「アラクオ」最終回直前! 矢内達也プロデューサーが明かす裏話とともに、作品を振り返る<インタビュー後編>2023/09/23
――第9話まで放送された中で、直己や一真の抱える悩みが解決していく一方で、康祐はある種、“何も解決していない”と感じているのですが、その部分を終盤まで持ち込んだことは何かこだわりがあったのでしょうか?
「実は、そこが今回の脚本で一番難しいところだったんです。原作の緒之先生もよく納得していただけたなと思うのですが、康祐って唯一、描写しやすい悩みがないんですよ。ほかの4人は『性行為にあまり自信がない』『実は不倫している』『男の人を好きになってしまいそう』『彼女がいるけどお客さんのことを好きになって、浮気ってどういうものなのか』という悩みがある中で、康祐だけは『チャラく見られるけど、そうじゃない』という悩みだったので、もう一歩踏み込みたいと思って、ドラマでは“康祐の悩み”を足させてもらったんです。今、康祐だけが誰にも悩みを言えていなくて、元カノのマキ(林田岬優)だけは知っている。誰にも言えていない悩みをどうするのかは、楽しみにしていただきたいです」
――5人の悩みでいうと、一真の「すでにスタイリストで実力も認めてもらえている」という部分は原作にはありませんよね。5人の中で唯一24歳でありながら、悩みを二つ持たせることにも何か意図はあったのでしょうか?
「バレましたか…(笑)。今回、ドラマを作るにあたってキャラクターの補強を特にしたのは、康祐と一真なんです。2人の悩みをもう一つ補強した方が『こういう人いるよね』とよりリアルな人間になると思ったので。せっかく5人のメインキャラクターがいるということもあったので、その幅が広がった方がいいなと2人は補強しました。僕としては、一番共感できるのも一真でしたね」
――どういった点で共感されていましたか?
「1人だけ年下で先輩の中にいるから、ちょっと背伸びしている部分があるのは僕も分かるんです。例えば、奥さんに仕事の話する時って『大丈夫か?』と思わせたくないので、ちょっとだけ盛って言ってしまって、後からどんどん矛盾が出てきて『あれうそなんだよ』と言えなくなったことも結構あって(笑)。だから、一真にはそれを加えてみた感じがありますね。僕が入社した2010年代って、エンタメ制作の現場では、基本的に最低でも2、3年はADとして下積みをしていたと思うんです。一応それまで22年間頑張ってきたつもりでしたけど、入社した時に先輩から言われたのは『お前にできることは今何一つもない』と。実際その通りで、ロケを仕切ったり、台本を書いたりすることなんてほとんどなかったりするんだけど、周りの友人からは『矢内ってあの番組やってるんやろ!?』と言われて、『うん!』みたいなことを見えを張って言ってしまう。当時は周りから思われていることと実際の自分の立ち位置の乖離(かいり)がすごくあったので、そこに対して自分が背伸びして受け応えしてしまうことはよくありましたね(笑)」
――ちなみに、矢内さんが入社して迎えた25歳はどんな時期でしたか?
「ADからディレクターに上がったのですが、下には人が付かないことが多いので、結局はADの仕事もディレクターの仕事も両方やらないといけない、でも周りからは『ディレクターやってるんでしょ?』みたいに言われていたタイミングでしたね。でも、初めて自分の企画書が通って番組ができたのも25歳なんです。それが今では『あなたの代わりに見てきます! リア突WEST』(テレビ朝日系=ABCテレビ制作)として全国ネットまで行ったのは本当にうれしいことですね。ジャニーズWESTの皆さんにもかわいがっていただいて、自分の考えた企画がスタジオとか含めて形になっていくことの喜びを味わえたのは25歳の時でした。あ、プライベートで言うと、今の奥さんと付き合い始めたのも25歳です(笑)」
――令和の時代に合わせてドラマ版「around1/4(アラウンドクォーター)」が誕生したとのことですが、作品にはどんなメッセージを込められましたか?
