「光る君へ」で一条天皇を演じる塩野瑛久。母上役の吉田羊と2人きりのシーンで芽生えた気付きとは?2024/05/05
大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合ほか)の第18回(5月5日放送)で、藤原道隆(井浦新)が亡くなった後、一条天皇(塩野瑛久)が次の関白を命じたのは道兼(玉置玲央)でした。しかし、道兼は関白の慶賀奏上の日に倒れ、7日目にこの世を去ります。次に名が挙がったのは、伊周(三浦翔平)と道長(柄本佑)。当初、伊周に決めていた一条天皇でしたが、中宮・定子(高畑充希)と母・詮子(吉田羊)の間で揺れ動き、苦悩の末、道長を関白ではなく右大臣に任命したのです。
今回は、定子と詮子の間で揺れ動きながらも、政をきちんと進めようとしていた一条天皇を演じる塩野さんに、役の人物像や撮影エピソード、初めての大河ドラマへの思いなどを伺いました。
――オーディションを経て、大河ドラマ出演が決まった時の感想をお願いします。
「率直に驚きが大きかったです。今までも何回か大河ドラマや朝ドラのオーディションを受けてきたのですが、知らせを聞いた時はうれしかったです」
――一条天皇を演じることに対してはいかがでしたか?
「SNSでほかの出演者の方々が発表されていく中で、一条天皇のところだけ空欄になっていて『一条天皇は誰なんだ?』と待ちわびていた方がいて、制作統括の内田(ゆき)さんとも『みんな知っているもんなんだね』と話をしていました。意外と知られている人物なんだと驚きましたね。先日、京都・宇治市でのイベントに行った時も、『史実の一条天皇のファンです!』という方と出会って、あらためてすごいなと感じました」
――何度もオーディションを受けていたとのことですが、大河ドラマにはどんな思いがあったのでしょうか?
「そんなに大層な思いを持っていたわけではないですが、僕のこれまでの出演作は深夜ドラマや内容が過激なものが多かったんです。親世代は見てくれていますが、祖母はなかなか見ることができず、また見ても分からないことが往々にしてあったので、祖父母世代が見られる作品として、大河ドラマという歴史の長い作品に出られることへのうれしさがありました」
――おじいさまやおばあさまからはどんな反応が返ってきましたか?
「まだ聞いていないんですよ。決まった時の反応も聞いていなくて。おじいちゃんはもういないのですが、おじいちゃんも鼻が高いと言える作品で、僕も胸を張れるかなと。今までの作品がどうということではなく、祖父母に分かりやすく喜んでもらえる作品に参加できているのかなと思います」
――実際に大河ドラマに参加していかがですか?
「セットが本当に作りこまれていて、細かいところにもこだわりがあるんです。そして、現場に立っていても皆さんプロフェショナルだなと感じることが多くて。スタッフさんが楽しみながらきちんと自分たちの仕事をしていて、すごくスムーズに進んでいます。それに、リハーサルがあって、そこでちゃんと入念に示し合わせたりできていることも大きいのかなと。あらためてリハーサルは大事だなと感じました」
――一条天皇をどんな人物だと考えていますか?
「調べると、博識高く、龍笛やネコが好きであることに加え、定子との関係性が最初に出てくるので愛情深い帝だと思いましたし、定子や彰子との関係性を調べれば調べるほど、とても人間的だなと思う部分もたくさんありました。また、帝に最終決定権はあるんですが、道長が勢力を持っていた時代に、自分の意思をしっかり示して政を行おうとしていた部分もあったので、真っすぐな思いもあったのかなと感じています」
――脚本家の大石静さんと役についてお話する機会はあったのでしょうか?
