俳優・松本旭平が語る、役者人生の分岐点と30歳のこれから2024/11/27
グローバルボーイズグループ・INIを輩出したオーディション番組「PRODUCE 101 JAPAN」のSEASON2に、当時27歳の最年長の練習生として参加した松本旭平さん。以降も、さまざまな舞台や映像に挑戦し続けている彼の最新作となる、2人芝居「一日だけの恋人」が11月27日に幕を開けました。(※松本さんが出演するBチームの公演は12月3日より上演)
松本さんは、この11月に事務所を移籍したばかり。30歳の節目で迎えた新たな出発点に立つ今、20代で味わった葛藤や、思い出深いオーディションでの経験を振り返り、俳優としての自身を見つめ直しているそう。そんな彼の現在地と、最新舞台の見どころについて、たっぷりお聞きしました。
――今年30代に突入した松本さん。何か心境の変化はありましたか?
「20代後半は、周囲との比較や焦りを感じることが多かったのですが、今はいい意味でその気持ちも収まったというか。演技に対しても、もっと学びたいという欲が出てきました。これまで培ってきたことを生かしながら、新しい自分に出会えたらいいなと思っています」
――「PRODUCE 101 JAPAN」への挑戦当時は、27歳。やはり大きな挑戦だったのでしょうか?
「オーディションに参加した2021年は、コロナ真っただ中ということもあり、これが駄目だったら芸能の仕事を辞めるという覚悟で応募しました。僕は参加者の中でも最年長。10代の参加者も多かった分、彼らのひたむきな姿に刺激を受け、自分自身の“がむしゃらさ”を取り戻すきっかけになったと思います」
――ご自身の10代を振り返るといかがでしたか?
「元々歌が得意で、『俺はいける』という根拠のない自信がありました(笑)。だけど、自分よりも優れた方と出会うたびに、『自分の武器は何なのだろう?』と悩み、芸能界の厳しさを痛感していました。さらに20代になると、現実に振り落とされていくような感覚もありましたね」
――悩み多き時期だったんですね。
「20代は特に悩みました。焦っていろんな方の意見を聞き過ぎるあまり、自我が保てなくなっていた時期です。さらにコロナ禍は舞台も軒並み中止になって、1年間くらいほとんどお仕事がなくなってしまったんです。『自分はこの先、どうするんだろう…』と、引退も頭によぎったタイミングで、『PRODUCE 101 JAPAN』SEASON2の開催を知りました」
――参加へと背中を押したものは何だったのでしょうか?
「最初は、自分が参加するとは思っていなかったんです。SEASON1は完全に視聴者として見ていましたから。でも、僕が芸能界を引退しようと思っていることを知った知人が、『だったら最後に挑戦してみたら?』と勧めてくれたんです。思い返せば、僕はそれまで一度も大きなオーディションに挑戦したことがなかったので、よし、受けてみようと覚悟を固めました」
――オーディションには、どのような気持ちで臨まれていましたか?
「一つ選考を通過するたびに、自信につながりました。ただ、最後の101人に残って、初めて他の練習生を目の当たりにした時に衝撃が走ったんです。歌やダンスが未経験の子でも、すでに才能にあふれている人ばかり。その中で自分1人だけ年齢が離れていたので、たちまち『どうしよう…』と自分の未熟さを痛感しました」
――やはり、最年長ならではの苦労があったのでしょうか?
「現場では、学校の先生みたいなところがありましたね。10代の子たちが大勢集まると、それだけでにぎやかになってしまいますから。でも歌やダンスに関しては、僕が教えてもらうことも多かったので、それ以外の面では自分にしかできない役割を探そうという意識がありました」
――過酷なオーディション中、心の支えになったものは?
「やはり、応援してくださる方たちの存在です。順位が下がって心が折れそうになることもありましたが、『僕に投票してくださる方がいる限りは頑張ろう』と言い聞かせていました。同時に、参加者たちともそうやって声を掛け合っていましたね」
――練習生同士の交流で、他に印象に残っていることはありますか?
