「光る君へ」で道長を演じる柄本佑が、「あれかい!」と思わず突っ込んだ大石静の道長像とは?2024/03/18
大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合ほか)の第11回(3月17日放送)では、藤原兼家(段田安則)の計画により花山天皇(本郷奏多)が退位し、再び官職を失った藤原為時(岸谷五朗)。まひろ(吉高由里子)は摂政となった兼家に直訴するも一蹴されます。その後、藤原宣孝(佐々木蔵之介)に「婿を取れ」と言われたまひろは、藤原道長(柄本佑)に対して大きく気持ちが揺れ動きながらも妾(しょう)になることを拒んでしまいます。果たして、思い合う2人はどうなっていくのでしょうか。
今回は、平安の貴族社会で最高の権力者として名を残したまひろのソウルメート・道長を演じる柄本さんに、役の人物像やまひろを演じる吉高さんとの撮影エピソードなどを伺いました!
――道長役のオファーを受けた時の思いを教えてください!
「大石(静)さんの脚本で吉高さん主演のドラマ「知らなくていいコト」(日本テレビ系)の現場がとても楽しかったので、2人が大河ドラマをやるというニュースを見た時に『ちぇ、いいな。楽しそうじゃん』と心のどこかで思っていたんでしょうね。だから、お話をいただいた時は藤原道長役と言われたことよりも、単純に座組みに入れる、うれしいという喜びがありました。その後、道長は時の権力者として、ヒールで自分の娘でも何でも使えるものは使うイメージだけど、細かいディテールは知らないなと役について思いを巡らせました」
――制作陣からはどんな道長像を求められたのでしょうか。
「最初に打ち合わせをした時に、実は道長は人間味があったと言われて。末っ子ののんびり屋で、兄貴が政治の道に進むだろうから自分も関わらないわけにはいかないけど、前に出ることなく、兄貴の後ろでのんびりしようと思っていた三男坊の道長くんが、あれよあれよという間にトップに君臨するという道長像をやりたいと言われました。大石さんは、映画『ゴッドファーザー』のアル・パチーノのようにしたいとおっしゃっていました。何がプレッシャーって、そっちの方がプレッシャーでした(笑)。その時、ちょうど何の因果か、池袋の映画館で『ゴットファザー2』を見たばかりだったんですよ。だから、『あれかい!』と思って(笑)。撮影にあたってはいろんな本も読みましたが、ぼんやりしたイメージは浮かぶけれど1000年以上前のことなので、細かいディテールが分からないことが結局よかったのかもしれないです。大石さんが書く道長に向き合っていけばいいんだと思ったし、台本に書かれている道長がそれぐらい濃いキャラクターとして書かれていたので、僕としては皆さんがイメージしている道長ではなく、大石さんの道長に向かっていけばいいと考えていました」
――いち視聴者として放送をご覧になった感想を教えてください!
「自分の出演作品を見るのが苦手なので客観的に見られているかどうか分かりませんが、台本の持つスピーディーさに映像がフィットする形でつながっているので、あっという間に感じてもらえる作品になっていると思います。大石さんが書かれた台本は撮影前から読んでいるのですが、とても面白くて。スピーディーでありながら重厚感もあるし、気持ちは通じ合っているけれどなかなか結ばれないまひろと道長のラブストーリーと、藤原家中心の政治も面白い交わり方をしていて、あっという間に読み終わっちゃうんです。映像については『前の監督がこの角度から攻めているから、今回の監督はこの角度から見せているんだな』など、監督ごとの演出の違いを見て、個性がしっかりあるんだと感じました」
――周囲からの反響はいかがですか?
「先日、小学生の時から知っている近所の花屋さんと会った時に『面白いよ! すごく面白い』と言われました。その方は書道をされていて、書もすごくお好きな方で。そして今回初めて知ったんですけど、時代オタクなんですって。そういう方から意見を聞けたのはとてもうれしいです」
――先ほどおっしゃっていた通り、まさに「ゴットファザー」のような一族の右大臣家ですが、兼家役の段田さんはじめとする家族の皆さんについてはどう思われますか?
