「虎に翼」吉田恵里香が続編を書くならそのテーマは…?2024/09/15
NHK総合ほかで放送中の連続テレビ小説「虎に翼」。物語の主人公・佐田(猪爪)寅子(伊藤沙莉)は、昭和13(1938)年に日本で初めて誕生した女性弁護士の1人として日本中から注目され、憧れの的に。その後、戦争で父・兄・夫を亡くし、家族を支えるために司法省で働き始め、「家庭裁判所の母」と呼ばれるように…。
今回は、脚本を担当した吉田恵里香さんに最終回に向けての見どころなどをインタビューさせていただきました!
――脚本を書き終えた時の気持ちを教えてください。
「終わらないでほしいなという気持ちと、やっと最後まで書き切ったという達成感がありました。役者さん、スタッフさん含めて、すごく恵まれた現場で、最後までずっと楽しく書くことができました。満足して出し切ったんですけど、扱いたかったこととか、もうちょっと深掘りしたかった人もいるので、あと1クール(3か月)ぐらいあってもよかったなと思えるくらい楽しかったです」
――伊藤さんの演技をご覧になった感想をお聞かせください。
「伊藤さんが演じてくれればいいなというところから始まっているので、出演が決まった時からすごくうれしかったです。しゃべりの演技も、喜怒哀楽の表情も本当に素晴らしくて。『伊藤さんだったら、ここは嫌われずにいけるだろう』という気持ちを込めて書いていた部分もあります。最近の大人になった寅子の演技が、やり過ぎていなくて、すごくいいなと思っていて。口調やしゃべり方は若々しく、所作やまなざし、ほほ笑み方などで年齢を演じ分けてらっしゃるので、素晴らしいなと思っています」
――伊藤さんとのやりとりで、印象に残っていることがあったら教えていただけますか?
「結構現場に顔を出させてもらっていたんですけど、いつ行ってもニコニコしていて、笑い声が聞こえてきて。『あ、伊藤さん今日も元気だな』と思っていました。話していても、『(撮影が)楽しいです』とか、『このシーンすごくよかったです』とか明るく話してくださった。いろんなものを背負われているはずなのに、現場がピリピリしてたり、むすっとしているってことが1回もなかったので、本当にすごい人だなと思っています。お話させていただくと元気をもらえますし、周りを笑顔にする才能もある方です」
――猪爪花江(森田望智)は、もう1人の主人公だと思って描いていらっしゃったそうですが、吉田さんが花江に託したもの、そして花江を描く際に大事にしていたことを教えてください。
「朝ドラでは、何かを成し遂げた男性の“奥さま”にフォーカスした作品もあるので、花江の朝ドラがあってもおかしくないように考えて書きました。花江は、“社会に出たい”“働きたい”という気持ちは一切なくて、家庭に入って家族を支えたり、家族のために生きることに幸せを感じている人なんです。それは一貫しているので、働きに出るという描写はやめようと思っていて。彼女が働いたのは、戦後の縫い物の内職ぐらいなんですよね。社会構造的に、バリバリ働く人のためには誰かケアする人がいなきゃいけなくて。その改善策は私にも分からないんですけど、そういう構造の中で、支える側が二軍扱いされてしまう世の中に、すごく腹が立つなと思っていて。お互いに支えあって、家庭を円満にすることがどれだけ大変で大事かは、支える側の努力でしか成り得ないことで。でも、それを全部担って、やらされるみたいに思われるのは違うと思っていて。家庭のことは、みんなが支え合うことだと思っています。猪爪家も、途中からみんなで支え合う方向に変わっているんですけど、その主戦力は花江で。義弟の直明(三山凌輝)の同居の話なども含めて、彼女を取り巻くような考えが見えてくるようにしたつもりです」
――寅子の口癖の「はて?」を思いついた経緯、込めた思いを教えていただきたいです。
「第1話から出てくるので、初期から決まっていたことなんですけど、寅子が今、疑問に思ったんだなとか、おかしいなと思ったんだなと分かりやすく提示できる言葉がほしくて。寅子も、誰かを否定や攻撃したいわけではないので、強くない言葉と考えました。『違うんじゃないんですか』『はあ?』だと、会話が終わってしまうので、思ったことを口に出して対話していくというテーマの導入になればいいなと思って考えました」
――吉田さんは、普段から「はて?」を使われていますか?
「使わないです。口癖だったら、台本を書いている時に、『吉田さんの口癖出ていますよ』と言われてしまうので、ないですね(笑)」
――もう1クールやりたかったということですが、どんなテーマやキャラクターにフォーカス、掘り下げて描きたいですか?
「山田よね(土居志央梨)もそうですし、轟太一(戸塚純貴)、佐田優未(川床明日香)、星航一(岡田将生)、桜川涼子(桜井ユキ)、梅子さん(平岩紙)もヒャンちゃん(ハ・ヨンス)も一人一人に、これも描きたかったなというエピソードがいっぱいあり過ぎて。最終回もぎゅうぎゅうに詰まってしまったのも、『虎に翼』っぽいなと思って満足度はあるんですけど、女子部時代を含めて、もっと振り返りたかったですね」
――ここまでの中で、役者さんがお芝居をされることで、吉田さんが思い描いていた以上になったキャラクターはありますか?
