咲妃みゆインタビュー「グラウンドホッグ・デー」を通して考える“生きる”ということ2024/10/30
タイムリープものの傑作映画「恋はデジャ・ブ」を舞台化し、オリヴィエ賞2部門に輝いたミュージカル「グラウンドホッグ・デー」。この話題作が、福田雄一演出、桐山照史(WEST.)主演で日本初演を迎える。祭りの1日を永遠に繰り返すことになった天気予報士のフィル(桐山)。そのフィルと心を通わせていくヒロイン・リタを演じるのが、2024年第31回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞するなど躍進の続く咲妃みゆだ。新たな挑戦を前に、今の思いを聞いた。
──本作に初めて触れた時の印象を聞かせてください。
「現実世界ではあり得ない話なんですけど…でも、“ありそうで、ない”みたいな(笑)、すごく絶妙な作品だなと思いました。もしも1日をやり直せるとしたらどうするだろう…と多くの方が一度は考えたことがあるのではないでしょうか。そういう意味でも、皆さまにきっとお楽しみいただけるのではと思っています」
──咲妃さんはグラウンドホッグ・デーという祭りの中継のために町を訪れたテレビ番組のアソシエイト・プロデューサー、リタを演じます。主人公のフィル以外は、同じ1日を繰り返していることに気付いていない。でも日を繰り返すごとに、関係性は変化していく…というのが、面白いところですね。
「はい。フィルさんが1日を繰り返すことによって小さな変化がたくさん生まれていきますが、彼以外の登場人物はその変化を知る由もなく、1日限りの毎日を生きている。その様子を、お客さまは事情を知った上でご覧になる…というのが、すごく面白い構造だと思います。きっとさまざまなシーンでお客さまのリアクションが届いてくると思うので、そちらに意識を持っていかれないようにしないと。これはもう、修行ですね(笑)」
──初共演となる桐山さんの印象はいかがですか?
「初めてお会いした瞬間から、とても気さくにお話をしてくださって、そうした桐山さんの空気感がこの作品に明るい風を吹かせてくださるんだろうな、なんて心強い座長さんなんだろうと感じました。いつかご縁があったらなと思っていた…あえてこう呼ばせていただきますが、“俳優さん”なので、お芝居要素が盛りだくさんなこの作品でご一緒できるのはとても光栄です」
──演出の福田さんの印象はいかがでしょう。
「福田さんの作品は舞台も映像も何作か拝見していて、ミュージカル『ブロードウェイと銃弾』は初演(18年)も再演(21年)も観劇しています。福田さんの稽古場は役者にとっていろいろな試練が待ち受けているといううわさも耳にしますが(笑)、先入観なく飛び込んでいきたいなと。“コメディーと言えば福田さん”とよく言われますが、作品が持つメッセージは逃さない方という印象があって。この作品においても、楽しさだけでなく、作品が伝えたいテーマもしっかりお届けできる道を導き出してくださる気がしていて、とても楽しみです」
──咲妃さんが感じる、この作品の深みや魅力は何ですか?
「同じ1日を繰り返せることが、果たしていいことなのか。どんな日が待っているのか分からないというドキドキが、実はその人の人生を豊かにするんじゃないか。自分に光を与えてくれる存在は何か、逆に自分は誰に光を当てられるのか…そういったところまで考えを広げてくれる作品だと思います。笑いつつ、“生きる”ということについて一緒に考えていただけたらなと思います」
──「やり直せることがいいことかは分からない」という発言の後に恐縮ですが、咲妃さんはもし時間を巻き戻して人生をやり直せるとしたら、いつから巻き戻したいですか?
「宝塚歌劇団に入る前、まだ宮崎で暮らしていた頃に戻りたいかな。今、離れている時間が長ければ長いほど、家族の存在のありがたさを実感するので、あの頃に戻って目いっぱい親孝行したい。一緒にいるのが当たり前だと思っていた頃の自分に、“そうじゃないんだよ”ということに気付いた33歳の私が憑依して…急に風呂洗いや皿洗いを自分から始めたら、両親はビックリするでしょうけど(笑)」
──では、もしフィルと同じく、同じ1日を繰り返してしまう立場だったらどんなことをしますか?
