大河ドラマ「光る君へ」の脚本家・大石静が語る、紫式部を演じる吉高由里子&藤原道長役の柄本佑の持ち味とは?2024/01/07
1月7日にスタートした大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合ほか)。これから1年かけて、平安時代を舞台に、1000年の時を超える長編小説「源氏物語」を生み出した紫式部の人生がつまびらかになっていきます。第1回では、後に紫式部となるまひろ(落井実結子)と藤原道長となる三郎(木村皐誠)の出会いが描かれました。
ここでは、「光る君へ」を執筆した脚本家の大石静さんに、紫式部を演じる吉高由里子さんや藤原道長役の柄本佑さんの印象、今作で伝えたいことを語っていただきつつ、第1回をひもといてもらいました!
――紫式部の幼少期の名前を“まひろ”にした理由を教えてください。
「最初、“ちふる”にしようとしていたのですが、藤原実資の子の名前がちふるだったという記録があり、泣く泣く諦めて、まひろにしました。名前に意味は込めていなくて、1年聞いていて耳に心地よい、あまり主張しない名前がいいなと思って決めました」
――これまで吉高さんとたくさんの作品でタッグを組んでいますが、今回吉高さんが演じるにあたり、お願いされたことはありますか?
「私の主義として、このように演じてほしいというのは言わないです。相談を受ければ言いますが、演出は監督やスタッフ、俳優の世界ですので。吉高さんの持ち味はすごく明るい印象だけど、ふっとした時の陰な感じ、陽と陰が同居しているところ。彼女自身が持っている陰と陽のバランスが、紫式部のちょっと気難しい感じには合っているなと思って、伸び伸びやってくれればそこは出ると思います」
――紫式部はちょっと気難しい女性とのことですが、どのような人物と捉えて書かれたのでしょうか?
「一言では表現できないから、紫式部なんですよね。はっきりしていないのですが、幼き日に母を亡くし、貧しい暮らしであったらしいんです。だから、生きることは不条理にさいなまれながらいくことだと知って、少女期を過ごしたんじゃないかと。そして、ただ誰かの妻になりたいというだけではなく、私の使命はなんだろうかと考えていた知的レベルの高い女の人だったと思います。道長のことはずっと好きで、何度も自分の妻になれと言われるけれど、それは受けない。嫡妻も妾(しょう)もいる道長のところに行って不自由な思いはしたくないと断ってしまう。私自身、書きながら『ここで(道長のもとに)行けばいいのに…』と思うんだけど、やっぱり行かない。そういった自我の強さをあえて一言で言うと、気難しい人ということになると思います」
――では、藤原道長を演じる柄本さんの持ち味はどのようなところでしょうか。
「柄本さんはもともと名優だと思っていましたが、『知らなくていいコト』(日本テレビ系)というドラマでご一緒したら、本当にすてきで。女性のスタッフがみんなうっとり。柄本さんは悪い男もやるけれど、いい男もさりげなくやるので、今回道長をやってほしいと思ったんです。道長は最初の頃、とぼけていて上昇志向がない男性で『本当にどうなの? この人』という感じでボーッとしているけど、あっという間に頂点に立ってしまってからは変わっていきます。柄本さんは自分の見せ方をすごく計算していて、ここはとぼけて見せて、ここでは2枚目っぽく見せるなどを考えて演じている。本当にすごい役者だと思います」
――道長のキャラクター設定はどのように考えていったのでしょうか?
「中学や高校の教科書に載っている道長の『この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたる ことも なしと思へば』の歌から、大変傲慢(ごうまん)な独裁政治をやった貴族という印象ですが、時代考証の倉本(一宏)先生は決してそうではないとおっしゃっていました。災害時には庶民のための助け小屋が作られるなど、レベルの高い政治が行われていたし、400年にわたって大きな戦がなく、話し合いによって物事を解決していくという、今の私たちも考えていかなきゃいけないことをやっていました。第1回で『俺は怒るのは好きじゃないから』と三郎(のちの道長)が言うんですけど、あれが道長の政治の根本。例えば、天皇が急に力を持たないように自分も権力を持って、話し合いで天皇の間違いもいさめられるようにするなど、道長は横暴な政治をしたのではなく、バランスを取ることが上手で、みんなの気持ちもすくい上げた優れた政治家としてこのドラマで描いて、平安時代の認識も改めたいです」
――京都の陽明文庫で道長の直筆をご覧になったそうですが、道長の文字からどんなことを感じたのでしょうか。
「道長は字が下手でしたが、そこもかわいいんです。時の権力者があれこれと書き直したりしていて、いとおしい。それから、私が一番ゾクッとしたのは、道長のお墓参りをした時です。京都の住宅地にあるちっちゃい古墳みたいな、森になっている場所の前に立った時に『ここだ。ここに道長がいる』と感じて、道長に『作品を書け』と言われていると思ったんです」
――1年間という長丁場を引っ張っていく上で、大河ドラマならではのキャラクター設定の工夫はあるのでしょうか?