「どことなく家族に見えますね(笑)。長兄・道隆役の井浦新さん、次兄・道兼役の玉置玲央さん、姉・詮子役の吉田羊さんがいて、道長役の僕がいて、おやじが段田さんで…。映像で見た時、兄弟に見えることにすごく驚きました。第11回(3月17日放送)の後には摂政の父・兼家には今後もう一波あって、一緒にお芝居をさせていただいて、段田さんにしびれました。そして、新さんの柔らかいんだけど、どんどん攻撃的になっていくさまと、玲央さんの狂気と。道長的には本当に知らないことも多いし、周りが強すぎるので、一番薄いキャラでいようと。あの4人に打ち勝つのではなく、その中でいかに存在感を消せるかを考えながらやっていました」
――ご自身にも道長と同じように偉大なお父さまと個性豊かな兄弟がいらっしゃいますが、似たような境遇の道長を演じたことで新たな発見があったらお願いします。
「大石先生が書かれるセリフや関係性が非常にフィクション度の高いものなので、自分と比べることはないです。ただ、僕は本当にお兄ちゃんに憧れていたので、末っ子を演じる上ではそれが出ているかもしれません。それに念願の末っ子役なので、自分の思い描く末っ子像は多分入っていると思います。もしかしたら、兄弟はお互いのことをよく見ているので、実生活で兄貴の立場の人が兄貴役、弟の立場の人が弟役をやるよりも、立場をクロスした方が役を演じる上ではいいのかもしれませんね」
――第9回(3月3日放送)では、まひろと道長が直秀(毎熊克哉)を埋葬するシーンがありましたが、どんな気持ちで演じられたのでしょうか。
「このドラマにおける第1部的な感じで、ここからまた話が進み、要になるシーンだと思って演じていました。台本上は、埋葬した後に道長が『すまない』と言い始めて『彼らを殺したのは俺なんだ』とまひろにざんげするのですが、それだと少しイメージと違う気がするんです。ぼんやりしているけれど、末っ子的な立場で周りのことは意外と見ていて、一歩引いたところがある道長だったら、まひろではなく、目の前にいるけれどもう聞こえないし見えない埋葬した仲間たちにざんげするんじゃないかなと。道長が初めて不毛なことにぶつかるところですし、これから先、偉くなっていく過程の中で、道長に民を思う気持ちがあるのは直秀たちのことが一番の根っこにあるんですよね」
――道長が少年から青年に変わっていくきっかけになったのは、直秀の死も大きかったと。
「今作の物語においてはそうですね。しかも、自分がよかれと思ってやったことが直秀の死につながってしまったことも大きいんじゃないかなと思います」
――これからどんどん変わっていく道長とまひろの関係を台本で読んだ時、どのように感じましたか?
「まひろと道長のシーンに関しては、感情や内容が行ったり来たりするんですよ。特にまひろは、1個前に言ったセリフと道長が発言した後に言うセリフが、極北のセリフなんです。大石さんっていう人はなかなかいけずなシーンを書きますなと。また、まひろと道長が廃邸で会うシーンで、道長は真っすぐまひろにぶつかっていくんだとも思いました。もしかしたら、廃邸のシーンでしか道長は本音で語れていないのかなと。まひろに対してだったら、本当に怒れるし、優しい言葉もかけられるし、本音が言える。そんなところが良くも悪くもソウルメートであるゆえんなのかなと想像しました。ちなみに廃邸のシーンは、ことごとく長いんですよ(笑)。だから、吉高さんと協力し合ってバディを組んで、大石静の書く厄介な台本に挑んでいる感じがします」
――吉高さんとは、まひろと道長のことについてお話されますか?
「一度リハーサルでお互いの芝居をするだけで、解釈合わせのようなことはしていません。これだけ一緒にやっているので、言葉にしなくとも会話をしているようなところはあるのかもしれないですね。ただ、感想は言い合っていて『何話のあのシーン読んだ?』『読んだ、読んだ。ちょっと長くない?』『確かにめっちゃ長いし、やりとり多いよね。頑張ろう』という感じの会話はラフにしています」
――印象に残っている吉高さんの演技を教えてください。
「吉高由里子という女優さんは、毎回懐の深さを感じます。長いシーンを撮る時は特にそう思うんです。印象に残っているシーンは、第5回(2月4日放送)の告白のシーン。吉高さんに目を奪われて、たたずんで見ることしかできなかった。非常に強いシーンではあるんですけれども、弱くも見える。それが吉高さんのすごいところです」
――道長はまひろのどんなところにひかれたと思われますか?