「撮影前にも撮影中も大石先生とはお会いしました。その時に『年上の定子には甘えるような関係性で、のちに入内してくる年下の彰子に対しては、お兄さん的な立ち位置で』というお言葉をいただきました。リハーサル前に大石先生がお越しになった時に、お芝居に対してのアドバイスをいただいたおかげで意識しながら挑むことができたので、ありがたかったです。また、つい最近お会いした時には、編集段階の映像をご覧になった後で『少し心配していたけど全然問題ない! めちゃくちゃいいわよ!』と言っていただけたので、すごくうれしかったです」
――初登場は14歳の一条天皇として出演されていましたが、若いシーンを演じる上で大変だったことや、気を付けたことを教えてください。
「最初は若く作ろうと考えたのですが、そこまで意識しなくていいと言われました。気持ちの上では青さや若さを持っていたんですが、“14歳、15歳を演じています”といった心持ちではなかったです。昔の人たちは、今の14、15歳よりは大人びていたでしょうから、その辺はそこまで気負わずに、とにかく真っすぐさを意識しました」
――天皇という立場を演じることに対してはいかがでしょう。
「現在撮影は真っただ中で、シーンを重ねて、リハーサルを行う中で気付きが生まれることもあって。撮影を通して、一条天皇の心情を感じることがすごく多いです。中でも御簾の存在が大きくて。御簾で仕切られていると、孤独でとても寂しいんですよ。貴族たちが自分の昇進や家を守るために動いている中で、言い方を選ばずに言うと、『ダシにされている感じ』があったと思うんです。自分の目の前で放たれた言葉も全部が全部、本音だとは思っていなくて、欲望がずっと渦巻いている中にさらされていたんだなと。一条天皇はこれ以上、上の立場に行くことはないからこそ、定子への思いや自分の心に正直な部分を大切にしていたのかなとすごく感じています」
――天皇を演じる上で大変だったことはありますか?
「天皇という立場だと、基本的に座してお芝居をすることが多いので、動きで見せたり伝えることが難しいです。所作については、おそらく僕より皆さまの方が大変。僕は自分以上に上の立場の人間がいないので、『上の方と目を合わせてはいけない』とか『上の方に背を向けてはいけない』などの決まり事がないんです。ただ、帝であるがゆえのたたずまい、余裕がある感じや、天皇だけ時間の流れがゆっくりと穏やかであることは常に意識してやっています」
――それはどなたかに言われて意識されているのでしょうか? それともご自身でリサーチされたのでしょうか。
「リサーチもしましたし、教えていただいた部分もありました。そしてもう一つ難しいのが、平安時代のセリフまわし。常日頃その言い回しをしているという説得力がほしかったんです。その時代の言葉を言い慣れていない感じは出したくなかったんです。しかし、すらすらと言ってしまうと威厳がなくなってしまうし、とはいえ、言わされている感じや帝っぽさを出し過ぎると、ロボットのように見えて思いが伝わり切らないのではないかという心配があったので、その中間を心掛けました。天皇として座している瞬間と、個人として本音や心持ちを相手に伝えたい言葉を投げかける時に、品のよさと感情を両立させることが難しかったです」
――先ほど、出世のダシにされている感覚があるとおっしゃっていましたが、一条天皇にとって道長ら男性陣はどんな存在だったと思われますか?
「小さいころから自分の身の回りにいて、優しく遊んでくれていた人物たちをないがしろにできない思いもあったんだろうなと。帝としてきちんと政をしなければいけないし、冷静な判断を下さないといけない中でも情はすごくあるんだろうなと感じています。そこにあらがおうとする瞬間もあるけど、やはり捨てきれない。自分はこうありたいという思いはしっかりあるけれど、決断しなければいけない時に心を乱されることがすごくありました」
――この時代の天皇は操り人形というイメージもありますが、一条天皇自体が主体的に関わろうとする部分は、役に投影したいと思われているのでしょうか?
「そうですね。すごく自覚のある人物だとも思っているので、その座に担ぎ上げられたからには、世のため人のために政をしっかりとやっていきたい気持ちはきっとあっただろうと思います」
――また、一条天皇は龍笛の名手ですが、練習は大変でしたか?
