Feature 特集

武田鉄矢「6か月連続ジャッキー・チェン祭り!」【インタビュー】――「彼に“武田さん”と呼ばれた時はうれしかった」2024/05/06

「6か月連続ジャッキー・チェン祭り!」武田鉄矢

 BS松竹東急では、「よる8銀座シネマ」での特集「6か月連続ジャッキー・チェン祭り!」のクライマックスとして、ジャッキー・チェンの専属吹き替え俳優・石丸博也氏による吹き替えを新たに追加した「吹替完全版」を放送中。今回は、ジャッキーの映画に心酔し、映画「刑事物語」シリーズ(82年〜87年)でアクションを取り入れたという俳優・武田鉄矢に、ジャッキー作品の魅力について語ってもらった。

――そもそもジャッキー・チェンを好きになったのはいつ頃ですか?

「まだ私が若かった、20代の頃ですね。その前にブルース・リーのブームが来ましたが、彼はあまりにも孤高のアクションスター、武闘家で、こんな人はもう二度と出てこないだろうなと思っておりました。それから私が『幸せの黄色いハンカチ』(77年)で映画の世界に少し入り始めて、テレビで『3年B組金八先生』シリーズ(TBS系/79年〜2011年)などをやり始めた頃に、今度は香港の新しいスターとしてジャッキー・チェンが出てきました。ジャッキーは映画館で見て『これだ!』と思うぐらいに飛びついたアクションスターでした。本当にジャッキーには悪いんですが、この人の安~い、チャーミングな映画というかね。一発目に見たのが『ドランクモンキー 酔拳』(79年)でしたが、これはもう本当に安い作品で(笑)。映画には、カットがかかった時にシーンの状態を記録しておくスクリプターという仕事がありますが、それが雇えなかったらしくて。カットごとに小物が全部違うんですよ。一番分かりやすいのがラストシーン。暗黒界の殺し屋とジャッキーとの対決がありますが、そこでジャッキーが自ら編み出した酔拳に入ります。最初にお酒を飲んでヒョウタンを捨てるんですが、この時、ヒョウタンは明らかに倒れているんですね。で、しばらくしてまたそのお酒を飲みに行くと、なぜかヒョウタンが立っているという(笑)。それを見た時に分かったんですが、彼の映画作りの基本はお金がかけられないんだなと。では何をするかといったら、体を使うしかないわけですよ。それが後に花開くジャッキーの体を使ったアクションになるのですが、それを見て『わぁ、こんなことやりたいなあ。腕一本くらい落ちてもいいや』って猛烈に思いましたね。それと相まって、また違うタイプのアクション映画として『ダーティーハリー』(72年)や『ロッキー』(76年)が日本にやってきます。いずれもお金をかけられなくて、映画の見せ方がフィジカルなんですよね。体を張って、無理をしてでも見せ場を作るという。そして、お金がないことを決して恥じない。そういうのがたまらなく面白かった。そんなことから“カンフーで体を使って”というアイデアがバーッと湧いて、後の『刑事物語』シリーズにつながっていきました」

――さまざまなアクション映画の中でも、特にジャッキー作品が好きだったのですね。

「そうですね。ジャッキー作品をはじめ、香港カンフー映画はたくさん見てきましたが、われわれのようにB級映画を目指す者にとって、ジャッキーは一番のお手本でした。彼の体当たり演技に関しては、痛々しさを感じるほどです。これは多くの皆さんもご存じだと思いますが、『スネーキーモンキー 蛇拳』(78年)という映画のラストで、ジャッキーは前歯が2本ないんですよ。あれ、相手役の一発が当たっちゃって、前歯が飛んでいるんです。でも歯医者に行って治す時間がないから、そのまま回しているという(笑)。あれ、一番危険なシーンを最後に撮っていて。もし途中でけがでもしたら、その後使い物にならなくなるから、ほかのシーンを全部撮ってから最後に危険なシーンを撮るわけです。これは私も『刑事物語』で経験しています(笑)。すごく気になるんですよ、ラストに大立ち回りが待っていると。『早くアクションシーン終わりたいのに…』とね」

「6か月連続ジャッキー・チェン祭り!」武田鉄矢

――数あるジャッキー作品の中で、一番好きな作品はなんでしょうか?

「『ドランクモンキー 酔拳』は傑作だと思います。この作品の中には、ものすごく大事な要素が隠れています。それはジャッキーさんもお気付きになってないと思います。これはジャッキーに憧れて『刑事物語』をやりながら『~金八先生』という教師ものをやった武田鉄矢しか言えないと思いますが(笑)。この作品には、ジャッキーが演じる道場の不良息子と酔拳の達人が出てきます。ここに日本人が一番理想とする師弟関係があって。主人公は最初“酔拳の達人”と言われる人に弟子入りしますが、付き合っていくうちにその人を『ただのアルコール中毒じゃないか?』と思っちゃうんですね。実際、酒が切れると手が震えるアルコール中毒なのですが…。それで彼は脱出することを考えます。でもこれこそが教育の奥義で、師の学びにつこうとする時、その人がすごいクズ人間に見えることがある。それでもなおその人を師と呼び、ものを尋ねた時に奥義や極意、人生の最高の真理がバーッと流れ込むのです。吉田松陰と高杉晋作の関係もそう。師である松陰は政治犯罪者ですが、その人を師と呼んだ時に倒幕運動の真理が流れ込むんです。おそらく坂本龍馬も勝海舟もそんなふうに師を見つけました。その後の『酔拳2』(94年)ではアルコールだけにとらわれすぎていましたが、『ドランクモンキー 酔拳』にはあなたが一生師とあおげる人の見つけ方が描かれている。そこの妙味が面白かったですね」

――武田さんはジャッキーさんと会われたことはございますか?

