阿部サダヲが浮世絵師・歌川広重に! 優香が演じる妻の言葉に「ほれちゃいますよね」2024/03/23
浮世絵の世界で、葛飾北斎と同じように世界中に知られている歌川広重の物語が、NHK BSプレミアム4Kで3月23日に放送されます。原作は梶よう子さんの小説「広重ぶるう」。歌川広重(阿部サダヲ)がどのような人生を歩み、絵師として大成していったのかを、共に歩んだ妻・加代(優香)との夫婦の物語として描かれます。
今回は、これまで語られることが少なかった広重を演じる阿部さんから、広重の印象や撮影でのエピソード、糟糠(そうこう)の妻・加代を演じる優香さんへの思いなどを伺いました!
――歌川広重にはどのような印象を持っていましたか?
「学校では安藤広重として習った気がするんですけど、今は歌川広重で統一されているみたいですね。広重の絵は認識していましたが、火消しや武家出身だったことは知らなかったのでびっくりしました。浮世絵といえば、長塚京三さんが演じていた(葛飾)北斎の方が有名で、広重はあまり映像化されていない気がするのでどんな人だったんだろうと想像していたんです。芸術家というと、作中の北斎のような変わった人というイメージでしたが、広重は普通の人でした(笑)。奇麗好きだし、一般の人の感覚に近いんだと知りました」
――視点が市井の人という感じでしたよね。
「そうですね。その代わり、周りの登場人物が個性的で。吹越(満)さんが演じてくださった歌川国貞も独特ですごかったです」
――それでますます普通の人に見えるという…。そんな広重ですが、当初、全然売れていなかったのは驚きでした。
「あんなに奥さんに支えられている人だったということも知らなかったし、意外なことはいっぱいありました。でも、超天才といわれる人じゃないからこそ、親近感を持てるんですよね」
――優香さんが演じた献身的な妻・加代の存在が大きかったようですね。
「あの奥さんがいなかったら広重は売れていなかっただろうし、髙嶋(政伸)さんが演じる謎の保永堂の主人・竹内孫八の存在も大きかった。孫八は加代のことをどういうふうに見ているんだろうと不思議だったし、『どういう感情なんだろう?』とも考えるのもすごく面白くて。質屋をやっていたのに保永堂という版元になって、しかも実際にいた方だというから驚きですよね。演じる髙嶋さんもすごくよかったです」
――登場人物は皆、癖はあるけれど嫌みのない面白い方ばかりでした。特に好きだったキャラクターはいらっしゃいますか。
「そうやって作ってくるんだなと感心したのは、北斎さん。不気味だけど、すごい人なんだと思わせてくれて。『なるほど』と思いました」
――北斎はどんと構えていて全く周りを気にしていないけど、広重の絵のことは知っている。存在感がありましたよね。
「そうですね。それに、広重の家に来る人すべてが楽しい人ばかりでした。版元の主人・岩戸屋喜三郎さん(渡辺いっけい)が最初に広重の家に来てくれて、広重の相談相手である岡島武左衛門役の勝村(政信)さんは、何か裏があって仕掛けてくるんじゃないかと思うこともありましたが、その人たちがいい助言をしてくれる。広重は人に言われた言葉をちゃんと覚えていて、そういう人たちに支えられていたことが良かったですよね」
――広重の絵を認めてくれた第1号は昌吉(川原瑛都)という小さな男の子でした。
「小さい時の昌吉、かわいかったな。師匠って言ってくれて。お金がないと言っているのに、弟子にしちゃうところがまたすごいですよね。加代も快く受け入れるし」
――ああいう人間味がすごくすてきですよね。そんな広重を演じていて、どんなところが楽しかったですか?
「久しぶりに会えた先輩方と共演できたことに加えて、広重のキャラクターが面白かったので、演じることがすごく楽しかったです。そして何といっても、台本を読んだ時に奥さんが偉大だなという印象を受けました。それが優香さんだったから現場も明るくて、すごく助かったし良かったです。今回、取材ということで優香さんに連絡したら『褒めておいてください』と言われたので、ちょっと褒めますけど、素晴らしかったです(笑)」
――一度、絵描きを辞める決心をした広重に、加代が掛けた言葉もすてきでした。
「本当に奥さんが素晴らしいですよ。辞めると言った広重に『分かりました。武士であることを辞めるんですね』と言うんです。それは、ほれちゃいますよね。優香さんに言われたからではなく、優香さんの演技が本当に良かったです」
――苦労を全く見せない表情とたたずまいも良かったです。
「僕ももっと奥さんを大事にしてやれと思いました。あんなに近くで名前を呼ばれているのに、絵を描いていると集中しすぎて気付かなくなっちゃうし。でも、返事をしなくなることも、加代さんは分かっているんですよね」
――また、広重の絵は、風景の中に人物や旅人を入れる視点がほかの絵師と違っていました。
「人が好きなんでしょうね。もともと火消しとして人助けをしていたことも大きいのかな。広重のいいところは、一般の人を絵に入れて描いているところ。だから売れたんでしょうね。歌舞伎絵や美人画はちょっと遠い感じがするけど、生活感がある絵だと、自分たちの身近な人が出ている感覚があっていいのかなと」
――火消しをしていて毎日空を見ていたからこそ青に対するこだわりがあって、やがて“べろ藍”という見たことのない青色の顔料で空を描くことを夢見るようになります。
「嫁に意地悪ばっかりしているような家族がきっかけで、空の色の出し方に気付くのは面白いなと思いました。その後も、空の色の出し方についてずっとこだわって、何度も試し刷りをしていたはずなのに、最終的な刷りは『お前に任せる』と摺師(すりし)に言うところが広重の面白いところですよね。それでいいんだって(笑)。お武家らしくないなと言われるんだけど、身分関係なくやっている感じが人間らしくていいですよね」
――ロケはあったのですか。
「主に京都でロケをしたのですが、1時間半以内で、昔の風景のような、現代物が建っていないようなところに行けちゃうんです。お寺も貸していただいたので、行ったことのないお寺に結構行きました。東京だとなかなかできない。京都じゃないとこういう撮影はなかなかできないですよね」
――ロケではどんなことが大変でしたか?