「期間中はテレビも見られないし、スマートフォンも触れない状況だったんです。中にはプレッシャーで泣き出す子も出てきてしまって…。それもあって、『1日1個、自分のことを褒めよう!』とみんなに伝えるようにしていました。オーディションを経験することによって、自分を褒めること、認めることの大切さを実感することができました」
――20代で苦しい思いを味わった分、ご自身と向き合って濃い時間を過ごされたんですね。
「オーディション番組への挑戦は一つの分岐点になりましたし、多くのことを学びました。それに、5カ月という短い期間ではありましたが、切磋琢磨(せっさたくま)し合った仲間同士の絆は感じています。今でも、会えば当時の感覚を取り戻させてくれる、『頑張ろう!』と奮い立たせてくれる存在です」
――松本さんは普段から面倒見がいいタイプですか?
「昔は年下の子たちがとても苦手でした。僕には姉がいて、どちらかというと“かわいがられたい方”で育ってきたので…(笑)。でも最近は、現場でも年下の子たちと過ごす方が多くなってきましたね。先輩扱いされるのは、なかなか慣れません」
――確かに、カンパニーをまとめる機会も増えたと思います。ご自身はどういうタイプの座長だと思いますか?
「みんなを引っ張るような、いわゆる座長らしい座長ではないと思います。若い共演者が多い現場では、必要に応じてアドバイスを送ることはありますが…基本的には『みんなで力を合わせて頑張りましょう』という感じ。たまにアドバイスを求められることもありますが、人それぞれ合う方法があると思うので、自分の経験をあくまでも参考程度に伝えるようにしています」
芝居の幅を広げて、俳優・松本旭平を知ってもらいたい
――これまでは舞台を中心に活動されてきましたが、30代になって挑戦したいことは?
「舞台も大好きですが、映像の世界にはまだまだ知らないことがたくさんあるので、映像作品にも積極的に挑戦したいです。今年も何回か出演する機会をいただいたんですが、個人的に悔しい思いをすることも多くて。あらためてワークショップに参加するなど、より深くお芝居について学びたい気持ちが強くなりました」
――それによって、映像作品の見方が変わることはありましたか?
「そうですね。ストーリーではなく、役者さん自身に注目するようになりました。細かい目線の動きを追ってみたり、どんな意図で表現しているのか考えながら見たり。今までとは違う視点で見るようになりました」
――特に注目されている俳優さんはいますか?
「柳楽優弥さんです。今もドラマ『ライオンの隠れ家』(TBS系)を見ているんですが、これまでにないちょっと頼りない感じの役柄がすてきだなって。どんな役柄でも、その役として物語を生きる姿に憧れています。柳楽さんを目標にしつつ、すごく研究させてもらっています」
――舞台と映像作品の違いを、どのように感じられていますか?
「映像の現場では、舞台とは異なる緊張感があります。稽古を重ねる舞台と違って、映像は限られた撮影で、自分が持っているものを提示することが大事なので。どんな状況にも対応できるように、芝居の幅を広げることが課題だと思っています」
――確かに、映像では、より集中力と即興力が求められるイメージがあります。
「基本的に、相手役の方と合わせるのは撮影当日ですよね。『あ、こう来るんだ』っていうのが、楽しみであると同時にすごく緊張します」
――やはり本番では緊張しますか?
「はい。一発本番となると『セリフが飛ばないかな?』という恐怖心もすごくありますし。特に長ゼリフを頂いた時は、一睡もしないで現場に行くことも(笑)。入念に準備しないと落ち着かないんです。そういう面では、どんな時でも即興で対応できる俳優さんって、本当にすごいですよね」
――逆に、映像の作品から舞台を経験された俳優さんは、「舞台ってすごい」とおっしゃることが多いです。
「映像と舞台、それぞれのよさがありますよね。映像作品を経験すると、舞台の奥深さをあらためて感じます。舞台では、毎日同じ役を演じても、その日の観客や共演者との間で生まれる空気感によって全く異なる芝居になるので」
――映像の作品を経験された松本さんの新しい魅力を、舞台で拝見できるのも楽しみです。
「もっとより多くの方に、『松本旭平』という俳優を知ってもらいたいです」
「一日だけの恋人」剛役では、今までにないアプローチを披露
――最新作となる舞台「一日だけの恋人」についてもお聞かせください。本作は、ある理由から、初対面にもかかわらず恋人同士のふりをすることになった男女の物語。最初に台本を読まれた際の印象は?
