ドラマ「神の子はつぶやく」で宗教2世を演じた河合優実「皆さんの中で考えるきっかけになれば」2023/11/02
親が信じる宗教の信仰を強いられ、信仰の名の下に「人生の選択の自由を奪われ」「人権を侵された」と訴える“宗教2世”たち。さまざまな形で声を上げ始めた人たちを、長期取材によるドキュメンタリーと当事者の実体験に基づくドラマの2回シリーズで描く「NHKスペシャル シリーズ“宗教2世”」のドラマ編「神の子はつぶやく」(NHK総合)が11月3日に放送されます。
ドラマで描かれるのは、幼少期から“神の子”として育てられてきた姉妹。熱心な信者である母親に、学校でのつながりや部活、カラオケなどの楽しみを禁じられた姉妹は、成長とともに心を窮屈に縛られていく。そして、あることをきっかけにそれぞれの“信じる”気持ちが壊れ始め、姉妹は生き方を分かち、それぞれの道で悩む。当事者たちへの取材から見えてきた“宗教2世”の知られざる葛藤を、姉妹の“個”の視点を通じ、深く掘り下げていく。
ここでは、主人公・木下遥を演じた主演の河合優実さん、母・愛子役の田中麗奈さん、妹・祈を演じた根本真陽さん、そして演出を務めた柴田岳志氏が登壇した取材会の様子をお届け! 作品に対する思いや役作りのエピソードを語ってくれました。
――それぞれの役を演じての感想を教えてください。
河合 「宗教がある家に生まれたということは、彼女のアイデンティティーの一つですし、いろいろな人にそれぞれの人生があるということを感じてもらいながら、テーマについて考えてもらえるような作品として伝わればいいなと思っています。いつも演じる役との違いとして、境遇が自分と離れていて、普段と同じように演じる人の人生を経験することはできないので、想像することしかできなくて。私は特定の宗教を信じていないけれど、家族に習慣もあるし、ルールもあるし、家族の温度もあるので、それと同じように彼女の家は宗教があって、ご飯を食べる時にお祈りをして、礼拝に行ってという、生活の中にある要素として当たり前になってしまったものというか、彼女が自分で信じるものを選ぶことができなかったという境遇を、心を尽くして想像しながら丁寧に演じさせていただきました」
根本 「台本を読ませていただいた時に、この作品のテーマや祈という役の重さや大きさにプレッシャーを抱えながら撮影に臨んだんですけど、本当に現場で皆さんが支えてくださいました。祈として、作品の中での役割を果たすことができていたらいいなって思っています」
田中 「愛子は“宗教に入っている人”ではなくて、第一に母親ですし、その前に女性で妻です。あっち側の人、こっち側の人ということではなくて、彼女自身の性格のことやどんなふうに生きてきたかなどの人物像がしっかりと脚本で描かれているので、見ている方に、他人の話ではなくて、身近な存在として彼女を見てもらえるんじゃないかなと思いました。奇をてらったことをするのではなくて、娘たちを愛する気持ちを大切に、家族を守りたいと思う気持ちを大切に、真面目に突き進んだ結果、娘たちを悩ませることにもなってしまったかもしれないけれど、人間が持っている愛情をすごく描いていて、素晴らしい脚本の力に、自分も引っ張っていただけるような作品でした」
――演出の柴田さんは、皆さんの演技を現場でどのように見ていましたか。
