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ヨーロッパ企画「来てけつかるべき新世界」再演決定! 上田誠×藤谷理子×岡田義徳インタビュー2024/08/10

ヨーロッパ企画「来てけつかるべき新世界」再演決定! 上田誠×藤谷理子×岡田義徳インタビュー

 京都を拠点に全国で人気を博す劇団・ヨーロッパ企画が2016年に上演した「来てけつかるべき新世界」の再演が決定。作・演出を務めるヨーロッパ企画代表の上田誠さんと、初演でも同じ役を務めた藤谷理子さん、今回初めてヨーロッパ企画の舞台に参加する岡田義徳さんに、再演にかける思いと本作ならではの見どころを伺いました。

 この日は、客演となる岡田さんが、藤谷さんと初めて顔を合わせたにもかかわらず、早速打ち解けて“おもろい作品”への熱い思いを語り合ってくれました。

ヨーロッパ企画「来てけつかるべき新世界」再演決定! 上田誠×藤谷理子×岡田義徳インタビュー

──2016年に上演した『来てけつかるべき新世界』。今回、8年ぶりの再演となりますが、まずは初演時のお話から聞かせてください。

上田 「僕ら、関西で劇団をやっていますが、標準語で芝居をすることが多くて、実は関西ものをやったことがなかったんです。“大阪人情喜劇”みたいな世界観をいつかやってみたいなと思っていたなかで、『大阪のおっさんmeetsドローン使い』という掛け算をやったらよさそうだなという思い付きでした(笑)」

──再演を決めたいきさつは?

上田 「ヨーロッパ企画のメンバーは男性が多いんですけど、この作品では客演で藤谷さんをお呼びしました。狂言回し的な役割でおっさんたちを立たせてもらったら、すごくうまくいったんです。お客さんの反応もよかったし、自分的にもなかなか書けない作品になったという自負があって。ヨーロッパ企画はあまり再演をしてこなかったんですが、これはまたいつかやりたいな…と思っていたら、時代がマッチしてきた。それで、そろそろやってもいいかなと考えたんですね。でも、満を持してというわけではなく。新作をやったり、コロナ禍を経て、気付いたら8年経っていた感じです」

──本作は大阪・新世界を舞台にしたSF人情喜劇です。ドローン、ロボット、AI、といったテクノロジーが劇中に盛り込まれていますが、初演から8年を経て、現実のテクノロジーがかなり進化しましたね。

上田 「ファミレスでハンバーグをロボットが運んで来るようになって、当時から考えると、AIやテクノロジーを取り巻く状況が変わっていますよね。第1、2章は当時の世相を反映させていたので、そこはアップデートさせてはいますけど、大きな改稿はありません。むしろ、時間が経ったら時代に追いつかれるとは思っていたんですよ。初演当時はファンタジー色が強かったけど、今となってはリアリティーが色濃くなってきた。生成AIの出現でテクノロジーの進化がぐっと身近になって、世間の方々もそういった存在を無視できなくなってきたと思いますし。だから、芝居の内容そのものを進化させたというよりは、新たなキャストを迎えての布陣で作る面白さのほうが僕としても楽しみなんです」

ヨーロッパ企画「来てけつかるべき新世界」再演決定! 上田誠×藤谷理子×岡田義徳インタビュー

──岡田さんをはじめ、町田マリーさん、板尾創路さんらが新しくこの座組に加わりました。どのような視点で新たなキャストにオファーされたのでしょうか。

上田 「岡田さんは、2007年に僕が脚本を書いたドラマ『ユキポンのお仕事』(テレビ東京)に出演していただいたことがあって。去年も『横道ドラゴン』(DMM TV)でご一緒していたので、そろそろまた一緒にやりたいなと思っていて。『来てけつかるべき新世界』には恋する散髪屋さんの役があるんですが、岡田さんにその役をやっていただけたら、エモーショナルさとかわいらしさとアホらしさとが相まった絶妙なバランスになりそうだなと考えたんです。関西人情喜劇といったら普通、関西出身者以外は考えないかもしれませんけど、同じく新キャストの板尾(創路)さんが“THE ド関西”ですからね(笑)。演技って、うまい距離感があったほうがいい効果を生むこともあるんです。ジャストでハマり過ぎるよりは、アプローチのなかで面白いことがあったほうがいいと思いました」

岡田 「再演ということで、初演と同じキャストがいらっしゃるなかで、僕と板尾さん、町田(マリー)さん、角田(貴志)さんの4人の役が変わります。僕の場合は前回、本多(力)くんがやっていたという乗り越えなければいけない壁が一つあると思うんです。初演も拝見しましたが、そこには、本多くんにしか打ち出せない世界観があった。僕は僕でそれとは違う、僕なりの面白さを皆さんと一緒に打ち出すことにチャレンジしていきたいなと。年代の近い方も多いので、新しいチャレンジがすごく楽しみです」

上田 「俳優さんありきでの芝居、という形になっていくと思います。板尾さんは最初、クリーニング屋のおっちゃんをお願いしようと思っていたんですけど、板尾さんに『マナツのお父さんのほうが興味がある』と言われて、オファー時とは違う役をやってもらうことになって」

ヨーロッパ企画「来てけつかるべき新世界」再演決定! 上田誠×藤谷理子×岡田義徳インタビュー

──舞台の大阪・新世界という、大阪のなかでもものすごくディープな場所が舞台の人情喜劇に出演されることについて、非関西圏の岡田さんはどうお感じですか?

