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内村航平が伝えるアスリートの声。「NHKパリオリンピック2024」インタビュー2024/07/21

内村航平が伝えるアスリートの声。「NHKパリオリンピック2024」インタビュー

 いよいよ来週からスタートするオリンピック。「NHKパリオリンピック2024」でアスリートナビゲーターを務めるのは、体操界のレジェンド・内村航平さん! パリの現地から競技の生の迫力や感動、選手たちの戦いぶりを伝えます。今回は、オリンピック開幕に先駆け、取材会に登場した内村さんにオリンピックの見どころや、体操の日本チームへの期待などを伺いました。

――今回、初めてアスリートナビゲーターという形でオリンピックに関わるということですが、率直な気持ちを教えてください!

「出場しないオリンピックを見るのがアテネオリンピック以来、20年ぶりなので不思議な気持ちですね。夢の舞台としてアテネオリンピックを見ていて、まさか北京オリンピックから4大会も出場できると思っていなくて。またこうしてオリンピックに携わることができて、自分の人生においてオリンピックは切っても切れない縁があるなと感じています」

――選手として臨むオリンピックには、たくさんの準備や練習をされてきたと思いますが、今回準備していることはありますか?

「特にないです。最初は、めちゃくちゃ勉強しようと思っていたんですけど、僕はそういう役割ではないんです。事前取材はしていますが、知らない方が視聴者と同じような気持ちで見ることができるし、質問もできて新鮮に伝えられるかなと。あまりにも勉強し過ぎて、知ったかぶりのような質問をするのも、相手に対して失礼だと思うので、あえて準備はしていないです。もちろん、体操に関してはプロフェッショナルにできる自信がありますが、それ以外はもう本当に分からないという状態の方がいいのかなという気がしています」

――何の競技を取材されたのでしょうか?

「柔道、水泳、体操というお家芸と呼ばれる競技ですね。お家芸に関しては誇りを持っている印象です。金メダルを取らなきゃいけなというプレッシャーも抱えて大変だろうなとも思いましたが、誇りを持ってやっている後輩たちを見て、自分たちが過去に残してきた『オリンピックで結果を残す』ということがちゃんと受け継がれているうれしさもありましたし、次世代に向けて今後も発信していってほしいです」

――体操競技について、今回の日本チームにどんな期待をしていますか?

「男子に関しては、団体も個人も金か銀です。3位になることは多分ないと思っているので。どうやったら金になるのかというと、着地です。シンプルですよね。パリは日本選手にとってはアウェーなので、着地を止めないと日本の色に染められないと僕は見ています。僕が現役の時からですが、中国が一番のライバルで、前回も銅メダルだったので、そろそろ本気で金を取りに来るし、メンバーもかなり強い選手が入っているので楽しみです。僕も異様な空気感の中で楽しめるという、ちょっと変態的な精神状態があったからここまで結果が残せたのかなと。ちょっと『人を超えなきゃいけない』ので、その必要性を感じることができるだけでも、オリンピックの舞台は特別ですよね」

内村航平が伝えるアスリートの声。「NHKパリオリンピック2024」インタビュー

――体操以外で注目している競技があれば教えてください。

「やっぱり柔道、水泳、そしてレスリングなどのお家芸です。だいたい柔道、体操、水泳は大会の前半なので、後半の競技にも影響が出てくると思うんです。世界選手権だと時期も競技によって違いますし、チームジャパンみたいな感覚はあまりないですが、オリンピックは選手村で一緒に生活していて、メダルを取ると、入口のところに選手の顔写真が貼られていくんです。それを見て、勇気や元気をもらえるので、前半でお家芸の競技の選手たちの顔が並ぶと、後半の競技の人たちも頑張ろうという気になれると思います」

――ブレイキンなどのアーバンスポーツに関しては、どう見ていますか?

「新しい層を取り込める可能性がすごくあると思います。体操みたいに器具や場所がないとできないスポーツがたくさんある中で、スケートボードやブレイキンは、気軽に始められるのがいいなと。あと、シンプルに服装もかっこいいので、見た目から入ってもらってもいいですよね。BMXやスケートボード、ブレイキンは、回転したりひねったりと、普段人がしない重力に逆らう動きをするので、小さい子が見ても『かっこいい! やってみたい!』と感じてもらえると思うので、スポーツに触れてもらうという観点からすると、ものすごくいいと思います」

――現役時代も、いろいろな国に行かれたと思いますが、フランス・パリに関する印象はいかがですか?