柴田 「今回、『もし自分がこういう環境だったら、どんなふうに感じるんだろう』ということをすごく大切にやっていきたかったので、“順撮り”をしました。ドラマを見ていただくと、現代になったり過去になったりしていますが、並べ直して過去から順番に撮影しました。愛子が職場で怒られているところから始まって、夫・信二(森山未來)と出会って、子どもができてというふうに、可能な限り時系列に並べて、その中でどんな感情がそこに芽生えるかなと1個ずつ確認しながら、普段以上に繊細に、大切に撮りました。演じている皆さんがすごくリアルに反応してくれて、日々発見がありました。撮影をしながらさらにキャラクターが膨らんでいきました。それが皆さんにうまく伝わればいいなと思っています」
――日々発見があったとのことですが、具体的なエピソードを教えてください。
柴田 「河合さん演じる長女・遥が家を飛び出てしまって、その後、母・愛子が説教師に『もう2度と娘と会っちゃいけない』と肩に手を置かれて。その説教師が出て行ったら、突然、田中さんが机に頭を打ち付けた瞬間はびっくりしましたね。より愛子が見えたような気がしました。田中さんが愛子として生きてくれていたから、自然にそういうものが出てきたのだと思います。愛子の気持ちを的確に出していたと思います。そういう瞬間がみんなそれぞれにあって、そのたびに台本以上にキャラクターを感じられる瞬間が、僕としてはとてもうれしかったし、この人たちと一緒に作品を作ることができてよかったなと感じていました」
河合 「私も印象的なところがあって、父・信二と遥と祈でふ頭に立って、海を見ながら『お父さんは神様っていると思う?』って尋ねた時に、森山さんがセリフをその場で変えられたんです。その返答がもう少しシンプルなものだったんですけど、その場で森山さんが変えられて。それが私は、家族の話だけど、このドラマの中で1個、宗教とか神様というものの捉え方のスケールを広げてくれた感じがして、この国で宗教を信じていない人でも信じているものがあるし、その中ですごくリアルな今の価値観というか、信じていない人側の価値観を尊重してくれるようなセリフを足してくださって、素晴らしいなと思いました」
柴田 「森山さんとは事前に話していたのですが、河合さんと根本さんに伝えるのを忘れていて。でも、2人とも驚かずに自然に芝居を返してくれたことで、台本で感じる以上の何かが見えてくる瞬間ってこういうことなんだよなっていうような感じで、すごく良かったです。感動しました」
河合 「初めて触れることなので、より新鮮に感動できました」
――今作は、視聴者の方にどんな思いで見てほしいという意図があったのでしょうか?
柴田 「この作品は、実際の宗教2世の方などにお話を聞きながら制作しました。その時に『特殊な家庭の話じゃなくて、誰にでも起こり得る話なんだ』と感じました。広く考えると、これは宗教の話ですけども、誰だって親は子どもに価値観を押し付けざるを得ない時はあるし、親と子どもの葛藤という意味では、普遍的な話なんだなっていうふうに思ったんです。今回、宗教を題材にしてやっていますけど、実は、自分事として考えるべきことではないかと思いました。また、子どもが親の元から外に飛び出した時に自由になれるかというと、そんなことないんですよね。ずっと育てられた中での束縛は心の中に残っていて、そこにも葛藤がある。これって、普遍的な話なんだなと思いました。ですから、作品をご覧になって肯定する、否定するかではなく、それを超えて、自分事としてあらためてどう感じて問題を考えていくという視点もあるのかなと思います」
――柴田さんが「宗教は誰にでも起こり得ることだ」とおっしゃっていましたが、河合さんが役を演じる上で考えたことはありますか?