岡田 「新世界って、結構ハードコアだと思うんですけど、実は僕、そういう世界観が大好きなんですよ。ああいうところには、すごくセンスのある方々がいて、あまり表に出てこない表情があると思うので。それが舞台になる面白みを感じています」

上田 「歓楽街ではありますけど、テーマパーク的な面もあるんですよね。そこが不思議な場所なんです」

岡田 「『10円玉を3枚並べて30円で売ってるおっちゃんがいたで~』って、知り合いから聞きました(笑)」

藤谷 「『新世界のおっちゃんやおばちゃんは、“新世界のおっちゃん”“新世界のおばちゃん”の役割を全うしているんや』って聞いたことがあります。それ、ちょっと腑(ふ)に落ちます」

上田 「僕らは京都出身ですけど、『京都人はいけずや』って聞くと、そう振る舞ったりしますからね(笑)。そう考えて書けばいいんだなって思いました」

ヨーロッパ企画「来てけつかるべき新世界」再演決定! 上田誠×藤谷理子×岡田義徳インタビュー

──初演時は客演だった藤谷さんですが、今回はヨーロッパ企画の劇団員としての出演です。立場が変わったことで、変化したことはありますか?

藤谷 「初演のときは、お稽古がしやすいように先輩方にもてなしてもらっていた部分があったので、今度は私がもてなさせていただければと思います(笑)」

岡田 「新人劇団員としてがんばらせていただきます!(笑)」

藤谷 「私の役(マナツ)は狂言回し的な役割があって、長ゼリフが多いんですね。でも、台本が全部そろったのが3日前とかで、初日の記憶があまりないんです。それに比べると、今回はちょっと余裕が出てはいます。これは決して上田さんへのクレームではありませんが(笑)、今回はもうちょっと作品と向き合えるかなって。おっちゃんたちに対する物言いも、前回より入り込めそう。とはいえ、初演は初演で勢いのよさもあったので、そこは失わずにいけたらなって」

上田 「当時より丁々発止が遠慮なくできるようになっているよね。初演からのメンバーも押しも押されもせぬおっちゃんになっていて、ちょうどいい頃合いですね。より今のほうがこの世界観のグルーブ感は出るんじゃないでしょうかね。岡田さんにはいきなりそこにがっつり入っていただくことになりますが…お互い、響き合っているんじゃないかなと」

岡田 「僕ももういいおっちゃんですからね(笑)。『おもろいおっちゃんやな』って言われたい(笑)。藤谷さんは、初演当時は20代前半だったの?」

上田 「大学生でした」

岡田 「20代の8年は大きいですよね」

藤谷 「21歳だったんですよ。その違いが色濃く出るのがおっちゃんたちとの関係性かと思います」

上田 「僕らヨーロッパ企画は群像劇をやる劇団ですが、20代の群像は“若者群像”。おじさんの群像も、町内会などで描けます。でも、実は30代の群像って仕事以外にあまりないんですよ。だから、30代のときはヨーロッパ企画でコメディを作るのが難しかったんです。で、いま思い出しましたが、はやくおっちゃんになりた過ぎて30代後半で『来てけつかるべき新世界』を書いたんでした。だからこれは、“ここからおっちゃんモノをやっていくぞ!”っていう宣言をしたような作品でしたね。…でも、この後に、むしろ若いときにしかできんこともやらなきゃって慌てて『サマータイムマシン・ブルース』を再演して。ブレまくっていますね(笑)」

ヨーロッパ企画「来てけつかるべき新世界」再演決定! 上田誠×藤谷理子×岡田義徳インタビュー

──再演となる今回、楽しみにしていることはほかにありますか?

藤谷 「今回のツアーでは、初めて行くところもあって、それが楽しみです!」

上田 「ツアーがかつてなく長いんですよ。場所によって客層も違うし、各地を回るフェーズで楽しくなってきますね」

──プレビュー公演を入れて全部で13カ所での公演。ちなみに、初演時のツアーで印象に残っているエピソードはありますか?

