「どうする家康」ムロツヨシ、“家康”松本潤との最後の会話シーンは「あえて2人っきりで話す時間を設けて、台本を変えさせていただいた」2023/10/15
第39回(10月15日放送)の大河ドラマ「どうする家康」(NHK総合ほか)では、徳川家康(松本潤)の説得により、明との和議を決めた豊臣秀吉(ムロツヨシ)。直後、茶々(北川景子)が捨(後の秀頼)を出産し、ようやく落ち着いたと思われた矢先、石田三成(中村七之助)らが結んだ和議がうそだと判明し、秀吉は激高して再び朝鮮へと兵を差し向けることに。乱世に戻りつつある中、秀吉は倒れ、家康と対面します。そして、思いの丈を吐露し、やがて力尽きました。
今回は、登場するたびに怪演ぶりが話題となった秀吉を演じるムロさんにインタビュー。秀吉という人物についてや、ラストシーンに込めた思い、家康を演じる松本さんとの撮影エピソードを伺いました!
――第39回で、秀吉が家康と最後の会話をするシーンを台本で読んだ時はどのように感じましたか?
「演出陣の皆さまはじめ、(脚本の)古沢良太さんがどのような秀吉の最期を描いてくださるのか、すごく楽しみにしていた部分があります。というのも、毎回、思いがけない秀吉像に、台本で驚かされていたので(笑)。自分としては台本通りに演じていただけで、称したことはないですが、“サイコパス”などと評され、皆さまからご感想をいただいて。秀吉は野心だけではなく、計算ができる男としてやって来て、天下を取れたと思うんです。史料や映画、ドラマでさまざまな秀吉を見てきましたが、台本を読んだ時に、とてつもなく悲しい終わり方だなと思いました。今回は家康を中心に描いているので、秀吉がポイント、ポイントで出てくるんですが、その点と点を線で結ぶ時に必要だったのは、自己分析力が高かったことと、この人はもしかしたら予知能力というものを本当に持っていたかもしれないと思うと、すんなり線が通りました。そうすると、人から見たら猿であり、ピエロである秀吉を演じることができたかなと思っています。最後の最後はそれをすべて捨てたというか。家康との最後の会話でやっと本音が出せたし、悲しんでいるところが少し描かれていたので、このシーンに関しては、あえて松本さんと2人っきりで話す時間を設けて、台本を変えさせていただいたところもありました」
――松本さんから働きかけがあったんですか?
「このシーンに限っては松本さんから、意見をすり合わせたいと言ってくれました。敵対している時は打ち合わせはいらないのですが、第38回(10月8日放送)くらいから秀吉と家康が分かり合ってしまうというか。理解するというよりも、分かり合うことがお互いどんどん入ってきてしまう。そこから、台本を越えなきゃいけないところがたくさんあったので、意見を出し合いました」
――毎回台本を見て驚いていたとのことですが、具体的にはどんなことに驚いたのでしょうか?
「発表記者会見で紹介された時に、秀吉はとてつもなく早口でしゃべるなど、細かいキャラクター設定を紹介されて、『聞いていないぞ』となりました。その後、台本を見たら、家康も信長さんもまったくしゃべっていないのに、秀吉だけ尾張ことばだったことには本当に驚きました。たぶん、ムロに好きなようにやらせないために、演技スペースを尾張ことばで締めにかかったなというのが最初の思いでした(笑)。そして、いろんな方に蹴られた後の顔。これは台本には描かれていないのですが、顔で表現しないと成立しない描かれ方だったし、ここからどうやって天下人になるんだろう、『これは古沢さんに試されているのかな』と。先ほども言ったように、秀吉はポイントで出てくるからこそ、点と点を結ぶ線がとてつもなく難しかったですが、終わってみればそれがやりがいになっていましたね」
――古沢さんと、実際にお話されたことはあったのでしょうか?
「話すとどうしても聞いてしまうので、私からもコンタクトを取らないようにしていました。全部が終わってから、秀吉を演じた私の評とか感想を古沢さんに聞きたいですね。もしかしたら、こんなはずじゃなかったと言うかもしれないですもんね」
――今回の秀吉像についてはどのように感じていますか?
「明るくて人気者で、人を集められる力がある秀吉を描いてくれるのかと思ったら、天下を取るにつれて野心が目立つようになりまして。役が決まってから秀吉のいろんな面を勉強させていただいて、いい部分を出したいんですけども、最初の頃は、蹴られるか悪いことを考えているかで、天下を取ってからは、より悪くなっているような描かれ方もあるので、地元の皆さまに申し訳ない気持ちで毎日過ごしておりました」
――尾張ことばは、どのように練習されたのでしょうか?