「夏に京都で撮影をしていたので、暑かったことです。エキストラの方も含めて、あんなに多くの清涼飲料水の空瓶を見たのは初めてというくらい、そんなに飲んだかと(笑)。本当に暑かったです。スポットクーラーっていうパイプみたいなものを体の中に入れたりしながら撮影していましたね。京都は暑いと聞いていたけど、本当に暑かった」
――絵を描くシーンは大丈夫でしたか?
「外は暑いけど、絵を描くシーンはスタジオの中でクーラーを入れてくれていたので、僕は大丈夫でした。汗で着物の色が変わっちゃう人もいて大変そうでした。撮影では特に火の見やぐらの上が暑かったです。やぐらの上までスポットクーラーをつないでくれて、風を送ってくれていたのでありがたかったです」
――四つんばいになって絵を描くシーンは、難しそうに見えました。
「先生たちの教え方がすごくうまかったから大丈夫でした。優しいし、分かりやすかったです。筆の持ち方は今とは違って、なるべく筆を垂直にした方がいいんですけど、そういう描き方をしたことないし、筆を垂直にして線を真っすぐ引くのも意外と難しいんです。しかも、昔は手を紙に付けて描くので、それも慣れなくて。うまく引けなかったので、家に持って帰って結構稽古をしました」
――定規みたいなものを使って雨を表現しているところも興味深かったです。
「あれも面白いですよね。ほかにも加代の顔を描くシーンで『こうすると格好いいですよ』とアドバイスされた描き方があったので、そこはやりたいと思って頑張りました(笑)」
――教わってすぐにできるものなんですか?
「持って帰って練習をしないと難しいですね。筆が体になじんでいないとダメなんですよ。本番は稽古の時に使っていた筆じゃないので、感覚がちょっと違うこともありました」
――筆の種類があんなにたくさんあるんだと初めて知りました。
「絵の描き方によって変えるので何本もあって、それで替えていくんです」
――それは確かにお金かかりますよね。
「少しけば立ったら筆を替えるんです。そこにはこだわるけど、一番近くにいる奥さんのかんざしは見ていないんだなと。昔から付き合いのある版元の喜三郎に言われるまで気付かないし、加代が質屋から出てきたのを初めて見て、ものすごいショックを受けますからね。いつもお金がどこから出ていたと思っていたんでしょうね」
――そこが広重らしいところでもありますよね。今作はシリアスなシーンもありつつも、全体的にコミカルな雰囲気があります。コミカルなシーンで楽しかったシーンはどこでしょうか?
「脚本上で結構コミカルなシーンを作ってくださっている感じがしたので、それは意識をしました。硬い話にしない方がいいんだろうなと思ったので。僕は、お金がないのに弟子を連れてきちゃうところがすごく面白かったかな。昌吉と加代が『よろしくお願いします』って言い合っていてね」
――そこはあえて普段よりもより軽い感じで演技されていたと。
「加代に頼み事をした広重が、『承知しました』と言われた後に『加代』と名前を言う言い方は意識していましたね。毎回『承知しました』『加代』と名前を呼ぶことで済まされちゃっている。そういうある意味“天丼”みたいな繰り返しは、ほほ笑ましく見えた方が終盤のストーリーに生きるかなと。そして、コミカルな中でも大事にしたのは、加代が保永堂・主人に広重のことを『優しすぎる絵師です』と言っていたところ。台本を読んだ時に一番泣けたので、そこは大事にしようと思いました」
――話は変わりますが、「広重ぶるう」というタイトルにちなんで、お好きな色を教えていただきたいです。
「原色じゃないかもしれないですね。普段も明るい色はあまり着ていないかもしれません。寒色と暖色でいったら、寒色系が好きなのかな。その気分によりますが、絶対にこの色じゃなきゃ嫌だっていう色はないです。そんなにこだわりがないので。強いて言えば、茶系が好きなのかも」
――では、好きな空の景色はありますか。
「火の見やぐらから見た空はすごく奇麗でしたね。冬の空の澄んだ感じも好きです」
――広重のように、普段絵は描かれますか。
「描かないんですよ。字も書かない(笑)。だから漫画絵などをささっと描ける人はすごいなと思って。僕は無理ですね。小学校の時にあった写生大会でも描きたいものがなくて」
――結局、何を描かれたのですか?
「住んでいる地域に役者さんが住んでいたのでその役者さんの家を描いたら、『みんな神社を描いているのに、お前は何を描いているんだ』って怒られました(笑)」
――画角のどこを切り取るかは、センスですよね。
「神社は何人も描いているから違う視点を褒めてくれてもよかったですよね(笑)」
【番組情報】
特集ドラマ「広重ぶるう」
NHK BSプレミアム4K
3月23日 午後10:00~11:50
NHK BS
4月27日 午後8:40~10:30
取材・文/K・H(NHK担当) 撮影/為広麻里
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