【映画「コットンテール」SPインタビュー】高梨臨がイギリスの地で見た絶景、その中で感じた“家族の絆と温かさ”とは2024/03/02
昨日から全国で公開がスタートした映画「コットンテール」。東京とイギリス、二つの国を舞台に、心を閉ざしてきた不器用な父と、ずっと顧みられなかった息子が、妻であり母親でもあった亡き女性に導かれて、異国の地で家族の愛と再生を紡ぎ上げたロードムービー仕立てのヒューマンドラマだ。
物語は主人公・大島兼三郎(リリー・フランキー)の最愛の妻・明子(木村多江)が闘病生活の末に息を引き取り、生前の明子が寺の住職に託した一通の手紙を受け取ることから始まる。そこに記された“妻の最後の願い”をかなえるべく、兼三郎は息子・慧(錦戸亮)一家とともにイギリスへ向かうことに。
主演のリリーさんをはじめ、錦戸さん、木村さん、高梨臨さんと豪華キャストが顔をそろえただけでなく、イギリスの新鋭監督パトリック・ディキンソンさんが長編監督デビュー作として手掛けることでも注目を集める本作。リリーさん演じる兼三郎と錦戸さん演じる慧がどう向き合うのかが大きな見どころだが、そんな2人を一番近くで見守っていたのは、慧の妻・さつきを演じた高梨さんだ。今回、異国の地での撮影で感じていたさまざまなことを明かしてくれた。
――まず、脚本を読んだ時に感じた印象を教えてください。
「最初に脚本を読ませてもらった時に、イギリス人のパトリック監督が書いた脚本だったので、介護のことだったり、父親と息子の微妙な関係であったり、イギリス人の監督だからこそ持っている日本への視点があって。『あ、日本の家族をこういうふうに見ているんだ。家族をこういう感じで描くんだ』みたいな不思議な感覚がすごく印象に残っています。監督と実際にお会いしてみたら、すごく日本語もペラペラで、後から『日本のことを知っていたから書けた』と知ったのですが、まずそういう日本の家族に興味を持ってくれたこと、描こうと思ってくれたことがうれしかったです。実際に撮ってみたら全然違う感じにもなるんだろうなと思いながら読んでいました」
――実際に撮影してみて、ギャップを感じたことはありましたか?
「いろいろな角度から何回も撮りながらも、実際に撮った映像を現場で見ることはなかったので、どういう雰囲気で撮っているのかもあまり分からなかったのですが、撮影しながらどういう作品が出来上がるのか、全然想像がつかなかったこともあって『どういう感じになるんだろう』という気持ちはありましたね。それこそ、木村多江さん演じる明子の介護のシーンは結構痛々しい感じで、イギリスの湖水地方でのシーンは本当に自分自身も景色に癒やされながら撮影できていたので、自分がそのシーンごとに感じている気持ちが映像を通して伝わればいいなと思いながら撮影していました」
――今回演じられたさつきは、リリーさん演じる兼三郎と錦戸さん演じる慧の間に立つような、すごく難しい立場なのかなと感じました。あらためてさつきという役についてはどんなことを感じますか?
「監督と少しずつ話し合いながら作っていったのですが。感覚的には“普通の人”で分かりやすいなと。夫とお義父さんがギクシャクしていて、唯一普通だったお義母さんも認知症になってしまって、別に気が弱いわけではないけど、なかなか自分の思っていることは言えないところがある人だなと感じていました。なので、最初に台本を読んでいた時は『リリーさんと演じる時はもうちょっと円滑にしていこう』みたいな気持ちだったのですが、リリーさんは役として私に接する時に、結構冷たい視線を送ってきて、本当に嫌な雰囲気だったんです。役として接していると分かっていながらも、私も『ん!?』とちょっとイラっときてしまったのですが(笑)、監督も『そっちの方がいい!』となって、結果的には自分が想像していた以上に、本当にうまくいっていない義理の父と嫁みたいな感じが出来上がっていると思います」
――監督からは「こう演じてほしい」というオーダーなどはありましたか?
「細かいところは基本的にあまりなくて任せていただいていたのですが、それこそ兼三郎との関係では、さつきには子どもがいるから、その子どもを勝手に外に連れて危険にさらしたりするところで『本当に怒った感じで、もう軽蔑するぐらいの気持ちでやってほしい』と、その気持ちの強さに関しては一つ一つ話し合いながら撮影していました」
――映画の序盤では、兼三郎と目が合ってもすぐに離れていってしまうシーンもありましたが、ああいったシーンは意識しながら距離を取ったり、あえて目線をそらしたりしたのでしょうか?
「それは監督にも言われていましたね。さつきも最初は腫れ物に触る感じというか、『ちょっとあんまり…』と、極力避けて通りたいけど、お義母さんとはたぶん良好な関係だから、なんとかいい家庭を保っていてほしいみたいな複雑な気持ちもあったと思うんです。実際に目が合うと気まずい感じは、自分も感じていました」
――気持ちの浮き沈みもありそうですね。
「でも、それも計算していたわけではなくて、リリーさんの芝居を見て生まれたものだとも思うんです。リリーさんってすごく独特な間があったり、独特な表情をされるので、一つ一つ計算せずにそのまま反応していいかなと思っていました」
――兼三郎や慧も物語が進むにつれて少しずつ変化が生まれますが、その様子を見守るさつきにも変化が出てきているのではないかと個人的には感じていました。そういった小さな変化も、リリーさんとの掛け合いで自然に引き出された感覚などはありましたか?
「そうですね。さつきも、もともとは家族みんながうまくいってほしいと思っている人なんですけど、やっぱり最後はみんながちょっとだけ前向きになるように、兼三郎もちょっとずつ変わっていくところもあるので、さつきとしてもそこに引っ張られている感じはあります」
――今回、一番共演シーンの多かったリリーさん、錦戸さんの印象や魅力を教えてください。
「錦戸くんは以前にも共演したことがあったので、夫婦役もすごくやりやすかったです。違和感なくコミュニケーションも普通に取っていて、錦戸くん自身も瞬発型というか、いろいろ考え込むタイプではなくて、現場の空気などに合わせて演じるタイプだと思うんです。『俺はこう!』みたいなタイプではなくて、その場の空気や自分の感覚で演じる感じがするので、私はそこに身を任せていましたね。リリーさんは初めましてだったのですが、独特な間や表情はリリーさんだからできるんだと思います。自分が台本を初めて読んだ時は誰が演じるかも分からなかったので、最初に普通に台本を読んでいた時と、リリーさんが演じる兼三郎を見た時は『こんなにも変わるのか』と実感していました」
――作品を見ると、逆に兼三郎はリリーさん以外当てはまらないんじゃないかと感じます。
「そうですよね。リリーさんが完璧に作り上げてきていたから、台本では想像していなかった兼三郎が現れたなと思っていました」
――では、リリーさんと錦戸さんが作り上げた兼三郎と慧についてはどんなことを感じましたか?
「やっぱり2人ともお芝居がすごくて、さすがだなと思いましたね。2人の張り詰めた空気感というのはお芝居を通しても感じていたので、私としては役作りしなくてもいいと思うくらい、すごく助かりました。普段(カメラが回っていない時に)しゃべっている時は楽しくリラックスしているのですが、本番ではピンと張り詰めた空気になるので、私は皆さんに委ねて、感じたままのお芝居をすることを意識していました」
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