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猪爪花江を演じる森田望智「トラちゃんとのけんかは夫婦げんか」――「虎に翼」インタビュー2024/07/12

猪爪花江を演じる森田望智「トラちゃんとのけんかは夫婦げんか」――「虎に翼」インタビュー

 NHK総合ほかで放送中の連続テレビ小説「虎に翼」。物語の主人公・佐田(猪爪)寅子(伊藤沙莉)は、昭和13(1938)年に日本で初めて誕生した女性弁護士の1人として日本中から注目され、憧れの的に。その後、戦争で父・兄・夫を亡くし、家族を支えるために裁判官を目指し、司法省で働き始める。アメリカへの視察、ラジオ出演など順調に仕事をこなす寅子だったが、家庭のことは花江(森田望智)に頼り切りで、家庭を顧みなくなっていたことを指摘されてしまう…。

 今回は、女学校時代の親友であり、義理の姉・花江を演じる森田さんにインタビュー! 役作りから伊藤さんとの撮影エピソードまでたくさん伺いました。

――まず、出演が決まった際の心境を教えてください!

「沙莉ちゃんのヒロイン発表があった時に、『絶対に見るぞ』と思っていたんです。沙莉ちゃんとは過去にも共演しているのですが、本当にお芝居がすてきで、さらに物語の題材も面白そうだなと思っていて。『どうにかオーディションに挑戦したいな』と思っていた中、声をかけていただきました。花江ちゃんの役はとても魅力的でうれしかったのですが、同時に責任もすごく感じました」

――森田さんは花江をどんな人物として捉え、演じていますか?

「よくトラちゃんと対照的な人物と言われるんです。確かにトラちゃんが猪突猛進なのに対して、花江ちゃんは一歩引いて計画的に戦略を練るタイプですが、根本的にはすごく似ていると思っていて。地に足が着いていて、目的のための努力を惜しまず、自分の成し遂げたいことをしていく強い女性という意味では同じだと思うんです。花江ちゃんは、“あざとい”や“したたか”とよく言われるのですが、“したたか”には、あざといという意味と、その反対の面で強くて粘り強くて、力に屈しないという意味があって。その強さが花江ちゃんに備わっているという意味では、すごくトラちゃんと似ていると思います。働く女性たちだけが偉いわけではなく、家を守ることも女性の一つの生き方で、女性たちみんな平等に尊い存在であるということを花江ちゃんが体現していると思いながら大事に演じています」

――花江とご自身との共通点はありますか?

「花江ちゃんは、一見すごく柔らかそうだけれど、強いし、頑固な部分もあるし、しっかりもので。そういう見た目とのギャップがあるという意味では似ていると思います。私も“柔らかい”と思われることが多いけれど実際は違うんです。また、花江ちゃんは、本質を見抜く力があるのですが、自分のことになるとちょっと見えなくなってしまうところがあり、そういうところは私も似ていると思います」

――花江は話し方が特徴的でもありますよね。話し方に関して意識していることはありますか?

「最初に台本を読んだ時に、セリフの語尾にハートや音符が付いていて。さらに、衣装合わせの時に、お花があしらわれたピンクのかわいらしいお着物を用意していただいたので、『この衣装が似合わなくてはいけない』というところから逆算して、このしゃべり方になったんです。トラちゃんが結構早くしゃべるので、花江ちゃんはゆったりっていうのも言われていて、そういったいろんなイメージが組み合わさった結果なんです。あと、年齢を重ねていくことも意識していて。ホームビデオで私の母の若かりし頃のビデオを見た時に、すっごく声が高かったんです。声って変わらないようで、変わっているんだと気付いたので、そういう意識も頭の片隅にあります。これからどんどん年齢を重ねて、自分よりも年上の役を演じるので、すごく楽しみです」

――脚本の吉田恵里香さんが、「花江はもう一人の主人公のつもりで描いている」とおっしゃっていましたが、森田さんはそういう吉田さんの思いを意識していましたか?

