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日本賞グランプリ「トゥー・キッズ・ア・デイ」 一人でも多くの人が見て、伝えてほしい―イスラエル出身ワックスマン監督2023/12/22

日本賞グランプリ「トゥー・キッズ・ア・デイ」 一人でも多くの人が見て、伝えてほしい―イスラエル出身ワックスマン監督

 教育コンテンツの国際コンクール「日本賞」のグランプリが決定し、11月23日に東京都内で授賞式が行われた。日本賞は世界中の教育コンテンツの質の向上に貢献するために、NHKが1965年に創設。第50回を迎えた今年は、世界55の国・地域から391の作品と企画が寄せられ、そのうち34作品のファイナリストの中から審査員が満場一致で選んだ「トゥー・キッズ・ア・デイ」(イスラエル・フィンランド共同制作/デビッド・ワックスマン監督)がグランプリを獲得した。

 同作品の舞台はヨルダン川西岸地区。パレスチナ人が暮らす街をユダヤ人入植地が取り囲んでいる。この街で毎年700人、1年で平均すると1日に2人のパレスチナ人の子どもがイスラエル軍に逮捕されており、この数字が作品のタイトル「トゥー・キッズ・ア・デイ」の由来となっている。作品は、子どもの頃にイスラエルの兵士に石を投げた罪で長期間拘留されたパレスチナ人の青年たちのインタビューを通し、イスラエルとパレスチナの間で憎しみの連鎖が続く背景を描く、子どもたちの未来のために解決の糸口を探ろうとするドキュメンタリーだ。

日本賞グランプリ「トゥー・キッズ・ア・デイ」 一人でも多くの人が見て、伝えてほしい―イスラエル出身ワックスマン監督
日本賞グランプリ「トゥー・キッズ・ア・デイ」 一人でも多くの人が見て、伝えてほしい―イスラエル出身ワックスマン監督
日本賞グランプリ「トゥー・キッズ・ア・デイ」 一人でも多くの人が見て、伝えてほしい―イスラエル出身ワックスマン監督

 審査委員長のデビッド・クリーマン氏は「視聴者に妥協を許さず、多く(提起を投げかける)を求める作品。抑圧という事実を知ることで初めて変化を生み出し、不条理から目を背けることはできません。教育は不可欠ですが、教育を受けることができない地域もあります。社会が若者たちをどのように扱うかで、その社会が栄えるか否かが決まります。この映像は、収容がいかに恨みや怒りを募らせるかを鮮やかに映し出しました。負の連鎖は断ち切れず、深まり続けています。最も視聴者が見るべき映像であり、最高峰の作品です」と敬意を表した。共同プロデューサーであるパレスチナ人のモハマド・ババイ氏はトロフィーを手に「この作品を東京の皆さま、すべてのパレスチナ人の難民キャンプ、そして世界中に届けたい。特に今もガザ地区で犠牲になっている子どもたちに」と高ぶる気持ちを抑えつつも切実な願いを訴えた。

日本賞グランプリ「トゥー・キッズ・ア・デイ」 一人でも多くの人が見て、伝えてほしい―イスラエル出身ワックスマン監督

 授賞式後、デビッド・ワックスマン監督に作品への思いを語ってもらった。

――撮影中に最も苦労し、感情が大きく動いたシーンはありますか?

「撮影と制作に7年間という非常に長い期間がかかりました。その中で非常に多くの苦労があったのですが、一番は編集の段階で、編集者のデビッドと一緒に取り調べをされている少年たちの映像を繰り返し繰り返し見なければいけなかったことが、とにかくつらかったです。子どもたちが置かれている(悲惨な)状況を何度も再認識し、そして数年後に彼らが再度収容され、子ども時代をなくしている事実に非常に胸を痛めました」

