伊藤沙莉が「虎に翼」のヒロイン・寅子の魅力について語る「寅子は人間らしいけど動物的で、すごく素直な人」2024/03/06
4月1日からNHK総合ほかで放送がスタートする連続テレビ小説「虎に翼」。昭和の初めに設立された、日本初の女性に法律を教える専門の学校へ集まったのは、日本のどこにも収まれない、あふれ出る何かを抱えた女性たちでした。この物語の主人公・猪爪寅子(伊藤沙莉)も、そんな収まれない女性。彼女は自らの道を切り開くため法律を学んでいきます。やがて、1938(昭和13)年、卒業生から日本初の女性弁護士が誕生。寅子もその1人として日本中から注目され、憧れの的になります。しかし弁護士として意気揚々と世に出た寅子たちを待ち受けていたのは、戦争へと突き進んでいく日本でした。
――9月にクランクインされてから、もう半年近くが経過しようとしています。これまでの撮影期間を振り返って、今の率直なお気持ちを教えてください。
「すごく楽しい日々を過ごしています。朝ドラの撮影は始まる前からいろんな人に『大変だよ』と言われてきたりもしましたが、大変さよりも楽しさが勝ってますね。支えてくださる方々もたくさんいますし、仲間意識がとてもあり、絆がどんどん深まっている気がします。共演者全員が同じ方向を向いて『いい作品を作ろう』という気持ちでお芝居に向き合っていますね」
――朝ドラに対する印象と、主演が決まってからの周囲の反響を教えてください。
「朝ドラは私が知っているドラマの中でも最も幅広い層に愛されている番組だと思うので、そこに飛び込むことにはとても緊張しました。主演が決まった時から、周りの人はずっと楽しみにしてくれていましたね。朝ドラで法律の話をするのは『ひまわり』(96年)以来ですし、今回の主人公のモデルとなった三淵嘉子さんの人生にもすごく興味があるみたいでした。『面白い!』って思ってもらえる自信はあります」
――女性の権利が弱い時代に、寅子たちはそれぞれの立場で葛藤を持って闘うという物語ですが、魅力はどんなところにあると思いますか。
「いろんな人の人生が入り交じっていて、立ちはだかっているものも夢もそれぞれ違う。そういうところを一つ一つ丁寧に、一人一人にフォーカスを当てているのがすごくすてきな部分です。初めてこのドラマの記者会見をした時に『人間らしく演じたいし、人間らしい描かれ方がしているといいな』と話しました。寅子は正解ばかりを出すのではなく、見えていない世界もあって、そこが好きなんです。見えていない世界を経験していくことで、一つ人間として深くなり、考え方が広がっていくところがすてきです。『立ちはだかっているものは、昔も今もずっと同じなのかな』とか、『一つのことを解決するのにはすごい時間がかかるんだな』など、奥行きを感じられるのもこの作品の魅力だと思います」
――ヒロインの寅子はどういう人物ですか?