「パリの印象は、“おしゃれな街”ですかね。行くのは6回目ぐらいで、もう一通り見ているんです。ルーブル美術館で『モナリザちっちゃ!』と言った記憶もあるし、新鮮さはないです。ただ、パリでのオリンピックの開会式と閉会式は経験していないので、おしゃれな感じになるのかなと気になっています」

――現役を引退されて、体操に関して見方や考え方が変わったことはありましたか。

「休んでいいんだなと思いました。今もまだ練習などで体を動かしてはいるんですけど、やっぱり本気で頑張れるのって25歳までなんです。僕は33歳まで現役でやっていたんですけど、30代の壁って結構大きくて。当時は休むのが怖くて休んでいなかったんです。今は、いろいろな仕事があって毎日は練習できていないんですけど、『いや、全然休んでもできるな』と。休むことの大事さをあらためて感じました。25歳までは休まずに、25歳を超えたらちょっとずつ休みを増やしていった方が、よりいい状態でパフォーマンスできる気がします」

――休みとは、“スポーツから離れる時間”という意味でしょうか。

「そうです。全くやらない日をちゃんと作るという。体操だと、前までは1日休むと戻すのに3日かかると言われていたんです。感覚がちょっと鈍るんですけど、鈍ったっていいじゃないかと」

――今回は、選手としての準備などは必要のないパリ滞在ですが、楽しみなことはありますか?

「パリには仕事をしに行くので、僕が楽しんでどうするんだっていう話なんですよ。なので、基本的には仕事のことしか考えないと思いますね。普段いろんな地方に行かせていただいてるんですけど、根っからの仕事人間なので、あまりその場を楽しもうという気持ちもないです。ただパリに行くだけで、日本でもパリでもあまり変わらないかな」

――パリまで飛行機に乗っている時間が長いと思うんですけれども、機内での過ごし方の予定はありますか?

「寝ますね。元々寝るのがめちゃめちゃ好きなんで。最初は、iPadに映画ダウンロードして映画見ようとか意気込むんですけど、結局、10分で寝て、映画も見ないで終わると思います」

――一般人と同じで安心しました(笑)。現役引退されて、体操以外に趣味としてやってみたいスポーツはありますか?

「やってみたいのは、BMXとスケボーで、実際に引退して始めたのはゴルフなんです。ゴルフは楽しいですけど、体操ほどはハマれないですね。なぜならセンスがないので。BMXは、重力に逆らって回転したりひねったりと体操競技に近いので技のイメージがつきやすいというか、ゴルフよりはセンスあると思います」

内村航平が伝えるアスリートの声。「NHKパリオリンピック2024」インタビュー

――内村さんは、変態的な精神力と言われるなど、けがをしながらもメダルを取っていたと思うんですけど、今大会までけがを抱えながら代表に決まった選手がメダルを取る上での大事なことはどういうところでしょうか。

「自分がスポーツを始めた原点が、心の支えになるし、自分の心を奮い立たせてくれるものだと思います。僕は3歳から、自分が好きで体操を始めて、それに対して責任を持たなきゃいけないので、『何のために体操をやっているんですか』と、自分に問いかけていました。途中で投げ出すのは簡単ですが、オリンピックで結果を残したい気持ちがあるということは、やっぱり競技が好きだし、自分が好きで始めたものに対して責任を持っているからだと思うので、結局全てが言い訳になってしまうんです。日本代表として、日の丸を着けて戦うということはそういうことかなって。時代の流れにはちょっと反しているかもしれないんですが、日本人ならではの武士道精神みたいな部分が大事だと僕は思います。僕は元々九州出身なんで、頑固だし、自分の言ったことは曲げないというのも元々ありますが、基本的にはアスリートはみんな負けず嫌いなんで、その負けず嫌いな気持ちをそのままぶつけるのも一つかな…。あと、3日3晩寝ずに話せるぐらいはありますけど、これぐらいにしておきます(笑)」

――前回の東京オリンピックは、新型コロナウイルスの影響もあってかなり特殊な大会でしたよね。それを受けてのパリオリンピックということで、何か気になっていることはありますか?