「九州で開かれたアジア映画祭の時、ジャッキーさんが主演男優賞に選ばれて登壇して、私は九州の芸能人代表としてゲスト席に座っていました。私が30代後半、『101回目のプロポーズ』(フジテレビ系/91年)でトラックの前に飛び出す前ですね(笑)。『刑事物語』はもう終わっていたかな。その時、奇跡のようなことが起こりました。私が『あ、ジャッキー・チェンだ』と思って見ていたら、彼が私の方を向いて『武田さん』って言ったんです。『俺のこと、知ってるの?』と思っていたら、こうやって(『刑事物語』のハンガーヌンチャクの動きをして)いて。たぶんジャッキーさんのスタッフが教えたのでしょうね。『あんたのまねしている日本のコメディアンがいて、そいつが愉快なことにハンガーを回しているんだ』なんて。でも『ああ、この人知ってるんだ』とすごく感動して、うれしかったのを覚えています。本当は『刑事物語』でジャッキーさんにオファーしたかったですね。手の届くような人ではなかったですけど」

――ジャッキー作品をこれから見る若い人たちに向けて、こういう見方をすると面白いよ!という、ワンポイントアドバイスをお願いします。

「ブルース・リーは技をかける方でしたが、ジャッキー・チェンは“受け”を見せてますよね。殴られて派手に飛ぶことに関しては、もう天才的な技術を持っています。武道の本質って、実は“受け”ですよね。そして、ジャッキー作品の伝えようとしているメッセージは、技能じゃなくて極意なのです。極意をどうやって手にするか。ジャッキー作品にはみんなそれがあります。だから彼は徹底してまずやっつけられるんです。やっつけられたところから、それを逆転して相手を倒すまでの過程を描く。ジャッキーのカンフー映画にはそうした極意の取得の仕方が描かれています。アルコール中毒だった先生が急に立派な先生に見えるとか、戦いの中で新しい自分を創造していくとか。それがジャッキー映画の鮮やかなところなんじゃないかな」

「6か月連続ジャッキー・チェン祭り!」武田鉄矢

――最後に「6か月連続ジャッキー・チェン祭り!」の見どころについても教えてください

「たぶん初期の作品から順に流れていくと思いますが、どうかジャッキーのアクションに懸ける思いの変遷を感じていただきたいです。ジャッキーのやられる姿が派手な作品の中にこそ、ジャッキーの本質があるような気がします。ぜひ殴られ続けるジャッキーを一つの見どころとして見ていただけたら。最後に勝つところではなく、負け続けながら彼が何を工夫しているのかを楽しんでいただくと、連続で見る楽しさがあると思います」

――ありがとうございました!

【プロフィール】

「6か月連続ジャッキー・チェン祭り!」武田鉄矢

武田鉄矢(たけだ てつや)
1949年4月11日生まれ。福岡県出身。72年、フォークグループ・海援隊のボーカルとしてデビューし、「母に捧げるバラード」「贈る言葉」など数々のヒット曲を生み出す。山田洋次監督の映画「幸せの黄色いハンカチ」(77年)で俳優デビュー。以降、ドラマ「3年B組金八先生」シリーズ(TBS系)、「101回目のプロポーズ」(フジテレビ系)、映画「刑事物語」シリーズ(82~87年)、「プロゴルファー織部金次郎」シリーズ(93~98年)など多くの代表作を持つ。現在、「おふくろ、もう一杯」(フジテレビ)に出演中。

【番組情報】

武田鉄矢「6か月連続ジャッキー・チェン祭り!」【インタビュー】――「彼に“武田さん”と呼ばれた時はうれしかった」

「拳精 <吹替完全版>」
5月6日 午後8:00~10:00


ジャッキー・チェン「龍拳」

「龍拳 <吹替完全版>」
5月13日 午後8:00〜9:58


ジャッキー・チェン「クレージー・モンキー/笑拳」

「クレージー・モンキー/笑拳 <吹替完全版>」
5月27日 午後8:00〜9:59


ジャッキー・チェン「ファースト・ミッション」

「ファースト・ミッション」
5月28日 午後8:00〜10:00


ジャッキー・チェン「ポリス・ストーリーREBORN」

「ポリス・ストーリーREBORN」
5月29日 午後8:00〜10:10


ジャッキー・チェン「少林寺木人拳」

「少林寺木人拳 <吹替完全版>」
5月30日 午後8:00〜10:09

※BS松竹東急は全国無料放送・BS260ch

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【締切】2024年5月31日(金)正午

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取材/TVガイドWeb編集部、水野幸則 文/水野幸則 撮影/為広麻里



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