紫式部を演じる吉高由里子「世界中の人に知られているのに、彼女のことは何も分からないので、摩訶不思議な存在」――大河ドラマ「光る君へ」インタビュー前編2024/01/05
大石静さんが脚本を手掛け、吉高由里子さんが主演を務める大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合ほか)が、いよいよ1月7日よりスタート! 舞台は平安中期。後に世界最古の女性文学といわれる「源氏物語」を生み出した紫式部(吉高)が、平安貴族の世界でどのような人生を歩み、壮大で精緻な恋愛長編「源氏物語」を書き上げるに至ったのかがひもとかれていきます。
今回は、11月上旬に行われた紫式部を演じる吉高さんのインタビューを前・後編に分けてお届け! 前編では、大河ドラマへの思いや大石さんが描く脚本の魅力、まひろ(のちの紫式部)の人物像などを伺いました!
――主演として大河ドラマの現場に入っていかがですか?
「本当に大がかり。撮影の時に『そこまで見えるの?』と思っちゃうような後ろの方にある背景の葉っぱを濡らすなど、とても丁寧に作っています。今回の撮影の中で一番驚いたのは、セットの中に池があったり、馬がいたりしたこと。馬を連れてきちゃうなんて、大河って大胆なのねと驚きました。しかも、従者の乙丸役の矢部(太郎)さんが間違ってペターン!と転んだ時に、そのお馬さんは平然としていて『何してんの?』みたいな感じで見ていて、馬もプロフェッショナルでした(笑)」
――以前、連続テレビ小説「花子とアン」(2014年)で主演されて、今回は大河ドラマの主演です。気持ちの違いはありますか?
「朝ドラはちょうど10年前で、25歳の時の方が何も分かっていなかったので怖いものなしでした。NHKさんもほぼ初めてで。当初『渋谷だ、やったー!』って喜んでいたのに、スタジオが工事していたので、10カ月、別のスタジオでの撮影だったんです。だから今回やっと渋谷で撮影できることも楽しみです。それに人数も多いし、こんな長い期間撮影をすることはないから、それはだいぶ違いますね。朝ドラの時は、みんなが本当に仲良くて家族のようだったので、終わってしまうのが寂しすぎたんですけど、大河ドラマが終わる時はおかしくなってしまうんじゃないかな…。だから、今はあまり終わることを考えないようにしています。自分の年齢的にも、終わったら寂しさより安堵(あんど)の方が強くなるのかなと。そう感じるようになっていたら大人になったなと思うんですけど、終わってみないと分からないですね」
――大河ドラマの撮影前にイメージしていたことと違ったことはありますか?
「朝ドラの時は出ていないシーンがないんじゃないかというくらい出演していましたが、意外と出番がないです(笑)。今回は並行して物語が進んでいくので、道長(柄本佑)の内裏のセットが建ったらそのシーンをバーッて撮って、今度はまひろの家のセットを建てて撮影に入るので、緩急があるというか。撮影に間があるので、逆にセリフを覚えるのが遅くなっちゃって」
――演じる紫式部は小学校の教科書にも出てくるなど誰でも知っている歴史上の有名人ですが、どんな印象を持っていましたか?
「世界中の人に知られているのに彼女のことは何も分からないので、摩訶不思議な存在だなと思っていました。清少納言と対比される性格だと言われているようですが、どうなんでしょうね。『源氏物語』で人のうわさや色恋を書いているので、じっくりと人を見ている人物なのかなと感じています。この役の発表をされてから『光源氏は誰なの?』とよく聞かれるんですけど、『いや、違うの。『源氏物語』を書いた女性のお話なんだよ』と言い続けていて。そこは太字にして伝えてほしいです(笑)」
――当時の女性の記録がほとんど残っていないそうですね。
「本当に。でもそれもずるいですよね。記録が残っていないから、亡くなって1000年もたつのにどんな人だったんだろうと想像させる罪な女性だなと思います。この作品を見てくださった視聴者の方も逆に想像するでしょうし、亡くなってからこんなにたくさんの人に思われたり、想像されたりすることを考えると、魅力的な人物だと思います」
――演じるにあたり、紫式部や「源氏物語」の文献や絵巻物などはご覧になったのでしょうか。
「京都の陽明文庫で『御堂関白記』という道長の直筆の日記を大石さんと見ました。私は全然読めなかったんですけど、大石さんが『キャー! 道長さま~』と震え上がるくらい興奮していて(笑)。それでまた筆が進むんだろうなと思いました。物語と文字に携わる仕事をしている方にとって、どれだけすごいことなのかという実感の差をたたきつけられたような感じもしましたね。1000年前のものが残っていることがすごいですし、貴重な経験をさせていただきました。ほかにも、紫式部が『源氏物語』を執筆したという廬山寺を訪ねました。あそこで全部を書いたわけではないと思うんですけど、本当にここにいて、この物語を書いていたのかと不思議な気持ちでした」
――紫式部ゆかりの地を一緒に巡った大石さんの脚本を読んだ感想を教えてください。
「非常にパワフルで情熱的で、一行一行のインパクトが強いです。会話でも次の一行を読んだら、前の行と全く逆の気持ちを言っていることがあるなど、人の感情の起伏がすごく情熱的に書かれていて、大石先生は何をさせようとしているのかとおびえながらいつも新しく来る本を読んでいます(笑)。また、スピード感があるラブシーンのセリフのやりとりは、ぶつかり稽古をしているようなテンポ感かと思えば、急になでるような時間の流れ方になったりするんです。文字だけで時間の速さが変わって見えるのが面白いと感じました」
――まひろはどのような人物だと捉えて演じていますか?