「リオオリンピックに出た選手は問題ないと思うんですけど、東京が初出場だった選手に関しては、やはり観客がいることですよね。体操はあまりうるさく応援しない競技なんですけど、パリだと体操でも、サッカーの会場ぐらい盛り上がるんですよ。さらに、オリンピックは基本うるさいイメージなんで、その中で影響されずに自分のパフォーマンスが発揮できるかどうか。世界選手権でも経験できない観客の声援というか、ヘッドホンを急にかぶせられて音量マックスにされたような中で集中しないといけないので、それを経験していない選手たちは、大丈夫かなという心配は少しあります。結局全てが言い訳になってしまうので、それを全て跳ね返してやらなければいけないですね。僕は初めて出た北京オリンピックが一番すごい歓声で、体操は中国が強いので、太鼓を叩いたりとものすごかったんです。オリンピックの歓声に慣れてしまうとちょっと物足りないなという感じが出てくるんですけど、今となってはぜひ経験してほしいです。そして、どう対処するのかをあらかじめ準備をしておくことがものすごく大事だと思います」

――いろんな国際大会がある中での、オリンピックの特別さについてあらためて教えていただきたいです。

「いろんな競技が一堂に同じ場所に集まるので、世界運動会みたいな感じなんです。初めてオリンピックに行くと、自分が何をしにここに来たのかが分からなくなるぐらいで。小さい子がディズニーランドに行ったような感覚に近いのかな。まさに夢の舞台という一言で片付いてしまうんですけど、何をしに来たか分からなくなるぐらい、あっけに取られる場所ですね。その中で、地に足を着けて、今までやってきたものを、周りを気にせずに実行できる人が金メダルを取れるんだと思います。オリンピックは、精神的にふわふわさせられる場所ですね」

――世界中に見られるということは、選手にとっても励みになるのでしょうか?

「世界中に見られることは、正直嫌だと思いますよ。オリンピック日本代表になるということは、自由がなくなることで、一歩外に出れば見られているという意識を常に持たなければいけないかなと。だから、オリンピックに向けて準備をする以外何もしないぐらい、オリンピックに全てを懸けることができる選手じゃないと結果は残せないと思うんです。オリンピック日本代表になったからといって、鼻が伸びてしまうような選手は結果は残せないんじゃないかな」

――アテネオリンピックを見た時の内村さんのように、今回のパリオリンピックを見てアスリートを目指す子どもたちも大勢いると思いますが、そんな子どもたちに向けてメッセージをお願いします!

「今、スポーツをやっている子どもたちは、オリンピックを見て『やっぱりすごいな』と感じると思いますが、“すごい”だけで終わるともったいないので、“どうやったらああなれるか”を考えてほしいです。まだ何もスポーツやっていない子どもたちは、なんでもいいので興味を持ってもらって、興味を持ったものに対して『自分もできるかな』と考えてみてほしいですね。僕も実際アテネで、日本が世界一になったところを見たのは生まれて初めてだったので、『日本の体操でも世界一になれるんだ。自分も日本代表になったら世界一になれるな』という自信が不思議と湧いてきたので。オリンピックは、見るだけでも勇気や感動をもらえるので、まずは見てほしいというのが1番です。そして、メディアの皆さんには、オリンピックの価値をちゃんと発信してほしいです」

――ありがとうございました!

【プロフィール】

内村航平(うちむら こうへい)
1989年生まれ。長崎県出身。オリンピック4大会(2008年北京、2012年ロンドン、2016年リオデジャネイロ、2020年東京)に出場し、個人総合2連覇を含む7つのメダル(金メダル3、銀メダル4)を獲得。また、世界体操競技選手権でも個人総合での世界最多の6連覇を含む21個のメダル(金メダル10、銀メダル6、銅メダル5)を獲得している。国内大会ではNHK杯個人総合10連覇、全日本選手権個人総合でも10連覇を達成。

取材・文/Kizuka



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