「そう言ってくださっているのを後から知ったので、撮影時はあまり意識はしていなかったです。でも、同じ年齢、似た家庭環境で育った花江ちゃんの気持ちを描くことで、トラちゃんの考え方だけでなく、登場人物みんなの気持ちを尊重したくなるような作品にしてくださっていると思うんです。そういう意味で、吉田さんが花江ちゃんをとても大切に描いてくださっていると感じています」

――伊藤さんとのシーンで特に思い入れのある場面があったら教えてください。

「(猪爪)はる(石田ゆり子)さんの日記を、トラちゃんと花江ちゃんが燃やすシーンがあって。台本上は、トラちゃんが『お母さんが私のお母さんでよかった』と言って、私が肩を抱くところまでだったのですが、その後1、2分ぐらいカメラを長回ししてアドリブでやらせていただいていて、放送でも使われていました。沙莉ちゃんから出た自然な気持ちであったり、半年間撮影を続けている関係性の中で生まれたものだったり、花江ちゃんとトラちゃんを超えて、私と沙莉ちゃんの気持ちが通ったようなシーンでもあってすごく印象に残っています。本当にゆり子さんの演じるはるさんが大好きで、いなくなってしまったことに対して、役としても自分としても思いが乗って、お芝居の面白さを感じたシーンでした」

猪爪花江を演じる森田望智「トラちゃんとのけんかは夫婦げんか」――「虎に翼」インタビュー

――カメラを長回しすることは知らされていなかったんですか。

「アドリブが好きな現場というのもあるんですけど、台本にないトラちゃんと花江ちゃんを見てみたかったんだと思うんです。全部オンエアで使われなかったとしても、これから花江ちゃんを演じる上で、私の中には1、2分間の情景が残っていて。アドリブは、使われるかが大事ではなくて、その役としての思い出を少しでも長く作れる時間だと思っているので、すごく大事な時間でした」

――あらためて、花江と寅子の関係性をどう捉えていますか?

「花江ちゃんとトラちゃんの関係性は、戻ったり離れたり、どんどん変わるので、『関係性ってこんなにも変化していくんだ』と思ったんです。長い期間を描ける朝ドラだからだと思うんですけど、すごく人間らしいなと。第15週で、花江の言いたいことが爆発してトラちゃんとけんかしてしまうシーンがあるんです。“今まで言えなかったトラちゃんへの不満が爆発する”という流れで、『何で親友なのにトラちゃんに言いたいことが言えないんだろう。花江ちゃんはこんなに我慢する子だっけ?』と思ったのですが、監督から「これは親友のけんかではなく夫婦げんかです」と言われて腑(ふ)に落ちました。だから、その時代の妻として夫を立てたり、家を守って働きに出てくれているトラちゃんを支えなくてはいけないから、自分の気持ちにふたをしていたんです。親友だったら1歩踏みとどまれるところを、気を使わず言ってしまうのも、すごく夫婦げんかっぽいなと思って。けんかを経てまた別の家族の形になっていくんですけど、その変化が朝ドラならではであり、すごく面白いですね」

猪爪花江を演じる森田望智「トラちゃんとのけんかは夫婦げんか」――「虎に翼」インタビュー

――第15週は花江が大活躍でしたが、台本を読んだ時の印象を教えていただけますか?

「吉田さんの台本は、いろんな感情を想像させてくれるようになっているんです。第15週ではトラちゃんと花江ちゃんがぶつかりますが、どっちの気持ちも分かるのがすごく魅力的だと思っていて。そこがすごく強く出ているので、視聴者の方にどんなふうに受け取ってもらえるのか気になります」

――子役の子たちも寅子が帰ってくる前と後で態度を変えたり、お芝居を頑張っていたと思うんですが、役作りに関してお話ししましたか

「トラちゃんが帰ってくる前と帰った後で、分かりやすく態度を変えようとしているわけではないんです。私もあったのですが、母親の前と父親の前って、多分皆さん違うと思うんですよね。私も、同じような経験があります。みんなお父さんを見るような目でトラちゃんを見ていたと思うんです。もちろん父親の方が心が少し和らぐ方もいらっしゃると思いますし、いろんな面があると思いますが、トラちゃんだからというより、どの家庭にも当てはまることなのではないかなと思っていました」

――直明役の三山凌輝さんと子どもたちのかわいいところを教えていただけたら…!

