野間口徹「僕にとっては、仕事場に来ることがVR空間にいるのと同じ感じなんです」――「VRおじさんの初恋」インタビュー2024/03/04
4月からNHK総合で放送する夜ドラ「VRおじさんの初恋」。本作は、さえない中年の独身男性・遠藤直樹(野間口徹)が、VR(バーチャル・リアリティー:ゴーグルをつけ360°の映像を見ることで、その空間にいるような感覚を得られる仮想現実)の世界で制服姿の少女・ナオキ(倉沢杏菜)として過ごす中で、天真らんまんな美少女アバター・ホナミ(井桁弘恵)に恋をして、現実世界とバーチャル世界を行き来して進む物語。
人といるのが苦手で、VRでも1人で過ごす直樹=ナオキが、女の子の姿で、女の子のアバターに恋をしてしまったことで、二つの世界がそれぞれ影響し合い、今までとは違う人生を見つけようとする主人公の姿を描いていく新しい形のヒューマンドラマだ。今回は、主人公・直樹を演じた野間口さんにインタビュー。役作りから、作品の面白さまでたっぷり語っていただきました!
――いきなりですが、過去のインタビューでは「脇役が生きがい」とおっしゃっていましたが、主役のオファーを受けた今の気持ちをお伺いできればと思います。
「昔はそういうことも考えていたんですけど、最近はその辺はどうでもよくなってきてて。シーンごとに変わってくるものだし、別にこだわらなくていいと考えるようになりました。吉田(照幸)監督だったからオファーを受けたのはありますが、特にこだわりもなく、気張って何かしようと思うこともないです。何も変わらないです」
――どのような内面の変化があったのでしょうか。
「いろんな作品を経て、別にそんなことはこだわらずに、ただ役をやることでいいのかなと思い始めましたね」
――座長として意識されていることはありますか。
「特にないですが、強いて言えば、物を言いづらい人間にはならないようにしようとは思っています。監督の4人だけでなく、カメラマン、美術部やいろんな部署の方々が『こうしてみたら?』と言ってくれるアイデアを全部拾えるように意識しています」
――振る舞いも変わらないのでしょうか?
「僕自身はどこの現場に行っても変わらないです。主演だからということは特に考えていなくて。自分が気持ちよく仕事をするために周りの人を気持ちよくするべきだなと、居酒屋でアルバイトをしていた頃から考えていることなので、意識はしていますが、それはどの現場でも同じです」
――台本を読んだ時の感想を教えてください!
「直樹は今まで演じたどんな役よりも自分に考え方が近い人間だから、今すごく難しくて。コミュニケーション能力が著しく低いくせに、人の顔色をよくうかがっているところや、誰かと会う約束をした日が近づいてくると憂鬱(ゆううつ)になること、人との関わりはあまり持ちたくないと思っているくせに、コミュニケーション能力が高い人を見ると嫉妬してしまう部分など、自分が今まで恥ずかしいと思って隠してきた部分を、世の中に言ってしまっていいものなんだと驚きました」
――自分と共通点が多いと、演じやすいんでしょうか。
「僕は自分じゃないものになっている方が楽しいんです。だから、自分と似ている人を演じる方が圧倒的に難しいです。あまりにも近い存在で、ちょいちょい自分がこぼれる瞬間があるんですが、あくまでも直樹というキャラクターで、そこに自分はのっけられないので。自分を隠すフィルターがまず1個あって、そこに直樹のフィルターがあって、さらに他の人物との関わり合いのフィルターが、三重にも四重にもかかっている感じですね」
――今までとまたちょっと違う野間口さんの姿が見えるのでしょうか。
「どうなんでしょう…怖いですね。今までと変わっていないと言われたら、それはそれでしょうがないと甘んじて受けますけど。自分の気持ちとしてはいくつもフィルターがかかっています」
――直樹をどういう男性だと捉えてらっしゃいますか。
「世の中的に見ると、社会不適合者と呼ばれる人なのかもしれないですけど、すごく優しい人だと思っています」
――直樹の期待をしない生き方に共感できるということは、ご自身もそういう考えに陥った経験があるんでしょうか。
「僕も直樹も、自分がショックを受けたくないので人に期待をしないという部分があって。僕は小学校5年ぐらいにいじめに遭ってから、そうなっちゃいました」
――物語全体として感じた面白さを教えてください。
「僕がVRに触れてこなかったので『こういう世界があるんだ』ということがまず知れたことと、穂波(=ホナミの現実世界での姿)を演じる役者さんが出てきてからは、かなりグルーブ感が増したような気がするんです。VRと現実を行ったり来たりして、そこでドラマチックなことがいろいろ起きるので全体的に面白いんですけど、強いて言うと、タイトル通り“おじさんの初恋”が面白いです」
――ネットゲームはされますか。
「全くしないですね。誰かと関わるゲームだと『ドラゴンクエスト』のオンライン版が出た時にやってみたんですけど、1時間ぐらいで心折れてやめました。人と何か会話しなきゃいけないのが本当に苦手で」
――原作の漫画はレビューが高評価ですが、その理由をどう分析しますか?