「会話劇ということで、2人の関係性や作品のテンポ感など、新しい挑戦になると思いました。コメディー寄りのストーリーなので、今まで僕が演じてきた役とは異なる点が新鮮でした」
――松本さんが演じる、剛役について教えてください。
「剛という役は、一見おちゃらけているように見えるんですが、心の奥底ではさまざまな葛藤を抱えている人物です。彼は劇団員でもあるのですが、現実と向き合いながらも、本当に自分がやりたいことを貫く決断をした彼の思いは、役者をやっていない人にも刺さる部分があるだろうなと。自分にとっての正義は何なのか。剛の姿を通して、観客の皆さまも自分自身の今と重ね合わせながら作品を見ていただけたらうれしいです」
――本作では、松本さんのどんな新しい面が見られそうですか?
「まずは視覚的に『おおっ!?』となるところから、幕を開けます。おちゃらけている役は過去にも演じたことがありますが、今回は見た目から全力でおちゃらけているので。それ以外にも、今までにないようなアプローチで表現したいと思っているので、舞台そのものを楽しんでいる僕を見ていただけるのではないかなと思います」
――どのようなことを意識されて、稽古に臨まれていますか?
「お客さまに、まるで2人の世界をのぞき見しているような感覚になってもらうことを目指しています。舞台と客席の距離も非常に近いので、息遣いや細かな表情まで伝わってしまうほど。お客さまが『あれ、私に話し掛けている?』と錯覚するような遊びも仕掛けているので、臨場感あふれる、今までに見たことがないような舞台になるんじゃないかなと期待しています」
『いつまでも応援したい』と思える存在に、25年は勝負の年
――今後のご予定についてもお聞かせください。
「来年3月には、舞台『ほおずきの家』の再演が決まっています。物語の舞台が博多なので、ずっと『福岡に行きたい』と言い続けていたのですが、2年越しに北九州公演がかないました。初演キャストが再集結することもあり、とても楽しみです」
――思い入れの深い作品でスタートする25年、幸先がいいですね。
「僕にとって勝負の年ですし、『ほおずきの家』は本当に特別な作品なので、強い縁を感じます。舞台を長くやっていると、駄目出しをいただく機会が減っていくんですが、『ほおずきの家』の演出の横内健介さんは、常に熱心に教えてくださるんです。『これができるなら、もっといける』と提示してくださる方なので、食らいついていきたいと思える。そんな方とご一緒できることは本当に幸せですね」
――プライベートについてもお聞きします。30代を迎えて、今後新たに挑戦したいことはありますか?
「30歳になってから、『自分って未経験のものが多いな』っていうことに気付いたんです。これまで『趣味がない』と言っていたんですけれど、やったことがないから見つけられないんだなって思って。何事も苦手と決めつけないで、新しいことに挑戦していきたいです」
――最後にファンの方に向けてメッセージをお願いします。
「いつも応援してくださっている皆さまに、心から感謝しています。誰かが応援してくれているって、本当にすごいことですよね。そういう方々がいる限り、頑張り続けなきゃいけないと思いますし、いつか『私、あの頃から応援していたんだよ!』と誇ってもらえるように、一緒に頑張りたいなと(笑)。僕のことを信じてくれている人が、こんなに身近にいるんだって感じられることが、とても幸せです。『いつまでも応援したい』と思っていただけるように、もっと高みを目指していくので、応援してくださるとうれしいです」
【プロフィール】
松本旭平(まつもと あきひら)
1994年1月11日生まれ。宮城県出身。「PRODUCE 101 JAPAN」SEASON2に参加。以降も舞台や映像作品に出演。「モデルプレス 読者モデルオーディション 2024」グランプリ。出演舞台、BOW16th「一日だけの恋人/ラストステージ~舞台裏より愛をこめて~」が、11月27日~12月8日に東京・オメガ東京にて上演。松本は、「一日だけの恋人」に出演する。また、25年3月には舞台「ほおずきの家」も控えている。
【作品情報】
BOW16th「一日だけの恋人 / ラストステージ~舞台裏より愛をこめて~」
日時:2024年11月27日~12月8日
場所:東京・オメガ東京
原作:高橋いさを
演出:桒原秀一
チケット購入URL:https://ticket.corich.jp/apply/347519/
取材/実川瑞穂 文/本多恵 撮影/蓮尾美智子
キーワード
この記事をシェアする