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「カオルの葬式」新津ちせが監督・湯浅典子氏と共に撮影の裏話や役への思いを語る2024/12/01

「カオルの葬式」新津ちせが監督・湯浅典子氏と共に撮影の裏話や役への思いを語る

 現在、映画館で絶賛上映中の「カオルの葬式」。今作では、脚本家・カオル(一木香乃)の死をきっかけに、遺言状に喪主になるように書かれていた元夫・横谷潤(関幸治)と、カオルの故郷で暮らすカオルが残した一人娘・薫(新津ちせ)が出会う。さらに、カオルの通夜に集まったカオルの担当マネジャーや友人たち、腹にイチモツを抱えていそうな故郷の人々…一人の女性の死をきっかけに起こるさまざまな事件を、切なく描くエンターテインメント作品だ。

 今回、監督を務めた湯浅典子氏とカオルの娘・薫を演じる新津さんに撮影の裏話や感想を聞いた。

「カオルの葬式」新津ちせが監督・湯浅典子氏と共に撮影の裏話や役への思いを語る

――まず、新津さんを薫役に選んだ理由を教えてください。

湯浅 「この作品の企画が始まった時、横谷と母親のカオルはいましたが、娘の薫はいなかったんです。作っている途中に脚本の西(貴人)さんと、大人の誰もが分かっていることをきちんと言えるキャラクターを作るべきだな、となって生まれました。『人はなんで死ぬの?』と真っすぐな目をして言える人を探している時に、オーディションでちせさんを見て、この人以外にはお願いしようと思えませんでした」

――新津さんは、出演が決まった時の感想はいかがでしたか?

新津 「オーディションが終わった時は自信がなくて、ちょっと駄目だったかもと思っていたので、決まった時はとてもびっくりしましたし、うれしかったです。岡山での撮影が多いと言われていたので、それも楽しみでした」

――薫を演じる上で気を付けたことはありますか?

新津 「薫はあまりしゃべるキャラクターではありません。でも、一つ一つの言葉にきちんと強い思いが乗っている女の子なので、それぞれのセリフの中に薫が持っている思いを乗せてぶつけることを意識していました」

――新津さんと監督、2人で話し合うことはあったのでしょうか。

湯浅 「現場ではあまりなかったと思います。でも、撮影に入る前に質問がびっしり書かれている手紙をもらったのを今でも覚えています」

新津 「監督に、事前に脚本の分からないところやどういうことなんだろうみたいなことを書いて送りました」

湯浅 「本当にしっかりしていたので、きちんと向き合わなきゃなと思って倍にして返しましたね(笑)」

「カオルの葬式」新津ちせが監督・湯浅典子氏と共に撮影の裏話や役への思いを語る

――楽しみにしていたという、岡山での撮影はいかがでしたか?

新津 「自然がすごかったです。日本の原風景のような…。本当に広くて、山々も撮影していたお寺の雰囲気もよく、地元の方々も優しくて、一緒に遊んでいただいたりもして楽しかったです」

湯浅 「ちせさんはいい方向の感想のみを言ってくれていますけど、コンビニまで車で30分はなかなか不便でした。でも、あそこまで行かなきゃ撮れない風景ではあったので、行く意味はあったと思います」

――新津さんは、3週間ほど家を離れ、いつもと違う生活を送ったんですよね。

新津 「泊まり込みで家を離れての撮影だったんですけど、特に緊張を感じたり、ホームシックになったことはなかったです。楽しくて、ご飯もおいしかったです」

――撮影現場の雰囲気はいかがでしたか?

新津 「(今作は)葬式という重いテーマですが、現場は和やかでした。国際共同制作ということで海外のクルーの方もいらっしゃっていて、その方々がとても明るくて」

湯浅 「スペインのバルセロナの方で、『チセー!』って感じです(笑)」

新津 「(クルーの方たちに)引っ張られて、一緒に明るくなっていった感じがしました」

――海外の人に日本の葬式を伝えるため、何か工夫した点はありますか。

湯浅 「国際映画祭に行かせていただくと、海外の方たちの日本の葬式の映画というと、やはり『おくりびと』なんです。今回、コロナ禍の令和に日本葬式の映画を撮るということで、今までの日本映画とは異なる映画として大勢の方に見ていただきたく、バルセロナの撮影監督や音響の方に、日本映画の形に影響されず自分たちの独自の視点で今作を捉えてほしいとオーダーしました。また、俳優さんのお芝居を生で撮ってもらえるように、手に持つ(足を据えない)スタイルで、お寺の中を自由に撮影していただきました」

「カオルの葬式」新津ちせが監督・湯浅典子氏と共に撮影の裏話や役への思いを語る

――横谷役の関さんの印象を教えてください。

新津 「薫は横谷のことをよく思っていなかったので、関さんと仲よくしない方がいいのかなと思っていたのですが、気さくな方で、撮影を通して話し掛けてくださり、とても仲よくなれました。それがかえって、薫と横谷の関係性の変化と重なってよかったと思います」

――それでは、カオル役の一木さんの印象はいかがですか?