「言葉で表せるようなひかれ合いの強さではなく、ひかれている部分を語れないほど度外視したひかれ合い方をしている気がします。同じくらいひかれている部分と憎んでいる部分があって、そういったこともひっくるめてソウルメートというイメージです。どんなに会わないようにしていてもつながってしまっていて、必ずどこかでは会ってしまう感じ。僕自身は、まひろの猪突猛進な真っすぐさが魅力的だと思っています。先ほども言いましたが、道長が発言した前後でまひろは真逆のことを言うんです。明らかに矛盾しているんですが、どっちもうそじゃないし、翻弄(ほんろう)してやろうということでもない。そのうそのなさが魅力なのかなと」
――演じるにあたり、平安時代についての昔の作品をご覧になったのでしょうか。
「吉村公三郎さんが演出、新藤兼人さんが脚本で、長谷川一夫さんが光源氏を演じた『源氏物語』(1951年)を見ました。紫の上を片手でつかんで馬に乗せて連れ去っていたので、世界観が違うなと。過去の作品を見すぎることで頭でっかちになる時もあるので、ほかの作品には触れませんでした。結果的には、今作の世界観の作り込みが非常に熱いし、衣装やセットの説得力がすごいので、平安時代を無理に意識しなくても入り込めるので見なくて良かったと思います。ただ、所作は今も大変ですね。何が難しいって歩くことが非常に難しい。撮影前には歩く練習をずっとしていました。暇さえあれば、ずっとうろうろしていました」
――歩き方が現代とはそんなに違うのですか?
「歩き方は普通なのですが、階段を昇り降りの一歩目やまたぐ動作が全部左足から始まるんです。これが案外、バタつくんです。手前でとんとんとつまずく感じになるので、左足から足を出す動作は日常から意識して溶かし込んでいけたらいいなと思ってやっています。ドラマを見ている人でそれを知っている人や注目している人はいないかもしれないけれど、そういった細かいことの積み重ねが自分の重心を下げてくれて、浮いたものにならないように導いてくれているように思います」
――ところで今、髪を伸ばしていらっしゃいますが、それは地毛で結うためですか?
「そうです。地毛で結っています。昨年の5月末の撮影では長さがギリギリ足りている感じだったので、もうちょっと伸びたらいいなというところから始まったのですが、今は伸びすぎて、髪を折りたたんでいい長さに調整しています。今もじゃんじゃん伸ばしています(笑)」
――その方がリアリティーがあるからでしょうか。
「何よりもセッティングに時間がかからないし、コンパクトにまとまる上、気軽に触れるので地毛でやっています。1年を通じてずっと出ているので、しっかり地毛でやれることは非常に演技の助けになっています」
――後に道長は権力を持つことになりますが、権力者を演じる難しさや楽しさを感じることはありますか?
「これまで演じた役の中で、多分一番偉いんじゃないかな。今後この偉さを超える役もなかなかないかもしれませんね。今、まさに権力者として芝居をすることに奮闘している真っ最中です。権力を握った道長を演じるにあたっては、最高権力者だと思わないことを心掛けています。当然、差配をしなくてはいけない瞬間や世の中のことを考えて帝を誘導することはあるんだけれども、道長も1人の人間で、第9回の自分の手でたくさん土を掘って埋葬して、直秀たちに真っすぐに謝ってしまう道長の部分と、末っ子ののんびり屋であったっていう根っこの部分を大事にしたいです。そこがないと、これから最高権力者をやっていってもふわふわしたものになってしまうような気がしているんです」
――実父である柄本明さんも権力者をたくさん演じているイメージがありますが、道長を演じるにあたってアドバイスはありましたか?
「随分昔、僕が若い頃に役で悩んだことがあって、おやじにアドバイスしてほしいと電話したら『じゃあ、飯に行くか』と誘われてご飯を食べたのですが、一向にその話をしないんですよ。僕がしびれを切らして、2時間くらいたったころに自分から聞いたら『別に何も見なくていいんじゃないの』というようなことを言われたんです。それ以来、相談はしなくなりました(笑)。ただ、今回の『光る君へ』は父もとても面白く見てくれているみたいです」
――今後、道長はどのようになっていくのでしょう?
「政治の道に進み、藤原家を残していくことになります。そのために自分がトップに立つことになるのですが、頂点に立つ自分と本来の人間性のギャップと戦い続けていくことでもあり、葛藤にもつながっていくと思います。そのようなシーンが今後、出てきます」
――ありがとうございました! どのようなシーンか楽しみです。
【番組情報】
大河ドラマ「光る君へ」
NHK総合
日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BSプレミアム4K
日曜 午後0:15~1:00ほか
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
日曜 午後6:00~6:45
NHK担当/K・H
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