「大人なようで子どもの部分や、甘えたいのに甘えられない葛藤もあります。幼少期はずっと肩に力を入れて自分を抑えこみながら生きていて、現在撮影している10代後半では、道長と恋をしているけど認めたくない現実と、受け入れられない現実の葛藤があります。今後撮影する20代は、旦那さんとのやりとりが始まりそうな感じで楽しみです。私は初めて知ったのですが、“万感の思い”っていう言葉がよく使われているんです。道長と会う時、まひろは“万感の思い”でいるんですよね」
――演じる上で特に苦労や努力したことはありますか?
「私は左利きなので、右手で文字を書く筆のシーンは緊張しますね。書き始めると手が震えることがあるので、撮影前に30分ほど時間をいただいて、書く練習をしてから本番に入ることもあります。文字が主役のドラマでもあるので、そこはとても丁寧に練習をして撮影しています」
――まひろの成長は楽しみですか?
「楽しみです。私はできれば書くシーンをなるべく減らしてほしいんですけど(笑)。平安時代は戦がほとんどない分、さまざまな人の思いが交錯する人間味のあるドラマになっているので、政治的な駆け引きや争いなど、ラブストーリー以外のところも面白くなっていると思います」
――今作はあまりなじみのない平安時代が舞台ですが、カルチャーショックを受けたことや今と同じだと感じたことを教えてください。
「まひろの実家に窓もドアも壁もないんです(笑)。隙間だらけですごく寒そうだなと。でも、冬は寒いけど夏は涼しかったのかなと想像して。御簾1枚で部屋が仕切られていて、プライバシーがない環境も不思議でした。ほかには、従者の乙丸が幼い頃からずっと一緒にいて、後ろについてきます。また、好き勝手にどこにでも行けるわけじゃないし、姫も姫で大変だなと。一方で、お金がない人たちは自由だったようなので、お金持ちとどっちがいいんだろうなどと、あれこれ想像します。同じだなと思ったのは人の気持ち。うわさ話が好きだったり、繰り返し人を好きになっていくこと、浮いたり沈んだりする感情の起伏などは今と変わらないし、燃えるところと冷めるところも変わらないのかなと感じています」
――なるほど。
「ほかにも、占いがすべての時代で、呪いや除霊、呪詛を行うことにも驚きました。そういうものに願い、祈りも込めているのかもしれませんが。方角でこっちは運気が悪いからと遠回りして、3日間かけて目的地に行くなんて、今じゃ考えられないですよね」
――平安時代ならではですよね。また当時の扮装(ふんそう)もすてきですが、大変なことはありますか?
「着物は、毎日着るたびに自分の肌の形に合ってくる革靴のようなところがあって。自分になじんでいく着物を育てていく日々が楽しいですが、重くて大変です。かつらも後ろから髪の毛を引っ張られていると感じるくらい重いので、首と肩が凝ります。ロケに行った時によくコンビニに寄るんですけど、コンビニの店員さんもびっくりする感じ。『行くぞ』と気合を入れてから行きます」
――今作ならではの見どころも教えてください!
「この作品はすごく画面の色使いが淡く繊細で優しいです。着物も、それとその色を組み合わせるんだという意外性もいっぱいあって。五感に敏感な時代で、目で見るものや匂いや触れる風や音など、心が揺さぶられるものが風景の中にたくさんあって、それが和歌になり、今度は耳が楽しんでつながって連鎖していく。今だったら見落としてしまうような小さい幸せをうまく作品に生かしていて。それが現代に残っていることを考えて見ていただけるとよいのではないでしょうか。画面は本当に楽しみなんですよね。本当に女性だけじゃなくて、男性陣の着物もすごく奇麗なんですよ」
後半では、平安神宮でのクランクインから半年たった現在の気持ちや、紫式部の生涯のソウルメートとなる藤原道長を演じる柄本佑さんとの撮影エピソードなどを伺います!
【番組情報】
大河ドラマ「光る君へ」
1月7日スタート
NHK総合
日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BSプレミアム4K
日曜 午後0:15~1:00ほか
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
日曜 午後6:00~6:45
※初回は15分拡大
NHK担当/K・H
この記事をシェアする