「大河ならではってことは特にないです。うまくいっているドラマは、キャラクター設定がうまくいっています。その設定が崩壊していたりはっきりしていなかったりすると、物語が転がっていかなくて、視聴者が見ても『これ、最初の設定と違うよね』と思うわけです。だから、キャラ設定に命を懸けています。大河のような長いドラマは、全部どこで何が起きて、最終回はこの感じで終わるということを長い期間かけて打ち合わせをして、そこから書き出します。それで、“この役の見せ場はここ”などと計算して書いていくと、人数が多くともおのずとキャラは立ってくるんです」
――「源氏物語」を使わないことは、かなり前の段階から決めていたのですか?
「一見、『源氏物語』は男女の恋愛模様が色濃く見えますが、決してそれだけではなく、私たちのチームは、作品の行間に人生哲学と権勢批判と文学論を込めた紫式部が、どういう生い立ちで、歴史に残る文学作品を書き上げられる人間に成長していったのかを描いていきます。けれども、道長とまひろの出会いは『源氏物語』を彷彿とさせるシーンにしていますし、今後、紫式部に起きる出来事が、後に作品に影響を与えたという散りばめ方をしています」
――では、第1回でまひろが「自分のは帝の子だ」と三郎にうそをつくシーンは、「源氏物語」からとってきたのでしょうか?
「あれは、うそをつく気持ちはないんだけど、こう言ったら面白いんじゃないかと思ってついうそを言っちゃう、独自の物語が湧き上がってしまう人物像を描きたかったので、あのシーンを入れました」
――まひろの母・ちやは(国仲涼子)が殺害されるシーンがありましたが、あれは史実でしょうか?
「史実ではありません。母親はまひろが小さい時に亡くなっているらしいといわれています。幼い頃に母を亡くしているのはその後の人間形成にとってとても大きいこと。それで、どうして亡くなったことにするのかを考えていた時に、道長の家の次男をちょっと乱暴な人物のキャラ設定をしていたので、結び付けることを思い付きました。そうすると、まひろにとっては愛した人の兄が親の敵になるので、悲しい宿命になると発想して書きました」
――第2回以降、男女関係のシーンはどのように描かれるのでしょうか?
「胸キュンなところもいっぱいあるけれど、日曜放送のドラマなので直接的な表現ではなく、そこはかとないエロスが漂う雰囲気を出したいと思います。天皇が子孫を残す、後継者を残すことは政と同じぐらい大事で、性的行動が間近にある時代でもありますが、小さいお子さんも見られるように作ってありますよ」
――お子さんも楽しめるポイントはありますか?
「私は、面白いものを作れば大人も子どもも見てくれると思っているので、特別に子どもに向けて書こうとは一切考えていません。ただ、小さい子は奇麗な画面にひかれると思うので、今後登場する清涼殿は、家具調度も素晴らしく、御簾越しに天皇と話すシーンなどは歴史の勉強的にもなるし、子どもたちは敏感に受け取るんじゃないでしょうか」
――本作でユースケ・サンタマリアさんが演じる安倍晴明を描くにあたって、こだわっていることがあれば教えてください。
「霊能者って、私たちには計り知れないですよね。安倍晴明は陰陽道の偉い人で、美しい霊能力者というイメージがありますが、このドラマでは常に何を考えているか分からないようにしたいと思っています。権力におもねってもいるけど、本当のことも見えている不思議な超能力者としても描きたいです」
――散楽をやっている直秀(毎熊克哉)という人物が今後登場しますが、モデルとなる人物がいるのでしょうか。また、直秀を描こうと思われた理由を教えてください。
「貴族といわれる人たちは、当時1000人ちょっとしかいなかったらしいんです。その時、日本の人口がどのくらいだったかはよく分からないらしいんですけど、それでも人口の0.01%ぐらいでしょうか。その1000人だけの世界を描くのはちょっと偏っているから、しいたげられた庶民の視点も最初に出したいと思いました。それで設定したのが散楽。朝廷のぜいたくや藤原家に対する反逆の心を持ってるものも出さないとバランスが悪いなということで書きました」
――全体的なテーマというか、この作品で訴えたいことはどんなことでしょう?
「一言では言えませんが、平安時代の印象を変えたいというのは一つあります。この仕事を引き受けなければ1000年も前のことなんて知らなかったですし、資料を読み込むのも楽しいので、私が『きっとこうだったろう』と思うことを描き、これまでの既成の感覚に、『本当にそうなの?』ということを問いかけたいと思っています。紫式部という文学者は非常に自己批判の精神を持った人であり、『源氏物語』は単なる男女の恋愛物語ではなく、作品としての面白さと非常に深い哲学的なものが両方作品に流れているというのが、世界的に評価されている理由だと思うんです。中学生くらいの方が見て、教科書に載っているのと全然違って、こういう人だったのねということが伝わればすてきだなと思います」
――ありがとうございました!
【番組情報】
大河ドラマ「光る君へ」
1月7日スタート
NHK総合
日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BSプレミアム4K
日曜 午後0:15~1:00ほか
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
日曜 午後6:00~6:45
※初回は15分拡大
NHK担当/K・H
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