「(名村辰演じる)小橋(浩之)がすごく愛されているなと思います。役者さんの力もすごくあると思うんですけど、私も後半になるにつれて、小橋の落としどころを意識していました。第11週の新メンバーとして、小橋と(松川尚瑠輝演じる)稲垣(雄二)が出てくるっていう時点で、愛されてたってことだと思うので」
――寅子の結婚式の時に、小橋と稲垣がいないことがネットニュースにもなっていましたね。
「小橋と稲垣は汐見とヒャンちゃんが結婚していることを、この時点では知りません。寅子を祝う場ではありますが、大前提としてヒャンちゃんが傷つかない気持ちでいられる人、安心して会える人を選んだのもあると思うんです。ヒャンちゃんは大人になった2人を知らないので。別に仲間外れにしたわけじゃないですよ。多分ね。寅子のことを考えたら、いるべき存在なんですけど、ヒャンちゃんをとりまく差別と植民地時代の問題があって、人間関係にもいびつさも生まれてしまうんですよね」
――キャラクターの役名には、名字しかない人、名前しかない人といますよね。名前の付け方には脚本家さんのこだわりが詰まっていると思うのですが、吉田さんはどのように考えているのでしょうか?
「私個人の考えでは、主人公がどう認識しているかが大きいので、(佐田)優三さん(仲野太賀)とか、ヒャンちゃんとか、『さん付け、ちゃん付け』で書く方が好みなのですが、今回は登場人物が多いのでそういう書き方はしていないです。作品と、その作品においてどういう役割かを大事にしている部分が大きいですね。なので今回はどちらかだけの人もいますし、フルネームの人もいますけど、そういうキャラクターとしてその場にいてほしいっていうのが大きかったんです。でも今回、名前にまつわることを作中で扱うことが多くて、だんだん後半になるにつれて、みんなフルネームを決めた方がいいかなと、自分の中のマインドの変化もありました」
――憲法第14条を山田轟法律事務所の壁に書くアイデアは吉田さんから出たのでしょうか?
「私は紙に書いて壁に貼ってあると書いたので、まさか壁に書くとは思っていなくて。でも、『確かに、よねなら書くかも』と思いました。事務所にずっと残っていて、象徴として使われているので、すごく好きなセットですね」
――ほかにも、脚本とは違っていて驚いたシーンはありますか?
「第10週の最後の『次週へ続く』が小橋のセリフになっていたので、愛されているなと。演出の梛川(善郎)さんは、小橋のこと大好きだなと思いました(笑)。ほかには、よねと轟がしゃべっている時に、階段を使っていたり、(撮影の)構図がすごく上手な作品だなと思っているので、出来上がった映像を見ていてワクワクします。私がセットを把握して書いているものと、知らないで書いているものがあるので、セットが生かされているのを見ると、胸がときめきます!」
――大きな山場である原爆裁判とそれにつながる戦争中の描写について、脚本制作に当たってどんなことを心掛けたか教えていただけますでしょうか。
「モデルの三淵嘉子さんが原爆裁判を担当されていたことを知った時から、扱うことは決めていたんです。この作品自体は、戦後がメインで、戦争の傷跡を描いている作品なので、原爆裁判を大きな山場として書きたいという思いがあって。でも、どこまで扱うか、自分の中で扱い切れるのかが不安で…。今回は、スタッフさん含めてすごく信頼があったので、真正面から扱うことにしました。もちろん私も調べましたが、法律考証の先生方、演出の方含め、すごくいろいろなことを調べていただいて、私の30年生きてきた知識でも全然知らないことだらけで、学ぶきっかけになった社会問題、日本の歴史だったので、良かったです」
――夫婦別姓やLGBTQの問題をこの作品に盛り込んだ背景、意図を教えてください。
「作品として、人権とか法律、憲法14条の国民が平等であるということがテーマです。もちろん昔と比べたら良くなっていることはたくさんあるんですけど、まだ周知されていないことによって、平等ではない扱いをされている人がいるのが事実です。それが、いま始まったのかというとそうではなくて、寅子が生きている時代や、寅子が生まれる前から存在したことばかりなんです。そんな当時の大部分の方々が見ないようにしてきたことを、きちんと見せることに意味があると思ったので、当時からいた人を書こうという気持ちが強くて、この形になりました。挑戦として書いたわけではなく、寅子が出会う人を考えれば通る道だと思います。私が盛り込んだ訳ではなく、今までが意図的に削除されたり省かれたり目をそらされたりしてきただけだと思います」
――視聴者の皆さんにどう受け取ってほしいですか?
「浮かんだ気持ちに正直でいいと思っています。そういう問題を抱えた方々が、当時からいたということは事実で、現在も変わらないので、70年以上たってもあまり変わっていないということに、『どうしてなのかな』と思いをはせていただけたら」
――夫婦別姓や同性愛について、視聴者から「当時からいたよね」や「今も変わってないね」という気付き、反響が届いていると思いますが、どう感じられていますか?