「大変でした。別の取材で『龍笛が徐々に吹けるようになってきた』と言ったら、『そんなすぐにできるわけないだろ』とSNSで書かれたり、『あなたが思うほど単純なものではない』と言われたりして『ごめんなさい』って(笑)。でも、僕なりにすごく練習したし、龍笛の先生も褒めてくださったし、実際に僕の龍笛の音を使ったシーンもあったんですよ。それは大河ドラマの中では初めてのことらしくて、『短い期間で、すごいです』と言っていただけて。そのおかげでまた上達することもできて。きっと教え方が良かったんだと思います」
――どのくらい練習されたのでしょうか?
「2カ月くらいで吹けるようになったのですが、龍笛は不思議なもので、やればやるほど吹けなくなるんですよ。集中して吹こうと思うほど音が出なくて、いい意味で適当にリラックスしてやるのがよくて。だから、みっちり練習、みっちり稽古というよりは、とりあえず笛を家の中の目の届くところに置いておいて、例えば、1杯水を飲んだ時に笛が目に入ったら5分以内で吹くことを、毎日毎日繰り返していました。もちろん指の動きは練習していましたけど、吹くのは5分以内ということが多かったです。緊張したり、考えすぎるとどんどん音が出なくなっていくので、心をはっきりと映す楽器だなと思いました」
――それこそ撮影で演奏するのは緊張するのでは?
「そうなんですよ! 『本番!』と言われて音が出ないこともあったし、本番と相性が悪いんですよ(笑)。その中でうまい下手ではなく、いかに落ち着いて思いを音にして届けるか。史実では一条天皇は笛の名手と書かれてはいますが、龍笛の先生から『一条天皇が遊びの延長でやっていたという意味でも、すごく説得力のある演奏をなさっている』と言われたので、自信が出て徐々に上達できました」
――笛や歌などの素養を深めていくのは当時の人にはかなりプレッシャーを感じることだったと想像しますが、どう思われますか?
「おそらく、一条天皇は楽しんでやられていたのではないかと感じています。成り上がるためでもなく、自分が好き好んでやっていて、その趣味が定子と合っていて。興味があるものが近しい人物は、すごく息が合うし、いとおしく思えるから、そこが定子にひかれていった部分なのかなとも思っています。一条天皇の中ではそこまでプレッシャーではなかったんじゃないかな。それよりも、ほかの公卿たちの方がもっと学力を高めて、もっとすてきなことをしていないと上には上がれないと思っていたんじゃないでしょうか」
――では、一条天皇が寵愛(ちょうあい)していた定子を演じる高畑充希さんと共演していかがでしたか?
「すごく前に共演していて、その時からとてもすてきな俳優さんだなと思っていて。それからいろんなドラマや映画を拝見させていただいて、一種の憧れのようなものをずっと持っていたんです。そんな高畑さんと今回ご一緒することになったので、うれしくて、本人にも『好きなんですよ』と伝えたんです」
――高畑さんからはどんなお返事がありましたか?
「『告白?』と言われました。だから『そうです』と(笑)。定子との関係性は長い期間かけて見せられるとはいえ、僕らの関係性をすべて見せられるわけではないので、見せられる部分では、2人の関係性をしっかり見せていかないといけないと感じていました。その中でも、思い合っているだけでは成立しないことがたくさん、お互いの身に降りかかってくるので、そういった葛藤などを見ていると、いとおしいけれどずっと苦しかったですね。定子の家のことも重々承知していて、自分も帝として公卿たちに後ろ指を指されないようにしっかりと芯を持たないといけないのに、定子への思いを捨てきれないという思いもあったので。楽しく愛し合えたシーンは一瞬でした」
――一条天皇は、母と嫁の板挟みになっていてかなり共感できる人物に感じましたが、一条天皇の心理をどのように考えていましたか?