「今の段階では、人間らしいけど動物的で、すごく素直な人です。一番合っている世界に入り込んでいった人だと。法律の世界は興味や疑問からスタートして、それに納得していない人じゃないと法律を変えられないと思うんですよね。寅子は一言多かったり、思ったことをすぐ言ってしまったりすることで、母親・猪爪はる(石田ゆり子)に怒られます。でも発言できることは何かを変えるチャンスですし、人の心を救うことだってできる。だから寅子は法律の世界が合っていると思うんです。どうしようもないことを言ったりやったりしてしまう寅子も私は好きで、面白いと感じながら演じています」
――法律について、事前に勉強したり準備したことはありますか。
「たくさんの本と資料で勉強しましたし、明治大学でも4回講義を受けました。大学生を味わえて楽しかったです(笑)。講義を受けていると、寅子が『なんで? なんで?』と疑問を持つ気持ちが分かりましたね。例えば離婚した場合、昔は父親しか親権を持てなかったんですよ。でも今は母親も親権を持てるようになっている。ここに至るまでの経緯や苦労を知れたのは、寅子のもんもんとした気持ちを理解する上でとても参考になりました」
――演じるのが難しかったところはありますか。
「傍聴席での裁判を見るシーンですね。自分の中で十分理解したつもりでも、それを表情で表現するのは難しかったです。監督が、その裁判の大事なポイントについてすごくかみ砕いて説明してくれたので、自分の中で理解が深まりました」
――もともと法律にどのようなイメージを持っていましたか。また、演じる中で、弁護士や裁判官のイメージは変わりましたか。
「法律は『当たり前に自分の中にあるもの』というイメージでした。法律を学んだり寅子を演じる中で、『私たちはこうやって守られているんだ』とか『法律を作るために闘った人たちがいたからこそ、今私たちは平和に過ごすことができているんだ』と実感できたことに感謝しています。法律はまだまだ良くすることができるんじゃないかなとも感じています。私が知らない世界を深く知っていて、その中で闘う人たちのすごさや格好よさを感じました。寅子の時代の法律は私からみて違和感があるものだったので、『おかしい』という思いをそのまま演技で出していきました。だから違和感なく演技ができたと思います」
――当時の価値観や考え方にタイムスリップして役作りすることは難しかったですか。
「難しさは感じませんでした。『どうしてこんな言い方するんだろう』とか『どうしてこんな制度なんだろう』という寅子の疑問は、自分にもリンクしていることがあるんですよ。女性ばかりが不利だと思わざるを得ない時代だったんだなと思いますし、そこで闘ってきた寅子の意思や覚悟は、すごくすてきです」
――石田ゆり子さんや父親・猪爪直言役の岡部たかしさんとの家族の撮影での雰囲気はいかがですか。
「すごくいいですよ。本当の家族みたいです。みんな楽しくワイワイ話す時もあれば、フラッとどこかに行っちゃうこともあるけど、気にならない雰囲気ですね。それに、本当にありがたいことに、撮影に使う食事がおいしくって! 撮影現場が食事する場所になっていました。だから食事のシーンがあると、みんなご飯を抜いて撮影中に食事を済ませています。撮影が終了しても誰一人動かない感じで、家庭の食卓になっています(笑)。こういう楽しい時間がすごく多いです」
――「ブギウギ」(2023~24年)でアホのおっちゃんを演じていた岡部さんは、本作ではお父さん役です。父親・直言はどんな印象ですか?
「とても愛情深くてお調子者だけど、格好いいところもちゃんとある。頼りになるお父さんです。だから『ブギウギ』を見ている方はなおさら、岡部さんを楽しんで見ていただけるんじゃないかと」
――いろんな意味で「結婚」がキーワードになる物語ですが、演じてみていかがでしたか?
「当時は、結婚することが今よりも不自由になるという見え方をする時代だったんだなとすごく感じました。例えば、寅子の親友には家庭に入ることをとても楽しみにして、結婚に夢を持った子もいます。それはそれで結婚のすてきな見方だと思う。でも、寅子は『なんで家に収まっていなきゃいけないの?』と疑問を持ちます。また当時は、結婚したら妻が法律上『無能力者』と呼ばれていました。寅子はそれはとても失礼な表現だということに早い段階で気付きます。そういう疑問や違和感が法律への疑問に代わり、それがもっと大きなものとなって夢になるという展開で、そのスタートが『結婚』というのはすごく面白いです。第1週に関しては、寅子が今後を考えることの入り口として『結婚』があるという意識で演じていました」
――寅子の家に下宿している書生の佐田優三役の仲野太賀さんとは「拾われた男」(22年)で夫婦役を演じられていました。再び共演されていかがでしたか。
「太賀さんは本当に頼りになる方で、お芝居から学ぶことが非常に多いですね。ご本人にもこの前お伝えしましたが、太賀さんとじゃないとこの関係性や空気感は出せなかったと思います。太賀さんがいる時は芝居の相談を太賀さんにするんですよ。そうすると大体解決してくれるっていう心強さがとてもあります。また、私がぶっ倒れるという演出を受けたら、太賀さんもぶっ倒れてくれて物語を展開させていってくれますね。自由に動いても大丈夫な人なので、お互いやりたいことをやって、それに乗っかっていく時間が楽しかったです。本当に大好きな先輩なので、またご一緒できて良かったと思っています」
――寅子の弟・猪爪直明役のBE:FIRST・三山凌輝さんは「朝ドラ初出演で不安もある」とお話されていました。座長として声を掛けることはありましたか。
「昔から先輩のように接することには抵抗があって…。でも、お芝居以外のことで話かけることはありますね。世間話をしていた方が打ち解けられるのかなと思って。ピュアで真っすぐでとても気持ちのいい子なので、一緒にいて楽しいです。現場に慣れるのも早かったですよ。今は共演者とワイワイしゃべっています。お芝居も堂々と演じています」
――寅子が入学した明律大学での撮影はいかがでしたか?