上田 「横浜(KAAT神奈川芸術劇場大ホール)であんまりウケへんかった…」

藤谷 「ウケなかったといえば名古屋(名古屋市東文化小劇場)です。全員帰ったかと思うぐらいシーンとしていた(笑)。でも、それって、関西弁での芝居だからっていう理由もあるんですよね。しかも、上田さんって結構なスピード狂なので、お客さんが理解するよりちょっと早いテンポでしゃべっているんです」

上田 「本来なら3時間ぐらいでも書ける戯曲をギュッと2時間にしていますからね。稽古のとき、最初はゆっくり作っていくんですけど、途中からスピードを上げていく」

藤谷 「上田さんからは『あと3分縮まります!』っていうダメ出しがきます(笑)」

岡田 「でも、お客さんを置いていくってすごく大事だと思いますよ。答えが分かるものを見せられても面白くないって僕は思っているから」

ヨーロッパ企画「来てけつかるべき新世界」再演決定! 上田誠×藤谷理子×岡田義徳インタビュー

──そこは、映像とは違う舞台ならではの面白みかもしれないですよね。生で見ているから、一瞬置いていかれても空気感や周りのお客さんの反応で追いつける。

藤谷 「それが心地いいんですよね。見ている皆さんのトーンが見えますから」

──いよいよ8月31日から始まる公演に向けての意気込みをお願いします。

ヨーロッパ企画「来てけつかるべき新世界」再演決定! 上田誠×藤谷理子×岡田義徳インタビュー

岡田 「僕は、ヨーロッパ企画の新しい劇団員としてこの舞台に立つつもりでいます。笑かすことって難しいと思うんですけど、それを難しいことと考えないで、『おもろいおっちゃんがおるな』って皆さんに思ってもらえたらいいなと。それは、公演までの僕の取り組みにもよると思うので、皆さんのお力も借りていい舞台にできたらいいなと思います」

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藤谷 「この劇は、一人芝居的な要素が多いんです。チラシに載っている写真でいうと、岡田さんの場合、ドライヤーをかぶってパーマをかけている芝居を一人でやらないといけない。ほかにも、炊飯器がカパカパしているように見せたり、(実際にはいない)ロボットに手をひねられるように見せるとか、そういう芝居が多くて役者は結構大変やと思います。そうやってアナログでがんばっているところも見どころの一つなので(笑)、演劇ならではのテクノロジーを楽しんでほしいなと思います」

ヨーロッパ企画「来てけつかるべき新世界」再演決定! 上田誠×藤谷理子×岡田義徳インタビュー

上田 「僕ら、あまり再演をやりませんが、代表作にしたい作品だからこそ、パワーアップしたキャストでやるんです。なので、初めてヨーロッパ企画の舞台を見るという方にもお勧めしたいです。『初めて見るなら代表作から入りたい』という方にも来ていただけたらうれしいです」

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【プロフィール】
上田 誠(うえだ まこと)

ヨーロッパ企画「来てけつかるべき新世界」再演決定! 上田誠×藤谷理子×岡田義徳インタビュー

1979年11月4日生まれ。京都府出身。ヨーロッパ企画の代表で、本公演の脚本・演出を担当。外部の舞台やドラマの脚本、番組の企画構成も手掛けている。脚本を担当したアニメ映画『夜は短し歩けよ乙女』(2017年)は日本アカデミー賞最優秀アニメーション賞を受賞。同じく脚本を担当した映画『ドロステのはてで僕ら』(2020年)は多数の海外映画祭で賞を獲得している。


藤谷 理子(ふじたに りこ)

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1995年8月6日生まれ。京都府出身。2014年にヨーロッパ企画・諏訪雅によるミュージカル『夢!鴨川歌合戦』にオーディションを経て出演。その後もヨーロッパ企画の本公演や舞台、映像作品に出演を続け、2021年に入団。外部の舞台やミュージカル、映像作品への出演も行っていて、近年では、「ももさんと7人のパパゲーノ」(NHK総合、2022年)など。


岡田 義徳(おかだ よしのり)

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1977年3月19日生まれ。岐阜県出身。1993年に芸能界デビュー、翌1994年に「アリよさらば」(TBS系)で役者デビューを果たす。2002年の「木更津キャッツアイ」(TBS系)で演じたうっちー役で注目を集め、その後も多数のドラマや映画に出演。2024年8月30日には佐藤隆太、塚本高史らと出演する人気シリーズ最新作の映画『THE3名様Ω これってフツーに事件じゃね?!』が公開される。

【作品情報】
ヨーロッパ企画第43回公演「来てけつかるべき新世界」
全13都市・41公演
作・演出:上田誠
音楽:キセル
出演:石田剛太、酒井善史、角田貴志、諏訪雅、土佐和成、中川晴樹、永野宗典、藤谷理子/金丸慎太郎、町田マリー、岡田義徳、板尾創路

【プレゼント】

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【締切】2024年9月7日(土)正午

取材・文/高橋真希子 撮影/蓮尾美智子



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