「尾張ことばの先生のテープを何度も聞くしかないのですが、本当に難しいです。大阪ことばはテレビや漫才の影響もあって聞く機会があるけれど、尾張ことばは、最後の語尾の“だに”や“が”の聞き覚えがないし、練習してもたどり着かないトーンで。関東で育つとこの違いがとてつもなく難しい差でしたね。しかも、イントネーションを気にしていると、今度は前のセリフがぐちゃぐちゃになっちゃって、練習していると(織田信長役の)岡田准一と松本潤が邪魔してくるんですよ。違う発音を耳元でずっと言ってきて本番に臨むことになって、とっちらかって、それがそのままオンエアされていることがあります。ですから、地元の皆さん、もしイントネーションが違うなと思った時は、悪い共演者が私に吹き込んでいる。それは岡田准一と松本潤です。尾張ことばハラスメントです(笑)。でも、本番ではあの2人に負けじと練習したことをやり遂げました」
――アドリブはあったのですか?
「私自身は、尾張ことばをしゃべっているのでアドリブができなかったんですよ。たぶん、古沢さんをはじめプロデューサーの意図だと思うんですけども(笑)。ただ、お芝居のアドリブで思い出されるのは、ダチョウ倶楽部さんのネタのくだりをちょっとやらせていただいたこと。ダチョウ俱楽部さんに近づけないで台本を全うするやり方とあえて近づける勇気とどっちにするかで、私は後者がいいと。大河ドラマなのに、こういうことがあったかもしれないと思わせるぐらいのクオリティーでやりたいとダチョウ俱楽部さんに近づけた時に、最後、松本さんが『うん、くそ』をやってくれて。その後、織田家家臣もそれに乗って、ジャンプはしないけど座り直すことをやっているんです。あれは確実にみんなで決めたアドリブだったので思い出に残っています」
――そんなことがあったんですね。
「アドリブじゃないですが、岡田くんは、シーンによってはあえて決めないで臨んでいて、その緊張感を楽しんでるとご本人がおっしゃっていて、そこは私もワクワクしました。ちょっとしたセリフのトーンは、岡田くんのその場の思いつきでやっているところに、家臣の私が合わせるというお芝居の楽しみは毎回ありましたね。振り幅があって、何が出てくるか分からない信長さまだったので楽しかったです。アクションでは、『ムロさんはアクションがあまりうまくないから、ちゃんとここを蹴りますから気を付けてくださいね』と言って、全く違うところを蹴ってきたりしますから、非常に恐ろしい男でございます。私の身体能力を信じてくれたと解釈しています(笑)」
――第4回(1月29日放送)で柴田勝家(吉原光夫)に蹴られるシーンがあり、秀吉は信長が亡くなるまでは道化に徹していました。演じる上で意識していた表情やしぐさはありますか?
「本当に明るくてすべてを笑って返せる男だったとしたら、その後、天下を取ることにつながらなくて。やはりそこには計算高さやあくどさがあって、柴田さまや家康にはそれが見えているけれども、何を考えているのか分からないように仕向けていこうと考えておりました」
――信長、家康と秀吉のそれぞれの関係について、どのような解釈をされていましたか?
「信長さまは、演じる岡田くんの力もあってこそですけど、カリスマで絶対的存在。そこはやはり説得力を含め、大きい背中ですごかったです。秀吉は信長さまとは主従関係で、ついていきたい。この人のためなら何でもできるし、死ねるという関係性。第27回(7月16日放送)で、あまりにも大きすぎて、時代が動かないから、『そろそろおらんくなってくれんかしゃん』という言葉はありますが、すべての時代はこの人が背負っていくし、その人のそばにいることが幸せ、やりがい、生きがいであるという秀吉を演じさせていただきました。その頃の家康と秀吉の関係は、ライバル関係です。第39回で『好きだったに』というセリフがありますし、好きだったとは思います。今回、信長さまが確実に誰よりも認めているのは、秀吉ではなく家康だと描かれているので、そこに対するうらやましさや嫉妬はあれど、それを超えて家康を認める力量はあった。これが嫉妬だけだったら、秀吉は天下を取れていないと思います」
――信長にはなくて、秀吉にあったものは何だと思われますか?