新津 「一木さんはとても優しくて、たくさんお話させていただいたんですけど、共演シーンは1シーンしかありませんでした。もっと話したかったんですけど、あのシーンしかお会いできなかったからこそ、薫が母を亡くした喪失感みたいなものを感じることができてよかったと思います」

――親子でありながら、1シーンしか共演がなかったのは驚きました。

湯浅 「私も、この親子のシーンを書くか否かを悩んで1シーンだけ書きました。どのくらい書けば、映画を見たあとの想像の余地を残せるかなと。『カオルはこういう人でした』という押し付けをしたくないなと思って。でも、この眠たそうな娘を母親が起こしながらお弁当を作るっていう日常の1シーンが大好きで、書いて良かったなと思います」

――新津さんは、ほかに印象に残っている方はいらっしゃいますか?

新津 「薫の1シーン目は緊張してたんですけど、友沢役の滝沢めぐみさんが優しく話し掛けてくださって、緊張がほぐれて、とても助かったのを覚えています」

「カオルの葬式」新津ちせが監督・湯浅典子氏と共に撮影の裏話や役への思いを語る

――それぞれ印象に残っているシーンはありますか?

新津 「私は薫が(DREAMS COME TRUEの)『大阪LOVER』を歌うシーンが印象に残っていて、母の思い出の曲を歌うというのは薫にとって、重大なことだと思うし、過去に1回けじめを付けて決裂するきっかけになったシーンとして印象に残っています」

湯浅 「私は、最後に船に乗っているシーンです。一番大きいものをなくしてそれでも進んでいかなきゃいけない…。そんな中、風に背中を押されて少しだけでも進んでいく。安心できる、優しい空気が流れるシーンになっています」

――現場でそれを見た周りの方たちの反応はどんな感じでしたか。

湯浅 「モニターを見ていた時に、左右でメークさんとスペインから来たフォーカスプラーの方が号泣していて、『今見ているから泣かないで』ってなるくらい反応が良かったです。スペインの方が見ても、感じるものがあるくらいのシーンになっています」

――今作は重いシーンが多いですが、撮影現場に子役の方がいると雰囲気は変わったりするのでしょうか。

湯浅 「ちせさんを子役だと思っていた人はいなかったと思います。本当に素晴らしい演技で、皆さんが一人の俳優さんとして接していた気がします。大人な雰囲気の芝居をしながらも、振り返ってみたら橘陸役の(宮川)琥太郎くんと走り回っていたり、地元のエキストラのお子さんたちと遊んだりしていて、不思議な感じでした」

「カオルの葬式」新津ちせが監督・湯浅典子氏と共に撮影の裏話や役への思いを語る

――撮影中に印象に残っていることはありますか?

湯浅 「衣装合わせの時、ちせさんが眼鏡をかけて現場に入ってきた時に、『あっ!』と思って。それまで薫に眼鏡のイメージがなかったのですが、スタッフ全員で『これだ!』とざわついて、そういう時は決まって正しく、そのまま薫が眼鏡をかけることになりました」

――新津さんが撮影に臨む際にやっていた日課などがあれば教えてください。

新津 「今回の撮影はいろいろな国の方がいらっしゃって、いつもの撮影とはまた違う経験をすることが多かったので、毎日日記をつけていました。その日の夜ご飯の内容や、現場に置いてあるお菓子を海外クルーの方と一緒に食べた…みたいなことを書いていました」

――最後に、読者へ向けてひと言お願いいたします。

新津 「いろいろな方に見てもらって楽しんでいただきたいです。大切な人をなくして、そこから愛憎渦巻く群像劇を始めるというテーマと、古い伝統の残った日本のお葬式も共存しているので、日本の方が見ても海外の方が見ても楽しめると思います。コロナ禍で、生きることと死ぬことへの関心が高まった数年間だと思います。劇中で薫が『なんで人が死ぬの』と聞いて、その答えが明示されているわけでもなければ、彼女が答えをつかんだわけでもないと思っていて、薫と同じように考えていただけたらうれしいと思います」

湯浅 「ちせさんがまとめてくださったので、私が言えるのは一つだけです。この作品、おかげさまで去年、岡山で先行上映が9週間にわたり続き、海外でも日本国内でもさまざまな映画祭で上映され、たくさんの方に“映画館で見たい映画”だと言っていただけました。私はあまり想像していませんでしたが、“葬式だけでなく、それぞれのシーンの空気感や音、音楽が自然に体に入ってくる”とも言っていただけて。ぜひ映画館に来て、見て、感じていただけたらと思っています」

「カオルの葬式」新津ちせが監督・湯浅典子氏と共に撮影の裏話や役への思いを語る

――ありがとうございました。

【プロフィール】

新津ちせ(にいつ ちせ)
2010年5月23日生まれ。東京都出身。映画「凪の島」(長澤雅彦監督/22年)や 連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(NHK総合ほか/21~22年)、BS時代劇「大岡越前7」(NHK BSほか/24年) などに出演。


湯浅典子(ゆあさ のりこ)
1976年12月3日生まれ。岡山県出身。 映画「宇田川町で待っててよ」(15年)で長編映画デビュー。 ドラマ「日本をゆっくり走ってみたよ 〜あの娘のために日本一周~」(Amazon Prime Videoで配信中)などで監督・プロデューサーを務める。

【作品情報】
「カオルの葬式」新津ちせが監督・湯浅典子氏と共に撮影の裏話や役への思いを語る


カオルの葬式」
全国公開中
配給:ムービー・アクト・プロジェクト、PKFP PARTNERS LLC

取材・文/S・A



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