「私は毎日全然違うことをする気がします。できる限り挑戦して、失敗も喜ばしい発見も、とにかく新しい出会いをすごく求めると思います。早起きは得意じゃないんですけど、もしかしたら頑張って朝活をしちゃう日もあるかもしれないですね(笑)。毎日1時間ずつ目覚ましを早めて起きてみるのもいいかもしれない!」
――グラウンドホッグ・デーは、冬眠から目覚めた大きなリスの一種・ウッドチャックの動きで春の到来を予想するお天気占いの行事ですが、咲妃さんはこの占いのように「これがこうなったらこうなる」という、験担ぎのようなことを考えることはありますか?
「普段通る駅までの道に長ーい信号があるんですけど、歩くスピードを調節しないと、長時間待つことになるんです。その道を全力疾走せずに心地いいペースで歩いて行って、すっと渡れたらもう! 『今日は絶対いいことある!』なんて思うかもしれないです(笑)。小さな“うれしい”が不意に訪れた時に、“今日はいい日”って勝手に脳内で転換されるという、幸せな思考回路を持っています(笑)」
――近年は「マチルダ」(23年)や「カム フロム アウェイ」(24年)などの話題のミュージカルから、唐十郎戯曲の舞台「少女都市からの呼び声」(23年)、別役実の童話が原作の音楽劇「空中ブランコのりのキキ」(24年)など、実にさまざまな作品に出演。改めて、多彩な劇世界に身を置いた経験はいかがでしたか?
「“演劇には無限の彩りがあるんだな”と感じましたし、たくさんの新たな出会いがあり、ワクワクしながら生きられることがとてもありがたいと思っています。経験を積むことによって『じゃあ今度はこんな挑戦をしてみたい』という思いも湧き上がってきて。例え達成できなくとも、やりたい気持ちがあるだけで身も心も元気になり、自然と体調も崩さなくなるんですよね」
――すてきですね。では、オフで最近ハマっていることは何かありますか?
「運転です! 『空中ブランコのりのキキ』の東京公演が終わったタイミングで、神奈川・箱根まで日帰りで湯治に行ってまいりました。1日で200km運転したんですけど、全く苦じゃなくて。私にとっては、ドライブ自体が大切なリフレッシュ法の一つなんです」
――旅先ではおいしいものも食べましたか?
「はい。私はおそばが好きなんですけど、箱根にもおいしいおそば屋さんがあって。私の趣味の3大巨頭は食べることと、ドライブと、野球観戦。この三つが私を元気にしてくれています。お芝居もキャッチボールに例えられることがありますが、野球も心理戦なので演劇に似ているなと思うところが多くて。一度たりとも同じ試合はないので、そういったところにもすごく心動かされます」
――では最後に、「グラウンドホッグ・デー」への意気込みを!
「フィルさんは同じ日を繰り返す中で、自分が得た経験を良くも悪くも生かして(笑)、先に進もうとします。それって、人としてすごくいとおしい姿だなと思うんです。私たちも『明日は今日よりいい日になりますように』と心のどこかで願いながら朝を迎える。彼も状況は違えど、それと同じことを願いながら、とある1日を繰り返します。一緒に彼の旅路を楽しんでいただけると思いますし、今日という日に思いを巡らせるきっかけになる作品だと思います。たくさん笑って、明日へのエネルギーを持ち帰っていただく…そんなひと時をお届けできたらうれしいです」
【プロフィール】
咲妃みゆ(さきひ みゆ)
1991年3月16日生まれ。宮崎県出身。魚座。B型。近年の主な出演作に、ミュージカル「マチルダ」、舞台「少女都市からの呼び声」(ともに2023年)、ミュージカル「カム フロム アウェイ」、音楽劇「空中ブランコのりのキキ」(ともに24年)などがある。25年1月より、ミュージカル「ケイン&アベル」にフロレンティナ役で出演を控えている。
【公演情報】
ミュージカル「グラウンドホッグ・デー」
東京公演:2024年11月11日~22日 東京国際フォーラム ホールC
大阪公演:2024年11月27日~12月1日 新歌舞伎座
愛知公演:2024年12月5日~8日 御園座
※詳細は公式HPをチェック
取材・文/羽成奈穂子 撮影/尾崎篤志 ヘアメーク/本名和美 スタイリスト/國本幸江
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