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「虎に翼」桂場役・松山ケンイチが“団子”に込めた思いとは?2024/09/20 12:00

「虎に翼」桂場役・松山ケンイチが“団子”に込めた思いとは?

 NHK総合ほかで放送中の連続テレビ小説「虎に翼」。物語の主人公・佐田(猪爪)寅子(伊藤沙莉)は、昭和13(1938)年に日本で初めて誕生した女性弁護士の1人として日本中から注目され、憧れの的に。その後、戦争で父・兄・夫を亡くし、家族を支えるために司法省で働き始め、「家庭裁判所の母」と呼ばれるように…。

 今回は、桂場等一郎を演じる松山ケンイチさんにインタビュー。桂場への思いや団子を食べるシーンへのこだわりをお伺いしました!

 ――演じる桂場と松山さんご自身が似ている部分と違う部分を教えてください。

「桂場のモチーフになった方は、小さい頃から剣道をやっていたと聞いて。武道に携わった人なので、武士の精神を桂場の中に取り入れたいなと思っていたんです。僕は、2023年度の大河ドラマ『どうする家康』で本多正信を演じていたので、男性社会の中での立ち居振る舞いや、覚悟、厳格さは自分自身もすごく研ぎ澄まされている部分で、取り入れたいなと。桂場は、司法の独立のために生きているみたいなところもあり、ちょっとでもブレるわけにはいかないと、自分で律している部分があるんです。司法の独立はそれだけ難しいことだし、闘わなければ三権分立にならないですよね。でも、僕はそこまで考えて生きていなくて、周りの常識やルール、法律を受け入れつつ、その中で自分はどう心地良く、幸せに生きていくのかを考えているので、厳格さを持って生きている桂場とは全然違うんです。でも、そういう厳格さの中にも、団子が大好きだったりする部分だけは、人としてすごく似ていると思います。食べないとやっていけないですし。岩田(剛典)くんが演じた花岡悟は、自分が担当していた食糧管理法を守って餓死しましたよね。でも、桂場はそうではなくて。どっかで線引きをしているというか、そういうところは現代を生きる上でなくてはならない感覚なのかなと思って、自分にも近いなと思いました」

――ちなみに、甘いものはお好きですか?

「そうですね。歳を取ってくるとそんなに食べなくなりますけど、好きですね」

「虎に翼」桂場役・松山ケンイチが“団子”に込めた思いとは?

――主演の伊藤さんをどんな俳優だと思ってお芝居されていますか?

「沙莉ちゃんは電池切れみたいな状態が全くないんです。僕は大河ドラマで主演を務めた時に、電池切れになって役の方向性が迷子になり、修正することすらも考えられなくなる状態を何度か経験したのですが、沙莉ちゃんを見ていると迷いがないように感じていて。演じる年齢や環境、立場が変わってくる中で、演じ方をそれぞれ分けていかなきゃいけないと思うのですが、迷いなくやられていて本当にすごいなと。体力あるなと思います」

「虎に翼」桂場役・松山ケンイチが“団子”に込めた思いとは?

――今作の中で、桂場はどのような役割を担っていると考えていますか?

小林薫さんが演じた穂高先生は、桂場にとってもトラ(寅子)ちゃんにとっても先生で。桂場は穂高先生の考え方を『理想論だ』と言っていましたけども、一番そこにこだわっているのは桂場だと思うんですよね。穂高先生も言っていましたが、古くなっていく考え方や、価値観をどう現代の解釈と擦り合わせていくのかに、最高裁長官として桂場は取り組んでいる。一方で、トラちゃんは家庭裁判所の部分から何かを変えようとしている。変えようとしている広さが全然違う中で、桂場には1人では全てさばき切れない部分があるんですよね。桂場は、頼れる人がものすごく少ない人なんですよ。法曹界ってたくさん人がいるんですけど、その中でも司法の独立にたぶん一番こだわり抜いてるのが、桂場で。司法の独立の理想を追求するためには家庭裁判所の問題だけではないものも全てジャッジしなくてはいけない中で、司法の独立を実現するために、自分が最高裁長官にいる間に、司法の独立を成立させるためには何が必要なのかって、全部解決していけなかったりするわけです。なので、どこかで切り捨てないといけない課題が必ずあって。トラちゃんからしたら間違いを犯していたりとか、裁判、法曹界の人間をないがしろにしているような描写も出てくるわけです。これが間違っているか間違っていないかは、僕には判断できないんですが。そういう理想と理想のぶつかり合いみたいなものが、終盤になるとより出てくるんです。桂場って本当に平等、公平性みたいなものがすごくある人間だとは思うのですが、最後の最後にその公平性すらも捨てて、司法の独立という方向にかじを切る瞬間があるんです。そこで、トラちゃんや法曹界にいる人たちにとっての壁のようになっていく瞬間があるので、味方でもあるし、時には敵にもなるというところですね」