「野心に関しては信長さまの方が上、もしくは同等。秀吉にあったものは、完全なる予知能力です。先見、先を読む力。将棋でいうと、藤井聡太さんのように何手先も読んでいる。戦うことや人を集めること、領地をどうまとめるかなど、力のある者たちが3手読んでいたとしたら、その倍、もしくは3倍先を読めていたから、秀吉はばかにもなれた。そして、失敗してもその次のこともすぐ考えられる。失敗を受け止める力も含めて、そこが大きく違うところだと思います。史実にも残っていますが、信長さまが本能寺の変で討たれた後の行動の速さがそれを物語っていると思います」
――小牧・長久手の戦いでは負けましたが、その後の行動も速かったですよね。
「任せた人間は間違っていなかったけれども、戦は家康が上手だった。しかし、秀吉は天下を取るために、この負けを認めた上でどうするかを考えて動いているんです。すべての行動が速くて、誰かが理解する前に動いている。それは、予知能力があるからこそ、すごく速かったんだと思います。さらに、プライドを捨てることができる人だし、自己分析能力があるので、恐ろしいくらいに強い。弟の秀長(佐藤隆太)も含めて、ついてきた人たちには、そこが見えていたんじゃないですかね。それが今回描かれていたと思います」
――唐入りについて、子どもの誕生が及ぼす影響と、明の征服に対する秀吉のモチベーションはどう捉えていましたか?
「もしかしたら、自分の野心がなくなることの恐怖でやっていた可能性もあると思っています。まさかのお子が生まれたことで、自分がより強くなったところを表したいという部分もあったでしょう。また、今作ではこれが一番描かれているんですが、天下を統一して戦がなくなったら、武士の生きる場所がなくなり、世が乱れることが秀吉には見えていたと。それを避けるため、国外で戦えば、みんなが一つになれるかもしれないという思いはあったのかなと。ただ、お子が亡くなっておかしくなり、また生まれて歓喜し、おかしくなるという自分になかったものに翻弄(ほんろう)されたことも大きくて。第39回の最後に言っていますが、お子を得たことで自分の野心が分からなくなって、もやがかかって、確実に見えていたものが見えなくなる恐怖を分かっているけど、誰にも言えなくて、孤独になっていた。それがはたから見れば頭がおかしくなった人に見えるのかなと。私はその解釈で演じさせていただきました」
――役者として、松本さんと共演されてあらためてどんなところに魅力を感じましたか?
「魅力と聞かれてすぐ出てくるのは、とてつもなく強い責任感です。もしかしたら一番かもしれないくらいの背負い方をしている印象ですね。私は役者以外のお仕事でご一緒したことがありますが、そことは違う、いろんな人の思いを背負う形を見せていただきました。こちらが『そこまで持たなくてもいいのに』と思ってしまうところも魅力で、それが格好よく見えますし、さらに役者としてお芝居で悩んでいる姿も松本さんらしい。ほかの仕事と違って、弱音をしっかり吐いてくれる、人間味ならぬ役者味がすごくすてきです。お酒を飲んでいる時も最終的には、松本さんと酒井忠次役の大森南朋さんと私でいろいろな会話をさせていただきました。南朋さんとは『松本潤を支えよう』と話して。支え方はいろいろありますが、しっかり嫌な敵になって終われたらいいなと思って演じさせていただきました。最後、敵対というより、天下統一を成し遂げてしまう人たちの会話を2人でできたのは、とてつもない貴重な財産です」
――秀吉が死ぬ間際、茶々から秀頼の出生について聞くシーンは、明日撮影(取材時)とのことですが、どのように演じようと思っていますか?
「明日、茶々を演じる北川さんがどういう顔をされて、どのようにセリフを言ってくれるのか、とても楽しみです。怖さもあります。最後、ありえないことを茶々さまに言われますが、私としては、茶々さまが秀吉と同じサイドにいる人間だと笑って死にたいです」
――秀吉が亡くなった後に、関ヶ原の戦いがありますが、今後、ムロさんが見るのを楽しみにしているシーンを教えてください。
「第39回の家康との最後の会話で描かれていましたが、秀吉は、家康がどう天下を取り、その後どうするのかを楽しみにしている男でございます。最後に家康に言う『うまくやりなされや』には、いろんな思いが込められているんです。関ヶ原の戦いを読めていたかどうかは別として、どんな戦いがこれから起ころうと、最後に天下人になるのは間違いなく家康であろうことは読めていた秀吉。ですから、家康が天下を取った後にどうしていくのか、本当に戦なき世界を作れるかどうかを楽しみにしていると思います。もうろくじじいの秀吉にはそこの策がもうなかったと思うので。それを楽しみにあっちの世へ、天へ行ったのかなと」
――秀吉をもう一度演じたいですか?
「もう一度やりたいですね。死ぬ時、生まれ変わったらもう1回自分がやりたいと思えるような人生にしたいと思っている私ですから。死ぬまで演じさせてもらった今回の秀吉はもう1回演じたいなと思います。もしかしたら違う秀吉になるかもしれませんが」
――ありがとうございました!
【番組情報】
大河ドラマ「どうする家康」
NHK総合
日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BS4K
日曜 午後0:15~1:00ほか
NHK BSプレミアム・NHK BS4K
日曜 午後6:00~6:45
NHK担当/K・H
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