「差別や誹謗中傷をしなければ、どういった感情を持ってもいいと思っています。当時から苦しんだり、折れて世の流れに身を任せた人もいっぱいいたと思うので、それを知ってもらうってことが大事で。これらの問題が、最近出た問題と思っている人が結構多くて、『今出たばかりで、解決できないから未来に投げちゃおう』みたいなマインドになってしまうと思うんです。だけど、実は100年近く前からずっとあった問題なんだよと分かってもらうことが第一歩で、そこからいろいろ始まるのかなと。さまざまな意見はあると思うんですけど、作品への好みとかは私が口出しすることではないし、作品の好き嫌いとかはその人が決めればいいと思うんです。ただ寅子の時代にも悩んでいた人が確実にいて、今も悩んでいる人がいるっていうことに対して、否定するのは違うと思っています。私はどう言われてもいいんですけど、当事者の人が批判されたり、矢面に立つべきではないと思うので、エンターテインメントとしてやれることがあるんじゃないかと思っています」
――性的マイノリティーについて、勉強したいけれど間違ったことを聞いて傷つけてしまうことを恐れて行動に移せない人もいっぱいいると思います。そんな中で、吉田さんはどういうふうに向き合って作品を描いたのでしょうか?
「当事者の人って、教材でも教える側でもないんです。やっぱり当事者の人に聞きたくなってしまうし、私も聞いてしまって反省する部分もあるんですけど。教える事を当事者の人がやるのは違うと思うので、エンターテインメント作品がそれを担って『知るきっかけ』になるのは大事だと思います。大半のことは、学術書とか研究書含めて信頼度が高い情報が増えているので、きっかけさえあればそこから知ることができるんです。私も間違ってしまうことはあって、それで当事者の人を傷つけてしまうことに関しては、もう本当に申し訳ないって気持ちなんです。でも、怒られるからやらないというマインドの人の方が多いと、マイノリティーな人たちを邪魔者扱いしたい人たちの思うつぼになってしまうんじゃないかなと思うので。私が元気なうちは、私が怒られる分にはいいので、自分が勉強したり、書くことを当たり前にしていきたいと思っています。未来に託し過ぎて、『今は怒られない範囲で、敵を作らないようにしておこう』とすると、歩みが遅くなってしまうので。人は絶対に間違えるので、知ろうと思うことを恐れないでほしいです。みんなどこかしらでは怒られるし、間違ったことをしてしまうと思うんですよね。開き直るわけではないですが、それはもう勉強してこなかった私たちの責任なのでしょうがないと思っています」
――語りの尾野真千子さんの役割が、ナレーションだけではなく、寅子の言葉を代弁したり、いろんな役割を担ってらっしゃると思うのですが、尾野さんの語りについて教えてください!
「尾野さんに決まったことが、すごくうれしくて。語りの幅が広がったなと思って(台本を)書いていました。短い文章で感情移入をしなきゃいけないのが語りなのですが、『スンッ』『はて?』のような短い言葉に込める感情が素晴らしいんです。『虎に翼』においては、寅子の感情を視聴者にナビゲートする役割も担っているので、題材的に暗くなりがちな『虎に翼』が明るくポップなものになっているのは、語りの影響も大きいなと。あとは、実際に聞いてから『尾野さんだったらこの短い説明でもいけるな』とか、逆に『この長い説明のセリフもいける!』と信頼度は上がりましたね。説明しなきゃいけないことが多い題材でしたが、そこの不安感はなく書けたのはすごくありがたかったです」
――周囲の方からの朝ドラの反響や、SNSで意外な評価だった反響を教えてください。
「10年ぐらい連絡を取っていなかった同級生から、『ネットニュースになってるよ』と連絡が来て、コミュニケーションのきっかけにつながったのが良かったですね。息子の朝の支度が手間取らなかった日は、リアルタイムでハッシュタグの投稿を見ているんですけど、轟がすごく愛されていて驚きました。私も好きなキャラクターですが、ここまでみんなに愛されるとは思っていなかったです。轟は、難しいキャラクターとして出てきたので。彼が愛されることになったのは戸塚さんの力ももちろんあると思うんですけど、うれしいなと。制作陣に愛されていた小橋に続き、思っていました」
――吉田さんは、夢を口に出していくタイプだとお伺いしました。朝ドラの脚本が夢だったということで、次なる夢を教えてください!
「また朝ドラをやることですかね。朝ドラのオファーが早いうちに来るのが、夢ですね!」
――次の作品も楽しみにしています! ありがとうございました。
【プロフィール】
吉田恵里香(よしだ えりか)
1987年生まれ、神奈川県出身。脚本家・小説家として活躍。主な作品は、「花のち晴れ~花男 Next Season」(2018年/TBS系)、「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」(2020年/テレビ東京系)、「君の花になる」(22年/TBS系)。22年、「恋せぬふたり」(NHK総合)で第40回向田邦子賞を受賞。
【番組情報】
連続テレビ小説「虎に翼」
NHK総合
月~土曜 午前8:00~8:15ほか ※土曜は1週間の振り返り
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
月~金曜 午前7:30〜7:45ほか
NHK担当/Kizuka
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