――尊属殺の裁判前に航一(岡田将生)が鼻血を出して訴え、桂場の心境に大きな変化をもたらすシーンがありますが、このシーンを演じられての感想を聞かせてください。

「岡田くんが演じる航一は、表面上は桂場に寄り添っているようなキャラクターではあるんですけど、それでも航一は、自身の意見を飲み込んでいるような状況が結構あったんですよね。それは演技を見ていても感じることですし、桂場自身も気付いていることではあるんですけど。そんな中、最後の最後で航一が鼻血を出すのはすごく面白いですよね。もし鼻血を出さなかったら、桂場は航一も切り捨てるぐらいの強さは持ち続けていたと思うんです。けども、航一が鼻血を出したことで、刀を構えて振り下ろす直前で、一瞬止まって素に戻った。刀を振り下ろさなかったのが、すごいなと思って。桂場の中にも、穂高先生の思いを完遂させたいという思い、最高裁長官の任期が差し迫っている焦りだったり、やりたいことだったり、いろいろなものがある中で、自分の意見すらも切り捨てて、最終的には司法の独立をするための動きをしていたわけですけど。今、目の前に変えることができるチャンスがあるっていうことを、改めて航一やトラちゃんに教えてもらって、自分の中で大事に思っていた部分は別に消す必要もないっていうこと。桂場自身の生き方、かつての考えみたいなものも肯定してもらえたというか。桂場はもう独走しているので、今は肯定してくれる人がいないですからね…。そういうところがすごく響いた、素晴らしいシーンでした」

「虎に翼」桂場役・松山ケンイチが“団子”に込めた思いとは?

――視聴者や、SNSのフォロワーからの感想で印象に残っている言葉はありますか?

「僕は小道具を使うのがすごく好きなんです。いろいろな表現ができると思って現場で遊んでいるんですけど、『誰も気付かないだろうな』と思っていたものが気付かれていて。すごいなと思う一方、怖いなとも思いました。画面に写る全てが表現につながってしまうので。指先まで何を表現するべきなのか考えさせられました。体全体で役を表現することの怖さや大切さは、SNSの皆さんの発信の中から感じることがありますね」

――桂場は普段仏頂面で、意外なところでニヤっと笑ったりするすごく面白いキャラクターですが、桂場を演じたことで、何か得たもの、いい経験になったと思ったことがあれば教えてください。

「脚本と演出、あと共演者の方々の受けで、桂場を面白くしていただけていると思うのですが、仏頂面が基本の形なので、そこからどう表現していくのかは常に考えていて。桂場は自分の心情を説明するような人でもなくて、最初の頃は『女性は男性より何十倍も勉強しないとダメだ』みたいなことを言っていますし、ずっとあおっているんですよね。それがある意味背中を押しているんですが、桂場はそういうふうにしか表現できないんだろうなと。でもそれだけだと、表現の幅が狭くなってしまうので、仏頂面をどこまで崩して表現するかは常に探っていましたね。表情の代わりに、手や他の部分で表現できることもたくさんあるので。今回は、団子もありましたし。桂場は、団子を食べようとしている時にトラちゃんに話しかけられると、無視して食べるわけでもなく、かといって団子を一度置いたりはしないんです。団子を置けばいいんですけど、置かないんですよね。団子を優先するのか、トラちゃんの話を優先するのか迷っているんです。団子一つでどういう人間性なんだろうっていうのは、見ている方にも伝わるじゃないですか。そういうことが今回いろいろ試せたんです。本当にいろいろなことをやらせていただいて、現場の皆さんには本当に感謝しています」

――最後に視聴者へのメッセージをお願いします

「僕は、役に対して自分の理想みたいなものを込めちゃうところがあって。僕は法曹界の人間でもないし、ただの田舎のおじさんなんですけども、桂場は法や人権、権力に対して、戦う人であってほしいなと。その理想がドラマにもかなり作用されているような気がするんです。人ってどうしてもいろんな苦しみや喜びがあって、文化の違いもある中で、日本全国の一律の法律を作るってすごく難しいことだと思うんですよね。そんな中で、1人の人間が最高裁長官になってジャッジをしていく。正しさ、間違いは恐らくすごくたくさんあるし、時代によって正解がどんどん変わってくるんです。人は、みんな間違うのが当たり前で、その間違いに気付くことで議論が始まっていくと思うので、そういうことを登場人物を通して皆さんに伝えることが、一つのテーマなんじゃないかなと。認めることも本当に大切なことで、そこからどう対峙(たいじ)していくのか、付き合っていくのかが、人権を大切にすることだと思います。最後の最後まで見どころばかりですし、桂場が人をどんどん切っていくような描写もあります。重い話もありますが、コミカルな描写もあり、織り交ざった人間讃歌、人に対しての優しさを感じられるドラマになっているので、ぜひ最後まで見届けていただけたらうれしいです」

――ありがとうございました!

「虎に翼」桂場役・松山ケンイチが“団子”に込めた思いとは?

【プロフィール】
松山ケンイチ(まつやま けんいち)
1985年生まれ。青森県出身。2002年、ドラマ「ごくせん(第1シリーズ)」(日本テレビ系)で俳優デビュー。2012年、NHK大河ドラマ「平清盛」にて、平清盛役で主演を務めた。12月20日に公開予定の映画「聖☆おにいさん THE MOVIE~ホーリーメン VS 悪魔軍団~」では、染谷将太とダブル主演を務める。

【番組情報】
連続テレビ小説「虎に翼」
NHK総合
月~土曜 午前8:00~8:15ほか ※土曜は1週間の振り返り
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
月~金曜 午前7:30~7:45ほか

NHK担当/Kizuka



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