「たくさんありましてですね(笑)。とにかく三山さんは子どもにも大人にも、ずっと同じ対応し続けてくれて、エネルギーあふれる方なんです。第15週は、私がお芝居的にとても大変で、結構沈んでいたのですが、ずっと同じようなテンションで現場にいてくれたので、すごく心の支えになりました。子どもたちともすごくよく遊んでくれて、それが直明くんと直人(琉人)、直治(楠楓馬)、優未ちゃん(竹澤咲子)の関係性そのままだなと感じています。台本上では、直人と直治はセリフが多くはないですが、オンエアを見ると分かると思うんですけど、すごくしゃべっているんです。2人ともすごくナチュラルに、自分の延長線のように演じてくれていて、お芝居に入っても入らなくても変わらないので、私はすごく助けられています。みんなに作ってもらった関係性だなと思います」

猪爪花江を演じる森田望智「トラちゃんとのけんかは夫婦げんか」――「虎に翼」インタビュー

――第15週でも、「スンッ」とする場面が多かったと思いますが、どう演じられてましたか? 森田さんの中で「スンッ」のレパートリーがあったりするんでしょうか。

「このドラマの『スンッ』はいろんな種類があって。自分の気持ちを抑えていることだけが共通点で、本当にさまざまな何パターンもの『スンッ』があって。花江ちゃん本人は気付いていない『スンッ』もあるので、あまり『スンッ』とすることは考えてなくって。必然的にところどころで『スンッ』っていう見え方をしてしまうっていうことなのかなと思っています」

――第50回の放送では、突然の優未(斎藤羽結)のくしゃみに視聴者からは「癒やされる」と反響がありましたよね。撮影中のハプニングがそのまま生かされたんでしょうか?

「流れの中で自然に出たもので、特に慌てたり、驚いたりすることもなくて。『大丈夫? 風邪かな?』ぐらいで、いつもの前室での雰囲気がそのまま続いたような感じでした。優未ちゃんはすごく天使なので、みんながかわいいと思っている気持ちがそのまま映像に乗ったんだと思います」

猪爪花江を演じる森田望智「トラちゃんとのけんかは夫婦げんか」――「虎に翼」インタビュー

――ハプニングやアドリブで印象に残っていることはありますか?

「猪爪家劇場は、トラちゃんがナレーションをしてくれて音声は使われないので、みんな好き勝手にやっていて。(猪爪直言役の)岡部たかしさんがいつも面白かったんですけど、『毒まんじゅう事件』の再現の時に、『おまんじゅうのいい香りが鼻から抜けて~』と言いながら死んでしまうお芝居をしていました。実際の放送では音声はオフになっているんですけど、面白過ぎて、みんな笑いが止まらなくなってしまって(笑)。ほかにも、はるさんが『色っぽいほくろをつけたい』と提案して、みんなでほくろをつけたり(笑)。猪爪家劇場を良いものにしたいという思いで、全力で楽しく遊んでいました」

――寅子は新潟での生活が始まり、しばらくの間花江たち家族は東京でお留守番ですが、今後の見どころを教えてください!

「花江ちゃんの見どころは、新潟でもトラちゃんの背中を押すシーンがあるんです。花江ちゃんは、意図せずに家族の大事な局面で背中を押すことがこれまでもたくさんあったのですが、新潟でもあって。家族に対して愛情が強い花江ちゃんらしいなと思うすごくいいシーンです。トラちゃんが新潟から帰ってきてからも、ちょっともめるのですが、それは『現代の問題が、この時代にも地続きであるんだな』と思えるようなシーンで、お互いを思うあまりに衝突をしてしまうのですが、そこも見どころです」

――最後に視聴者に向けてメッセージをお願いします。

「女性の社会進出の話ではありますが、(戸塚純貴演じる)轟(太一)さん、(岩田剛典演じる)花岡さん、(松山ケンイチ演じる)桂場(等一郎)さんなど男性陣も含めて、登場人物みんなの気持ちに共感できる作品です。私は、そんなキャラクターたちがぶつかったり、仲良くなったりする群像劇だと思っているので、みんなを好きになってもらいたいです。法律についても、コメディーも交えながらでとっても分かりやすいので、楽しく見てもらえたらうれしいです」

――ありがとうございました!

【番組情報】

連続テレビ小説「虎に翼」
NHK総合
月~土曜 午前8:00~8:15ほか ※土曜は1週間の振り返り
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
月〜金曜 午前7:30〜7:45ほか

NHK担当/Kizuka



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