――パレスチナで大変なことが起きている中、パレスチナの方とイスラエルの方とで共同制作をした経緯を聞かせてください

「共同プロデューサーであるモハマドはパレスチナ人ですが、実際イスラエルに住んでおり、イスラエルのパスポートを持っています。私と彼は車で10分程度の距離に住んでいます。今現在、ハマスの人質が多く捕らえられており、両国にとって非常に困難な状況が続き、私たちは毎日、彼らが解放されることを祈っています。イスラエル側が襲撃することによって、ガザ地区で1万人以上の人が亡くなっております。イスラエルだけでなく、パレスチナ側にとっても非常につらく、ひどい状況だということは同じです。私が日本に来てこの映画を上映し、今起きているひどい惨事について語ることは非常に重要だと考えています。世界中で(協力し)この状況を何が何でも終わらせなければいけない、その一心で映画を制作しました」

日本賞グランプリ「トゥー・キッズ・ア・デイ」 一人でも多くの人が見て、伝えてほしい―イスラエル出身ワックスマン監督

――想像も絶する困難な撮影を乗り越えることができた原動力は何ですか?

「私たちが扱っているトピックは非常に社会の中でも暗い部分です。現実に、毎晩子どもたちが逮捕され連れ去られている状況は、私が住んでいる家から1時間ほどで行けるところで起きています。その事実を知ってしまったので、多くの人に認識を深め、伝えなければいけないという気持ちが、7年も制作を続けられた私の大きな動機付けでした。子どもたちは絶対に収容されたり投獄されたりするべきではありません! 彼らは人生を歩む勇気と夢と共に生きて幸せになるべきなのです」

――この映画は日本で全国放送されます。日本人にとってはちょっと遠く、身近に感じづらいところもあると思うのですが、日本の視聴者に対してメッセージをお願いします。

「とにかく一番私が重要だと思っているのは、まずいろいろな人にこの状況について話し広めること。そして認識を高め、問題に目を向けてほしいと思っています。外から見た“目”というのが非常に重要になってきます。子どもたちは本当に純粋ですし、どこの国にいてもそれは変わらないです。この映画を日本の子どもたちにも見てほしいですし、1人でも多く感動し、話し合い、アクションを起こしていただきたいと願っております」

日本賞グランプリ「トゥー・キッズ・ア・デイ」 一人でも多くの人が見て、伝えてほしい―イスラエル出身ワックスマン監督

 ワックスマン監督の純粋で真摯(しんし)なまなざしに心を大きく打たれ、恥ずかしながら初めてこの問題について真剣に調べ考えました。問題は2000年の歴史をさかのぼらないとひもとけないくらい複雑で、ちょっとやそっとで理解できることではありませんでした。この遠く離れた日本で、何も力がない筆者に何ができるのかと心が沈みかけた時、授賞式で監督が涙交じりにスピーチした言葉がふと浮かびました。最後に紹介させていただきます。

「この映画を見ていただきありがとうございます。それが一番、私自身にとって重要なことです。世界中の子どもたちや人々にこの状況を伝え、メッセージを送り合いたいです。ですから見ていただき話をしていただき、本当にありがとうございます」。

日本賞グランプリ「トゥー・キッズ・ア・デイ」 一人でも多くの人が見て、伝えてほしい―イスラエル出身ワックスマン監督
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【番組情報】

世界のベスト!教育コンテンツ ~第50回日本賞~

日本賞グランプリ「トゥー・キッズ・ア・デイ」 一人でも多くの人が見て、伝えてほしい―イスラエル出身ワックスマン監督

「砂漠の星」青少年向け部門優秀賞
NHK Eテレ
12月23日 午後9:30~11:00

日本賞グランプリ「トゥー・キッズ・ア・デイ」 一人でも多くの人が見て、伝えてほしい―イスラエル出身ワックスマン監督

「トゥー・キッズ・ア・デイ」グランプリ日本賞
NHK Eテレ
12月23日 午後9:30~11:00

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「スメッドさん一家とスムーさん一家」幼児向け部門最優秀賞
NHK Eテレ
12月24日 午後2:30~3:45

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「小石の丘」児童向け部門最優秀賞
NHK Eテレ
12月24日 午後2:30~3:45

文・撮影 平野純子(NHK担当)



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