「いろいろあった中で、この思いを大事にするぞと吹っ切れた瞬間がきっとあったんじゃないかと。だからこそ定子の思いを尊重したりしたのではないかなと思っています」
――第18回(5月5日放送)で、吉田羊さんが演じる母・詮子と対峙(たいじ)するシーンの撮影エピソードを教えてください。
「羊さんと初めて撮影したシーンが2人でのシーンだったんです。そこでぶつけられた思いが、僕が台本を読んで思っていたものと違っていたので衝撃を受けたし、すごく胸に刺さるものがあったんです。一条天皇の中では、定子と彰子との関係性がメインかなと考えていたんですけど、それ以前に、母上との関係性がすごく深いものでもあるのだなと感じたシーンがたくさんありました。羊さんに『あのシーン本当にすてきでした』というお話をしたら、羊さんから『思ってたリアクションじゃなかったからすごくすてきでした』と逆に言っていただいて。僕はその時出たリアルな感情を出したので、こんな感情が湧き上がると思っていなかったんです。それが今後どう映っていくのかなと楽しみです。あのシーン自体は、僕も監督も予想していなかった空気になったんじゃないかなと勝手に思っています」
――溺愛されていた一条天皇が、母に対してどんな思いを持っているかが分かるシーンでした。
「複雑ですよね。自分の立場を利用しようと思えばいくらでも利用できる立場でもありますし、でもそれだけじゃない、ちゃんと愛情を持っていることもしっかりと受け止めている。一条天皇の中でも、政治のこと、母上のこと、定子とのことで感情が一気にごちゃごちゃになって、結構整理がつかない感じがありましたね」
――後継者選びで、なぜ母上の言うことを聞いたのだと思いますか?
「あれは母上の圧(笑)。おそらく10代で未熟なので、どこまで自分の自由にしていいのかを悩んでいたのかなと。まだ自分が分からないことがあって、母上の方がもっといろんな物事が見えているのかもしれないという迷いがあったのかなと思います。第18回の母上とのシーンは、そういうふうに自分の中で解釈して挑んだんです。そこへさらに羊さんが説得力を持たせるようなお芝居をしてくださったので、道長を後継者にすることへの疑問はそこまで浮かびませんでした。もちろん葛藤はすごくあったんですけど。母上の切なる願いは子どもだったら受けてしまいますよね。母親に一生懸命思いを伝えられて、それを放って自分の思いだけで進むことはなかなかできないなとすごく感じていて。自分が何とかしなきゃという思いにはなるので。やたらふに落ちたんですよね」
――結局それが正しかったんですよね。
「結果論ですけどね。そこは母上の経験値や、人を見る目があったからなのかなと。母上もいろんなことをたくさん経験した中で、取捨選択して自分の目を信じていたでしょうから、その結果が出たのかなと思います。政と家族のことを一緒にすると、感情と冷静な分析をごちゃ混ぜにしないといけないので難しいですよね。心の振れや乱れ、揺れなどを感じながら演じていました」
――吉田さんと対峙した中で芽生えた役者としての学びや気付きがあったら教えてください。
「羊さんとのシーンはリハーサルなしの本番でがっつりやったんです。キャリアを重ねれば重ねるほど油断してしまう瞬間があると思うんですが、そういったところが一切なくて。ドライの段階で、純粋な思いと本番さながらの感情をぶつけてこられた羊さんにリスペクトと尊敬しかなくて、『これから好きな俳優を聞かれたら吉田羊って言おう』と決めたくらいほれぼれしました(笑)。自分も油断せずに、どこまでいってもあぐらをかいてはいけないなと思いましたし、こんな俳優さんになりたいと素直に思いました」
――今後、彰子の出現によって、一条天皇は2人の女性の間で揺れ動きますよね。
「台本で描かれる一条天皇の最期は僕もまだ知らないんです。ただ、歴史上で言うと、一条天皇が最期に詠んだ歌は定子に宛てたものなのか、それとも彰子に宛てたものなのか分からないとされていて。藤原行成が残したものによると、定子に宛てたものだろうとされているんですよね。僕はそっちの説が濃厚なんじゃないかと思っています。それほどに定子への寵愛は一条天皇の中では大きく膨れ上がっていたのではないかと。ただ、彰子と触れ合うにつれどう変化していくのかは、僕自身も分からないところではあります」
――ありがとうございました!
【番組情報】
大河ドラマ「光る君へ」
NHK総合
日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BSプレミアム4K
日曜 午後0:15~1:00ほか
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
日曜 午後6:00~6:45
NHK担当/K・H
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