河合 「これも起こり得るという点に関しては、そのもう一つ、視点を広げた時に、宗教っていうものが家庭の外から入ってきて、それはお母さんが愛のためにしたことだったけど、結果としていびつな形になってしまって、こういう結末になったっていうことだと思うんですね。それが宗教でなくても起こり得るなっていうことは私も考えていて。いろいろな家庭の環境があったり、家族の中でも擦れ違いがあったり、さっき監督がおっしゃっていたように、自分の価値観を押し付けてしまう、子どもが思っていることが親に伝わらないとか、そういうものが宗教以外のことでも起こり得るなと思っていて。社会問題として、宗教2世っていうワードが一人歩きしているような時期もあったかもしれないんですけど、それをドラマで私たちが演じる立場から考えた時に、宗教2世の問題をジャッジしたりするような視点じゃなくて、人生の中のいろんな要素の一つとしてそれを背負っちゃった人の、ある時期を描いていければいいのかなと思って、撮影に取り組んでいく中で考えが変わっていきました」
――撮影で印象に残ったことを教えてください。
河合 「田中さんとは親子役で2度目の共演で、太陽のようにいつも笑顔でいてくださる方です。森山さんも同じですが、シーンの一つ一つで、家族の関係だったり、役について考え直せるようなボールを投げてくれるので、すごく丁寧だなと思っていつも見ていました」
田中 「河合ちゃんとは以前に親子役で共演させていただいて、その時に本当に深いやりとりができたっていう思い出があります。今、『ボールを投げてくださって』と言ってくださったんですけど、それにすごく敏感に、目の奥から反応してくれるようなすてきな役者さんだなと思っていたので、今回またご一緒できてうれしかったです。宗教2世の方々の気持ちになると、どれだけ重たい荷物を背負っているんだろう、どれだけ壁が厚いんだろうと思うと涙が出てしまいそうになるんですけれど。共演者の森山さんも含めて、皆さんとご一緒できたことはもう最高の時間でしたし、楽しくてしょうがなかったですね。そういった現場を作るエネルギーが愛子という役にも力をくれたので、作品に入ったことがすごく自分にとって、とても幸せな時間でした」
根本 「祈という女の子は、本当に感情の振り幅がとても大きい子だったので、全部のシーンに気持ちを込めてお芝居をするのがすごく大変だったんですけど、うまく気持ちが入り込めない時に、共演者の方々が一緒に向き合って、アドバイスをくださって、支えてくださって、とても心強かったし勉強になることが多かったです」
――宗教で特に問題視されているのが“献金”だと思いますが、今作では逆に宗教に援助をしてもらっている家族が描かれていますよね。
柴田 「宗教の献金の問題、お金の問題っていうのはとても大きいし、禁止されていることもあります。そのあんばいをチームで繊細な議論をして、ちょっとだけにおわせているんです。宗教っていうのはある種の愛だから、みんなで助け合っていく面があるんだけど、その裏返しとして、外れていったものに対してものすごく排除する。これも取材の中ですごく感じたことで、そういうところはやっぱりしっかり出していきたいなと。宗教に入っている側から見ると、子育てで困っている時に相談できたり、お金に困っている時に野菜をもらったりとすごく救いになるし、一方では、逆から見ると、出ていった者、自分たちの仲間じゃない者に対してものすごく排除するっていう点は、しっかり描こうと考えていました」
――では最後に、あらためてドラマの見どころを教えてください。
河合 「宗教2世っていう問題を語る上でドラマとしてできることは、肯定、否定のような一面的ではない、“何か”を伝えることかなと思っています。それが届いた結果、皆さんの中で考えるきっかけになればいいと思います。何かを裁いたりとか、何かを批判したりという意図はなく、あえてフラットになるように作ったものなんです。1人の女性の人生をストレートに届けて、自由に世の中の皆さんに見ていただければと思っています」
根本 「チーム一丸となって全員で作り上げてきたものなので、多くの人に届くといいなと思います!」
田中 「根本さんは今日、会見が初めてなんです。初めての会見が、私たちも言葉を選ぶようなテーマの会見で『本当によく頑張ったね』と言いたいです。こうやって、世代が違う私たちも同じテーマで話していく、悩んでいくことが大事なんじゃないでしょうか。大人だからといってすべて完璧に知っているわけでもなく、子どもに伝えられることも、絶対正しいっていう教科書があるわけでもないですし、家庭ごとに当たり前の日常っていうのは違います。宗教や政治のことはあまり人とは語ってはいけないと育てられてきた私たちとしては、自分の家族や共演したお仕事の人たちとも話せることはなかったんですよね。でも、ドラマがきっかけになって私たちは宗教について話をできたし、こうやって世代の違う私たちが、自分たちの意見を言い合ったり、共感し合ったりできる。そういうことが、このドラマを見てくださった方々の間でも行われたらいいなって。何が良い悪いではなく、個人を大切に尊重しながら話ができる、共有できる世の中になったらいいなと個人的に願っています」
――ありがとうございました!
【番組情報】
NHKスペシャル シリーズ“宗教2世” 神の子はつぶやく
NHK総合
11月3日 午後10:00~11:30
NHK担当/Kizuka
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