「25歳って、大体の方が社会人3年目のタイミングで、キャリアとしてもワンステップ上がるタイミングだと思うんです。僕でいうと、ADからディレクターになったりと、そういうことが世間で起こる年齢じゃないかなと。でもADって実は大きな責任がないけど、お給料はもらえるじゃないですか。しっかりとした責任感を持っていないのに、お給料はいただけてしまっているというか、そういう“大学生気分が抜け切るか抜け切らないか”ぐらいがアラクオだと思っています。それってたぶん“惑う”時期でもあって、仕事でもプライベートでもいろいろと迷い始めて惑うタイミングだと思います。今回、僕が完全なオムニバスにしたくなかったのは、オムニバスにしてしまうと、答えを提示しないと気持ち悪くなってしまうと思ったからです。不倫は絶対にダメですけど、明日美のように不倫することで成長できる人もいるわけじゃないですか。ですから、悩んで惑っているタイミングで見ていただいて『こういう考え方をする人もおるんやな』と思っていただきたいです。『小さい成長が大きく何かを変えることもあるんだよ』というのは一つのメッセージとして伝わっていたらうれしいです。もう一つは、作品全体を通して恋愛の悩みにしたので、アラサー、アラフォーの人には『こういう恋愛もしてたな』と思い出していただけるかなと(笑)。いろいろな恋愛の形を見せられたと思うので、どれか一つでも『こういう恋愛いいな』と伝わっていたらいいなと思います。それから、この作品の中では5人の登場人物が大なり小なり成長したと思うのですが、25歳って必ず成長しないといけないわけではないと思います。成長の押し付けはあまり好きじゃなくて。人の成長って、自分が引っかかっていることの中で、一つだけでも自分の中で飲み込めた、ぐらいでいいんじゃないかと思ったりする時もあるので、そうやって感じ取ってくれる人がいたらありがたいです。25歳って転換期なのでいろいろあると思いますが、それはみんな同じで、あまり重大なことだと思わず『みんな通る道ですよ〜』というのが伝わっていたらいいですね(笑)」
――ドラマもいよいよ最終話です。気になる展開が多くありますが、注目ポイントを教えてください。
「一つは、先ほどもお話した渋谷から池尻まで実際に歩いて撮ったシーンは大きな見どころですね。渋谷スクランブル交差点で実際に撮ったので、最小人数のスタッフで撮影して、僕は撮影時はYouTubeの定点カメラに映るみんなの様子を遠くから見ていました(笑)。2023年夏、本当の渋谷の街で撮影した感じを出せるようにだいぶこだわったので、文化祭のような、みんなで一つになった感じがあって。その撮影の最後にはみんなで乾杯しました。そういう思い入れもあるので、楽しんでいただきたいポイントです。あともう一つ、かなり重大な編集をしています。エンドロールが流れてきても『あぁ終わりか』と思わず、最後まで注目していただきたいです。主人公とヒロインの2人の関係の帰着を“想像してもらう”ための大きな編集を、隈本(遼平)監督からご提案いただいて、正直びっくりもしましたが、完成した映像を見て本当にすごいなと思いました。『こういう手法で表現できるんだ』と僕自身も教わったので、注目していただきたいです。力強い終わり方になっていますし、初回から張り続けてきたいろいろな伏線が回収できている、素晴らしい最終話だと自負しているので、最終話の感想はぜひ聞きたいですね!」
インタビュー後も、原作の緒之先生が現場を訪れた際に「佐藤くんがお礼をしたいと、ほかの4人とオリエンタルラジオの藤森慎吾さん、吉澤要人くんに声をかけて、サインを入れたNONKIのTシャツを帰るタイミングにみんなで渡していました」というエピソードや、ここでは書き切れなかった裏話をたくさん明かしてくれた矢内さん。続編についてもチラッと聞いてみると「やりたいですね! 洋一(吉澤)は20歳になっているのでお酒が飲めるし、明日美とその後、何もないのか、一真はお店を持てたのか、直己はタバコをやめたのか、康祐と早苗はどうなったのか…いろいろできそうですね」とニンマリした表情を見せていた。
10月クールのドラマL枠「18歳、新妻、不倫します。」に向けたコメントも!
「around1/4(アラウンドクォーター)」に続き、10月14日からスタートする新ドラマ「18歳、新妻、不倫します。」も手掛ける矢内さん。取材時は絶賛撮影中とのことで「『新妻不倫』(「18歳、新妻、不倫します。」)は、自分の集大成くらいの気持ちでやっています。自分がアラクオ世代の時に出会ったジャニーズWESTといつかドラマをやることが目標だったので、こんなうれしいことはありません。楽しみにしていてください」と意気込んでいる。
【プロフィール】
矢内達也(やない たつや)
兵庫県出身。2012年、朝日放送テレビに入社。主なプロデュース作品として「3Bの恋人〜付き合ってはいけない職業男子との恋遊戯〜」「ジモトに帰れないワケあり男子の14の事情」「奇跡のバックホーム」「今夜、わたしはカラダで恋をする。」「彼女、お借りします」「アカイリンゴ」など。
【番組情報】
ドラマL「around1/4(アラウンドクォーター)」
テレビ朝日
土曜 深夜2:30〜3:00
ABCテレビ
日曜 午後11:55〜深夜0:25
※ABCテレビでの放送終了後、TVer、ABEMAで最新話を見逃し配信
取材・文/平川秋胡(ABCテレビ担当)
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