「僕は共感した部分の方が多かったですが、今の撮影現場では分かる人と全然分からない人で評価が真っ二つです。分かる人は何か昔あったんでしょうね。それで分かってしまう部分があるんだと想像します。評価されているのは、みんなが心の中で『これは言っちゃいけないよな、言わない方がいいよな』と考えてしまう部分を表面に出してくれた作品だからだと思います」
――VRの中で見知らぬ相手だからこそ自分をさらけ出せる感覚は、すごく不思議に感じます。
「直樹は知らない人にでも自分のことを言いたくはないんです。他人のリアクションをうかがっているくせに、期待はしていないので。VRの中では本当に1人っきりになりたい人間だと思うので、そういう場があってよかったです」
――知らない人だからこそ言える感覚は分かりますか。
「僕は仕事以外で家族を除いて誰とも会いたくないので、すごくよく分かります。僕にとっては、仕事場に来ることがVR空間にいるのと同じ感じなんです。仕事では自分じゃない人になればいいので」
――アバターの役を演じる倉沢さん、井桁さんお二人の印象を教えてください。
「撮影が始まる前に、一緒に読み合わせをやらせてもらって。その時に、監督の要望や僕がこうしたいと言ったことに、すぐに反応が返ってくるので、2人ともすごくクレバーな女優さんです。それに、現場でも僕のことを考えてくれているので、すごく助かっています。ものすごく上手な2人だなと思います」
――直樹のアバターバージョンを倉沢さんが演じられますが、演技につながりは感じられますか。
「撮影を見に行った時や、出番が入れ違いになった時に話し合いをしています。常に擦り合わせながら演じています」
――現実世界の穂波を演じる俳優さんと共演された感想も教えてください。
「初めて会った時に『あ、この柔らかさは穂波だ』と感じました。物腰が柔らかくて、ものすごくすてきな方です」
――撮影の合間にコミュニケーションを取られたりしていますか?
「ずっとしゃべっています。京都に行った時の話や、最近の好きな食べ物などの話をずっとしています」
――吉田監督だから引き受けたというお話がありましけど、理由をもう少し詳しく教えてください。
「吉田監督がドラマ部に移る前、『サラリーマンNEO』(NHK総合)の時代から僕はお世話になっていて、いつも僕に課題を持たせてくれるんです。前に出たドラマの時も、『この役とこの役があるんですけど、どっちにします』と聞かれて、僕が選ぶと、『そっちを選ぶと思ってました』と。自分がやったことのないものに挑戦させてくれる部分があるんです。それに、異常なレスポンスの速さというか、質問や疑問に思ったことを投げると、即答で返ってくるんです。僕が悩んでいることは、先に吉田監督は悩んでくれていて、すでに答えも出ているんです。そういう監督さんはなかなかいらっしゃらないので、吉田監督に預ければ、まずすべてを導いてくれるだろうという気持ちです」
――息が合っているんですかね。
「息が合っているとは、恐れ多くて言えないですが、この人についていけば大丈夫だろうと、信頼を置いています」
――役者業についても聞かせてください。役者をやっていてよかったと感じた瞬間を伺いたいです。
「常々そうなんですけど、役者をやっていなかったら、僕は人とコミュニケーションを全く取っていない人間だと思うんです。もしかしたら1日中パチンコ屋にいるだけの人だったかもしれない。仕事があるから、社会にちゃんと存在意義を見いだせている部分があるんです。役者をやっていなかった時のことは想像できないですね」
――お客さんの反応に助けられているんでしょうか。
「お客さんにも助けられていますし、スタッフさん、他の役者さんも含め、いろんな方と会える場所、必然的に会わないといけない、会う機会を作らせてもらっているということですね。そこで円滑に仕事をするには、会話やコミュニケーションを取らないといけないので、そこを強制的にやらせてくれてるリハビリ施設みたいな感覚ですかね」
――お金をもらいながらリハビリができるんですね。
「そうですね、助かっています(笑)」
――役作りはどんなふうにされているんですか。
「役について調べたり、演じる役が本を読んでいる人だったら、どんな本を読んでいるかを考えたりもしますけど、基本、現場に行って役を作っています。他の人との関係性なども見ないといけないし、自分でできることなんてたかが知れているので…。共演者の方と合わせつつ、監督と話しつつが一番多いです」
――それは駆け出しの頃から変わらないスタイルですか。
「変わっていないと思います。昔からとりあえずセリフだけは入れて、あとは現場で他の方を見て、バランスを考えながらやっていますね」
――俳優のお仕事をされている中で、転機になった作品や人との出会いを教えていただけたら。
「舞台でいうとケラリーノ・サンドロヴィッチさんで、映像だと『SP 警視庁警備部警護課第四係』(フジテレビ系)、吉田監督の『サラリーマンNEO』。この三つが大きいのかなと思います」
――「サラリーマンNEO」はどういう意味で転機になったんでしょうか。
「僕がまだ舞台しかやっていない頃に、『サラリーマンNEO』のスタッフさんが舞台を見に来てくださって、僕を呼んでくれて。そこで初めて、生瀬(勝久)さん、田口(浩正)さん、入江(雅人)さんなど、僕がずっと憧れていた舞台人たちと一緒にコントができたんです。コントは、普通のお芝居を一番コンパクトにしているものだと思うので、間の取り方、セリフの言い回しなどを、お手本がいっぱいある中でできたことが一番の転機ですね」
――ありがとうございました!
【番組情報】
夜ドラ「VRおじさんの初恋」
4月スタート
月曜〜木曜 午後10:45〜11:45
NHK担当/Kizuka
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