Feature 特集

スケートボード界で独自のスタイルを貫くアスリート・瀬尻稜選手2020/01/08

Cheer up! アスリート2020!

 五輪競技に採用され、取り巻く環境が激変したスケートボード。そんな中で、瀬尻稜は金メダル候補に挙げられながら、自らのスタイルを貫く。五輪とは違う道でスケボーを追究する瀬尻の思いをひも解き、五輪を見つめ直す。

自分だけのスタイルで。

 2016年、東京五輪の新競技にスケートボードが決定した。日本の第一人者として、金メダル有力候補として一躍脚光を浴びることとなった瀬尻稜だが、周りの狂騒はどこ吹く風で自らのスタンスを崩すことはなかった。

「本当にスケボーが五輪種目になるんだってびっくりはしたんですけど、あまり深く考えていなかったです(笑)。いずれはストリートリーグやXゲームのような大きな大会になるだろうし、スケーターからの注目も集まるとは思っていたのですが、逆に興味を持たないスケーターもいるのかなとも思っていました」

 そう感じたのには、スケボー界のカルチャーが影響している。コンテスト(競技会)の成績だけでなく、ビデオパートと呼ばれる滑りを収めた映像がスケーターの評価につながるからだ。

「ビデオパートは、スケーターにとっての名刺代わりです。映像を見たらスケーターの個性が一目で分かりますね。コンテストは一瞬の勝負ですけど、ビデオパートはその制限がないから、2、3秒の映像のために数日かけてトライして頑張る。コンテストがどんなに注目されても、スケーターのメーンの活動はビデオパートになるんです。でも、五輪が近づくにつれてトッププロが必死にスケボーをしているし、やっぱり五輪の存在は大きいなと感じます。五輪競技に決まってから、コンテストのレベルも上がっていますね」

Cheer up! アスリート2020!

 瀬尻が語る通り、五輪競技決定後は、世界選手権が初開催され世界ランクが導入されるなど、競技化が進んでいる。否定的な意見もある中で、瀬尻は競技化のメリットも感じている。

「競技化が進んでいることは悪いことではないと思います。実際にコンテストのレベルは上がったし、競技人口やスケートパークが増えたり、興味を持っていなかった人が興味を持ってくれるようになったり、スケボーがポピュラーになってきているのは良かった点ですね」

 多くのトップスケーターが五輪を目指すようになった中、瀬尻のスケボーに対するスタンスは、今でも変わっていない。

「コンテストとビデオパート作りの両方を頑張っているんですが、今は撮影の方をより頑張っています。ビデオパート作りってすごく時間がかかるので、今は、これまでずっと撮りためてきたものを春ぐらいに出せたらと思っています。自分のスタイルは、派手な技をドカーンとやるわけではないけど、他のスケーターがやらないような動き、技をするのが得意なところなので、そういうスタイルを楽しんでほしいです。コンテストに関しては、“出場する大会で精一杯頑張る”という感じですね」

Cheer up! アスリート2020!

 自らのスタンスを貫くあまり、五輪出場の路線からは外れているのかもしれない。しかしそこには、ある思いがある。

「今は“五輪を目指している”というわけではないんですけど、出たいという気持ちは、もちろんゼロではないです(笑)。でも、五輪で金メダルを取るのをメーンに考えてスケボーをやるのは、僕は嫌で。コンテストに出るならもちろん1位を目指すけど、1位になれなくても笑顔でいられるスタンスでいたいんです」

 五輪ではメダル至上主義に陥りがちだが、瀬尻の考えはそれとは一線を画する。さまざまなスポーツへのアプローチを示す一方で、五輪を目指すスケーターをリスペクトしている。そして、本連載にも登場した池田大亮や堀米雄斗ら、日本の若い選手に期待をかける1人でもある。

「金メダルを目指すスケーターもたくさんいて、それも正しいと思うんです。結果を残している雄斗や大亮といった日本の若い子を、心の底からすごいなと思います。特に雄斗は、初めて出たストリートリーグでいきなりの表彰台だったのに驚きました。僕は雄斗の数年前に日本人として初出場し、その場の雰囲気やプレッシャーにやられながらも予選を通過できて、自分で『よくやった』と思っていたんですけど…それをはるかに超えてきた(笑)。実力はもちろん、チャンスをしっかりとつかめるところもすごいと思います」

Cheer up! アスリート2020!

 地元で開催される世界的ビッグイベント、東京五輪に瀬尻はどう関わるのかと問うと…。

「できれば、会場で見たいです。雄斗とか、日本人選手をめっちゃ応援しますね。五輪をきっかけに、スケーターへの目が温かいものに変わったり、若い子がスケボーだけで食べていけるようになってくれたらと思います」

 五輪が近づくにつれ、スケボーに触れる機会も増える。そこで五輪とは違うルートでスケボーを突き詰めている瀬尻のビデオパートで、スケボーに触れてほしい。競技だけでは分からないスケボーの魅力がそこにある。

Cheer up! アスリート2020!

【TVガイドからQuestion】

Q1 印象に残っているスポーツ名場面を教えて!

ぶっちゃけ、見るのはスケボーばかりです(笑)。他のもので印象的なのは…ウサイン・ボルト選手が世界新記録を出した時。技術的なことは分からないないけど、国旗を持って、自分の国をレペゼンしているのは格好良かった。

Q2 好きなTV番組/音楽を教えて!

「水曜日のダウンタウン」、「月曜から夜ふかし」のちょっと毒のある感じが、面白くて好きですね。音楽は自分のスケボーに合うし、ヒップホップが好きです。ア・トライブ・コールド・クエストとか、クラシックな曲が割と好きです。

Q3 “2020”にちなんで、“20”日間お休みがあったらやりたいことを教えて!

まずは海外に行きたいです。ヨーロッパは大会で行くことが多くて好きなので、ヨーロッパを何カ国か周る。あとは、ワンちゃんがいるので、ワンちゃんと一緒にお出かけする。それとやっぱり、スケボーをして遊びたいですね(笑)。

Cheer up! アスリート2020!

【スケートボード競技概要】
前後に車輪がついた板に乗って、トリック(ジャンプ、回転などの技)を行い、技の難易度や高さなどの得点で競うスケートボード。東京五輪から採用される新競技で、街の中のようなコースで行う「ストリート」、複雑な形のコースで行う「パーク」の2種目が開催される。ストリートの世界選手権で、2019年2位の堀米雄斗、18年優勝の西村碧莉は金メダルの有力候補に。また、スノーボードの五輪銀メダリストの平野歩夢は、パークでの出場を目指している。

【プロフィール】

瀬尻稜(せじり りょう)



▶︎5歳の時に父からスケボーをもらい、「道具を使うことで出せるスピード感が面白かった」とハマっていく。

▶︎6歳頃から大会に出場し始め、「大会で勝つといっぱいものがもらえるから、どんどん大会が好きになって、もっとうまくなりたい、プロになりたい」と思うように。

▶︎2008年、日本スケートボード協会のグランドチャンピオンを獲得し、史上最年少の11歳で日本一に輝く。また、海外の大会にも出場するようになり、スケーターの登竜門とされるタンパアマに小学生で出場。世界のスケーターと触れ合い、「ハングリー精神がすごくて、刺激的だった」と、印象的な大会と語る。

▶︎2010~12年には3年連続日本一となり、13年にはW杯で日本人初優勝。

▶︎現在は活躍の場を世界に広げ、ビデオパート作りに力を入れる。

取材・文/山木敦 撮影/山本絢子



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