「女子部でいる時はキャピキャピしていますね。防寒グッズに詳しい人がすごく温かい靴下を配ってくれた時は『すごいあったかい!』ってみんなで盛り上がって。ワイワイ楽しくやっています。環境が変わればその環境通りの空気感になるところがリアルで楽しいです。役作りの助けにもなっています」
――大学の仲間を自分が視聴者として見たら、誰が好きですか。
「男装の女性・山田よねさん(土居志央梨)にキュンキュンしています! 撮影で海に行った時に、1人だけズボンのポケットに手を突っ込んで歩いている姿を後ろから見たら、すごく格好よかったです!」
――もし、お兄さんのオズワルド・伊藤俊介さんが本作に出演することになったら、座長としてどう対応しますか。
「先輩面しようと思います(笑)。最近はお芝居のお仕事もしていると聞いていますので、アドリブを交えながら楽しんで演技してほしいですね。でも、重要人物にはしたくないです(笑)」
――台本にはくすっと笑えるシーンが散りばめられていますが、お気に入りのシーンはありますか。
「第1週では、お兄ちゃん役の猪爪直道(上川周作)のキャラの濃さにびっくりすると思います。決めゼリフみたいなものがあるんですけど、それが何か楽しみにしていてください! それと、笑えるシーンではないですが、お母さんと対峙(たいじ)するシーンは大事なシーンなので、見応えがあります」
――「ひよっこ」(17年)で安部米子(さおり)役を演じていらっしゃいましたが、「ひよっこ」との違いや「ひよっこ」をやっていて良かったと思うことはありますか。
「『ひよっこ』では一つの場所での演技がメインだったので、その場所でどう面白く見せるかを考えていました。『虎に翼』ではワンシーンではなく、ストーリー全体のことを考えながら演じる必要があります。そして、撮影は撮る順番がバラバラなんです。朝に子どもが生まれたシーンを撮って、夜に高校生のシーンを撮る感じです。だから頭を素早く切り替えることも意識しています。『ひよっこ』は撮影にスピード感があったので、それは今の撮影に生きていますね」
――これまで出演されてきた多くの作品の中で、本作はどのような位置付けになりそうですか。
「確実に代表作にはなると思います。昔、ある人の人生を映画化するとした時に、絶対に外してはいけないワンシーンを演じるというワークショップを受けたことがありました。今、そのワークショップで私の人生を映画化するとしたら、絶対に外しちゃいけないシーンは『虎に翼』で寅子を演じているところですね。まず、作品としてとても面白いです。そして、寅子は私と似ているところもあれば、私が挑戦できる部分もあって。だから人間的にも成長している気がするんです。寅子役を通して、人との関わり方や物の扱い方なども学ぶことができています。「虎に翼」の撮影中に30歳という節目を迎えることにもなるので、より一層大事な作品になると思います」
――お話ありがとうございました!
【番組情報】
連続テレビ小説「虎に翼」
4月1日スタート
NHK総合
月~土曜 午前8:00~8:15ほか ※土曜は1週間の振り返り
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
月〜金曜 午前7:30〜7:45ほか
NHK担当/Y
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