に続き2作目でしたが、手応えや意識したことなどはあったのでしょうか?
「今回も『アンナチュラル』と同じスタッフとの制作だったので、お互いどういう人間だとか、どういう作り方をするかをよく理解した上でやることができたので、そこは楽だったなと思います。『アンナチュラル』の時は、企画から私主導でやっていた部分が多いのですが、今回は新井順子プロデューサーが刑事ドラマをやりたいと言ったことからスタートしているので、結構新井Pの色が出ているのではないかな。『アンナチュラル』はストーリー自体が難しかったと新井Pは思っていて、今作はもっと分かりやすくて間口が広いものにしたいということで進めていました。犯人を捕まえるって分かりやすいじゃないですか。走って追いかける!みたいな。今作は『アンナチュラル』同様に社会問題も入っていて、その部分は紛れもない現実なんですが、それ以外の部分についてはフィクションレベルが高くてある意味ドラマっぽいというか、よりエンターテインメントに寄せた感じにしています。そこが『アンナチュラル』との大きな違いですかね」
――放送開始前のインタビューで、皆さんが口をそろえて「普通の刑事ドラマではないんです!」と熱く語られていたのも印象的でした。
「まず刑事ドラマってなんだろうという話になるとは思うのですが、100人中90人が思い浮かべるような、いわゆる“刑事ドラマ”は自分自身あまり興味がないっていうのがあったので、そこを目指さない中で自分には何ができるかなというところを考えながら作りました。新井Pはいわゆる“刑事ドラマ”が大好きなので、新井Pが求める分かりやすさと、自分自身のそうではない部分の両方をどう見せていくかという……」
――お二人のタッグゆえの化学反応ですね。
「そうですね。そこは大きいと思います。でも、今回『社会問題をやりましょう!』って張り切って言いだしたのは新井Pなんですよ(笑)。『アンナチュラル』の時は意識したというよりも、人が死ぬとか事件ものって社会の状況と無関係ではいられないので、結果社会問題を取り上げることになったという感じでした。新井P的にはどうやらそこに手応えを感じたみたいです。社会問題をやろうって言うのは簡単だけど、書く方としたらあらゆることに気を使わなきゃならなくてものすごく大変で。下手なことをやってたたかれるのは私なんだけどなと思いながらも、じゃあ頑張ります、と腹をくくりました(笑)。今の時代に、プライムタイムの民放ドラマで堂々と社会問題を扱うこと自体に意義があるとも思いますしね」
――そんな裏話があったとは…。社会問題を取り上げているからというのもあるかもしれないのですが、野木さんが手掛けられる作品は全体的に視聴者が欲しい言葉をくれるというか、背中を押してもらえたり、どこか救われたりするセリフが多いと感じます。そのようなセリフはどのように考えられているのでしょうか? インスピレーションを受けているものや、日々言葉集めなどされているのかなと気になっています。
「特に何も意識していないし、何も集めていないですね…」
――意識せずにあんなにたくさん魂が込もったセリフが生まれてしまうんですか!
「(笑)。たぶんですけど、私がただのド庶民だからだと思います。若い頃に貧乏すぎて泣いたこともあるくらいで、だからこそ世の中の理不尽が気になってしまうというか。今の日本って本当に格差が顕著になってしまっていると思うんです。富める者は富めるし、貧しい者は貧しくなっていくし、どんどん格差が開いていて、国も世間も弱者に厳しい。そんな中で、もともと自分が庶民だから書くこともそちら側に寄りそうようなセリフになるのかもしれません。今の私は脚本で生計を立てられているし、すぐに“野木脚本”とか言われもするので、はたから見たら私は勝ち組なんだろうなと思います。でも、私自身としては当時の気持ちは忘れられないし、忘れたくないなと思っています」
――心に届くセリフの数々にはそんな知られざる背景があったんですね。きっと技術面でも鍛錬されていることがたくさんあるんでしょうけれど…。
「いやいや。デビューしてからこの10年はアウトプットばかりで、全くインプットできていないんです。小説も漫画も全く見られていない。仕事のための資料集めはしますけど、それ以外で本当に全くインプットができていないので本当にもうダメですよ(笑)」
――これだけ野木さんが紡ぎ出す言葉に感動している人が多いんですから、ダメなことはありませんよ!(笑)。ところで野木さんが今気になっている世の中の理不尽って何でしょうか?
「とにかく今の世の中ってなんでもカテゴライズして、そのどれかに勝手に当てはめようとします。勝手に誰かを決めつけようともするし、何を言ってもそれぞれ勝手に好きなように解釈する。みんな勝手に誰かをカテゴライズして勝手にレッテルをはって、好きに見るわけです。その時、相手の本質なんて実はそんなに興味もないんですよね。自分の尺度でしか見ないというか…」
――人それぞれの受け取り方がありますよね。
「ドラマや映画に対しても、世の中のいろんな物事に対しても、誰かの発言に対しても、自分が理解できない時に『じゃあそれは何なのか』って考えようとする人がすごく減っちゃって、“自分が分からない=ダメ”に直結してしまう。例えば、大坂なおみさんが何と戦って何を訴えているのか、1人の人間が人生懸けて訴えていることを理解しようともせず、非難ややゆばかりする人を見ると悲しくなります。若い人はその点は柔軟だと思うんですが、そういうことをできなくなってしまっている大人がじわじわと増えているように思え、気になっています」
――大人として背筋が伸びる思いでいっぱいです…。では最後に、今や放送終了後の第4機捜ロスは目に見えていると思うのですが、そんな彼らの裏設定などがあれば教えてほしいです!
「作中では401と404がメインで出てきてはいますが、402と403も実はあるんです。ホワイトボードとかにはちょろっと書いてあったりもします。もともと401から403の3チームで始動するつもりだったけど、九重(世人/岡田健史)が押し込まれたせいで急遽404ができたという設定なので。1話で最初に伊吹と志摩が乗っている車も、本来はあまり機捜車両として使われていない車種なんですが、それしか余っている車がなかったという。いきなり廃車にしてしまいましたけど(笑)。そもそも402と403は同シフトで、401と404が同シフトなのでほとんど入れ違いでの勤務なんです。だから交流がなくて出てこない…という感じです。どんな人たちなんでしょうね(笑)」
作品への率直な思いから、ここだけのお話までとても気さくに語ってくれた野木さん。終始本質を突く言葉を聞いているうちに、物事に固執した頭がほぐれていくような不思議な感覚になりました。そして、野木さんの作品は成長する過程でいつの間にか忘れてしまった“感じよう、考えよう”とする大切さを思い出させてくれる、“大人のバイブル”なのだとあらためて感じました。
作中で志摩が説明したピタゴラ装置のように、人は生まれ持った環境や、誰と出会うか出会わないか、あるいは何かしらのタイミングといったいくつものスイッチによって、たどる道を否応なく左右されるのだとしたら、今作との出合いはまぎれもなく多くの人の分岐点となることでしょう。
【番組情報】
「MIU404」(最終回)
TBS系
金曜 午後10:00〜11:09
TBS担当 A・M
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